57.アルトゥリアスの故郷へ
11層で1角餓鬼狩りに励んでいた俺たちだったが、奥へ行くほど数が多くなり、難易度は飛躍的に増していった。
やがて8体のオーガに遭遇した時、とうとう限界が訪れる。
「グアッ!」
「ガルバッド!」
俺とアルトゥリアスだけでは抑えきれなかったオーガが、ガルバッドを盾の上からぶん殴った。
別の奴を相手にしていた彼は、ふいを突かれてこらえきれず、2メートルほどふっ飛ばされる。
すると彼と協力して攻めていたニケにも、危険が迫る。
「アルトゥリアス、こっちは頼む。『大地拘束』……『石槍屹立』」
「クッ、早くしてくださいよ」
俺たちが抑えていたオーガをアルトゥリアスに丸投げし、俺はニケの援護に集中する。
彼女に襲いかかろうしたオーガの足元で、石の槍がそそり立つ。
するとそのうちの何本かがヒットし、2体のオーガが戦闘不能になった。
「タケアキっ!」
「グエ~ッ!」
「ゼロスっ!」
しかし安心したのもつかの間、今度はアルトゥリアスとゼロスが危機に陥っていた。
とうとうアルトゥリアスの防御が間に合わず、ゼロスがオーガに殴られたのだ。
苦鳴を上げるゼロスにニケが駆け寄ろうとするも、敵が邪魔をする。
「任せろ。『大地拘束』」
「ありがとでしゅ……たあっ!」
『減圧回廊』
俺が力を振り絞って3体のオーガを拘束すると、ニケとアルトゥリアスがとどめを刺していく。
しばらくすると3体のオーガは駆逐され、その頃にはルーアンたちも敵を倒していた。
「タケしゃま、だいじょぶ、でしゅか?」
「ああ、俺は大丈夫。ガルバッドとゼロスを看てやれ」
「あい、いってくるでしゅ」
魔法の使い過ぎでへたり込んだ俺をニケが心配してくれるが、仲間の治療を優先させた。
俺も頭がクラクラして大変だったが、少し休んだら落ち着いてきた。
そこでガルバッドとゼロスの様子を見にいく。
「ガルバッドはどんな状況?」
「幸いにも、深手ではないですよ。盾の上から殴られたので、打撲傷ぐらいです」
「あいたたっ……面目ない」
ガルバッドの治療をしていたアルトゥリアスが、状況を教えてくれる。
ガルバッドはグッタリと横たわっているが、大事に至らなかったのは幸いだ。
「それは良かった。ガルバッドも気にするなよ。ゼロスの方はどうだ?」
「……ケガしてるけど、くすりでなんとか、なりそうでしゅ」
「クエ~……」
ゼロスは肩口から血を流していたが、こちらも大事はなさそうだ。
弱々しく鳴くゼロスの鼻面を撫でてやると、嬉しそうにこすり付けてくる。
そうして彼らの治療を見守っていると、ルーアンとメシャが戻ってきた。
「魔石と角は回収したぜ。それにしても、今回は危なかったな」
「ああ、どうやら今の俺たちじゃ、7体のオーガまでが限界、かな……」
「そうみたいだな……そうするとまた、対策を考えないといけねえな」
難しい顔で考え込む仲間たちに、俺はかねてからの計画を打ち明ける。
「それなんだけど、アルトゥリアスの故郷に行ってみようと思うんだ」
「アルトゥリアスの故郷って、エルフの里だろ? そんなとこ行って、どうすんだよ?」
「まずは精霊術の改良のヒントがあるんじゃないかってのと、仲間も見つかるんじゃないかって、思ってさ」
「そんなに都合よく行くかぁ?」
ルーアンが懐疑的な声を上げる横で、俺はアルトゥリアスに話を振った。
「それは行ってみないと分からないけど、アルトゥリアスには当てがあるんでしょ?」
するとアルトゥリアスは、嬉しそうに顔をほころばせた。
「ええ、すでに何人か心当たりがあります。故郷で燻っているのは、私だけではないでしょうからね」
「だよね。それに俺たちが新しい精霊術を披露したら、興味を持ってくれるかもしれないし。ということでみんな、また旅に出ないか?」
そう提案すると、仲間からは快い返事が返ってくる。
「そういうことか。なら行くしかねえな」
「うんうん、さんせ~」
「たのしみ、でしゅ」
「フハハッ、さすがはアルトゥリアスじゃのう」
「クエ~」
こうして満場一致で、新たな旅に出ることが決まった。
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ガルバッドとゼロスの治療が一段落すると、俺たちは早々に地上へ帰還した。
そして翌日を休養と旅の準備に充てると、翌々日には旅に出る。
ゼロスのひく車に乗り、一路北を目指したのだ。
「フッフフ~ンフフーン、フッフフ~ン♪」
「ご機嫌そうだな、ニケ」
「あい、みんなとたびするの、たのしいでしゅ」
「ああ、そうだな」
今は俺とニケが御者台に座り、俺が手綱を握っている。
上機嫌で鼻歌を歌うニケに訊ねると、彼女は楽しそうに答えた。
すると後ろからルーアンが話しかけてくる。
「それにしても、また乗り心地がよくなってね~か、この車?」
「フハハッ、そうじゃろう、そうじゃろう。常に改良しておるからな」
「さすがはガルバッドですね。このような馬車、貴族でも持っていないでしょう」
「うんうん、そうだよね~。今日は天気もいいし、サイコーだね」
「ああ、ちげえねえ」
「クエ~」
みんなの楽しそうな声に応えるかのように、ゼロスも嬉しそうな声を上げる。
普段は狭苦しい迷宮にも、おとなしく付いてくるゼロスだが、やはり太陽の下を走るのが気持ちよいのだろう。
その後も特にトラブルもなく、俺たちは順調に旅を続けた。
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やがて4日ほど走ったところで、とうとう道が途切れたので、竜車を隠して徒歩で移動する。
そして2日も歩いた結果、俺たちは大きな木の前にたどり着いていた。
『狼煙』
アルトゥリアスが古代語をつぶやいてしばらく待つと、木の上から声が掛けられた。
どうやら今のが合図になっていたらしい。
「何者だ? この先は我らが父祖の地。何人も立ち入りは許さぬぞ!」
「私はエドレア庄のアルトゥリアス。久しぶりに故郷へ戻ってきました。立ち入りの許可を願います」
「アルトゥリアスだと? たしかにそのような名に覚えはある。しかし貴様だけならばいざ知らず、山人や普人もいるのでは、立ち入りは許可できんな」
案の定、アルトゥリアス以外の立ち入りは拒否された。
するとアルトゥリアスはため息をつきながら、さらに説明を加える。
「こちらのヒューマンは中位の精霊持ちですよ。そのような存在を、あなたたちは拒むのですか?」
「なんだと? そんな馬鹿なことがあるか。本当なら証拠を見せてみろ!」
「ええ、見せてあげましょう……タケアキ。ガイアを呼んでください」
「ああ……ガイア」
「♪」
アルトゥリアスの求めに応じて俺は、地精霊を召喚する。
すると次の瞬間には2人のエルフ男性が、俺たちの前に降り立っていた。
「馬鹿な。本当に精霊様が現れた……」
「しかしヒューマンが精霊様と契約など……」
どうやら中位精霊ってのは、エルフ族にとってよほどの権威があるらしい。




