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迷宮へ行こう ~探索のお供はケモミミ幼女~  作者: 青雲あゆむ
第1章 駆け出し冒険者編
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5.初めての迷宮

 冒険者ギルドに登録して、装備も整えると、次はいよいよ迷宮への挑戦だ。

 俺たちは起きて早々に朝食を済ませると、町の中心部へ向かい、迷宮の前に立つ。


「さて、行くか」

「あい、タケしゃま」


 冒険者ギルドの左横に建つ迷宮管理棟に、俺たちは歩を進める。

 ここは迷宮の入り口を壁で囲い、さらに衛兵の詰め所や魔石の買取所などを併設した建物だ。

 迷宮とは基本的に国の管理下に置かれており、そこから取れる魔石も国が買い取る仕組みになっている。


 魔石とは魔力を内包した石で、魔物の体内から採取できる。

 これは様々な魔道具の燃料となったり、魔法を行使する際の触媒などとして、それなりに需要があるものだ。

 しかし魔物は強靭な肉体を持つのに加え、凶暴なものが多いのもあって、その討伐には危険が伴う。

 冒険者稼業とは、そんな魔物と戦う危険な職業なのだ。


 朝の混雑でごったがえす入り口の前で、列に並んでいると、やがて俺たちの順番が来た。

 俺とニケの冒険者証を見せながら、銀貨2枚を渡そうとすると、衛兵が眉をひそめる。


「そんな子供を連れていくのか?」

「あ~、はい。こう見えてもこの子、10歳なんですよ。すでに何回か潜ったこと、ありますし」

「ふむ、見習いか。ちゃんと副冒険者証があるのなら、歳もごまかせんな」


 俺が昨日やったように、冒険者証の作成時に水晶でチェックされるので、年齢詐称はできないのだ。


「ええ、見た目によらず力もあるし、無理はしないんで、大丈夫ですよ」

「そうか。くれぐれも気をつけてな」

「ありがとうございます」

「ありがとでしゅ」


 ニケのお礼を聞くと、こわもての衛兵の顔が緩む。

 身なりを整えたニケのかわいらしさは、超絶だからな。

 しかしそんな見た目5、6歳の幼女を連れて、迷宮に入ろうとする俺に対しては、周囲の視線が厳しい。

 実はニケの方が、経験者なんだって~の。


 そんな理不尽な思いを押し込め、俺は石造りの階段を下りていく。

 やがて階段を降りきると、12畳ほどの部屋に出た。

 周囲はむき出しの岩肌だが、壁や天井がうっすらと光を放っていて、行動に困らない程度には明るい。


 部屋の中央には腰の高さほどの石台があり、台上に水晶が埋まっていた。

 これは転移水晶という代物で、下層とのショートカットを可能にする設備らしい。

 このベルデン迷宮は3層ごとに守護者の試練があり、それを倒すと下層への通行許可が冒険者証に刻まれる。


 そして例えば3層の守護者を倒せば、4層の水晶部屋からこの1階へ、転移で戻ってこれるようになるのだ。

 さらには1層から4層へも転移できるので、いちいち浅い層を介さずに、深層を探査できるって寸法だ。

 実に便利である。


 ただし1層から転移する場合、目的階層の入り口側のどこかに、ランダムで跳ばされるらしい。

 そのため続けて転移しても、合流できる可能性は低いようだ。

 さらに一度に転移できる人数は10人までなので、1パーティーは10人以下となっている。


「一応、装備を確認しておくか」

「あい」


 念のため、装備を点検する。

 俺は転移してきた時のままの服装で、黒っぽいボトムに茶色のシャツ、ハイカットのトレッキングシューズを身に着けている。

 武装は右手に俺の身長ほどの槍と、左手に丸盾バックラー、頭部には革の帽子を身に着け、背中にはバックパックを負っている。


 一方のニケは、茶色のボトムに生成りのチュニック、革の帽子と靴を身に着けている。

 さすがにこの間のワンピースではもったいないということで、改めて探索用に買った服装だ。

 ちゃんと耳と尻尾に当たる部分には、穴が開いていて、かわいらしいケモミミと尻尾が露出している。

 そして俺の貸したナタを背中にくくり付け、左手にはバックラーを着けていた。


 靴ひもやベルトのゆるみが無いことを確認すると、俺たちは改めて奥の通路に進む。

 すでに経験のあるニケは、スタスタと先に立って歩いていた。

 その尻尾は上機嫌にフリフリと揺れており、彼女が張り切っているのがよく分かる。


 そんな彼女を追うように、俺は少し及び腰で歩を進める。

 しばらく進んで通路が分岐すると、ニケは周囲の臭いをかいでから、左へ進んだ。

 そしてさらに進むと、少し開けた場所に魔物の姿が見えた。

 それはファンタジーの定番、緑小鬼ゴブリンだ。


「ゲギャギャギャギャッ」

「グワガガ、グワガガ」

「ギャッギャッギャ」


 3匹のゴブリンが俺たちに気づき、威嚇の声を上げる。

 その姿は緑色の肌をした小人といった感じで、黄色い瞳が爬虫類を思わせる。

 身長は120センチほどで、衣類のようなものは一切つけていないが、その手には粗末なこん棒を握っていた。


「こいつら、ざこだから、あせらなくて、いいでしゅ」

「お、おう……」


 ニケが気負うことなく進み出ると、ゴブリンが向かってきた。

 先頭のやつがこん棒を振り上げるやいなや、彼女はスラリとナタを引き抜き、敵に斬りつける。

 彼女はスルリと流れるようにゴブリンの横を通り抜けると、敵は腹から血を流して倒れた。


「グギャギャッ」

「ゲゲゲッ」


 仲間があっさりと倒されるのを見て、残りのゴブリンが警戒を強めた。

 しかしニケはなんでもない顔をして、俺に声を掛けてくる。


「あたしが、ひきつけるから、タケしゃまも、いっぴき、たおすでしゅ」

「お、おう、分かった」


 俺はへっぴり腰で前に出ると、左手を前にして槍を構えた。

 これならいざという時に、バックラーで敵の攻撃を防げる。

 それを見たニケは跳ぶように駆け出して、ゴブリンを追い回しはじめる。


 今度は一気にとどめを刺さず、ちょこちょこ手を出しては敵の気をそらしている。

 やがて1匹が俺の目の前に出てきたので、槍を突き出した。

 それはギルドの訓練所で、何度も繰り返した動きだ。


「グギャッ」


 槍の穂先は見事に敵の腹部を貫き、ゴブリンは苦しみながら崩れ落ちた。

 するとニケも残りのゴブリンをあっさりと片付け、俺に近寄ってくる。


「どうでしゅか? タケしゃま」

「あ、ああ……なんとか、大丈夫だよ」


 そういう俺の顔は、引きつっていただろう。

 しかしニケはにっこり笑うと、今度は魔石取りに掛かる。


「こうやって、きりさくと、ませき、でてくるでしゅ……」

「そ、そうなんだ……うぷっ、げええっ」


 ニケがていねいに見せてくれたというのに、俺はそこで吐いてしまった。

 まだ食って間もない朝食が、迷宮の床に散乱する。

 そんな情けない俺を、ニケが心配そうに気遣ってくれる。


「だいじょぶ、でしゅか?」

「……あ、ああ、もう大丈夫だ。ごめんな、情けないとこ見せちゃって」

「タケしゃま、へいわなくにからきた、いってたでしゅ。さいしょは、しかたないでしゅ」

「そんなこと、言ってられないんだけどな。だけどちょっと、休ませてもらうよ」

「ませきは、まかせるでしゅ」


 俺は情けない気持ちを引きずりながら、部屋の片隅に移動して地面に腰を下ろした。

 やがて魔石を採取したニケが、俺の横に来て、ちょこんと座る。


「ご苦労さん。あの遺骸はどうなるんだ?」

「しばらくすると、めいきゅうが、とりこむでしゅ」

「迷宮が取り込む? なんか物騒な話だけど、俺たちは大丈夫なの?」

「いきものは、だいじょぶでしゅ」

「へ~、不思議なもんだな」


 そうやってしばらく見ていると、ふいにゴブリンの下の地面が流動化し、遺骸が溶けるように消えていった。

 そこには血痕すらも残っておらず、気がつけば、俺の作ったもんじゃ焼きも消えていた。

 その不思議な光景を見たら、なんだかふっきれた感じがした。


 少なくともこの世界は、治安が良くて、便利な日本ではない。

 そう実感したのだ。

 ならば俺は、この世界に適応しなければならないのだ、と。


「よし、そろそろ次に行こうか」

「だいじょぶ、でしゅか?」

「ああ、もう落ち着いたよ」

「なら、いくでしゅ」


 そう言って先に立つニケに続きながら、俺は新たな覚悟を決めていた。

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