表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷宮へ行こう ~探索のお供はケモミミ幼女~  作者: 青雲あゆむ
第4章 上級冒険者編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

52/115

51.犯罪者たち

 ボーエン迷宮でガルバッドの仇の手がかりを探していたら、何やら物騒な話を聞かされる。


「え、”宵闇の爪”って、そんなにヤバいんですか?」

「シッ、声がでけえって」


 そう言って冒険者の男は周りを見回すと、ひそひそと話しはじめる。


「別に奴らがやってるって証拠が、あるわけじゃねえんだ。しかしとにかくあいつらに関わった者は、行方が知れなくなる確率が高いんだわ。だからあいつらのことを話す奴は少ねえ。あまり不用意にその名を出すと、目をつけられるかもしれねえぞ」

「うわぁ、ありがとうございます。今後は気をつけますよ。でもそうやって恐れられてるからには、やっぱ強いんですかね?」


 俺も声をひそめて訊くと、相手も付き合ってくれる。


「そりゃあ、まがりにも上級冒険者だから、弱えってことはねえだろう。だが大して迷宮に潜ってねえわりに、よく王都で遊び歩いてるんだよな、あいつら。いろいろと想像されるのも、当然だろ? おっと、噂をすればなんとやらだ。奴らのお出ましだぜ」


 そう言う男の視線の先に目をやると、迷宮管理棟から出てくる集団が見えた。

 そいつらは人族と獣人族の混成部隊で、先頭の大柄な虎人とらびとが、肩で風を切って歩いている。

 他の連中も不敵な面構えで、いかにもケンカっぱやそうな奴らだった。


 そしてその最後尾に、妙に印象の薄い獣人がいた。

 頭部の三角耳に、ふさふさの尻尾から見て、おそらく狐人こじんだろう。

 小柄で目が細く、いかにも狡猾そうな顔に見える。


 ベルダインから聞いていた風体からして、奴がキーゲンだろう。

 そう思ってガルバッドに目をやると、奴を親の仇のように睨んでいる。

 それでは敵に気づかれてしまいそうなので、俺は小声で忠告した。


「ガルバッド、そんな目をしてたら、気づかれるよ」

「……ああ、分かっちょる。しかし簡単には抑えられんのじゃ。今にも殴りかかりそうになる」


 彼はとても悔しそうにしながら、視線を切った。

 そんな彼をなだめつつ、もう一度キーゲンに視線を戻すと、奴が何かに注目している様子が見えた。

 しかもその視線の先にあるのは、俺たちの野営場所だったのだ。


 今はアルトゥリアスとニケが火を囲んで、留守番をしている。

 それを見ていた奴は、不気味な笑みを浮かべると、仲間の下へ去っていった。

 俺は何か嫌な予感を抱きながらも、それを見送るしかなかった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 その後もいくつかの集団で、”宵闇の爪”について聞こうとしたのだが、あまり成果はなかった。

 奴らは冒険者同士の交流も少ないし、恐れられていて話が弾まなかったからだ。

 しかし酒場で情報を集めていたルーアンとメシャが、貴重な情報を持ち帰る。


「行方不明のパーティーがあるって?」

「うん、”烈火の剣戟”っていう上級のパーティーが、先週から戻ってないんだって。しかもその中の女性メンバーが、”宵闇の爪”に絡まれてたらしいの。普通は穏便にあしらうんだけど、その女性はけっこうキツイこと言っちゃったらしいのね。それからすぐにいなくなるんだから、もう真っ黒だよね。だけど証拠は何も無いもんだから、どうしようもないんだって。私もかわいいから、気をつけろって言われちゃった。へへへ」


 上手いこと話を聞き出してきたメシャが、そう言っておどける。

 やはり若い女性が相手だと、口が軽くなるらしい。

 もちろん、メシャのやり方が上手かったのもあるだろう。


「どうやら似たようなことは、何回もあったみたいだな。それで衛兵にも目を付けられてるんだが、ちょこちょこ場所を変えるから、なかなか尻尾が掴めないらしい」

「そっか。でも状況的には真っ黒だよね」

「ええ、確実にやってますね。そしておそらく、パーティー全員がそれに関わっている」

「ああ、そうだよね。でなきゃ上級のパーティーが消えるなんて、あり得ない。それにしても、自分たちは無傷で上級パーティーを倒すなんて、どうやってんだろ?」


 するとアルトゥリアスが、推測を述べる。


「おそらく不意を突くか、毒を仕込むなどして、相手を弱らせているのでしょう。もしくは魔法で精神に干渉する手もありますが、これはかなり高度な技術で、冒険者程度には無理だと思います」

「う~ん、いくら不意を突くにしても、無傷では済まないだろうしな。だったら毒の可能性が高い?」

「それにしたって、どうやって仕込むかが問題ですけどね。さすがに怪しい連中に渡されたものを、簡単に食べるとは思えませんし」

「だよな~……まあ、当面は警戒しながら、連中を見張るしかないね。それでいいかな、ガルバッド」

「……うむ、迷惑を掛けるのう」

「気にすんなって」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 翌朝、朝食の準備をしていたら、驚くことが起こった。


「ふえ、だれでしゅか?」

「これは失礼。私はキーゲンという者ですよ。お嬢さん」


 なんと噂のキーゲンが、ニケに話しかけてきたのだ。

 奴は愛想よくニコニコ笑いながら、ニケを眺めている。


「何か用?」

「タケしゃま……」


 俺が割って入ると、ニケが俺の後ろに隠れる。

 するとキーゲンは一瞬、不快そうな顔を見せつつも、すぐに取り繕った。


「いえいえ、かわいらしいお嬢さんが目についたので、話しかけただけです。そちらはどなたかの家族ですか? 他に狼人族の方はいないようですが」

「彼女は天涯孤独なんでね。俺と一緒に暮らしてるよ」


 そう言うと、いかにも羨ましそうな目を、奴が向けてきた。


「そうなのですか……しかし一緒に迷宮には潜れないでしょう? その間はどうするのですか?」

「こう見えても彼女は、立派な冒険者なんだ。だから一緒に探索をしてるよ」

「ええっ、どう見ても15を超えてるとは思えませんが……」

「そんなこと、あんたに関係ないだろうに。これから飯にするから、帰ってくれないか?」

「……それは失礼しました。またお邪魔します」


 さすがに歓迎されてないのを感じたのか、名残惜しそうに奴が去っていく。

 しかしその粘着質な視線が、妙に不気味だった。


「タケしゃま、あのひとなんか、こわいでしゅ」

「ああ、これから気をつけろよ」

「あい」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 そんなトラブルの後も、俺たちは迷宮に潜った。

 昨日は様子見だったが、今日は朝から全開で飛ばす。

 そのおかげで1層はおろか、2層、3層も踏破した。


 ちなみに2、3層で出てきたのはやはり木の人形であり、その体格や武器が強くなっていく仕組みだった。

 しかししょせんは木偶でく人形に過ぎず、大した脅威にはならない。

 おかげで余力を残して守護者戦に挑み、あっさりとそれも倒してしまった。


 そうして冒険者業をこなす傍ら、キーゲンの情報も集めていく。

 最初は口の重かった人々も、何日か付き合ううちに親しくなる。

 そうすると新たな情報も、耳に入るというものだ。


「端的に言うと、あいつらはクソだな」

「うん、ほとんど前科持ちか、上手いこと官憲から逃げ回ってる奴らの集まった、犯罪者集団みたい~」


 ”宵闇の爪”について調べると、後から後から怪しげな話が出てきた。

 見目麗しい女性、ちょっと金を持った男たち。

 それらが奴らに目を付けられると、高確率で死体で見つかるか、行方不明になっているというのだ。


 しかも奴らが迷宮に行けば、そこで冒険者がいなくなり、王都にいる時はあちらで不審事件が頻発する。

 なんで官憲が黙って見ているのか、理解に苦しむような状況だ。

 しかしそれにはそれなりの理由があるようだ。


「あいつらけっこう、強いみたいだな。ランクは4等級だが、3等級に迫る実力はあるらしいぜ」

「うむ、しかしあまり熱心に仕事をしないために、等級が据え置きになっているようじゃ」

「そうそう。それにあいつら、隠形術おんぎょうじゅつにも長けてるみたい~」


 奴らは戦士としての強さもさることながら、悪事の証拠を残さないことについても、実に抜け目がないようだ。

 もちろん官憲に目を付けられてはいるものの、証拠が無ければ手を出せない。

 そんな犯罪者生活を、奴らはここ数年は続けているようだ。

 そして奴らは周囲の動向にも敏感だ。


「それにどうやら私たちが探り回っているのを、嗅ぎつけたようですよ」

「うん、俺も忠告されたよ。あいつらも俺たちについて、嗅ぎ回ってるって」


 すでに知り合いになった冒険者たちから、その話を聞かされていた。

 そして過去にそんなことがあった時は、まずその対象は行方不明になっている、とも。


「たぶんあいつら、俺たちに目をつけたね。特にキーゲンなんか、ニケにご執心しゅうしんみたいだ」

「あいつ、きもちわるいでしゅ」


 俺の言葉に、ニケがうなずきながら顔をしかめる。

 実際、奴はちょくちょくニケに声を掛けるようになっていた。

 どうやら奴には、ロリコンの気があるらしい。


「ふむ、それではじきに、接触があるでしょうね」

「ああ、丁重にお出迎えしてやらないとね」

お正月は書き溜めをするので、1周間ほどお休みさせてもらいます。

皆さん、よいお年を。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ