表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷宮へ行こう ~探索のお供はケモミミ幼女~  作者: 青雲あゆむ
第4章 上級冒険者編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

62/115

61.精霊術の指導

 レーネリーアの家で一夜を明かした俺たちは、午前中は里を案内してもらうなど、のんびり過ごしていた。

 そして昼過ぎになると、再びエルフの里の長老に呼び出される。


「わざわざ来てもらって、すまんな」

「いえ、お気遣いなく。それで、例の話について、結論は出たのですか?」

「うむ、その件についてはすでに、ここにいる者たちと話し合った。彼らはこの里の精霊契約者たちだ。そしてその結果、我らはおぬしに教えを請うことにした」


 その部屋にはオルグストとベルトリンデの他に、5人のエルフの男女がいた。

 オルグストたちも精霊持ちだという話なので、レーネリーアを入れて8人の契約者が、この里にはいることになる。


「そうですか。もちろんその対価については、ご許可いただけるのですよね?」

「うむ、この里の運営に差しつかえない限り、里の民の勧誘を許そう」

「それは良かった。それで、精霊術の指導は明日からですか? 別に今からでも、構いませんが」


 すると長老以外の男性が、口を挟んだ。


「いや、その前に新たな精霊術というのを、我らにも見せて欲しい。それで納得がいけば、明日から学ぶということでどうだろうか?」

「それでけっこうですよ。それでは、広いところへ移動しましょうか」


 その後、また長老宅の裏手に移動し、俺たちの精霊術を披露する。


土壁防御ジダル・ディファー


 まずは俺が、20メートルほど先に土の壁をおっ立てた。

 従来の常識であれば、これは術者の周囲数メートルぐらいにしかできない。


突風アスファ


 続いてアルトゥリアスが、30メートルほど先の大木を揺らす。

 これほどの威力も、従来ではせいぜい術者から10メートル以内でしか実現できない。

 どちらも契約精霊が術者から離れ、遠方で術を行使しているがゆえの結果であり、エルフを驚かせるには十分だった。


「むう、たしかに我らの術とは、一線を画しているな」

「あれだけ離れたところで、あれほどの威力とは……」

「まあまあ、凄いわ~」


 最後のはレーネリーアである。

 彼女だけは脳天気に喜んでいるが、他の精霊持ちは深刻な顔をしていた。

 ちなみに彼らの精霊は、風が2、土が2、水が1、そして木がレーネリーアも含め3体だそうだ。

 昔はもっと多彩で多くの精霊持ちがいたが、次第に減ってきているらしい。


 その騒ぎがある程度、静まったところで、長老のオルグストが口を開く。


「これがアルトゥリアスたちが編み出した、新たな精霊術だそうだ。それは言ってみれば、精霊が術者から離れ、遠隔地で術を行使しているに過ぎんが、我らがなし得なかったことでもある」


 すると精霊持ちの1人が、不思議そうに問う。


「アルトゥリアスはこれを、どうやって考えだしたのだ?」

「編み出したのは私ではなく、このタケアキです。そしてそのきっかけとなったのは、こちらのニケさんが精霊と遊びたがったからなのです。そして迷い人であるタケアキがそれに応じた結果、離れた場所でも術が使えることに気がつきました」


 アルトゥリアスがそう言うと、ニケがエヘンと胸を張った。

 さらに俺たちが地精霊ガイア風精霊シェールを撫でてみせると、またエルフたちから唸り声が上がる。


「精霊と遊ぶなど、我らにはとても思いつけん」

「ああ、そしてそれを許すのも、常識の異なる迷い人がゆえだろう」

「しかし精霊の方も、まるで子供のようになついているな。間違っていたのは、我らの方だということか」


 それらの声に、アルトゥリアスが説明を加える。


「ええ、そのとおりです。我々は今まで、精霊をただ神聖なものとして扱い、距離を置いてきました。しかし家族のように接すれば、親和度が高まって、より大きな術が行使できるのです。さらに迷い人の知識を加えれば、こんなこともできます……『減圧回廊カリル・タリク』」


 おもむろに弓を構えたアルトゥリアスが、低圧の経路を形成し、矢を放った。

 その矢は目にも止まらぬスピードで宙を飛び、100メートル先の木に命中する。

 カツーンという小気味良い音を立てながら、矢は深々と突き刺さった。


「なんだ、今のは?」

「分からん。しかしとんでもない弓勢ゆんぜいだった」


 ざわめくエルフたちに、再びアルトゥリアスが説明する。


「今のは”くうき”という概念を利用した、弓の強化魔法です。他にもタケアキの知識を利用すれば、新たな術が生まれるかもしれませんよ」

「むう……迷い人の知識か。はたしてそこまでやっても、よいものか?」

「ええ、何か反動がありそうで、怖いですね」

「何いってるんですか~。この際だから、いろいろやっちゃいましょうよ~。これはこの里を活性化させる、願ってもないチャンスですよ~!」


 ためらいを見せる長老たちを、レーネリーアが叱咤しったする。

 しかし他のエルフたちも、どちらかというと長老寄りであり、その顔にはためらいがあった。

 そんな彼らに、アルトゥリアスは時間を与えた。


「今ここで結論を出す必要はありません。いずれにしろ時間の掛かることですから、少しゆっくり考えてみてください」

「うむ、そうだな。今日のところは、これまでとしよう」


 その場は一旦終了となり、俺たちはまたレーネリーアの家へ引き返した。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 一夜明けると、俺とアルトゥリアスはまた呼び出された。

 他のメンバーは魔法にあまり関係がないので、レーネリーアの家に残してある。

 ちなみにレーネリーアは、当然のように付いてきていた。

 長老の家に入ると、そこには精霊持ちのエルフたちが待ち受けていた。


「おお、来たな、アルトゥリアス」

「おはようございます、皆さん。その様子ですと、前向きに考えていただけたようですね」

「うむ、いまだに迷う部分はあるが、まずはやってみようという結論に至った」

「それは良かった。ところで修練をする場所は、どうしますか?」


 アルトゥリアスの問いに、オルグストが答える。


「それなのだが、部外者を巻き込んでもいけないので、外へ出ようと思う。水精霊もいるので、川のほとりがよかろうな」

「そうですね。それではさっそく移動しましょうか」


 そのまま俺たちはエルフの結界を出て、川のほとりまで歩く。

 そこは鬱蒼うっそうとした森を抜けた所で、そこそこの広さのある場所だった。


「さて、この辺で修練をすることとしよう」

「はいは~い、まずは私からやらせて欲しいわ~」

「落ち着かんか、馬鹿者。コホン……騒がしくて、すまんな」


 騒ぐレーネリーアをオルグストがたしなめ、俺たちに詫びてくる。

 するとアルトゥリアスが苦笑しながら、それをフォローした。


「我々はレーネリーアの家にお世話になっているので、さほど気になりませんよ。それに彼女は、昔からああですからね」

「まあ、そうだな。それで、最初は何をするつもりだ?」

「まずは皆さんの精霊を召喚してください。そして精霊と触れ合うことから始めましょう」

「うむ、それでは皆の者、精霊を呼んでくれ。カーラ」


 オルグストが木精霊を呼び出すと、他の精霊持ちもそれぞれの精霊を召喚する。

 たちまちのうちに、その場に8体の精霊が顕現した。

 その容姿は様々だが、10歳前後の少女であることは変わらない。


「精霊がこれだけ揃うと、なかなかに壮観ですね。それにしても、精霊が女の子の姿なのは、なぜなんですかね?」


 俺のその疑問に答えたのは、オルグストだった。


「その原因については諸説あるのだが、最もそれらしいのは、原初の精霊様が女性形だったからだと言われておる」

「へ~、でもなんで少女なんです?」

「儂も小さい頃に見ただけだが、上位の精霊様は大人の女性であった。中位精霊は上位よりも能力が劣るので、それが若さとして反映されるのであろう」

「なるほど……」


 そんな話の流れを、レーネリーアが断ち切る。


「もう、そんな話はどうでもいいから、早く始めませんこと? 新たな精霊術を、早く使いたいですわ~」

「フフフ、これ以上じらされると、レーネリーアが暴発しかねませんね。それでは皆さん。それぞれの精霊に、触れてみてください。最初はゆっくりと。慣れてきたら、頭を撫でるなどしてやるといいですよ。こんなふうに」


 アルトゥリアスがシェールを相手に、手本を見せる。

 他の精霊持ちたちも、それを見ながら精霊との触れ合いを始めた。

 しかし精霊は神聖なもの、という固定観念が強いせいか、その様子はかなりおっかなびっくりという感じだ。


 ただし2日間も俺やアルトゥリアスと接していたレーネリーアは、すでに手慣れた感がある。

 彼女は元々、奔放ほんぽうな性格というのもあるのだろう。

 早くも木精霊アーデを抱っこしたり、頭を撫でたりしている。


 するとそれを見た他のエルフたちも不安が薄れたのか、徐々に大胆に触れ合うようになり、30分ほどでずいぶんと親密感が増してきた。

 それを確認したアルトゥリアスが、新たな術の概念の説明に移る。


「まず認識しなければいけないのは、今まで狭い範囲でしか術が行使できなかったのは、精霊との親和度が低かったということです」

「え~、でも私たちはもう何十年も一緒にいたのよ~。それなりに仲は良かったと思うけど~」

「あくまでそれなりであって、不十分だったのですよ。我々は精霊を神聖なものと決めつけ、自ら距離を置いてきました。そんな状態で真の信頼関係など、築けるはずもないとは思いませんか? しかし精霊と家族のように接することができれば、状況は大きく変わります」


 ここでアルトゥリアスが一拍おき、様子を見る。

 エルフたちは複雑そうな顔をしていたが、特に反論もなく、ようやくそんなものかと思いはじめたようだ。


「そのうえで精霊を遠方へ送り出し、術を行使するという概念を持てば、より強力な術が行使できます。例えばこのように。『突風アスファ』」


 アルトゥリアスがはるか遠くの木々を揺らすと、エルフたちの目が期待に輝く。

 その後さらに彼は、地面に絵を描きながら、詳しく術の概念を説明した。

 最初は懐疑的だったエルフたちも、その説明に次第に引き込まれていく。

 この調子なら改良型の精霊術が根付くのも、そう遠くはなさそうだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ