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迷宮へ行こう ~探索のお供はケモミミ幼女~  作者: 青雲あゆむ
第4章 上級冒険者編

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48.武器の調達

 王都へ来た俺たちは、ガルバッドの案内で武器屋を訪れていた。

 あいさつもそこそこに、こちらの要求を伝えていく。


「まずはこの子の武器じゃな。今までは、これくらいのナタを使っておったが、先日の戦闘で壊れてしまったんじゃ」

「ナタを武器にするとは、珍しいのう。それにしても、この体で戦えるのか?」


 店主の当然の疑問に、ニケは胸を張って答える。


「ばかにすんな、でしゅ。ニケはこれでも、りっぱなせんし、でしゅ」

「フハハッ、そのとおり。それ以上疑うと、蹴っ飛ばされるぞ。獣人種の強靭さに加え、肉体の強化度も6じゃからな。この子は」

「強化度が6? そいつは失礼したな」


 ガルバッドが言うように、彼女は先日の守護者戦で、強化度が6に上昇していた。

 もちろん俺やアルトゥリアス、ガルバッドも同様だ。

 さすがにルーアンとメシャは、まだ戦闘経験が少ないが、それでも5に上がっている。

 ニケの実力を聞かされた店主は、ブツブツ言いながらも、適当な武器を探してくれた。


「ナタを使っていたのなら、この辺の剣はどうじゃ? 少々小ぶりじゃが、重みもあって頑丈じゃぞ」


 そう言って出してきたのは、刃渡り40センチほどの剣だった。

 片刃で湾曲のあるその剣は、厚みもあってなかなかに重そうである。

 しかしニケはそれを手に取ると、ヒョイヒョイと振り回してみせた。


「なかなか、よさそうでしゅ」

「ホッホッホ、そうじゃろう。しかもその剣は、ミスリルを混ぜた聖銀鋼せいぎんこうでできておるんじゃぞ」

「ほほう、いきなり聖銀鋼の剣を出してきたか。よく分かっておるのう」

「そりゃあ、上級冒険者じゃからな」


 自慢そうに言う店主に、ガルバッドも満足そうに笑う。

 しかし聞きなれない言葉が出てきたため、俺は説明を求めた。


「え~と、聖銀鋼ってなんですか?」

「なんじゃ、おぬし。上級に上がろうって冒険者が、聖銀鋼を知らんのか? ちゃんと説明しておけい、ガルバッド」

「ハッハッハ、悪い悪い。いきなり出てくるとは思わんかったので、まだ説明しておらんのじゃ。タケアキ。聖銀鋼とは魔力を通しやすい金属でな、上位の魔物に対抗するための武器に使われるんじゃ」


 ガルバッドいわく、聖銀鋼とはミスリルを添加した合金鋼で、魔力を通しやすい性質を持つそうだ。

 もちろんミスリル単体には劣るが、そもそもミスリルは希少金属だ。

 あまりに採掘量が少ないので、それだけで武器を作ろうと思えば、目玉が飛び出るほどの値段になる。

 それを少しでも緩和するために、ドワーフたちが長年の研究の末に生み出した、便利な素材なんだとか。


「へ~、ちなみにその剣、いくらするんですか?」

「これは金貨10枚じゃな」

「うわぁ、高いな」

「馬鹿もん。純粋なミスリルなら、その10倍はするわい。この程度の投資もできんでは、上級冒険者など務まらんぞ」


 聖銀鋼の小剣で百万円、ミスリルだったら1千万円かよ。

 ハンパじゃねえな。

 しかしたしかに俺たちも、それぐらいの投資が必要な時期に、来ているのかもしれない。


 その後もルーアン、メシャ、ガルバッドが得意な武器を告げると、店主が適当な商品を勧めてくる。

 それぞれがいくつかの中から、自分の使いやすそうなものを選んでいった。

 それはルーアンが金貨14枚の剣で、メシャは金貨6枚の短剣を2つ、ガルバッドは金貨10枚の戦斧といった具合だ。

 もちろん全て聖銀鋼である。


 やがて話は、俺とアルトゥリアスに移った。


「タケアキとアルトゥリアスは、どうするんじゃ?」

「う~ん、俺はこれで足りてるから、このままでいいかな」

「私はこれよりいい弓があれば、考えます」


 アルトゥリアスの差し出した弓を、店主が興味深そうに鑑定する。


「これはエルフ謹製の複合弓じゃな。さすがにこれよりいいモノは、ここには置いておらんのう。ついでにそっちの槍も見してみい」


 次に店主は俺の槍を奪い取ると、丹念に観察しはじめた。


「ふ~む、なかなか面白いのう。ミスリルの石突きに、魔境ウルシを塗った柄。ただし穂先はただの鉄……ということは、魔法でも使うか?」

「凄い。一発で当てた」

「フハハッ、まあ、元は腕のいい鍛冶師じゃったからのう」


 驚く俺に、ガルバッドがそのカラクリをバラす。

 すると店主が、ふてくされたように言う。


「馬鹿もん。今でも腕は良いわい」

「それは体が動けばの話じゃろう? あまり無理はせんことじゃ。あんたの言うとおり、タケアキは魔法使いじゃからな。武器はこのままでいいじゃろう」


 しかしガルバッドの言葉に、店主は納得しない。


「なんじゃ。せっかくだから、穂先を聖銀鋼にすればよかろう? 上手くすれば、魔闘術にも使えるぞ」

「ふ~む、それもそうじゃが、タケアキはどうする?」

「え~と、魔闘術って、武器に魔力をまとわせる術だよね? 後衛の俺に、必要かなぁ」

「強い魔物ほど、その身に魔力をまとっておるからな。それを打ち破るには、魔闘術が必要になってくるんじゃ。たしかにタケアキは後衛じゃが、いざという時に備えておくのも、悪くないかもしれん。そういう意味では、アルトゥリアスにも必要じゃな」


 そう言われて迷ったが、ふと見るとニケが、期待のこもった目を向けているのに気がついた。

 察するに、一緒に練習しようとでも言いたいのだろう。


「分かりました。穂先を売ってもらえますか。交換はガルバッドがやってくれるんだよね?」

「フヒヒ、毎度。なんなら、うちで取り付けてもいいぞ」

「儂がおるのに、任せるわけなかろう。この先ずっと、整備するのは儂じゃからな」

「おぬしもなかなかの腕じゃからのう。どうじゃ、また戻ってこんか?」


 軽い感じで誘う店主に、ガルバッドは一瞬だけ、悲しそうな顔を見せる。


「……儂には、やることがあるんじゃ」

「惜しいのう。まだあの娘のことが、忘れられんか……」


 どうやらこの店主は、ガルバッドの事情を知っているらしい。

 彼は以前、想い人を誰かに殺されて、その犯人を追っているのだ。

 唯一の手がかりである男に話を聞きにいったら、自分と同じ上級冒険者になってから出直してこい、と言われたらしい。


 そのため彼は必死に技を磨き、武器の整備などで俺たちのサポートもしてくれたわけだ。

 おかげで俺たちは、異常な早さで上級に上がろうとしている。

 彼のためには、俺たちも協力を惜しまないつもりだ。


 結局、槍の穂先に金貨4枚、アルトゥリアスの剣に金貨10枚を支払った。

 全部合わせると、武器だけで金貨60枚にもなる。

 さらにガルバッドとルーアンの盾をより良いものに買い替えて、金貨6枚が消えた。


 幸いにも8,9層でしこたま稼いでいたから良かったものの、俺たちの貯えの3分の2以上が吹っ飛んだ計算だ。

 しかしまあ、これも必要な投資だと、割り切ることにした。

 なんてったって俺たちはこれから、上級冒険者になるのだから。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 王都でずいぶんと高価な買い物をすると、俺たちはさっさとベルデンに戻ってきた。

 そして翌日には冒険者ギルドへおもむき、4等級への昇格試験を受けていた。

 なぜ今になって試験を受けてるかといえば、9層突破の直後はメンバーが負傷していたからだ。


 いかに治癒ポーションで治せるとはいえ、それは表面的なものに過ぎない。

 肉体の内部にはダメージが残っているため、2、3日は時間を置こうとなったわけだ。

 そしたら王都行きの話が出たので、休養を兼ねて旅に出た形になる。


 前日に予約を取ってから行われた試験は、簡単な実技試験だった。

 元上級冒険者の試験官を相手に、上級にふさわしい戦闘力を見せられれば、無事に合格となる。

 こうでもしないと、たまにパーティーに寄生した形で昇格しようとする奴が出てくるのだろう。

 もちろん迷宮を隅々まで探索し、豊富な実戦経験を積んだ俺たちに、そんな弱者はいない。

 どちらかというと、魔法職の俺やアルトゥリアスは少し不利だったが、すでに肉体の強化度が6に達しているので、なんとかなった。


「それでは”女神の翼”の皆さんは、全員そろって4等級への昇格となります。おめでとうございます」


 今回もちゃっかり絡んでいるステラが、昇格の手続きをしてくれた。

 なぜか彼女も誇らしそうにしているのが、微妙にうざい。

 しかしこのめでたい日においては、そんなささいなことはどうでもよかった。


「アハハ、ありがとさん」

「ありがと、でしゅ」

「うんうん、本当に良かったわ。それにしても、タケアキさんが来てから、まだ3ヶ月ちょっとしか経ってないのよね」

「ああ、もう、そんなになるのか。なんかもっと経ってるような気もするけど」

「そうよね。普通は何年も掛かるからものだから」

「うむ、儂も6等級で足踏みしとったからのう」

「やっぱそうですよね? とにかく今のあなたたちは、けっこう注目されてるから、これからも頑張ってね」

「ああ、死なない程度にがんばるよ」


 こうして俺たちは、上級冒険者の証を手に入れた。

 そしてガルバッドには、これから重要な話し合いが待っているのだ。

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