54.オーガとの苦闘
11層で1角餓鬼と戦ったら、その予想外の硬さに驚かされた。
このまま探索しても危ういと思ったので、とりあえず地上へ帰還することにする。
そして家へ戻るとすぐに、リビングで対策会議を開いた。
「硬い硬いとは聞いてたけど、あれほどとはなぁ」
「まったくだ。石の槍を弾かれた時は、驚いたぜ」
「まとうじゅつも、ききにくかったでしゅ」
まずは愚痴の言い合いから始まった。
事前に情報を集めてはいたものの、聞くと見るとでは大違いってやつだ。
すると話は情報収集の方へそれていく。
「そもそも上級まで行けるパーティーが少なくて、情報自体が少ないですからねえ」
「だよなぁ。上級冒険者って、どれぐらいいるんだっけ?」
「どうでしょう。おそらく全体の5パーセントぐらいではないですか」
「まあ、そんなもんだろうな。俺の知る限り、この街の上級パーティーなんて10もないからな。それもほとんどが、10層か11層で稼いでるらしいぜ」
そのルーアンの情報に、俺は興味を覚えた。
「へ~、11層で稼いでる人たちもいるんだ?」
「そりゃあ、魔闘術ができれば、とりあえず倒せるからな。ただし効率は悪いから、もっぱら資源で稼いでるって話だ。薬草や鉱物は、けっこう出やすいらしい」
「たしかにオーガの魔石と角は、それほど高くないからなあ」
オーガは魔石が銀貨30枚、角が10枚で合計で銀貨40枚の収入になる。
その強さからすれば、例えば1匹で35枚稼げる短剣猪の方が、よほど効率が良いだろう。
それでも11層へ行くのは、上級冒険者ゆえの意地か、それともそれなりの利益が出せるのか。
「いずれにしろ、まずは俺たちも魔闘術を鍛えつつ、着実にオーガを倒していこうか」
「そうですね。しかしタケアキも槍を使うのですか?」
「う~ん、そこが悩ましいんだよね」
俺も一応、聖銀鋼の槍を持っているものの、白兵戦は本業ではない。
本来は魔法で倒したいところだが、石の槍は弾かれてしまった。
何かいい方法はないものかと思案していると、ガルバッドから提案があった。
「石の槍に魔力を持たせるとか、できんのか?」
「え? う~ん、どうなんだろ。アルトゥリアスは知らない?」
「……ふむ、魔法に魔力をですか?」
俺の問いに、アルトゥリアスが考え込む。
やがて彼は顔を上げると、方策を示してくれた。
「そもそも魔法による改変には魔力が伴っています。その濃度を上げる方向で、地精霊と相談してみてはどうですか?」
「う~ん、上手く話が通じるかな。まあ、やってみるよ」
アルトゥリアスの助言を受けて、まずはガイアを呼び出した。
そして紙に絵を描きながら、槍の先端に魔力を集中できないかと相談してみる。
相変わらず細かいニュアンスは伝わりにくいのだが、身ぶり手ぶりを交えながら説明すると、なんとか伝わった。
魔力の説明には、現実に手のひらに魔力を集め、頭を撫でてやったら通じたようだ。
とりあえずできそうだったので、みんなで鍛錬をするため、場所を移すことにした。
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『石槍屹立』
前衛陣が魔闘術を練習している横で、さっそく魔力付きの石槍を作ってみる。
しかし出したはいいが、本当に魔力を伴っているのかどうかが分からない。
「う~ん、今までとの違いが分からないなぁ。どう思う?」
「私にも分かりませんね。しかしガイアができていると言うなら、できているのではありませんか?」
アルトゥリアスも自信なさげだったが、ガイアは自信満々な雰囲気だ。
するとニケが寄ってきて、相談を持ちかけた。
「タケしゃま。まりょくみえるように、ならないでしゅか? あたしもまとうじゅつ、できてるか、しりたいでしゅ」
「んん~……そんなこと言われてもなぁ。アルトゥリアスはそんな方法、知らない?」
「さすがに無理ですね。それこそ魔眼のようなものでも無ければ」
するとそれを聞いていたガルバッドが反応した。
「魔眼か?」
「何か心当たりでもあるの? ガルバッド」
「うむ、そういえば昔、魔力を可視化する道具を、研究しちょる者がおったと思い出してのう」
「へ~、それは成功してないの?」
「あいにくと成功したとは聞いておらんな。じゃがしかし、そいつが使っておった素材を使えば、何かできるかもしれん。ちょっと研究してみるわい」
「ぜひ頼むよ」
あまり期待するのもなんだが、成功すればいいなぐらいには、その時は思っていた。
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その後しばらくは、鍛錬の時間を多めにしつつ、迷宮の10層へ潜っていた。
比較的弱いオークを狩ることで、戦闘経験を積むためだ。
そんなことを1週間ほど続けていたら、ガルバッドから朗報がもたらされる。
「できたぞ、タケアキ」
「え? できたって……ひょっとして、魔力を可視化する道具?」
「ああ、そうじゃ。まだ改良は必要じゃが、とりあえずの目処はついた」
そう言って彼が出してきたのは、直径5センチほどの半球状のモノだった。
黒っぽい色が着いているものの、中央がうっすらと透けている。
「凄いじゃないか。でもこれって、この前取りにいったあれ?」
「うむ、アサシンマンティスの目玉じゃ」
どこか見覚えがあると思ったら、先日ガルバッドの要請で、迷宮へ取りにいったものだった。
「ああ、やっぱり。それでこれは、どうすれば使えるの?」
「こうして目に当てながら、魔力を通すんじゃ。すると魔力の強い部分が、光って見えるんじゃな」
「へ~、どれどれ」
さっそく右目の前にかざしながら、魔力を通してみると、暗かった視界がわずかに明るくなる。
「え~と、これだけじゃ分からないな。ニケ、武器に魔力をまとってみてくれるか?」
「あい」
ニケはすぐさま武器を取り出すと、フンスと気合を入れる。
それを魔道具越しに見ると、彼女の剣がうっすらと光りはじめた。
なるほど、あれが魔力なら、たしかに可視化できている。
「おおっ、なんかそれらしいのが見える。凄いよ、ガルバッド」
「フハハッ、そうじゃろう、そうじゃろう。これで魔闘術の訓練も、進むというもんじゃ」
見事にやりとげたガルバッドが、胸を張ってカカと笑う。
するとニケが寄ってきて、せがんだ。
「ニケも、ニケもみたいでしゅ」
「ああ、見てみろ」
「ありがとでしゅ」
彼女は嬉しそうに道具を受け取ると、それを目に当てる。
「ん? なんかわかんないでしゅ。だれか、まりょくみせて、ほしいでしゅ」
「おう、いいぜ。俺の剣を見てみな」
「あ、私もやる~」
すかさずルーアンとメシャが武器を掲げ、それに魔力をまとわせる。
するとニケから嬉しそうな声が上がった。
「あ、ほんとでしゅ。なんかぶきが、ひかってるでしゅ。あれがまりょく、なんでしゅね」
「ああ、そうみたいだな」
その後は道具をみんなで回しながら、魔力の可視化を確認していった。
ついでに俺の石槍も、魔力をまとっているのかを確認してみる。
『石槍屹立』
「……ふむ、ちゃんと魔力が付随してますね。ただし皆の魔闘術に比べると、まだまだ弱い感じです」
「そっか。それなら今後、改良すればいいね」
アルトゥリアスの確認によれば、とりあえず魔力をまとわせることはできているらしい。
ならばそれを改良し、実用レベルに持っていけばよい。
待っていろよ、オーガ。




