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迷宮へ行こう ~探索のお供はケモミミ幼女~  作者: 青雲あゆむ
第4章 上級冒険者編

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65.猫人族の村へ

 エルフの里周辺で俺は、精霊契約の補助に奔走ほんそうした。

 これも数百年ぶりに契約を実現させた、上位の水精霊テティスあってこその仕事だ。

 1週間ほど里の周辺で精霊のいそうな場所を探し歩いた結果、なんと新たなエルフ10人の精霊契約に成功する。

 さすがに里の周辺では精霊も見つからなくなったこともあり、ようやく俺はお役御免となった。


「このたびは本当に世話になったな、タケアキ殿」

「本当に残念だわ。もっとお礼をしたかったのに」

「いえいえ、もう十分にお礼はいただいてますよ。こちらこそお世話になりました」


 今回の報酬として、俺たちはそれなりの武具や素材をもらっていた。

 特にアルトゥリアスは魔力を込められる矢を手に入れ、その作り方まで習得している。

 今後、彼の戦力は大幅に向上するだろう。


 さらに俺たちは、強力な精霊術師であるレーネリーアと、虎人とらびとのバタルを仲間に加えることができた。

 わざわざ遠くまで来て骨を折った甲斐は、十分にあったというものだ。

 ということで、俺たちは互いにウィンウィンの関係になり、惜しまれながらも里を後にした。


 そして新たに目指したのは、ルーアンとメシャの故郷である、猫人ねこびと族の村だ。

 徒歩と竜車で移動すること5日間、ようやく俺たちは目的地へたどり着き、村の門の前に立っていた。


「そこで止まれ。何者だ? お前たち」

「俺はルーアン。こっちはメシャだ。ご覧の通り、この村の出身者だ」


 門に近寄ったところで、やぐらから誰何すいかがある。

 エルフの里のように結界が無い代わり、村は木の壁で囲まれており、外敵への備えはしっかりしている感じだ。

 そのせいか、ルーアンたちへの態度も厳しいものだった。


「ルーアンとメシャか。しかしお前らは、この村から自発的に出た人間だ。そう簡単に入場は許されんぞ」

「チッ……それなら、ザンテを呼んでもらえないか? 話があるんだ」

「ザンテだと? あの忌み子に一体、何の用だ?」

「あいさつだよ。俺はあんたらと違って、あいつに忌避感は無いからな」

「フン、手間を取らせおって。まあいい、誰かに奴を呼ばせるから、そこで待っていろ」

「ああ、頼む」


 その後、門番の指示により、目当ての人物を呼ぶための使いが走る。

 俺たちは門から少し距離を取って、その到着を待っていた。


「ずいぶんと警戒が厳しいんだね?」

「ん、どこもこんなもんだぞ。異種族とか魔物の襲撃があるからな」

「へ~、他の種族から襲われたりするんだ?」

「まあ、最近はあまり聞かねえかな。今のフィルネア王国は、わりと安定してるから」

「ああ、やっぱり人族の襲撃が多いんだ」

「そういうことだ」


 そんな話をしていると、にわかに門の方が騒がしくなった。

 くだんの忌み子が来たのかと思ったのだが、門から出てきたのは、普通の猫人たちだった。


「おお、本当にメシャじゃねえか。俺たちに会いたくて、戻ってきたようだな」

「チッ……てめえなんか呼んでねえぞ、ガブル」


 わりと大柄な猫人の男が、馴れ馴れしそうにメシャに話しかける。

 するとルーアンが嫌そうな顔をしてそいつを拒否したのだが、相手は一向に気にした風がない。

 そいつはニヤニヤ笑いながら、なおもメシャに絡もうとする。


「ヘッ、俺の方こそお前なんぞに用はないさ。俺はメシャと話したいんだ。なあ、メシャ、こっちに来いよ」

「おいっ!」

「ヒッ!」


 立ちふさがるルーアンを男が押しのけ、メシャに迫ろうとする。

 するといつもは陽気なメシャが、悲鳴を上げて奴から離れようとした。

 そんな彼女を守るため、俺やアルトゥリアス、ガルバッドが動いて、彼らの間に割り込んだ。


「なんだ、お前ら?」

「俺たちはルーアンとメシャの仲間さ。一緒に迷宮を探索するな」

「ハッ、迷宮の魔石漁ませきあさりどもか。しかもヒューマンにエルフ、ドワーフまでいやがる。人様の土地まで来て、でかい面してんじゃねえぞ」


 ガブルという男がそう言えば、後ろにいた猫人の男たちがそうだそうだと同調する。

 何やら雲行きが怪しくなってきた。

 さすがに暴力沙汰を起こすつもりはなかったのだが、ここで予想外の事態が起こる。


「へへへ、捕まえたぜ」

「キャーッ、いや~っ!」


 いつの間にか後ろに回り込んでいた猫人の1人が、メシャを羽交い締めにしたのだ。

 捕まったメシャが、狂ったように騒ぐ。


「この野郎っ!」

「おっと、お前たちの相手はこっちだ」


 メシャを助けに行こうとするルーアンを、ガブルがさえぎる。

 さらに周りの取り巻きも俺たちを取り囲み、助けに行けないようにされてしまった。

 しかし奴らは、重要な戦力を見落としていた。


疾風迅雷ハラカ・タザリ

「ぐあっ!」


 強化魔法で矢のように飛び出したニケが、メシャを抑える男の腕を剣の峰でぶったたいた。

 ボキンという音がしたので、おそらく骨が折れただろう。


「メシャねえちゃん、いじめんな!」


 ニケは即座にメシャを奪い返すと、剣を掲げながら高らかに吠えた。

 その一方、メシャはニケの背に隠れながら、涙を浮かべて震えている。

 本当にいつものメシャらしくない。

 そしてその姿を見て、俺はなんとなく彼らがこの村を出た原因が、分かったような気がした。


「何やってんだ! オイット。あんなガキにおくれを取りやがって」

「そ、そんなこと言ったって。あのガキ、いきなり腕を折りやがったんだ。いてえよ~」

「チッ、役立たずが。おい、俺の仲間に手を出したからには、ただじゃ帰さねえぞ」


 大勢の仲間を頼りに、ガブルがすごんでみせる。

 しかしその言葉は、すでに怒り心頭に発している俺とアルトゥリアスを、刺激するに十分だった。


「あ”あ”っ?」


 その瞬間、奴らの周りに石の槍が林立し、近くにそびえる大樹を突風が大きく揺らした。


「ひ、ひいっ! なんだ、何が起きたんだ?」

たたりだ。祟りが起きたんだ!」

「いいや、神の怒りだ!」


 いい歳をした男どもが、無様に慌てふためいている。

 特にガブルの野郎は危うく石槍に貫かれそうになり、腰を抜かしていた。

 そんな騒々しい現場に、他の猫人が駆けつけてきた。


「こら~、お前ら! 一体、何をしておる? 先程の轟音ごうおんはなんじゃ?」


 その問いに、すかさずルーアンが答える。


「大したことじゃねえよ、村長むらおさ。ガブルの馬鹿が、またメシャに手を出したんで、俺の仲間がお灸を据えたんだ」

「……おぬし、ルーアンではないか。勝手に村を出ていった騒がせ者が、また騒動を持ち込んだのか?」

「話を聞けよ。騒動を起こしたのは、あんたの息子だ」

「むう……ならばなぜ、お前らは帰ってきた? 簡単に帰属を許すわけにはいかんぞ」


 その的外れな指摘に、ルーアンがため息をつく。


「はぁ……別に村に戻りにきたんじゃねえよ。ちょっとザンテに会いにきたんだ」

「ザンテ? 忌み子に一体、なんの用じゃ?」


 村長がいぶかしげに問うたところで、遠慮がちな声が掛かる。


「ルーアンさん、僕に何か、用ですか?」


 そう声を上げたのは、黒髪に金色の瞳、そして褐色の肌を持つ男の子だった。

 わりと色白が多い獣人の中にあって、その肌色は明らかに目立つ。

 人混みの中からのぞく彼の顔を認めると、ルーアンが明るい声を出した。


「よう、ザンテ。元気か? 調子はどうだ?」

「え、別に普通、ですけど……」


 ザンテと呼ばれた少年が、おどおどと答える。

 すると周りの猫人たちが、あからさまに眉をひそめ、舌打ちを漏らす者までいた。

 その肌色のせいか、彼はずいぶんと嫌われているようだ。

 そんな彼に、ルーアンが問う。


「どうだ、ザンテ。俺たちと一緒に来ないか?」

「「「はあっ?!」」」


 その途端、猫人たちから大きな疑問の声が沸き起こった。

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