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迷宮へ行こう ~探索のお供はケモミミ幼女~  作者: 青雲あゆむ
第4章 上級冒険者編

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67.メシャの告白

 ルーアンが忌み子のザンテを村から連れ出すと言ったら、村長むらおさがただでは済まさないと脅してきた。

 そこで俺たちは全ての契約精霊を呼び出し、猫人族に圧力を掛けてやった。


「せ、せ、精霊が4体も……」

「しかもあれって、上位の精霊様じゃないのか?」

「そんな馬鹿な……」


 どうやら猫人族にも精霊に詳しい者がいるらしく、俺たちの異常さが理解できたらしい。

 特にテティスの存在に気づき、その脅威に震え上がっていた。

 そんな彼らをにらみつけながら、ルーアンは最後通告を突きつける。


「うちの精霊術師については、見てのとおりだ。下手すると村ごと吹き飛ばすことも可能だが、まだやるか?」

「ぐ、ぐぬう……分かった。降参だ」

「ザンテを連れていっても、文句はないよな?」

「…………さっさと連れていけい」


 さっきまでの強気はどこへやら、村長はあっさりと折れた。

 言質げんちを取ったルーアンは、さっそくザンテに指示を出す。


「よし、ザンテ。なるべく早く、旅の準備をしてくれ。途中までは歩きだから、荷物はほどほどにな」

「あ、それなら大丈夫です。両親の形見以外、ほとんど荷物はありませんから。すぐに取ってきますね」


 そう言って駆け出すザンテを見送りながら、ルーアンはぼやいた。


「形見以外はほとんど荷物が無いって、どんな暮らしをしてんだよ……本気でいいように使われてたんだな」


 そう言ってルーアンが村長たちをにらむと、彼らはすごすごと村の中へ引っ込んだ。

 さらに重症を負わされたガブルも、仲間に連れられて去っていく。


 そのまま俺たちは村の外で暇を潰していると、やがてザンテが戻ってきた。

 その背にはボロボロのずだ袋をひとつ、抱えているのみだ。


「お待たせしました♪」

「お、おう……ほんとに荷物、少ないな?」

「エヘヘ……今まで最低限のものしか、与えられてませんでしたから」

「そこは笑うとこじゃないと思うんだがな……ま、なんにしろ、行くか」

「はいっ!」


 こうして俺たちの仲間に、猫人のザンテが加わった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 その日は夕暮れまで歩き、森の中で夜営をすることになった。

 みんなで焚き木を集めたり、途中で狩った獲物を調理して夕食となる。

 大したことはできないが、ウサギや鳥の肉を焼いて、みんなで食った。


「おいしいですっ! ハグハグ」

「そ、そうか、美味いか。だけどちょっと、大げさじゃねえか?」

「いいえ、肉なんて年に数度しか食べてませんから。それもほんのひとかけらだけ」

「くっそ、あの野郎ども、またぶちのめしたくなってきたぜ」


 ザンテの扱いのひどさについて、今更ながらにルーアンが怒っている。

 しかし彼はそんな苦労をさほど気にする様子もなく、今を楽しんでいるように見えた。

 むしろルーアンに何かと世話を焼かれ、ちょっと恐縮している感じですらある。


 そんなことを話しているうちに、メシャが思い切ったように、口を開いた。


「あ、あのさ……みんな今日、ありがとね」

「あ、ああ、昼間は大変だったな。ケガがなくて、何よりだよ」

「う、うん。私なんかのために、みんなが怒ってくれたこと、すごく嬉しかったよ」


 あえて聞くまいとしていたが、メシャは何かを言いたいらしい。

 俺たちが黙って聞いていると、彼女はポツポツと今までの経緯を語りはじめた。


「今日、兄貴が言ってたように、私、村の奴らに襲われたんだ。あいつらが悪さしてるのは分かってたつもりなのに、ちょっと油断してた。まさか白昼堂々と襲うなんてさ」

「……そっか。あいつら本当に馬鹿なんだな」

「うん。だけどあのガブルがさ、親の村長を巻き込んで、もみ消そうとしたんだ。逆に私が誘惑したとか、言われちゃって。あれ、また涙が出てきちゃった」


 その時の状況を思い出したのか、メシャの目から涙がこぼれ落ちる。

 するとレーネリーアが彼女の頭をそっと抱き、慰めはじめた。

 こういうところを見ると、レーネリーアもやっぱり女性なんだと思う。

 やがて落ち着いたメシャが、話の続きを語る。


「ごめんね。それで連中の仕打ちに怒った兄貴が、ガブルのとこに殴り込んだの。だけどさ、大勢を相手に返り討ちに遭っちゃって。ほんとにごめんね、兄貴」

「馬鹿いえ。悪いのはあいつらだ。俺も弱いくせに突っ込んだのは、失敗だったけどな」

「アハハ、そうだよね。でさ、居心地の悪くなった私たちは、しばらくして村を出たの。あの時はなんか、世の中の全てに負けたようで、すごく悔しかった」


 また目に涙を浮かべながら、メシャが悔しそうな顔をする。


「だけどさ、おかげでタケアキたちに出会って、迷宮探索をするようになったの。そしてさ、想像もつかないほど早く、強くなれた。おまけにさ、今日みたいに襲われても、助けてくれる仲間がいるんだって、思えるようになったの。ほんとに、本当に、ありがとう」


 そう言ってメシャが頭を下げると、ガルバッドが照れ臭そうに応える。


「フハハッ、それが仲間というものじゃ。別に礼を言うほどのことも、ないと思うがな」

「ん~ん、世の中、どれだけ味方だって言っても、口先だけの人は多いの。村の中で悪者扱いにされた時、私たちは思い知ったんだ。それまで親切だった人も、簡単に手のひら返してさ」

「ふむ、その気持は分からんでもない。皆も儂の仇討ちに、協力してくれたしの」

「そうでしょ? そういう困った時にこそ、人の真価が分かると思うの。それで何が言いたいかっていうと、ザンテ。あんたは仲間に恵まれたってこと。このパーティーメンバーは、強いだけじゃなく、信頼できるんだ。このパーティーにいる限りは、あんたも生き残る可能性が高いし、その分強くもなれるはず。だけどザンテ、甘えてばかりじゃいけないの。あんたなりにあがいて、必死で努力しな。そうしたらあんたも、生まれ変わったって、思えるからさ」


 思わぬメシャからの熱い言葉を受け、ザンテも目をうるませる。


「はいっ、メシャ姉さん。僕、がんばります。がんばってがんばって、強くなります」

「そうだよ、その調子だよ」


 さっきまでの暗い雰囲気が、ウソのように明るくなった。

 しかもそれが普段はおちゃらけた雰囲気の、メシャによるものなのだ。

 たぶん今回の帰郷で、過去の忌まわしい思い出に、ふんぎりをつけることができたのだろう。


 その証拠に彼女の顔は希望に輝き、生き生きとしていた。

 そんな彼女を見守るルーアンの顔も、どこか優しげだ。

 今回の件で彼らの心情にも良い結果が出せたのは、僥倖ぎょうこうだったと言えるだろう。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 メシャの顔が明るくなり、ザンテも早々になじんだので、俺たちはベルデンへの帰路を急いだ。

 途中で竜車を拾えば、あとは速いものだ。

 3日ほどの車旅で、我が家へとたどり着く。


「うわ~、大きな家ですね~」

「ああ、そうだろ。ここは冒険者ギルドから借りてる、俺たちの拠点だ。今日からここが、お前のねぐらになるんだぞ」

「はいっ。ここならすきま風とか雨漏りを気にしなくて済みそうで、感激です!」

「……いや、それが普通だから」


 ザンテの以前の住み家はよほどひどかったらしく、ルーアンがドン引きしている。

 しかしザンテはそんなことは気にせず、はしゃいでいた。

 やがて年齢の近いニケが彼を連れ、家の中を案内しはじめた。


 今回、仲間が一気に3人も増えたため、それなりに手間を掛けて、生活環境を整えねばならない。

 寝具や日用品を買ったり、寝床を整えるなどするだけでも、半日が過ぎた。

 ちなみに今回の件で、部屋の割り振りを変えた。


 それまでは俺とニケが相部屋で、あとは個別に使っていたのが、アルトゥリアスとバタル、メシャとレーネリーア、ルーアンとザンテが相部屋となった。

 そして残った2部屋のうち、ひとつをガルバッドが1人で使い、もうひとつは物置兼客用の寝室とした。

 ガルバッドが1人部屋なのは、彼は武器の整備やモノ作りをするからだ。

 これについては皆が利益を得ているので、反対もなかった。


 こうして生活環境が整うと、最初の祝宴を開いた。


「それじゃあ、レーネリーア、バタル、ザンテの加入を祝って、乾杯!」

「「「かんぱ~い!」」」


 久しぶりの我が家で酒を飲み、料理を食べるのは格別だった。

 ようやく帰ってきたという実感が湧いてくる。


「まあ~、このお酒、美味おいしいわね~」

「うす。この料理も、美味うまいっす」

「僕、こんなに美味しい料理食べたの、初めてです。お肉が食べられるだけでも幸せなのに、なんか怖くなっちゃいます」

「それ以上もう、言わなくていいから……」


 レーネリーアとバタルが普通にお酒や料理を楽しむ横で、ザンテの自虐的な発言に、ルーアンがドン引きしている。

 しかしそれ以外の面々は、一様に顔が明るかった。


 新人たちには、これから迷宮で鍛え直すと言ってある。

 しかしそのことについて彼らは、全く悲観していないようだ。

 迷宮とは恐ろしい場所であるが、そこからは富と力を得ることができる。

 願わくば、仲間を1人も欠くことなく、ベルデン迷宮の記録を更新したいものだ。

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