55.レベルアップ
ガルバッドが魔力を可視化する道具を作ってくれたため、訓練が効率的にできるようになった。
元々、みんな魔闘術はある程度できていたのだから、後はその状態を確認し、より良い方向へ矯正した形だ。
そして俺の”石槍屹立”にも、その恩恵は反映されていた。
『石槍屹立』
「……ふむ、だいぶ良くなりましたね」
「ああ、そうだろ。ちょっと貸してみて」
アルトゥリアスが魔道具を目に当てながら、石の槍への魔力のまとい具合を褒めてくれた。
”魔眼鏡”と名付けられたその魔道具を俺も借りて見ると、石槍の先端が強い光を伴っているのを確認できた。
ここ2、3日、いろいろと試行錯誤した結果だ。
地精霊に根気よくこちらの意図を説明し、多めに魔力を渡すことでようやく実現できた。
しかも魔力の消費が激しいので、いかに先端部分に魔力を付与するかに苦心した労作である。
「うん、ここまでやれれば、そろそろいいよね?」
「ええ、1角餓鬼に挑みましょう」
「やってやるでしゅ」
「クエ~」
こうして俺たちは、再び11層へ挑むことにした。
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「せいっ!」
「やあっ!」
「えいっ!」
翌日は朝から10層へ潜り、オークを倒していった。
オーガほどではないにしろ、オークも強敵なので、それなりに覚悟していたのだが、それは空振りに終わる。
「なあ、オークってこんなに弱かったか?」
「ん~ん、もっと手強かったよ。私たちけっこう、強くなってない~」
「ちょうしがいい、でしゅ」
オークの肉体も多少は魔力で守られているためか、魔闘術は有効である。
そして”魔眼鏡”で魔力の収束率を高める訓練をした結果、俺たちの攻撃力が向上していたのだ。
おかげで前衛陣だけでほとんど始末できてしまい、俺とアルトゥリアスはたまにサポートするぐらいで済んでいた。
さすがに10層の奥ではその数に苦戦したが、半日ほどで階段に到達してしまう。
「よ~し、いよいよオーガを相手にするから、気を引き締めていこう」
「ああ、いよいよだな」
「ルーアン、嬉しそう~」
「んなことねえよ。ちょっと腕が鳴るけどな」
そんな感じで微妙に緩い雰囲気だったが、実際にオーガに遭遇するとそれも一気に引き締まる。
「『大地拘束』……『石槍屹立』」
「グアアァッ……」
同時に現れた2体のオーガの片方に、俺が魔法で先制した。
すると以前は弾かれた石の槍が、ブッスリとオーガの股間に突き刺さる。
そしてそのオーガは、そのまま息絶えてしまった。
「うっわ、エグ……」
「ひどいよ、タケアキ」
「ひどくないでしゅ。『疾風迅雷』」
なぜかルーアンとメシャが俺を非難するが、ニケがそれに反論しつつ、残りのオーガに斬りかかった。
いきなり仲間を仕留められたせいか、そのオーガは動きを止めている
そこへ魔法で加速したニケが一瞬で近接し、聖銀鋼の剣を振り下ろした。
「グバッ……グアアッ」
「やったでしゅ」
ニケの攻撃は見事に敵の喉を切り裂き、オーガを一撃で沈めてしまう。
それを見たニケが、ガッツポーズをきめていた。
するとメシャが手を叩きながら、はしゃぐ。
「すご~い、ニケちゃ~ん。一発だったね~」
「あい、くんれんのせいか、でしゅ」
「クア~ッ、おいしいとこ、持ってかれたな。次は負けねえぞ」
「フハハッ、儂も負けておれんのう」
するといつもは冷静なアルトゥリアスが、珍しく競り合いに乗ってくる。
「ふむ、とりあえずオーガ対策は成功したようですね。魔闘術にしろ、タケアキの石槍にしろ、しっかりと通じています。私も負けてはいられませんね」
「そうだね。アルトゥリアスも散々、訓練したんだから」
「そうですね。それでは魔石と角を取って、先へ進みましょう」
「おう」
採取を終えると、さっそく動きだす。
するとさして行かないうちに、4体のオーガが現れた。
「タケアキ、前側の2体を拘束してもらえますか?」
「了解。『大地拘束』」
「「グアアッ」」
アルトゥリアスの要望に応え、2体まとめてオーガの足を止める。
攻撃をアルトゥリアスに任せ、拘束に集中したがゆえに可能な技だ。
その拘束から逃げようともがくオーガに、アルトゥリアスの矢が飛んだ。
『減圧回廊』
「グギャアーッ!」
1匹のオーガの目に、深々と矢が突き立った。
その矢は脳髄をえぐり、敵に致命傷を与えている。
魔闘術を適用できない弓射に対する回答が、これだった。
いかに風精霊を遠隔操作できるようになったとはいえ、矢に魔力を乗せることはできない。
矢がアルトゥリアスの手を離れた時点で、魔力は霧散してしまうからだ。
そうするといかに”減圧回廊”で加速された矢でも、オーガへの攻撃力は期待できなかった。
ならば無理に硬い所を狙わず、弱い部分を攻めればいい、と考えを切り替えた。
強固な防御力を持たず、しかも脳みそに直結する目ン玉は、恰好な標的となる。
もちろん、いかに足を取られているとはいえ、動き回るオーガの目玉を射抜くなど、至難の技だ。
そこでアルトゥリアスは、標的との距離を詰めつつ、シェールをすばやく動かすことに腐心した。
そうすれば矢の命中率は高まるし、破壊力も増すからだ。
これによってアルトゥリアスも、充分な破壊力を持つことができた。
もう1体のオーガもアルトゥリアスが仕留めているうちに、残りの2体に前衛が襲いかかる。
自分たちも負けじとルーアンとメシャが、”疾風迅雷”で飛び出した。
彼らは1体のオーガに近寄ると、その膝に斬りつける。
以前は跳ね返されていた刃が、今度はしっかりと通る。
その攻撃は敵の態勢を崩し、頭を下げさせる。
すかさずルーアンとメシャの攻撃が、敵の頭部に降り注いだ。
「グラアーッ!」
「うわ、あぶね」
「しぶと~い」
ブチ切れた敵が鉄棍を振り回したので、彼らは一旦距離を取る。
幸いなことにケガは無いようだ。
ルーアンとメシャは、その後は慎重に攻撃を繰り返し、敵を弱らせていった。
その一方で、もう1体のオーガには、ニケとガルバッドが攻撃を仕掛ける。
ガルバッドが盾と戦斧で防御的に対応している代わりに、ニケは精力的に飛び回り、敵に手傷を負わせていく。
やがて膝を着いたオーガの首筋に、ガルバッドの戦斧が食い込んだ。
「ブハアッ……やっと倒せたわい」
「やったでしゅ」
するとわずかに早く敵を仕留めていたルーアンとメシャが、軽口を叩く。
「おいおい、ずいぶん手こずってたじゃねえか。待ちくたびれちまったぜ」
「何いってんの。そんなに変わんなかったじゃない」
「い~や、俺たちの方がだいぶ早かったぜ」
「そんなの、かんけいない、でしゅ」
「ヘヘッ、ちげえねえ」
ようやくオーガに対抗できる力を手に入れたおかげで、仲間たちの雰囲気は明るい。
この調子なら、この先も戦える。
そんな気がしていた。




