64.精霊契約の手助け
エルフの里で、精霊契約を促進させる方法。
俺はエルフの長老から、その検討を要望されていた。
幸いにも水精霊とのコミュニケーションに成功し、精霊を呼び出す方法については見当がついた。
その結果を長老たちに伝えたところ、彼らは想像以上の食いつきを見せる。
「まことか! しかるべき場所に行けば、中位精霊を呼び出せるのだな?!」
「まだ試していないので、確実じゃありませんけどね。だけどテティスに頼めば、その可能性は高いと思います」
「それならぜひ、試してみましょう」
オルグストだけでなく、ベルトリンデもグイグイとくる。
そんな彼らに、アルトゥリアスが交渉を持ちかける。
「待ってください。それをする前に、達成目標と報酬について、ある程度つめておきませんか」
「どういう意味だ?」
「我らがどこまで協力し、どのような結果を出せば終わるのか。そしてそれに対し、どのような報酬を得られるのかです」
「それはおぬしたちに、里の住人の勧誘を許すだけではいかんのか?」
「それは精霊術の指導の対価ですよ。これについてはすでに、レーネリーアとバタルが仲間になることで合意しています」
アルトゥリアスがしれっと言えば、オルグストが苛立たしそうに問う。
「むう……それ以上に何が必要だと言うのだ?」
「まず我らは、レーネリーアに替わる契約者を確保します。そしてそれ以上の契約者が生まれた場合、その数に応じて報酬を頂きたいですね。精霊術を改良したのみならず、新たな契約者を増やしたとなれば、その成果は非常に大きなものになりますから」
「むう……たしかにそれは否定できんな」
「ええ、もし我らがそれに報いなければ、恩知らずのそしりは免れないでしょう」
さすがにそこまで言われると、長老たちも受け入れざるを得ない。
「それでは精霊の出そうな場所の割り出しと、報酬の検討をお願いします。その間に我々は、さらに精霊術の研究を進めておきます」
「うむ、了解した」
こうして話がつくと、また新たな生活が始まった。
俺たちは新たに加わる植物と水の精霊術について、研究を進めた。
特に上位精霊であるテティスは、どんなことができるのかを調べるだけで興味深かった。
その間にエルフたちは森を駆け回り、いかにも精霊が出そうな場所を洗い出した。
それが3日ほどで終わると、いよいよ俺たちは契約者候補を引き連れ、里を出発することとなる。
今回は俺のパーティーメンバーも、護衛として同行していた。
最初にたどり着いた候補地は、森の中の一角だった。
目の前には樹齢数百年になろうかという大樹がそびえ立ち、いかにもな雰囲気を発している。
そこでまずはテティスを呼び出し、精霊の存在を問うてみた。
「この辺に中位精霊って、いないかな?」
「……」
俺に問われた彼女は、しばしあちこちに視線を飛ばした後、フワリと浮き上がって大木のウロをのぞき込んだ。
やがてテティスはうっすらと微笑みながら、ウロの中に手を入れた。
「♪」
「成功だ」
テティスが引き抜いた手には、新たな中位精霊が掴まれていたのだ。
緑色でうっすらと透けた少女の髪には、木の葉がくっついており、彼女が木精霊であることが分かる。
それを見た長老たちと、契約者候補が身体を乗り出した。
「おおっ、さすがはタケアキ殿。あっさりと精霊を見つけてくれた」
「まったくです。さっそく契約を試みてみましょう。希望者は前へ」
ベルトリンデの指示により、10人ほどいる候補者の中から、4人の男女が進み出た。
おそらく彼らは普段から、植物魔法を使い慣れている者たちだろう。
その彼らの前にテティスが木精霊を押し出すと、木精霊は不機嫌そうに候補者をにらんだ。
そんな木精霊の頭をポンポンと叩きながら、テティスが何事かを促す。
木精霊は少し戸惑いながらも、候補者を見定めようとする。
すると候補者の中から、少女のようなエルフ女性が手を差し出した。
「あ、あの、私と契約してください」
「こ、こら、ずるいぞ。俺と、俺と契約を」
「ちょっと、私だって」
「いやいやいや、俺こそがふさわしい」
4人の候補者からの熱烈なラブコールに、木精霊がちょっと引いていた。
しかしやがて木精霊は彼らを見極めると、最初に手を出した少女の手を取った。
「や、やった~」
「良かったわね、アデーレ。気が変わらないうちに契約を終わらせなさい」
「は、はい……」
その途端、契約が始まったようだ。
アデーレと呼ばれた少女がビクンと硬直し、遠くを見るような視線になる。
やがて契約を完了させたらしき彼女が倒れかけると、周りの候補者がそれを支えた。
どうやら契約は、無事に終了したようだ。
それを見守っていた長老たちがこちらに向き直り、改めて頭を下げた。
「無事に精霊契約が成立したこと、本当に感謝する」
「ええ、本当に画期的なことだわ」
「お役に立てて、良かったですよ。この調子で、契約者を増やしましょう」
感涙にむせぶ彼らを促し、俺たちは次の候補地へ向かう。
次の場所でも当たりを引き、土の中位精霊が発見され、これも無事に契約が成立した。
結局、その日に回れた5ヶ所のうち、3ヶ所で精霊が発見され、その数だけ契約者が増えたことになる。
おかげでその晩はエルフの里で、大宴会である。
「新たな契約者の誕生に乾杯!」
「「「乾杯!」」」
里の広場に集まったエルフたちが、一斉に酒をあおる。
その顔は皆一様に、明るかった。
当然、それを実現した俺も放ってはおかれない。
「タケアキ殿、ぜひ私にも精霊様を」
「本当に上位精霊様と契約してるんですね。すごいです」
「いっそこの里に住まれてはどうかな?」
とうとうこの里に住めとは、最初に来た時とは大違いだ。
しかし彼らの気持ちも分かる。
契約者が徐々に減っていく中で、不安な気持ちが高まっていたのだろう。
そんな熱烈な歓迎を適当に受け流しながら、酒を飲んでいると、ルーアンとメシャがやってきた。
「大モテだな、タケアキ」
「ほんと、モテモテって感じ~」
「ハハハ、今だけの話さ。ルーアンたちも楽しんでる?」
「ああ、まあな……ところでタケアキ。あと数日で、この里を離れるんだろ?」
ルーアンがちょっとまじめな顔で訊いてくる。
「うん、そうだけど、何かあった?」
「……ああ、もしよければ、俺たちの故郷へ行かないか?」
「あれ、前は行きにくいみたいなこと、言ってたのに」
そう返すと、ルーアンはちょっとバツが悪そうに頬をかく。
「……まあな。本音では行きたくないんだが、仲間にできそうな子供に、心当たりがあってな」
「へ~。見込みがありそうなの?」
「ああ。実はバタルみたいな子供でな、毛色が違うんで、いろいろといじめられてたんだ。もしあいつが生き残ってるなら、連れ出してやりたい」
ルーアンがまじめな顔でそう言いきると、メシャもそれを支持する。
「その子ってとてもいい子なのに、みんなから忌み子って呼ばれて、疎まれてるんだ。だからできれば、仲間に入れてやりたいの」
普段はおちゃらけているメシャが、珍しく真剣に訴える。
するとそれを聞いていたニケも、賛意を示した。
「タケしゃま、いじめられてるの、かわいそうでしゅ。なかま、いれてあげるでしゅ」
「う~ん、そうしてやりたいのはやまやまだけど、仲間にするかどうかは、本人しだいだな」
「ダメでしゅか?」
「まだダメかどうかは分からない。だけど信用できそうにない人は、お断りしないと」
するとルーアンがそれに応じる。
「もちろん仲間にするかどうかは、本人を見て決めてくれればいい。当人だって村を出たがるかどうか、分からないからな。だけどまずは、チャンスをもらえねえか?」
「それはもちろんだよ。これも何かの縁だろうからね」
「ああ、感謝するぜ」
それを聞いたルーアンとメシャは、嬉しそうにしていた。
それだけその子供のことを、気にしているのだろう。
その子が仲間にするに足る人物であれば、俺も嬉しいのだが。




