50.ボーエン迷宮
ベルダインから、想い人の殺人事件に関する手がかりを得たガルバッドは、その後いくつかの手紙を出していた。
主に王都の知り合いに、容疑者キーゲンの調査を頼んだのだ。
さすがにすぐに返事がくることもないので、その間は俺たちと一緒に迷宮に潜っていた。
新たな探索先である10層に出るのは、大豚鬼という人型の魔物だ。
身長が2メートル近くあり、体重は200キロを下らないであろう巨体に、豚の頭を付けたような存在である。
粗末な布を腰に巻き、こん棒を持っていることから、ある程度の知能がうかがえる。
そんな、危険な敵と俺たちは、やり合っていた。
「『大地拘束』……『石槍屹立』」
「プギャァァァッ!」
『減圧回廊』
「ブゴォォォォッ!」
「よし、敵がひるんだぞ。突っこめ」
「あい、『疾風迅雷』」
「私も~、『疾風迅雷』」
俺とアルトゥリアスが遠距離から先制し、ルーアンたちが突っこむ。
ガルバッドだけはその鈍足ゆえに残っているが、俺とアルトゥリアスの前面を守ってくれている。
その後も俺たちの援護を受けながら、前衛陣が3匹のオークを倒しきった。
「フウッ、ようやく終わったな」
「お疲れさん。みんなケガは無いよね?」
「ああ、大丈夫だ」
するといつものように、ニケがオークから魔石を取り出し、俺の所に持ってくる。
「タケしゃま、ませきでしゅ」
「ああ、ありがとな、ニケ」
いつもどおりに頭を撫でてやると、尻尾をフリフリさせて喜んでいる。
ちなみにオークの魔石は、1個銀貨20枚である。
あいにくと他に売れる物がないので、この階層の実入りは少ないが、戦闘経験だけはたっぷり積める。
さらに運が良ければ、薬草や鉱石が見つかるので、俺たちはじっくりと探索を進めていった。
そんな生活が2週間ほど続いた頃、ようやくガルバッドに手紙が届いた。
「何かいい情報でもあった?」
手紙を読んだガルバッドが考えこんでいたので、訊いてみる。
すると彼は、眉間にシワを寄せながら答えた。
「どうやら最近は王都に姿を見せては、おらんようじゃ。しかしキーゲンは、ボーエンの迷宮に潜っている可能性が高いらしい」
「ふ~ん、ボーエン迷宮って、どんなとこなの?」
「たしか、人型の疑似生命体が出る迷宮じゃ。木人形とか石魔像みたいな魔物じゃな」
「へ~、そんな迷宮もあるんだ」
そこへアルトゥリアスも話に加わる。
「たしかにちょっと珍しい迷宮ですね、ボーエンは。ここのように、いろんな種類の魔物が出る所の方が多いですから。しかし王都の周辺には、そういう特化型の迷宮もいくつかあります」
「ああ、王都周辺には、いくつも迷宮があるんだったね」
「ええ、そのおかげで繁栄したようなものですから」
迷宮からは魔物が湧き出したりするが、ちゃんと管理されてさえいれば、魔石や素材の供給源として有用だ。
そのため迷宮が集中する地域は、繁栄しやすいのだ。
そんな話をしつつ、俺はみんなに確認を取る。
「それじゃあ、みんなでボーエンに行くってことで、いいよね?」
「ええ、構いませんよ」
「おう、いいんじゃねえか」
「私も賛成~」
「いくでしゅ」
「クエ~」
皆が賛成する中、ガルバッドだけが申し訳なさそうな顔をする。
「本当にいいんか? ここの攻略も中途半端になっちまうぞ」
「構わないって。別に期限があるわけでもなし。それによその迷宮を攻略するのも、いい経験になると思うんだよね」
「そうですよ、ガルバッド。私たちは旅行気分で行くのですから、あなたが気にする必要はありません」
「たび、たのしいでしゅ。ゼロスもはりきってる、でしゅ」
「クエ~」
ニケとゼロスのやり取りで、みんなが笑う。
すると遠慮していたガルバッドも、ようやく納得したようだ。
「分かった。手間を取らせるが、ボーエンまで付き合ってくれるか」
「もちろん」
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話が決まれば、行動は速かった。
俺たちはチャッチャと旅の準備を整え、翌日には竜車で出発する。
目的地のボーエン迷宮は、王都から馬車で数時間の所にあるので、まずは王都へ向かう。
今回は道を知っていたのもあって、たったの3日でたどり着いた。
そしてその翌朝早々にはボーエンへ向かい、昼前に到着した。
「なんか、寂しいとこだね」
「まあ、近くに王都があるからな。ベルデンのような街にはならんのじゃ」
「それもそうか」
着いた先は、村とも呼べないほどの小さな集落だった。
一応、周囲を防壁で囲っているが、迷宮管理棟の他に建物がいくつかある程度で、人も少ない。
とりあえず俺たちは酒場に入り、料理を注文してから作戦を練る。
「まずは迷宮の情報を集めてから、軽く攻略するんだよね?」
「うむ、そのうえで夜は情報収集じゃ。ここは広場で野営をする者が多いから、話を聞きやすいじゃろう」
「ああ、宿なんて無さそうだもんね」
どうやらキャンプ場に泊まるような感覚らしい。
防壁には守られているし、物も買えるので、贅沢さえ言わなければ十分だろう。
俺たちはのんびり食事を取ると、さっそく迷宮へ潜った。
迷宮管理棟の中から階段を降りると、石壁に囲まれた部屋に出る。
ベルデンが天然洞窟のような岩肌なのに比べると、いかにも人工的だ。
その先の通路も石壁が続いており、直線的だった。
やがて別の部屋にたどり着くと、そこに3体の木人形が現れた。
背丈は160センチぐらいで、お世辞にもたくましいという感じではないが、右手に木剣、左手に木の盾を持っていた。
俺たちに気づいた途端に動きだすが、キコキコという音を立て、動きもぎこちない。
「ウッドパペットじゃ」
「うわぁ、なんか新鮮~」
「馬鹿いってんじゃねえよ」
のんきなことを言ってるうちに、敵が襲いかかってきた。
それを迎え撃つように、ニケ、ルーアン、メシャが前進し、斬り合いになる。
しかし最初こそ様子を見ていたが、強くないと分かると、みんなあっさりと倒してしまった。
「やっぱり全然強くねえな、こいつら」
「そうね~、ゴブリンよりマシって感じ?」
「よわいでしゅ」
仮にも上級になった冒険者が、たかが1層で苦労するはずもない。
その後もサクサクと進み、2層への階段を確認した時点で、引き返した。
外へ出るとすでに日は沈み、いくつかのパーティーが広場で野営を始めている。
俺たちもその一角に陣取ると、テントを張ったり、料理を準備しはじめた。
やがて夕食を終えてリラックスしたところで、情報収集を開始する。
近場の冒険者に酒を振る舞いながら、情報を引き出すのだ。
「こんばんわ~、ちょっと話、聞かせてもらって、いいですか?」
「おお、見ねえ顔だな」
「ええ、今日きたばかりなんで。お酒、出しますよ」
「おお、それなら大歓迎だ。こっち来いよ」
俺はガルバッドと組んで、いろいろと聞いて回った。
この迷宮のこと、魔物のこと、そして有名なパーティーのことなどだ。
「この迷宮で上位を張ってるのは、どんなパーティーなんですか?」
「ん~、ここで有名なのは、”鉄拳団”に、”紅蓮の刃”、”青銅の戦士”ってとこかなぁ」
「へ~……そういえば、”宵闇の爪”っていう名を聞いたことあるんですけど、どうなんですか?」
”宵闇の爪”とは、キーゲンの所属するパーティーだ。
何気なく聞いたつもりだが、相手は急に口をつぐんでしまう。
彼らは少し間を置くと、声を潜めながら忠告してくれた。
「そのパーティーが有名なのは事実だが、あまり口に出さねえ方がいい。あいつらに関わると、ろくなことにならねえからな」
どうやら俺たちの捜査対象は、思った以上にやばい奴のようだ。




