63.エルフからの依頼
すみません。
昨日、投稿わすれてました。
偶然か必然か、エルフの里で俺は、上位の水精霊テティスと契約してしまった。
エルフたちにとってそれは、もう精霊術の修行どころではなく、早々に里へ戻ってテーブルを囲むことになった。
「それで、相談って、なんですか?」
「うむ、それなのだがな……端的に言うと、我らの精霊契約を補助してもらえないか、ということだ」
「はあ? なんでそんなことに……」
その疑問に答えるように、オルグストが最近の契約事情を語る。
基本的に300~400年も生きるエルフは、当然のことながら出生率は高くない。
しかし森の中で結界を張って生活しているため、人口自体は微妙に増えているそうだ。
にもかかわらず、精霊との契約者は右肩下がりで減り続けているらしいのだ。
少なくともこの300年間は。
例えば300年前に400人ほどだったこの里に、契約者は20人はいたそうだ。
しかし現在は500人以上に増えたのに、契約者はたったの8人。
(アルトゥリアスは除く)
エルフにとって精霊術とは、里に結界を張ったり、住居を作ったりと、様々に利用されている。
もし今の傾向が続けば、いずれは結界の維持すらできなくなるのではないかと、危ぶまれているんだとか。
「なるほど。しかしそれと俺が、どう関係するんですか?」
「まずタケアキ殿は、短期間に2体の精霊と契約を結んでおる。その実績から、何か助言がもらえないかというのがひとつ。そしてもうひとつとして、上位精霊には精霊契約を補助する能力があるらしいのだ」
「ふむ……助言の方は怪しいですけど、テティスに何かができるというなら、協力はしますよ。やり方は、分かってるんですよね?」
「……いや、それが分からんのだ」
「ええっ! なんですかそれ?」
協力しろと言いながら、その方法は知らないとはこれいかに?
しかしオルグストは弁解しつつも、話を続けた。
「いや、混乱させて申し訳ない。しかし過去の記録によれば、上位精霊持ちのいる集落には、顕著に契約者が多かったらしいのだ。その詳細までは伝わっていないが、契約を促進する何かがあった、と考えるのが筋であろう?」
すると興味深そうに、アルトゥリアスが話に加わる。
「なかなかに興味深いお話ですね。たしかに上位精霊ほどの存在となれば、下位の精霊を呼び寄せたり、指示が出せるのかもしれません」
「うむ、我らもそう思う。ところでタケアキ殿。貴殿が精霊様と契約した時に、何か変わったことはなかったかな?」
「え? う~ん……」
オルグストにそう聞かれ、俺は正直に言うべきか迷った。
テティスの場合は他の水精霊に導かれたとはいえ、どちらも金色の光を見た点は共通している。
あれはおそらく、俺をこの世界に呼んだ何者かが、サポートしてくれているのだと思う。
しかし大した根拠もなく、そんなことを言ってもいいものか?
するとそんな俺の迷いを見透かすように、アルトゥリアスが優しくアドバイスしてくれた。
「何か気になることがあるなら、言ってください。仮にそれによって不都合が生じるなら、私も一緒に戦いますから」
「アルトゥリアス!」
彼の不穏な言葉を、長老たちがとがめた。
なぜならアルトゥリアスは、故郷よりも俺の味方をすると言っているのだから。
それを聞いて、俺も覚悟を決めることにした。
「ありがとう、アルトゥリアス……まずガイアを見つけた時、俺は金色の光に導かれました。そしてテティスを見つけた時は、水精霊が案内してくれたんですけど、やはり彼女も金色の光と共に現れました。俺はその金色の光は、味方を示すサインだと思っています」
「なんと、タケアキ殿は神託を受けているのか?」
「まあ、どちらの神様かしら」
長老たちが驚きを露わにする中で、アルトゥリアスが期待の目を俺に向ける。
「なるほど。ちなみにその光は、私にも見られたのですか?」
「ああ、ニケから始まってメシャまで、今の仲間は全て光ってたよ。こう、キラキラってね」
「フフフ、嬉しいですね。我らが出会ったのは、偶然ではなかったということですか。しかしこの情報は、この里の状況を改善するのには、あまり役立ちそうにありません。おそらくタケアキにとって都合の良い存在しか、見分けられませんからね」
「むう……たしかにそうなるであろうな。そうすると、上位精霊に協力してもらうしかないのだが、それについて何か心当たりはないかな? タケアキ殿」
改めてオルグストに問われるも、俺に心当たりはない。
そこで逆に俺は、エルフの契約について訊いてみた。
「残念ながらありませんね。逆に皆さんはどのように精霊を見つけたのか、聞かせてもらえませんか?」
「うむ、そうだな。我らの持つ情報を精査すれば、手がかりが見つかるかもしれん。まず儂だが――」
その後、精霊持ちの契約について、それぞれの経験が語られていった。
しかしその状況は各人によってまちまちであり、ほとんど偶然の産物としか思えないものばかりだった。
それでも精霊と出会った時の情報を精査していくと、ある共通点が見えてくる。
「各人によって状況は異なりますが、精霊の属性を象徴するような場所で出会っている、とは言えそうですね」
「うん、そうだね。ガイアはいかにも大地を象徴するような大岩の中にいたし、テティスは神秘的な滝だった」
「ふ~む、おそらくそのような場所は、精霊界との境界が薄かったり、魔力が集中していたりするのではなかろうか?」
「なるほど。そのような場所を探してみれば、成果があるかもしれませんね」
精霊の出そうな場所をみんなで推測し、話が盛り上がっていく。
そのうえで、俺にも協力が求められた。
「それでは我らの方で精霊を探すで、タケアキ殿には上位精霊が何をできるのか、探っていただけるかな?」
「あ~、はい。一度、対話してみます」
「うむ、よろしく頼む。なにしろ上位の精霊様との契約など、久しくなかったことなのだ。それでは今日のところは、これでお開きとしよう」
こうしてようやく俺とアルトゥリアスは解放され、レーネリーアの家へ帰ることができた。
帰るとさっそく、テティスを呼び出して対話を試みる。
「テティス」
「♪」
俺の呼び掛けに応え、半透明の美女が現れる。
彼女はその容姿にふさわしい落ち着いた態度で、俺と向かい合った。
「なあ、テティス。こんなガイアみたいな中位精霊って、呼ぶことはできないかな?」
「??」
「う~ん、うまく通じないか。ガイアとはけっこう、コミュニケーションが取れるようになってきたのにな。そうだ、レーネリーアさん、何か書くものありませんか?」
「ええ、ちょっと持ってくるわね」
そう言ってレーネリーアが持ってきたのは、木の皮みたいな紙と、未知のインクとペンだった。
俺はそれをありがたく受け取ると、ガリガリと絵を描きはじめる。
まず大きな人型の横に、少し小さな人型を描いた。
俺に絵心はないので、実にシンプルな絵だ。
分かってくれるかな?
通じることを祈りながら、絵を指してテティスに語りかける。
「こっちがテティスだとして、こっちはガイアね。分かる?」
「??」
「あ~、なんて言えばいいんだ?」
思うように通じず、いらついて頭をガリガリとかいてしまう。
するとアルトゥリアスが助言をくれた。
「こっちが『上位精霊』で、こちらは『中位精霊』ですよ、タケアキ」
「♪」
アルトゥリアスが絵を指しながら古代語を使うと、テティスはようやく理解を示した。
「ああ、古代語で言えばよかったのか。ならアルトゥリアス、ちょっと翻訳してもらえる?」
「いいですよ。私もカタコトですけどね」
その後、俺の描く絵と、アルトゥリアスの古代語でコミュニケーションを図ると、話はトントン拍子に進んだ。
言語体系こそ大きく違うものの、上位精霊であるテティスの理解能力は高い。
おかげで精霊契約について、テティスに何ができて、何ができないのかの解明が進んだ。
「う~ん、まとめると、それらしいとこでテティスが呼びかければ、中位精霊が出てくるかもしれない、ってことか」
「どうやらそのようですね。しかし通常はよほど機嫌が良くなければ、精霊は姿を現しません。それを引っ張り出せるだけでも、かなりな進歩ですよ」
「うん、そうなんだろうね。問題は精霊が出そうな場所を探すのと、俺がどれだけ拘束されちゃうかだな~」
俺が難しい顔をしていると、ニケが心配そうに覗き込む。
「タケしゃま、かえれないでしゅか?」
どうやら大げさに言い過ぎて、彼女を不安にさせてしまったらしい。
俺はニケの頭を撫でながら、軽い感じで言った。
「そんなに心配すんなって。エルフだって、そう無茶は言わないよ」
「そうよ~。私の代わりに契約者が2、3人増えれば、私とバタルは晴れて外に行けるの~。だから私も手伝うわ~」
するとレーネリーアが脳天気に支援を申し出て、少し雰囲気が明るくなった。
彼女は出ていく気満々のようだが、俺たちも気心の知れたレーネリーアとバタルが仲間になるなら文句はない。
するとアルトゥリアスもいい顔で、交渉の意気込みを語ってくれた。
「フフフ、この里の長年の懸案解決に協力するのです。せいぜいむしり取ってやりましょうか」
さてさて、交渉の行方はどうなることやら。




