56.行き詰まり
さほど苦労せずとも1角餓鬼を倒せるようになると、11層の探索が進むようになった。
前半では多くても5匹までしか出ないので、たとえ連戦になっても対処できる。
そこで俺たちは地図を作りながら、外縁部も丹念に調べて回った。
「強化度7を祝って、乾杯だ~」
「「「お~」」」
今日も11層を探索して帰ってきたら、とうとう俺たちの肉体強化度が7になっていた。
それを祝ってまた自宅で祝杯を挙げているとこだ。
「ブハ~ッ、気分がいいのう」
「ああ、強化度7なんて、この街でもごく一部だけだからな」
「だよね~。しかもうちは6人揃ってだし~」
ぶっちゃけ強化度7なんて、オーガ級の魔物を多く倒さないと、とても到達できない。
他にオーガを狩るパーティーがいないこともないが、俺たちほど積極的に狩ってはいないので、大抵6止まりである。
メンバー全員が7まで上がるというのは、それほどの快挙なのだ。
するとニケがそれに反論する。
「6にんだけじゃ、ないでしゅ。ゼロスも、いるでしゅ」
「クエ~」
すかさずゼロスも抗議の声を上げると、笑いが巻き起こる。
「アハハッ、ごめ~ん。ゼロスもがんばってるもんね~」
「うむ、そうじゃな。儂らは7人いるも同然じゃ」
「グググッ」
皆に褒められたゼロスが、嬉しそうに喉を鳴らす。
実際に敵の数が多い場合、ゼロスは頼もしい防壁となってくれる。
すでにヒグマどころか、シロクマ並みに大きくなっており、9層では暴走牛と差しで渡り合えるほどだ。
その鼻先にそびえる角も大きく鋭くなり、スタンピードブルの角にも負けていない。
しかしそんな和やかな雰囲気の中、アルトゥリアスが懸念を示す。
「しかしゼロスを入れても、我々は7人しかいないとも言えます。はたしてこの先も、やっていけるでしょうか?」
「……う~ん、そうなんだよなぁ。たぶんこの先は、オーガの数も増えるだろうし、仲間を増やしたいのはやまやまなんだけど……」
「それが簡単にできたら、苦労しないってか」
「だよね~」
俺の言葉に、ルーアンとメシャが相槌を打つ。
途端に空気が重くなったが、それを破ったのはまたしてもアルトゥリアスだった。
「それについては少し、考えがあるんですよ」
「なんだ。考えがあるなら、最初から言ってくれれば良かったのに」
「ちゃんと問題を共有できているかの確認ですよ。ところで以前、私が故郷へ帰りたいと言ったのを、覚えていますか?」
「ああ、精霊術を改良した時の話だろ? 故郷の老人にひと泡吹かせたいとか、言ってなかったっけ」
するとアルトゥリアスは嬉しそうにうなずきながら、先を続ける。
「そうです。ひと泡吹かせるのは別として、仲間探しにも役立つのではないかと思うのですよ」
「え~と、アルトゥリアスみたいに燻ってる人が、そこにはいるってこと?」
「ええ、確実にいます。そこへ我らが行って、新たな可能性を見せれば、食いつく者もいるでしょう。なんだったら、ルーアンとメシャの故郷へも、寄ってみてもいいかもしれません」
「ああ、方角的には一緒なんだっけ」
そう言ってルーアンとメシャの方を見ると、彼らは少し顔をこわばらせ、弁解がましく否定する。
「……あ~、俺たちの故郷は、難しいと思う。ケンカするように飛び出してきたからな」
「そ、そうそう、あまり歓迎されないと、思うよ……」
「……そ、そうなんだ。まあ、それなら無理に行く必要もないか。いずれにしろ、もう少し11層を奥へ進んで、状況を確認してからだね」
「ああ、そうだな」
何やら触れてはならない雰囲気があったので、その話はそこまでとなった。
その後は当たり障りのない話をして、お開きとなる。
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翌日から11層の奥を目指して、探索を再開した。
前半はすでに調査済みの地図により、最短距離を突き進む。
やがて未踏地域に差し掛かると、7体のオーガに遭遇した。
「出たぞ。『大地拘束』……『石槍屹立』」
『減圧回廊』
俺の石槍と、アルトゥリアスの矢でまず1体が脱落した。
その隙に迫りくるオーガを、前衛陣が迎え撃った。
『疾風迅雷』
「こっちも、『疾風迅雷』」
「『疾風迅雷』~」
「負けてたまるか、『剛力無双』」
ニケ、ルーアン、メシャが魔法で加速する一方、ガルバッドだけは膂力を強化して敵に向かっていく。
そして1体に2人で攻めかかり、徐々に手傷を与えていく。
その間、残る4体のオーガを押しとどめるため、俺とアルトゥリアス、ゼロスが奮闘していた。
『土壁防御』
『圧空障壁』
「クエ~ッ!」
土と風の壁でオーガを足止めし、その隙を突いてくる敵にはゼロスが立ち向かった。
しかしいかに仕留める必要がないとはいえ、4体のオーガはキツイ。
それでも懸命に防いでいると、ようやく対峙する敵を仕留めた仲間が、こちらへ駆けつけた。
「待たせたな」
「こんどはこっちでしゅ」
2体のオーガを前衛陣が相手取ると、がぜん楽になる。
「よし、1体はゼロスに頼む。『大地拘束』……『石槍屹立』」
「グアアッ!」
『減圧回廊』
「グギャアアッ」
石槍と弓矢でとどめを刺すと、残るは1体。
「突き殺せ、ゼロス。『大地拘束』」
「クアッ! クア~ッ!」
「グガアアッ、ガアッ……」
俺がオーガの足を拘束すると、ゼロスが角を掲げて突進する。
その一撃は見事にオーガの腹を貫き、致命傷を与えた。
その後もオーガはしばしあがいていたが、やがて力尽き、地に崩れ落ちた。
「フウッ、こっちは片付いたな」
「ええ、向こうもじきに片付くでしょう」
近くではいまだに前衛陣が戦っていたが、問題はなさそうだ。
念のために俺たちも武器を構えて見守っていたものの、じきに2体のオーガは仕留められる。
すると疲労困憊なルーアンとメシャが、文句を言ってきた。
「ハアッ、ハアッ……助けてくれねえのは、薄情じゃねえか?」
「そ、そうだよ。他人事みたいに見てるなんて、ずるいよ~」
彼らの恨めしげな視線に対し、俺は苦笑しながら返す
「アハハ、助けが必要なようには見えなかったからね。それに強化度の関係もあるし」
「そりゃそうだけどよ……」
「う~ん、しょうがないよ、兄貴」
基本的に、迷宮で魔物に大きなダメージを与えるほど、生命力の取り込みが増え、強化度が上がりやすい。
そして俺は魔法職なため、魔物に致命傷を与える確率が高く、強化度が上がりやすい傾向にあった。
そのため、譲れる場合は譲っているのだと言えば、ルーアンも黙るしかない。
「タケしゃま、ませきでしゅ」
「おっ、ご苦労さん。ニケもケガ、ないか?」
いつものように魔石を採ってくれたニケをねぎらい、その頭を撫でる。
すると彼女は汗を滴らせながらも、元気いっぱいに答える。
「だいじょぶでしゅ。だけどやっぱり、かずがおおいと、たいへんでしゅ」
「ああ、そうだな……」
まだなんとかやれてはいるものの、早めに手を打っておくべきか?
そんな迷いが生じていた。




