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迷宮へ行こう ~探索のお供はケモミミ幼女~  作者: 青雲あゆむ
第3章 中級冒険者編

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46.決着

「ルーアーンっ!」


 俺たちをかばおうとしたガルバッドとルーアンが、暴走牛スタンピードブルの群れに跳ね飛ばされた。

 彼らはまるで木の葉のように宙を舞い、地面に叩きつけられる。

 しかし幸いにも致命傷は免れたようで、まだ生きていることは確認できた。


土壁防御ジダル・ディファー

圧空障壁ハワ・ジダール


 ガルバッドたちの作ってくれたわずかな隙に、俺は再度、土の壁を生成する。

 さらにアルトゥリアスが”圧空障壁”で補強したたおかげで、守護者もどきの率いるブルの群れが、ようやく止まった。

 その結果、俺たちと敵は20メートルほどの距離を置き、にらみ合うこととなる。


「クッ、ようやく止まったか。だけどこっちも余裕がないぞ」

「それよりも早く、ルーアンを助けないと……」

「そうしたいのはやまやまだけど、敵が許してくれそうにない」


 メシャが兄の身を案じているが、こっちはそれどころではない。

 どうするか悩んでいると、アルトゥリアスから提案があった。


「私の『圧空障壁ハワ・ジダール』と、タケアキの『土壁防御ジダル・ディファー』で敵を防いでる間に、敵を削り取るしかないでしょう」

「それしかないか……前にやった精霊の暴走は?」

「あいにくとこの広い空間では、『精霊暴走ラウフ・ハリブ』の効果は望めません」

「くそっ……それなら、地道に削るしかないな」


 それから俺たちの、絶望的な戦いが始まった。

 俺たちは動き回りながら、”圧空障壁”と”土壁防御”を行使する。

 そこで動きの止まった敵に、前衛陣が攻撃していった。

 しかしガルバッドとルーアンを欠いた状態では、それも容易ではない。

 そんな中で、ニケが必死で奮戦していたものの、やがてそれにも限界が訪れた。


「ああっ、あたしのぶきがっ!」


 ニケの愛剣として活躍してきたナタが、ブルのつのに当たり、とうとう砕け散ったのだ。

 戦闘中にもかかわらず、動きを止めてしまったニケに、ブルが襲いかかる。


「ニケぇっ!」


 ブルの角に引っ掛けられたニケが、血を撒き散らしながら、宙を舞う。

 それを見た途端、俺の中で何かがキレた。


精霊暴走ラウフ・ハリブ!』


 そして俺の意識は、そこでプッツリと途絶えたのだ。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 誰かに肩を揺さぶられているのを感じ、俺の意識が覚醒する。

 その途端、猛烈な頭痛が俺を襲った。


「つっ……」

「大丈夫ですか? タケアキ」


 ひどい頭痛のおかげで、すぐには返事もできない。

 それでも次第に痛みが治まってくると、アルトゥリアスに訊ねる。


「ニケは、ニケは大丈夫か?」

「今、メシャが見ています。おそらく大丈夫だと思いますが……」


 その時、ちょうどメシャがニケを抱えて現れた。


「タケアキ。ニケちゃんは大丈夫だよ。ケガはしてるけど、命に別状はないから」

「そ、そうか」


 安堵して周囲を見てみれば、そこには異様な光景が広がっていた。

 そこらじゅうの地面から石の槍が突き出し、スタンピードブルを串刺しにしていたのだ。

 俺の背ほどもある石の槍が、まるで剣山けんざんのように林立している。


「アルトゥリアス。これは一体、なに? 何が起きたの?」

「覚えていないのですか? タケアキ……いえ、それも無理はないのかもしれませんね」


 アルトゥリアスはひどく驚きながらも、すぐに納得して言葉を続ける。


「これはタケアキが、地精霊ガイアを通じて、『精霊暴走ラウフ・ハリブ』を発動させた結果ですよ。おそらくニケさんが傷つけられた反動で、タケアキの魔力が暴走したのでしょう。その結果、かつて見たことのないほどの、変動が起きたようです」

「……そうだ。ニケが吹き飛ぶのを見て、何かやったような気がする。ガイアはどうしたのかな?」

「膨大な力を使ったので、精霊界へ戻っているのでしょう。しばらくは顕現できないと思いますよ」

「そうか、ガイアには、悪いことしちゃったな……」

「おかげで私たちは助かったのです。タケアキがいなければ、全滅は間違いなかったですよ」

「そうだよ。私たちが生き残れたのは、ほとんど奇跡みたいなもんさ。ほら、ニケちゃんだよ」


 メシャがそう言いながら、俺の横にニケを横たえた。

 ニケは胸元の鎧と服が破け、血にまみれているものの、外傷はすでになかった。

 おそらく治癒ポーションで治したのだろうが、内部までは完全に治らない。

 うっすらと目を開けたニケが、弱々しく声を出した。


「タケ、しゃま……よかったぁ。いきてる、でしゅね」

「ああ、ニケが頑張ってくれたからな」

「ちがう、でしゅ。タケしゃまが、すごいまほう、つかったから、でしゅ」

「それもこれも、ニケのおかげさ」


 そう言って頬を撫でると、彼女は弱々しく微笑み、眠りに落ちた。

 そんな健気けなげな彼女を見たら、悔し涙が浮かんできた。


「ちくしょう。俺がもっと強かったら、もっと賢かったら、ニケをこんな目に遭わせずにすんだのに」

「それは贅沢ぜいたくというものですよ、タケアキ。おそらくこの状況で生き残ったのは、我々が最初でしょう。でなければ、多少は情報があったはずですからね」

「そうじゃぞ、タケアキ」


 ここでガルバッドが、足を引きずりながら現れた。

 それに続いて、ルーアンも姿を見せる。

 2人ともボロボロだが、命に別状はなさそうだ。


「ああ、あの状況で生き残ったのが、いまだに信じられねえぜ。9層の死亡率が異常に高かったのは、あのせいだったんだな」

「まあ、そればかりではないでしょうが、大きな要因でしょうね。それを迷宮のイタズラと見るか、悪意と見るか……」

「悪意だろう、間違いなく」

「さあ、どうでしょう。いずれにしろ、スタンピードブルの魔石と角を、回収してしまいましょうか。タケアキは休んでいてください」


 アルトゥリアスの提案に、ルーアンとメシャ、ガルバッドがぼやきながらも動きだす。


「もうちょっと休みたいとこなんだが、金貨が消えるのは見逃せねえな」

「かなりキツイけど、お金には替えられないよね~」

「うむ、これだけ苦労したからには、多少は取り返さんとな」


 疲れた体にムチ打って動く彼らを、俺はボーッと眺めていた。

 実際問題、動きたくても動けなかったからだ。

 頭痛はとうに治まっていたものの、体中の力が抜けて、思うように動けない。

 仕方ないので、ニケのかわいい寝顔を眺めながら、体を休めていた。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 魔石と角を回収すると、俺たちは守護者部屋へ向かって歩きだす。

 俺はルーアンに肩を貸してもらいながら歩き、ニケはメシャに抱かれている。

 そして守護者部屋の前に到達すると、アルトゥリアスが水晶に手を触れた。

 すると部屋の中があらわになったものの、そこには何もいなかった。


「やっぱりあれが、守護者だったんだ」

「どうやらそのようですね」

「しかしなんでこの階層では、こっちに出てきたんかのう?」

「だから迷宮の悪意だって。あ・く・い」

「だよね~。ちょー意地悪ぅ」

「クエ~」


 そんなことを話しながら10層へ降りると、水晶部屋から地上へと帰還する。

 買い取り所で魔石を売却すると、今日だけで金貨10枚を超えた。

 スタンピードブルとは、それほどの強敵なのだ。

 そしてギルドに寄って、今日起きたことを報告する。


「あら、”女神の翼”の皆さん。ずいぶんお疲れのようね。ていうか、ボロボロじゃない」

「まあね。実は9層について、重大な報告があるんだけど」

「え?……ひょっとして、9層を突破したの?」

「ああ、後で昇格の手続きも頼むよ」

「了解しました。それではこちらへ」


 俺たちは会議室へ案内され、ステラとその上司に報告をした。

 それを聞いたステラが、青い顔でつぶやく。


「9層の死亡率の高さに、そんな秘密があっただなんて……よく生き残れたわね?」

「俺たちには、勝利の女神がついてるからな」


 そう言ってニケの頭を撫でると、彼女がドヤ顔で胸を張る。


「タケしゃまが、たすけてくれたでしゅ」

「ほんと、あなたたちって、しぶといわね」


 呆れたようにいうステラの言葉も、今の俺にとってはどうでもよかった。

 今回は奇跡的に生き残れた。

 しかし迷宮には、悪意が蠢いている。

 そんな悪意に負けないため、俺はもっと強くならねばいけない。

 俺とニケの未来を、自分たちで掴み取るために。

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