66.第3の忌み子
ルーアンとメシャの故郷へ行ったら、いきなり猫人族と揉めてしまった。
そこへ駆けつけた村長と話していると、お目当ての少年が現れ、ルーアンは軽い感じで彼を誘う。
「どうだ、ザンテ。俺たちと一緒に来ないか?」
「「「はあっ?!」」」
その予想外の言葉に、周りの猫人たちが驚愕の声を上げた。
「ちょ、ちょっと待て、ルーアン。お前、ザンテを連れていくつもりか?」
「ああ、そうだけど、それがどうかしたか?」
「どうかしたかって、忌み子なんか、どうするんじゃ?」
「そんなのあんたに、関係ないだろうが。どうせ忌み子は不吉だとかいって、嫌ってるんだ。連れ出すのに問題はないだろう」
「い、いや、そりゃまあ、そうなんじゃが……」
真っ先に立ち直った村長が、ルーアンに食ってかかる。
しかしルーアンはそれを歯牙にも掛けず、切って捨てた。
すると今度はガブルが、さも馬鹿にしたように絡んできた。
「フヘヘッ、村から逃げ出した腰抜け野郎が、今度は忌み子を連れ出すか? まったくお似合いだな」
「「そうだそうだ」」
周りの取り巻きたちもガブルの尻馬に乗って、はやし立てる。
しかしルーアンはそれらを一切無視し、再びザンテに問う。
「こんな奴らの言うことなんて、気にする必要はない。それでザンテ、お前は村の外へ出たくないか?」
「ええっ? そんなこと、急に言われてもぅ……」
ザンテはもじもじと返事をためらっている。
たしかに急に一緒に来いと言われ、はいそうですか、とうなずけるはずもない。
すると村長が、そら見たことかと調子づく。
「ほら、ザンテは嫌がっておるではないか。それにこやつには、こやつなりの仕事があるんじゃ」
「何が仕事だ! 汚れ仕事や雑用でこき使ってるだけじゃねえか。おまけにそれに見合う対価を出しているとは、とうてい思えないがな」
「な、何を言う! 忌み子であるにもかかわらず、村で使ってやっておるんじゃぞ。感謝こそされ、非難される覚えはないわっ!」
図星を指されたのか、村長が顔をまっ赤にして反論する。
するとルーアンはニヤリと笑い、取引きを申し出た。
「ああ、そうだな。忌み子と一緒に働きたいやつなんて、いねえよな。それなら俺たちがザンテを連れ出しても、不都合はないよなぁ?」
「グッ……それとこれとは話が……」
「いいじゃねえか、親父」
村長が言葉に詰まったところで、ガブルが割り込んだ。
奴は得意げな顔で、持論を展開する。
「前からこんな気持ち悪いガキを見るのは、不愉快だったんだ。ルーアンが引き取ってくれるってんなら、出しちまおうぜ」
「馬鹿もん! こんな奴にも、割り当てられた仕事というものがあるのじゃ。勝手に出ていかれては、皆が困るのじゃぞ」
そんな事を当然のように言う村長に、ルーアンは心底、軽蔑するような目を向けた。
「ケッ、ろくに報酬も出さないで、割り当てられた仕事だぁ? 知ってるんだぜ。あんたらがザンテに、最低限の食い扶持しか与えてないってことは」
「な、何を人聞きの悪い! 決して豊かでない村の財政で、まかなっておるんじゃぞ!」
「豊かでない財政が、聞いて呆れらあ! だったらなんでこいつらみたいな穀潰しが、ほとんど何もしないで生きていけるんだ?」
ルーアンがビシッと差した指の先には、ガブルたちがいた。
自分たちが穀潰し扱いされたことに気がついた奴らが、騒ぎはじめる。
「ああん、俺らが穀潰しだと? 俺たちは村の自警団として、ちゃんと働いてんだぞ」
「そうだそうだ、誰のおかげで安心して暮らせると思ってやがる」
「これでも俺たちは、寸暇を惜しんで村の周りを警戒してんだ」
しかしそれに同調しているのは、ガブルの周りの10人くらいにしか見えなかった。
それどころか一部の人間には、忌々しそうに顔をしかめている者もいた。
そんなガブルたちの言い分を、ルーアンが鼻で笑う。
「ハッ、笑わせんな。お前らがまともに巡回してるのなんて、見たことがねえや。最近はこの辺で凶暴な魔物が出ねえからって、ふかしてんじゃねえぞ」
「んだと、こら。ぶっ殺すぞ」
「ああ、やれるもんならやってみろよ。迷宮で鍛えられた俺の力、見せてやろうじゃねえか」
ルーアンがそう言って前に出ると、騒いでいた奴らが引き下がる。
やがて奴らの期待の視線を受けたガブルが、虚勢を張りながら前に出てきた。
奴は腰にぶら下げていた剣を抜くと、ルーアンに向けながら挑発をする。
「ヘッ、以前、さんざんにぶちのめされたのを、もう忘れたのか? てめえなんざ、いくら鍛えたって怖くねえんだよ!」
「ごたくはいいから、さっさと掛かってきやがれ、この三下!」
「野郎っ!」
逆に挑発され、ガブルが真剣で斬りかかってきた。
しかしルーアンは動揺を見せず、紙一重でその攻撃を避ける。
そしてすばやく抜いた自分の剣の腹で、ガブルの顔をひっぱたいた。
「グボッ……い、いてえじゃねえか、こら!」
さすがに一発ぐらいではひるまず、ガブルは再び剣を振り回す。
しかしただ力任せのその攻撃は、ルーアンにとってはいかほどの脅威にもなっていなかった。
彼は冷静に敵の攻撃を読み切り、スイスイと避けながら、相手を打ちすえる。
ヒュンヒュン、ヒュンヒュンと剣が舞う中で、ドスッ、バシッ、ボキッという不気味な音が響いている。
やがて体中に打撲傷を負ったガブルが、とうとう音を上げた。
「ヒ、ヒイッ。やめてくれ。俺が悪かった。謝る。このとおりだ」
すでにまともに立っていられない奴は、無様に地べたに這いつくばり、ルーアンに許しを請うた。
さっきまでの勢いはどこへやら、その瞳には恐怖が浮かんでいる。
そんなゲス野郎を見下ろしながら、ルーアンは奴を糾弾した。
「いいか! こいつは半年前、俺の妹を集団で犯したんだ。しかもこいつは村長の権威を借りて、罪を握りつぶしやがった。あの時は俺に力がなくて、返り討ちにあったが、結果はこのとおりだ。あの時の落とし前として、こいつの利き腕をもらうぜ」
容赦なく振り下ろされた剣の峰が、ガブルの右上腕の骨を砕く。
その激痛にガブルは叫び、のたうち回った。
「ギャーッ、いてえっ、いてえようっ。ウワーッ!」
涙ばかりでなく、小便まで漏らすその姿は、ひどく見苦しかった。
いっそ哀れを誘うほどではあったが、奴はルーアンとメシャの仇だ。
俺たちが冷ややかにそれを見ていると、村長が怒りだした。
「なんということを仕出かしたのじゃ、ルーアンっ! そもそもメシャの件については、証拠不十分で沙汰止みになったではないか!」
「ああん? あんた、メシャが嘘を吐いたってのか? てめえがそんなだから、この馬鹿がのさばるんだよっ!」
「やかましい! お前にそんなことを言われる筋合いはないわい。いずれにしろ、ここまでやったからには、2度と村への立ち入りは許さんぞ!」
「こっちこそこんな村、2度と近づくか! それでザンテ、お前はどうする?」
それまでザンテは、呆けたようにルーアンのケンカを見ていた。
そして改めて話を振られると、彼はしばらく悩んでから、真剣な顔で問うた。
「る、ルーアンさん。僕もあなたみたいに、強くなれますか?」
「ああ、なれるぞ。俺たちと一緒に迷宮に潜って鍛えれば、いずれはお前も立派な戦士だ」
「本当、ですか? でもなんで、僕なんですか? こんな忌み子の、いらん子が?」
ザンテはポロポロと涙を流しながら、なぜかと問う。
そんな彼に笑いかけながら、ルーアンはニケやバタルを紹介した。
「忌み子なんて、気にすんな。そんなのくだらねえ迷信なんだから。それを証拠に見ろ、うちにはもう2人も毛色の違う子がいるんだぞ」
「本当だ。でもなんで、あえて僕を?」
「忌み子と呼ばれるような存在にはな、鍛えれば大化けする可能性があるらしいんだ。その証拠にこのニケは、見た目よりもずっと強いんだぞ。だからザンテ、俺たちと一緒に行こう」
そう言ってルーアンが手を差し出すと、ためらいつつもザンテはその手を取った。
「よろしく、お願いします」
「おう、任せろ。決して悪いようにはしねえから」
こうして良い感じに話がまとまりかけたところで、またまた村長が口を挟んだ。
「こら~っ、勝手に話を進めるな! ザンテは村の一員なんじゃぞ!」
「だからそんなことは、一度でもザンテをまともに扱ってから言えよ。お前らがいいようにこき使ってきたから、ザンテは決心したんだぞ。どうせいい思い出なんか、ほとんどないだろ?」
「……はい、親が死んでからは、いつも苦しくて、寂しかったです」
一瞬、躊躇しながらも、ザンテははっきりと言いきった。
よほど肩身の狭い思いをしてきたのだろう。
しかし村長の方も、それでは収まらない。
「ダメじゃ。勝手に出ていくことは許さん。それでも出ていくと言うのなら……おい」
そう言って彼が背後に合図すると、村の男衆が手に手に武器を持って現れた。
「これだけの者を相手に、逃げ切れると思うか?」
その村長の脅しに対し、ルーアンは頭をガリガリかいてからため息をつき、俺の方を向いた。
「ハ~ッ……しっかたねえな。例のもの、見せてやってくれるか? タケアキ」
「了解。ガイア、テティス」
「シェール」
「アーデちゃ~ん」
その瞬間、その場に3体の中位精霊と1体の上位精霊が現れた。




