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迷宮へ行こう ~探索のお供はケモミミ幼女~  作者: 青雲あゆむ
第4章 上級冒険者編

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58.エルフの里

 アルトゥリアスの故郷に入るため、俺が地精霊ガイアを呼び出したら、2人のエルフが姿を現した。

 彼らはガイアを精霊様と呼び、ひどく驚いている。


「なぜ、普人ヒューマンが精霊様と契約しているのだ? アルトゥリアス」


 彼らに問われたアルトゥリアスは、落ち着き払って答える。


「さあ。それは私にもよく分かりませんが、おそらく彼が”迷い人”であることと、無関係ではないでしょうね」

「”迷い人”? 異なる世界から迷い込むという、伝説のあれか?」

「ええ、このタケアキは、この世界とは全く違う文明圏から来たそうですよ」

「証拠はあるのか?」

「もちろん。タケアキ、例のモノを見せてもらえますか?」

「ああ」


 ここへ来るまでに、おそらく証拠が必要になると聞かされていたので、俺はポケットから携帯電話を取り出した。

 ちなみに俺はスマホは持たない主義で、かたくなにガラケーを使っていた。

 通話さえできればいいんや。


 折りたたみ式のガラケーを開いてスイッチを入れると、電子音を奏でながら、液晶に起動画面が現れる。

 普段は電源を切りっぱなしにしているが、はたしていつまで電池が持つだろうか?

 なんか充電手段があるといいな、などと考えていると、エルフたちが騒ぎだす。


「なんだ、これは?」

「魔道具の一種、なのか?」


 カラー液晶の表示がかなり珍しいのか、彼らは熱心に眺めている。

 そんなエルフに対し、アルトゥリアスが交渉を始めた。


「未知の文物に、中位精霊との契約。彼の特殊性を示すには、充分な証拠だと思いませんか?」

「むう……たしかにイカサマをしているのではなさそうだ。精霊様と契約をしているからには、敬意を払う価値はあるのだろう」


 エルフの1人が、渋々ながらも俺の価値を認める。

 するとすかさずアルトゥリアスが畳み掛けた。


「それでは我らを里に入れてもらえませんか? 実は私とタケアキは、新たな精霊術の開発に成功したのです」

「新たな精霊術だと? 何を馬鹿なことを……」

土壁防御ジダル・ディファー


 エルフの疑いを晴らすため、俺はいきなり土魔法を使った。

 その瞬間、20メートルほど離れた場所に、土の壁が立ち上がり、エルフたちが驚愕に顔を染める。

 アルトゥリアスの話を鼻で笑っていた男が、うろたえ気味に問いただす。


「ななな、なんだ、あれは?! いかに中位精霊とて、これほど離れた場所で術を行使するなど、聞いたことがない!」

「ええ、ですから新たな精霊術なのです。ちなみに私にも、これぐらいはできますよ。『突風アスファ』」


 今度は30メートルほど離れた大木に突風が当たり、大きく梢を揺らした。


「な、んだと……」

「馬鹿な……」


 アルトゥリアスが示した常識外れの威力に、エルフたちは言葉を失い、口をパクパクさせている。

 そして彼らが少し落ち着くと、アルトゥリアスはにこやかに要求を突きつけた。


「さあ、里に入れてもらえますね?」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 その後も2人のエルフは渋っていたものの、やがて里の内部に確認を取り、無事に立ち入りの許可が降りた。

 そこで彼らに続いてしばらく歩いていると、ふいに視界が開けた。


「あれ、さっきまで森の中だったのに」

「フフフ、エルフ族の結界ですよ。この里の住人に案内されないと、抜けられない仕組みになっています」

「へ~……そういえば、アルトゥリアスは住人として登録されてないの?」

「されていないでしょう。もう何十年も前に、飛び出したままですからね」


 そんな話をしながら歩くエルフの里は、まさにファンタジーな場所だった。

 直径が数メートルもある巨木に、いくつかのドアや窓が付いていることから、それが家だと察せられる。

 一体、どうやって作ったのか?

 そんな家屋を前に、ニケが目をキラキラさせながら興奮していた。


「ふおぉ~、エルフのおうち、なんかおもしろいでしゅ」

「ああ、どうやって作ってるんだろうな」

「フフフ、我らが得意とする、植物魔法ですよ。草木の精霊さんにお願いして、作ってもらうのです」

「へ~、なんかエルフらしいね」


 やがてひと際大きな家の前にたどり着くと、俺たちは中へ招き入れられた。

 そして通された客間には、2名のエルフが待ち構えていた。

 男女1人ずつの、老齢のエルフだ。


「これはオルグスト様。ご無沙汰しています」

「フン、相変わらず慇懃無礼いんぎんぶれいな奴だな……しかしおぬしが里を出て、何年になるか?」

「ほぼ60年になります」


 アルトゥリアスはまず男性の方にあいさつをした。

 しかし苦々しそうに答える男性の口調からは、決してアルトゥリアスを好いていない感じがする。

 オルグストと呼ばれたその男は、真っ白な長い髪と口ひげを生やしており、エルフとしても相当の高齢に見えた。

 その右側に立つ女性も、やはり高齢そうなエルフだ。

 察するに、彼らがこの里の長老なのであろう。


 俺とアルトゥリアスだけが彼らとテーブルを挟んで着席し、残りの仲間たちは後ろで椅子に座らされた。

 やがて緑茶のようなものが供されると、おもむろにオルグストが口を開く。


「それで、今日は何用で参ったのだ?」

「はい、実は新たな精霊術を開発したため、そのご報告に参りました。そのついでに、仲間探しもしたいと思っておりますが」


 アルトゥリアスの人を食ったような言葉に、長老たちがわずかに顔をしかめる。


「ふむ、新たな精霊術か。ちなみにおぬしも、精霊と契約できたようだな?」

「ええ、里を出て10年ほどで出会いました……シェール」


 アルトゥリアスの呼び掛けに応じて風精霊シェールが姿を現すと、エルフたちがざわつく。

 さらにアルトゥリアスに促されたので、俺も地精霊ガイアを召喚すると、さらに騒ぎが大きくなった。


「ぬうっ、話には聞いておったが、本当に普人ヒューマンが契約しておるとはな。しかもその男、”迷い人”だというではないか?」

「はい、俺はこことは全く異なる世界から来ました。山を歩いてたら急に霧が出てきて、少し歩いていたら、ベルデンの近くにいたんです」

「ふ~む……精霊と契約できていることからしても、信憑性しんぴょうせいは高いだろうな。普通のヒューマンには、精霊との交信能力がないのだ」

「ええ、そうらしいですね」


 すると女性のエルフが、待ちきれないように話しかけてきた。


「それよりも、新たな精霊術とはどんなものですか? ああ、失礼。私はベルトリンデといいます」

「あ、どうも、タケアキです」


 俺たちがあいさつを交わすと、アルトゥリアスが説明をする。


「それについては、私から説明しましょう。簡単に言うと、術者と精霊との親和度を上げることによって、遠距離での事象改変を可能にしました」

「精霊との親和度? 遠距離での事象改変? もう少し詳しく頼む」

「ええ、構いませんよ」


 それからとくとくとアルトゥリアスが語ったのだが、次第に長老たちの顔色が変わっていった。

 やがてオルグストがブチ切れたのか、声を荒げて非難しはじめる。


「アルトゥリアスっ! おぬし、精霊をなんと心得ておる! まさか犬や猫と同じように考えておるのではないだろうな?!」

「落ち着いてください。ちゃんと敬意を持って接していますよ。しかし手がかかるのも事実でして、まあ、親子のような関係になりつつありますね。私は子を育てていないので、想像になりますが」


 そう言いながらアルトゥリアスは、シェールの頭を撫でた。

 すると彼女は嬉しそうにニコッと笑い、アルトゥリアスにすがりついて甘える。

 それを見た長老たちはしばし言葉を失っていたが、真っ先に立ち直ったベルトリンデが口を開く。


「精霊にそんなことをして、大丈夫なんですか?」

「ええ、大丈夫ですよ。これぐらい信頼関係ができると、意思の疎通もしやすいですし、魔力の譲渡も容易になります」

「魔力の譲渡?」

「ええ、離れた場所で事象を改変するには、精霊にもそれなりの魔力がいるのですよ。なのでこうして、魔力を譲渡するのです」

「なんという非常識な……」


 オルグストがボソリとつぶやくと、アルトゥリアスがそれに反論する。


「私も最初はそう思いました。しかしタケアキにさとされ、こうして親密になってみると、なぜこんなことができなかったのかと、不思議に思うほどです。里の慣習を馬鹿にして飛び出したくせに、私も古来の常識に凝り固まっていたのですね」

「ぐぬうっ……まあよい。それではその新たな精霊術というものを、見せてもらおうではないか」

「ええ、外へ出ましょうか」


 そのまま長老宅の裏手に出ると、俺たちはおもむろに改良型の精霊術を披露する。


土壁防御ジダル・ディファー

突風アスファ


 大きな土の壁と超強力な突風を見せつけられ、長老たちがうなり声を上げる。

 彼らの表情は、なぜか複雑そうだった。

 実際に目にしても、なかなか素直に認められないという感じだろうか。

 そんな、ちょっと気詰まりな雰囲気の中、場違いな女性の声が響き渡った。


「あらあら、アルトゥリアスじゃない~。久しぶりね~」

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