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迷宮へ行こう ~探索のお供はケモミミ幼女~  作者: 青雲あゆむ
第4章 上級冒険者編

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59.2人目の忌み子

 アルトゥリアスの故郷で、長老たちに精霊術を披露していたら、そこへ闖入者ちんにゅうしゃが現れた。


「レーネリーア。久しぶりですね」

「ええ、もう何十年になるかしら。ところで、ここで何をやっているの?」


 アルトゥリアスが親しげに話しかければ、その女性は無邪気な問いを放つ。

 するとエルフの長老たちが怒りだした。


「レーネリーア、おぬしの出る幕ではないわっ! 引っ込んでおれ!」

「そうですよ。今は私たちが彼らの相手をしているのです」


 しかしレーネリーアは一向にひるまない。


「え~~っ。だって強力な精霊の気配を感じて来てみたら、アルトゥリアスがいたんですよ~。私にも無関係じゃないですよね?」

「それは儂らと話がついてからだ。今のアルトゥリアスは、ただのよそ者だからな」

「何を言ってるんですか~。彼はこの里の出身者じゃないですか~」


 とうとう彼女と長老たちの間で、言い合いが始まった。

 なかなか終わりそうにないので、俺は声をひそめてアルトゥリアスに訊く。


「誰、あれ?」

「彼女はレーネリーアといって、中位の精霊持ちです。おそらくシェールやガイアの気配を感じて、様子を見にきたんでしょう」

「ふ~ん、なんか、変わった人っぽいね?」


 俺の率直な印象に、アルトゥリアスが苦笑する。


「分かりますか。実際、彼女はとびきりの変わり者です。しかも若くして精霊と契約しただけあって、術者としては優秀なのですよ。実を言うと、声を掛けようと思っていた者の1人なのですがね」

「ああ、そうなんだ……ちょっと気が強そうで、トラブルの元になりそうなのが不安かな」

「あまりそれは、否定できませんね」


 そんな話をしていたら、長老を振り切ったレーネリーアがこちらへ近づいてくる。


「アルトゥリアス! あなた新しい精霊術を開発したんですって? ちょっと私に見せてくださらない? え、待って。この、どうしたんですか?」

「ふえ……」


 アルトゥリアスに絡みはじめたと思ったら、次の瞬間に彼女はニケに抱きついていた。


「きゃ~、かわいい~! あなたのお名前、なんていうの~?」

「わぷっ、やめるでしゅ」


 レーネリーアがニケを抱きしめ、頭をワシャワシャと撫で回している。

 ショートボブの金髪をかき混ぜられたニケが、不快そうに文句を言うが、レーネリーアは聞きもしない。

 とうとうニケが見かけによらない力を発揮して突き放すと、レーネリーアが悲しそうな顔をする。


「あんっ、どうして? お姉さん、あなたの味方よ~」

「うっとうしい! さわんなでしゅ」


 ニケは俺の後ろに隠れながら、レーネリーアを睨みつけた。

 それを見かねたアルトゥリアスが止めに入る。


「まあまあ、レーネリーア。あまりしつこくすると、嫌われますよ。ところで、あなたの後ろにいるのは、どなたですか?」

「うん、もう……え~と、この子はバタルっていって~、私が面倒をみてるの~」

「あなたが子供の面倒を? しかも獣人ではないですか」

「ども、こんちは」


 レーネリーアの後ろにくっついていた少年が、皆の注目を浴びて頭を下げた。

 彼は白髪に青い目を持った獣人だ。

 その頭部にはネコのような三角耳が付き、腰部からは白と黒の縞模様の尻尾が伸びている。

 背丈は140センチくらいで、日本でいえば中学生ぐらいだろうか。


「この子、5年ぐらい前に、森で死にかけてたの~。帰る所もないって言うから、私が育ててるのよ」

「うす、姉さんにはお世話になってます」

「なんでまた、死にかけていたんですか?」


 アルトゥリアスの質問にレーネリーアは目を伏せ、少し悲しそうな顔をしながら説明する。


「この子、虎人とらびと族なんだけど、毛色が違うからって、いじめられてたらしいの~。そのうち親にも見捨てられて、森の中をさまよってたのね~」

「ふむ、普通の虎人は、黄色か茶色の毛ですからね。その点では、ニケさんと一緒ですね」

「あら、そういえばこの娘、狼人ろうじん族なのに、金色って珍しいわね~。ひょっとして、あなたもいじめられた?」


 レーネリーアの質問に、ニケはうなずく。


「そうでしゅ。あたしも、しにかけて、タケしゃまに、すくわれたでしゅ」

「まあ、こんなにかわいいのに~。大衆って時として、残酷なことをするわよね~。自分と違うってだけで、排除しようとするんだもの~。だけど本当はバタルやニケちゃんみたいな子は、すごく強くなる可能性を秘めているのよ~。一部では希少種とも呼ばれてるわ~」


 聞き覚えのある彼女の話に、俺とニケが応じる。


「ああ、そうですよね。ニケもこう見えて、凄くすばやくて、力が強いんです」

「きんいろの、ろうじんは、えいゆうだったって、きいたでしゅ」

「うんうん、そうなのよ~。このバタルも、見かけよりずっと強いのよ~。ちょ~っと成長は遅いんだけど~」

「うす」


 レーネリーアの紹介に応え、またバタルが軽く頭を下げた。

 なんというか、自己主張の薄い少年である。 

 ここでアルトゥリアスが、しみじみとした感じで言った。


「それにしても、あなたが子供の面倒を見るなんて、そんなことがあるんですねえ」

「ちょっとそれ、どういうことよ? 私だって女よ!」

「性別はそのとおりですが、生活力は乏しいではないですか。どうやって生活してるんですか?」


 その問いには、バタルがボソッと答える。


「家事はもっぱら、俺がやってるっす。だけどこんな俺を拾ってくれて、姉さんには感謝してるっす」

「ああ、やっぱり……」

「ちょっと! やっぱりって何よ!」


 生活能力の無さを暴露ばくろされたレーネリーアが抗議するも、アルトゥリアスは困った子を見るような目である。

 俺たちも、それを見て苦笑するしかない。

 するとほったらかしになっていた長老が割り込んできた。


「こらっ、儂らを無視して話を進めるな! とにかくレーネリーアは邪魔だから、一旦帰れ。旧交を温めるのは後にせい」

「ええ~~っ、こと精霊術に関しては、私にも聞く権利があるでしょ~。私は帰りません!」


 断固として動きそうにないレーネリーアを前に、長老が先に折れた。


「チッ。それでは絶対に邪魔をするなよ、まったく……それで、アルトゥリアスよ。おぬしはこれから、どうしたいのだ?」

「我々の発見した内容を、この里でも共有してもらい、さらに研究を進めてもらいたいと思います」


 アルトゥリアスが堂々と言うと、長老はいぶかしそうな顔をした。


「共有して、研究を進めろだと? そんなことをして、お前にどんな利益があるのだ?」

「精霊術がさらに進化すれば、それだけで利益がありますよ。ただ、可能であれば、私と一緒に迷宮を攻略する仲間を勧誘することを、許してもらえれば、とも思っています」

「フンッ、やはりか。どうせそんなことだろうと思っておった」

「あなた、自分だけでなく、さらにこの里から同胞を連れ去ろうと言うのですか?」


 オルグストが苦々しい顔をする横で、ベルトリンデもアルトゥリアスを非難する。

 どうやらアルトゥリアスは、けっこう嫌われているようだ。

 しかし彼はそんなことを気にする風もなく、しれっと反論する。


「別に無理矢理つれ去るつもりはありませんよ。あくまで希望する者がいれば、の話です」


 するとその言葉に飛びつく者がいた。


「まあっ、仲間を探しているのですか~? アルトゥリアス」

「ええ、迷宮を攻略するのに、手が足りないのですよ」

「それなら私が行くわ~。もちろんバタルも一緒よ!」


 ハイテンションで盛り上がるレーネリーアに、長老が釘を刺した。


「こら、勝手な真似は許さんぞ、レーネリーア」

「あら、どこへ行こうと、私の勝手でしょ~? 私はもう立派な大人なんですから~」

「大人なら、なんでも好きにしてよいというわけではない。おぬしもこの里の一員なのだからな」

「まあっ、これ以上に私を拘束しようと言うのですか~? もう何十年もこの里のために、働いてきたというのに~」

「だからこそだ。急にお前に抜けられては、困る者もいるのだ」

「だからって――」

「それについては、私に考えがあります」


 さらにヒートアップしそうなレーネリーアを、アルトゥリアスが遮った。


「我々が新たな精霊術を指導することで、この里の運営にも余裕ができるでしょう。それと引き換えに、仲間の勧誘を許して欲しいのです。もちろん希望しない者に、無理じいはしません」

「あら、それなら私が――」

「黙れっ、レーネリーア……コホン。おぬしの言うことも、分からんではない。結果的にこの里に利があるなら、多少の引き抜きはあり得るかもしれんな。それについては里の会議にはかってみるので、それまではおとなしくしておれ。くれぐれも、先走るのではないぞ」

「ええ、心得ました」


 とりあえず長老との交渉は、まとまったようだ。

 願わくば、新たな仲間が得られるといいのだが。

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