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迷宮へ行こう ~探索のお供はケモミミ幼女~  作者: 青雲あゆむ
第4章 上級冒険者編

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62.水の上位精霊

 エルフの里で精霊術の指導を始めて1週間。

 その成果は徐々に出はじめていた。


土壁防御ジダル・ディファー

減圧回廊カリル・タリク

水槍打突マイヤ・ワキザ

地草束縛ハシシュ・アサバ


 エルフ術士によって土の壁が生成され、はるか遠くまで矢が飛来する。

 さらに水の槍が的を打ち、そして草の束が対象を絡み取る。

 従来は術士の間近でしか行使できなかった技も、だいぶ離れた位置で実現できるようになっていた。


 エルフの観念を変えるには、もっと時間が掛かるかと思っていたのだが、アルトゥリアスという前例があることから、意外に早く実現した。

 これにはレーネリーアという異端者が、率先して新しい技術の習得に取り組んだことも寄与しているだろう。


「皆さん、お見事です。だいぶ慣れてきましたね」


 パチパチと手を叩きながら、アルトゥリアスがエルフたちを褒める。

 すると長老のオルグストが、満足げに微笑みながらも、謙遜してみせた。


「いやいや、まだまだつたない技よ。しかし何はともあれ、こうして新たな段階に至れたのは、喜ばしいことだ」

「ええ、そうですね。この調子なら、あと数日もすれば、我々も必要なくなるでしょう」

「うむ、そうだな……しかしなんだ。もう出ていくのか? この後もいろいろと相談に乗ってもらえると、ありがたいのだがな」

「それは皆さんがいれば、大丈夫でしょう。我らにもやることがありますし」


 来たばかりの頃とは打って変わって、この里は俺たちを頼りにしてくれている。

 その気持ちは嬉しいが、こちらにも都合があるというものだ。

 アルトゥリアスがやんわりと断ると、オルグストもそれ以上強くは言わなかった。


 そんなやり取りを見ていたら、ふと水精霊が俺の横に来ていることに気がついた。

 彼女はエルフの1人が契約している精霊だが、何やら俺に用があるようだ。


「ん? どうしたの?」

「♪」

「どうしたでしゅか? タケしゃま」


 一緒に精霊術を見学していたニケが、俺の異変に気がついて寄ってくる。


「いや、この子が何か言いたそうなんだけど……」

「なんか、付いてこいって、いってるみたいでしゅ」

「あ、そうなの?」

「♪」


 ニケの言うとおり、水精霊は俺たちを誘導しはじめた。

 彼女は川上に向かって進みながら、俺たちについて来いと誘う。

 俺は仲間にそれを伝えたうえで、彼女を追った。

 川沿いにしばらく登っていくと、やがて小さな滝に行きついた。


「へ~、こんなとこに滝があったんだ」

「きれいでしゅ」

「♪」


 その滝は小さいが、美しい場所だった。

 清涼な淵に水が降り注ぐと、そこから舞い散った水滴が虹色に輝き、えもいわれぬ荘厳さを醸し出している。

 俺とニケがしばしそれに見入っていると、ふいに金色の輝きと共に、水中から何かが現れた。


「あっ」

「せいれいさん、でしゅ?」


 水の中から現れたのは、水色に透けた美女だった。

 ただしそれはガイアのような少女ではなく、20歳ほどの大人の容姿である。

 彼女は腰まで伸びる髪を揺らしながら、慈母のように微笑んでいた。

 その身体には薄衣のような布をまとっており、女性らしい豊満なラインがうかがえる。


「水の上位精霊?」

「ふえ、じょういせいれい、でしゅか?」

「ああ、たぶんそうだ。ガイアと違って、大人の姿をしてるだろ?」

「そうでしゅね。だけどなんで、でてきたんでしゅか?」

「さあ?」


 その疑問に答えるように、上位精霊は滑るように俺に近寄ると、その右手を差し出した。

 その瞳はひたと俺にすえられ、何かを熱望しているようだった。


「……これって、契約を望んでるんだよな?」

「そうみえるでしゅ。だけど、だいじょぶでしゅか?」

「分からない……だけどここはあえて、受けて立とうじゃないか」


 ガイアと契約した時のことを思い出せば、決して楽なものではないだろう。

 しかし今まで俺を導いてきた金色の光を信じ、俺は上位精霊の手を握った。

 その瞬間、俺の中に暴風が荒れ狂う。


 ガイアの時と同様に、なんだか分からないものが、俺の体中をかき回し、脳みそを揺さぶる。

 その暴力的な圧力に、俺は歯を食いしばって耐えた。

 そうして耐えていると、やがて以前と同じように、相手の魔力が流れ込んでくるのが感じられた。


 そこで自分の魔力をそっと流してみると、互いの魔力がグルグルと渦を巻き、徐々に混じりはじめる。

 やがてそれが十分に混じり合った瞬間、俺と上位精霊との間に、経路パスが形成されたのを実感した。

 その時ようやく、俺の周囲に光と音が戻ってくる。


「ぷはっ!」

「タケしゃま、だいじょぶ、でしゅか?」


 気がつけばニケが俺にすがりつき、心配そうに見上げていた。

 俺はそんな彼女の頭を撫でながら、安心させるように言う。


「ああ、大丈夫、大丈夫。俺、どれぐらいボーッとしてた?」

「え~と……じゅう、かぞえるぐらい?」

「ほんの10秒ぐらいか……」


 もっと長いようにも感じたが、それはごく短時間だったらしい。

 しかしその間に生じた変化は、劇的だった。

 俺の体中の細胞が活性化し、力が溢れているのが分かるのだ。

 右手をニギニギしながら身体の様子を確認していると、そっと傍らに立つものがあった。


「♪」


 妙齢の美女がモジモジしながら、何かを望むような視線を送ってくる。

 その視線には以前にも、見覚えがあった。


「ああ、名前が欲しいんだな。どうしようか……」


 水の精霊なんだから、そっち系の名前だよな。

 地精霊にガイアと付けたから、同じギリシャ神話系で……


「決めた。テティスにしよう」


 その途端、水精霊の顔が輝き、彼女との経路がより強まった。

 それと同時に彼女の輪郭がはっきりと、より肉感的になる。

 しかもテティスは喜びも露わに、俺に抱きついてきたのだ。

 かりそめでありながら、豊満で柔らかい肢体の感触に、ドギマギしてしまう。


「こら~っ、タケしゃまに、いろめつかうな~!」


 すると普段はいい子のニケが、大声を上げて怒りはじめる。

 しかしテティスは悪びれもせずに微笑み、俺に頬をすりつける。

 それを見たニケが、地団駄を踏んでくやしがっていた。


「ま、まあ、落ち着けって、ニケ。契約精霊は、家族みたいなもんだからさ」

「う~~、きょうてきの、しゅつげんでしゅ」


 ニケが訳の分からないことを言いだした。

 契約精霊は味方だって~の。


 その後も治まらないニケをなだめながら元の場所へ戻ると、アルトゥリアスが目ざとくテティスの存在に気づいた。


「タケアキ、その精霊はまさか!」

「ああ、今、契約してきたとこ。テティスって名付けたんだ」


 軽く言う俺に対し、エルフの術士たちが大口を開けてうめく。


「そそそ、それはまさか……」

「じょ、上位、精霊?」

「ええ、そうみたいですね。この子が紹介してくれたんですよ」


 そう言って、俺を導いてくれた水精霊を示すと、エルフたちが集まって相談を始めた。


「どういうことだ?」

「おそらくニーナが、上位精霊の指示でタケアキ殿を招いたのだろう」

「しかしなぜ彼なのだ? 我らは何度もこに来ているというのに」

「分からん。やはり迷い人には何かあるのか……」


 そんな彼らを横目に、アルトゥリアスとレーネリーアが近づいてきた。


「とんでもないことをしてくれましたね、タケアキ。これでまたしばらく、帰れなくなりますよ」

「ええっ、なんで?」

「上位精霊との契約なんて、数百年ぶりなんですよ。そんなことを成し遂げたあなたを、簡単に見逃すはずがないではありませんか」

「まあまあ、凄いじゃな~い、タケアキ。もっと近くで見せて~」


 少し困った顔をするアルトゥリアスの横で、レーネリーアは脳天気に精霊を見せろとせがむ。

 やがて他のエルフも集まってきた。

 どうやら上位精霊との契約ってのは、想像以上にすごいことだったらしい。

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