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迷宮へ行こう ~探索のお供はケモミミ幼女~  作者: 青雲あゆむ
第4章 上級冒険者編

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68.新人教育

 エルフの里と猫人族の村の大遠征から戻ってくると、翌日はのんびり休日にてた。

 買い物をしながらベルデンの街を案内すると、新人たちは少し大げさなくらい驚いていた。

 やはり普人族ヒューマンの文化には、他種族とは一線を画すものがあるのだろう。

 そうして英気を養ってから、いよいよ新人の教育に取り掛かった。


「あら、また新しい顔が増えているわね?」

「ああ、旅のついでに勧誘してきたんだ。冒険者証を頼むよ」

「ふ~ん……エルフの女性はいいとして、あとの2人はまた子供じゃない」


 ギルドへ新人の冒険者証を作りに行けば、いつもどおりにステラが相手をする。

 すると彼女はバタルとザンテに目をつけ、疑惑の目を向けてきた。


「1人はもう15歳だよ。もう1人は13歳だから、とりあえず見習い登録だな」

「2人とも、もっと幼く見えるけど、本当に大丈夫?」

「大丈夫だって。上級冒険者の俺たちが面倒みて、ちゃんと育てるさ」

「ふ~ん……まあ、ニケちゃんという実例があるから、それはなんとかなるか。でも無茶はさせないようにね」

「へいへい」


 バタルとザンテは希少種であるせいか、成長が遅く、年齢のわりには体が小さい。

 特にザンテなんて、最近までまともな飯も食ってなかったのだ。

 ガリガリのちびにしか見えないので、ステラが心配するのも分からないではない。


 なので俺はあえて逆らわず、さっさと冒険者証を作ってもらった。

 レーネリーアとバタルは10等級で、ザンテは見習いからの出発だ。

 しかし3層を突破して、実力が認められれば、正規の冒険者になれるので、遠からず一緒になるだろう。

 やがて新しい冒険者証が作成され、新人たちに手渡される。


「ま~、これが冒険者の証ね~。私もこれから、伝説の冒険者になるわよ~」

「伝説になれるかどうかは分からないけど、がんばるっす」

「うわ~、これが副冒険者証なんですね。早く見習いから卒業できるよう、がんばります」


 レーネリーアが脳天気なことを言い、バタルがそれを戒めている。

 そしてザンテはザンテで、見習い卒業に対し、意欲を見せていた。

 彼らが落ち着くのを待ってから、俺は新人たちを迷宮へいざなう。


「さて、迷宮へ行くぞ」

「うっす」

「はいっ!」

「楽しみね~」


 そんな反応を見ていたら、なんだか自分が学校の遠足の引率者のような気分になった。

 バタルとザンテは実際に子供だが、レーネリーアもあれだからな。

 さすがにそんなことは口に出さず、迷宮へ向かうと、俺の隣ではニケが、やけに張り切りながら歩いていた。


「なんか張り切ってるな?」

「え、そんなこと、ないでしゅよ」


 いつもより手の振りが大きかったことから、それは明らかなのだが、彼女は恥ずかしそうにそれを隠す。

 おそらく後輩ができて気分がいいとか、そんなところだろう。

 俺はそれに気がつかないふりで、彼女にお願いをした。


「そうか。まあ、バタルやザンテには、ニケが先輩として、いろいろ教えてやってくれな」

「もちろんでしゅ。せんぱい、でしゅから」


 そういう彼女の尻尾は、嬉しそうにフリフリと揺れていた。

 それから迷宮の入り口をくぐると、階段を降りて水晶部屋で一旦立ち止まる。


「さて、この先にはもう魔物が出るからな。もう一度装備を確認しよう」


 そう言うと、皆が黙って装備の確認をする。

 新人たちは、昨日買ったばかりの防具に身を包んでいた。

 それは要所要所を覆った皮の防具で、中古の間に合わせ品だ。


 まだこの辺は大して強い魔物も出ないので、中古品でも問題ない。

 それにバタルとザンテは、育ち盛りの子供だ。

 いずれ深い層に潜るにつれ、新調していけばいいだろう。


 武器の方も、俺たちのお古を使っている。

 バタルとザンテは聖銀鋼でないお古の剣を使い、レーネリーアだけは自前の弓と短剣を装備している。

 こちらもいずれ、また王都で調達すればいいだろう。


 装備の確認も終わり、気分を引き締めたところで、いよいよ迷宮の通路へ踏み込んだ。

 そして道をたどっていくと、4匹のゴブリンに遭遇する。


「バタルとザンテが相手を。ルーアンとニケはそれを支援して」

「うっす」

「はい!」


 すでに戦闘経験のあるバタルが悠然と前に出れば、ザンテは恐る恐るそれに続く。

 そんな彼らを見守るように、ルーアンとニケが彼らの横を固めていた。

 やがて何も考えていないであろうゴブリンが、バタルに襲いかかる。


「……」

「グギャッ」


 バタルは無言で敵の棍棒をかわすと、剣でその腹をかっさばいた。

 哀れゴブリンは、そのまま息絶えてしまう。


 一方のザンテは、ゴブリンに剣を向けてにらみ合っている。

 すでに残りの敵はルーアンとニケに掃討されているので、1対1だ。

 ザンテは多少、ルーアンの指導を受けたものの、戦闘経験がないのでかなり及び腰だ。

 やがてゴブリンもじれたのか、棍棒を振り上げて襲いかかる。


「ギギッ」

「うひゃっ」

「グゲッ!」


 へっぴり腰ながらもザンテは攻撃を避け、ゴブリンに斬りつけた。

 傷を負ったゴブリンが、弱々しそうに膝を折る。


「とどめを刺すんだ、ザンテ!」

「は、は、はいぃ~」


 ルーアンに叱咤しったされたザンテが、ゴブリンの首筋を切り裂いた。

 ほとばしる血に、ザンテの顔が引きつっているものの、ゴブリンはそのまま息絶えた。

 するとすかさずルーアンが走り寄って、彼の背中を叩く。


「やったじゃないか、ザンテ。とても初めての狩りとは、思えねえぞ」

「……ううっ、なんか気持ち悪い感触が、手に残ってますぅ」

「……あ~、まあなんだ。そのうち慣れるさ」

「慣れますかねえ?……」


 聞けばザンテは今まで、生き物を殺したことがないそうだ。

 獣人にとって大事な仕事である狩りを、一切させてもらえなかったらしい。

 そのためひどく気弱に見えるが、身体の動き自体は悪くなかった。

 そんな彼に、俺は慰めの声を掛ける。


「大丈夫だって、ザンテ。俺も半年ぐらい前に初めて狩った時は、気持ち悪くて吐いたぐらいだ。それが今じゃ、上級冒険者なんだぜ」

「なんだ、タケアキ。最初の時、吐いたのかよ。だっせえな」


 ルーアンにからかわれたが、俺は堂々と反論する。


「ザンテとは違う理由で、俺はそれまで一切、血なまぐさい行動に縁が無かったんだ。まあ、それだけ進んだ文明から、やってきたってことだな」

「まあ、迷い人だったら、そんなもんかもな」


 するとザンテが目を輝かせながら、話しかけてきた。

 ちなみに俺が迷い人であることは、すでに新人たちにも知らされている。


「そうですよね? 慣れないことで失敗しても、落ち込む必要なんてないですよね。僕だって、これからがんばればいいんだ」

「そうそう。だけど戦闘を生業なりわいにするからには、相手の生命に敬意を払う必要はあるぞ。魔物はまたちょっと違うけど、この魔石を俺たちはかてにしてるんだからな」

「はいっ、それを忘れないようにします」


 今の自分を認めてもらえたのがよほど嬉しいのか、ザンテが喜色を露わにする。

 俺は彼のそんな素直なところが、好ましいと思う。

 今はまだ頼りないヒヨコでも、今後いろいろと学んでいくだろう。

 そうしてまたパーティー全体として、成長していきたいものだ。

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