53.ベルデンへの帰還
見事、”宵闇の爪”の悪事を暴いた俺たちは、2人の魔術師のみを連行して、地上へ帰還した。
キーゲンを始めとする他の犯罪者たちは、全て息の根を止め、迷宮に放置してきた。
あんな奴ら、生かす価値もないし、暴れられても困るからだ。
その点、魔術師は魔法さえ封じてしまえば、脅威にならないし、奴隷として高く売れたりもする。
あっさりと死刑にされる可能性もあるが、多少は証人も必要だろうということで、奴らだけは連れ帰ることにしたのだ。
そして迷宮を出てから衛兵に事情を説明すると、大騒ぎになった。
何しろ、官憲も目をつけていた犯罪者集団の逮捕・殲滅だ。
俺たちはただちに取調室へ連れて行かれ、しつこく聞き取りをされた。
正直、勘弁して欲しかったが、当事者の義務と思って付き合った。
何しろ俺たちは純粋な被害者であり、正当防衛で敵を殲滅しただけなのだ。
もちろんこうも簡単に連中を逮捕できたことに、疑いを持たれないはずもない。
しかし俺たちはガルバッドのことも隠さずに、事実を語った。
ガルバッドの想い人の仇を取るため、”宵闇の爪”について調べたら、奴らが真っ黒だったこと。
そして俺たちが調べ回っていることに気が付き、奴らが襲ってくることも予想していたことも。
なにしろ俺たちの中には、メシャとニケという女性陣がいるのだ。
奴らが薄汚い欲望を満たすために、襲ってくることは想像に難くなかった。
特にキーゲンの野郎は、ロリコンだったからな。
どうやらガルバッドの想い人も、幼な気な雰囲気だったらしい。
それゆえにキーゲンに狙われてしまったのは、不幸というしかない。
とにかく”宵闇の爪”の襲撃を予想していた俺たちは、それに備えた。
まず薬学に明るいアルトゥリアスが、敵の使いそうな薬を想定し、そのための解毒薬も準備した。
そして嗅覚に優れたニケが異常を感じたら、ただちに風魔法で空気を入れ替え、解毒薬を飲む手順になっていたのだ。
そのうえで薬が効いたふりをして、敵を待ち伏せたって寸法だ。
もちろん敵が未知の薬や手段を用いることも考えられた。
しかしそのために俺とアルトゥリアスは、ガイアとシェールを偵察に出し、敵の動向を把握していたのだ。
幸いにも敵は想定どおりに動き、さほど危険もなく返り討ちにできた。
万一の場合は、俺の”精霊暴走”で切り抜けるつもりだったが、そんな必要もなく済んだ。
そんな内情を、精霊のことだけはぼかしつつ、正直に語ってやった。
特に”宵闇の爪”がギルド職員と結託し、犯罪歴を隠蔽してたって話は、ギルドに激震をもたらした。
件の職員はその日のうちに逮捕され、拷問の末に罪を認めたって話だ。
その男は当然、死刑になる予定だし、家族も財産を没収されて国外追放になるらしい。
家族も事実上の死刑みたいなもんだが、それも仕方ない。
それほどの重罪だったのだ。
それから俺たちが連れ帰った魔術師は、奴隷身分に落とされ、軍属になったそうだ。
今後は最前線で、過酷な生活が待っているだろう。
はたしてキーゲンたちと一緒に死ぬのと、どちらが幸せだったのか。
こうして事件は一件落着となり、俺たちは金貨20枚ほどの報奨金を得て解放された。
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「タケしゃま、ベルデンのかべ、でしゅ」
「ああ、久しぶりだな」
ほぼ3週間ぶりに帰還したベルデンを見て、ニケが尻尾をフリフリさせている。
取り調べや報奨金の受取りで、なんだかんだと時間を食ってしまった。
おかげでずいぶん久しぶりな気がする。
その日はまっすぐ自宅へ戻り、ゆっくりと休養を取った。
そして翌日早々にギルドを訪れたのだが、すぐにステラに見つかった。
「あっ、やっと来たわね。ちょっと話を聞かせなさいよ」
そのまま彼女は俺の腕を掴み、強引に会議室に連れ込む。
そして目をいからせながら、質問を開始した。
「ボーエンの迷宮で犯罪者を逮捕したって聞いたけど、何があったのよ?」
「なんであんたが、それを知ってるんだよ?」
「ギルド職員が不正を犯して、死刑になったって情報が流れてきたのよ。その中にあんたらのパーティー名もあったの。一応、今回の功労に報いるため、便宜を図ってやれって指示も来てるわ」
「へ~、何かしてくれるのか?」
「それは話を聞いてからよ。まずは状況を説明しなさい」
「へいへい、実は――」
それからステラに、王都で起きたことを説明してやる。
彼女は最初はおとなしく聞いていたものの、やがて頭痛をこらえるような顔になって、文句を言った。
「あんたねぇ、よその街で何やってんのよ?」
「ちゃんと仲間の仇討ちっていう目的があって、やったことだ。あんたにどうこう言われる筋合いはないね」
「いくつもの上級パーティーを、葬ってきたような奴らだったんでしょ? わざわざニケちゃんを連れて、危険に突っこむことないじゃない!」
「はぁ? 何いってんだ。ニケを仲間外れになんか、するわけないだろうに。なあ、ニケ」
「あい。よけいなこと、いうなでしゅ」
「ええ~……」
ズバッとニケに文句を言われ、ステラが情けない顔をする。
しかし彼女はすぐに立ち直って、話を続けた。
「クッ、まあ、それはいいわ。あなたたちの話を聞いて、事情がよく分かったから、私からも改善案を上げておくわ。実は私も、ギルドの管理体制には不安があったのよ」
「まあ、そうだろうな。せっかく対策をしたはずの犯罪対策が、職員の加担で無意味になっちゃうんだから」
「まったくよ。こんなんじゃいつまで経っても、信頼関係は築けないわ」
真面目な顔で嘆くステラを見て、俺は少し安心した。
「クスッ。あんたのそういうとこ、いいと思うぜ。なんていうか、一生懸命で」
「何よ……気持ち悪いわね」
「まあ、気にすんな。とりあえず今回のことは、ギルドに貸しってことで、覚えておいてくれ」
「そうね。また何か、割のいい仕事でもあれば、優先的に回すわ」
「ああ、頼んだ。それじゃあな」
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話が終わると、俺たちはさっそく迷宮へ潜った。
久しぶりに潜ったベルデン迷宮は、妙に懐かしい感じがある。
10層の大豚鬼は手強いが、人形やゴーレムとは違った良さがあると、再認識できた。
「『大地拘束』……『石槍屹立』」
「プギャァァァッ!」
「よし、行くぞ。『疾風迅雷』」
「あい、『疾風迅雷』」
相変わらずの精霊術と前衛陣の奮闘で、オークを倒していく。
ボーエン迷宮のゴーレムに慣れたせいか、巨漢のオークとも戦いやすかった。
すでに10層の探索はほぼ終わっていたので、いよいよ11層へと侵入する。
ここに出てくる魔物は、1角餓鬼だ。
オークよりも頭ふたつ分は背が高く、筋肉モリモリの強敵である。
その額には名前の由来である角が生えており、青っぽい肌色と相まって、いかにもファンタジーな奴だ。
しかもその手には鉄棍を持ち、オークよりもずっと手強いらしい。
最初に遭遇したオーガが1体、俺たちに迫ってきた。
1体とはいえ、敵は武器を持ち、しかもその動きはなかなかにすばやい。
「グルルルルロォォォッ!」
『突風』
アルトゥリアスの魔法でわずかに怯んだところで、俺も魔法を放つ。
「『大地拘束』……『石槍屹立』」
「グウッ!」
「え?」
「マジかよ」
俺はオーガの股間に石の槍を突き刺すつもりで術を行使したのだが、なんと槍がオーガの身体に触れた途端、ぶち折れたのだ。
それこそボキンッて感じで。
その異様な光景に俺は、しばし固まってしまう。
『疾風迅雷』
しかしそんな光景にもひるまず、突っ込んだ影があった。
我らが勝利の女神、ニケだ。
加速した彼女が、オーガの膝に斬りつける。
するとその刃は弾かれながらも、わずかな傷を付けた。
「タケしゃま、まりょくとおせば、つうじるでしゅ」
「はっ、そうか。みんな、魔闘術だ。敵は魔力を使って、防御してるんだ」
「そうか。なら俺たちの出番だな」
「よ~し、行くよ~。『疾風迅雷』」
それからは前衛陣の魔闘術による、奮戦が始まった。
もちろんオーガも反撃してくるが、そこは俺の”大地拘束”と、アルトゥリアスの弓矢で邪魔をする。
やがて全身に傷を負ったオーガが、がっくりと膝を突いた。
『鋭刃金剛』
オーガの喉元に、切れ味を強化したニケの一撃が放たれる。
「グバアッ……」
とうとうオーガは断末魔の声を上げながら、崩れ落ちた。
「ハァッ、ハァッ……やった、でしゅ」
とどめを刺したニケが、息を荒げながらも満足の声を上げている。
しかし11層での探索は、より難度の高いものになりそうだった。




