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迷宮へ行こう ~探索のお供はケモミミ幼女~  作者: 青雲あゆむ
第3章 中級冒険者編

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45.守護者の罠

 俺たちは9層で、暴走牛スタンピードブルの急襲を受けた。

 みんなの奮戦で、なんとか敵を殲滅したものの、こちらも満身創痍で、きわどい状況だった。


「ブハーッ、なんとか生き残ったな」

「傷だらけだけどね、アイタタ」

「しかしまあ、生き残れただけでも幸いじゃろう」

「そのとおりですね」


 そんな中、今回も大活躍だったニケが、俺に駆け寄る。


「タケしゃま、だいじょぶでしゅか?」

「ああ、ニケもがんばってくれたからな。ケガは大丈夫か?」

「たいしたこと、ないでしゅ」


 そう言う彼女は、致命傷ではないものの、体のあちこちにケガを負っている。

 先の戦闘がいかに厳しかったか、分かるというものだ。

 そんな彼女に治癒ポーションを渡そうと思っていたら、アルトゥリアスが警戒を促す。


「あまりゆっくりしている暇は、なさそうですよ。まだ他にも群れが、残っています」

「ああ、そうだね。魔石だけ回収して、8層へ引き返そうか」

「ええ、それがいいでしょう」


 俺たちは手分けして魔石を回収すると、急いで来た道を戻った。

 そして8層で夜営に適した場所を見つけると、ようやく警戒を緩めることができたのだ。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「フウッ、ようやくひと息つけるな」

「まったくじゃ。ちょっと早いが、飯にするから待っちょれ」

「頼むよ。俺たちは結界を張ってくる」


 それからアルトゥリアスと一緒に結界を張ると、俺は地面にへたり込んだ。

 さっきの戦闘で、がんばり過ぎたせいだ。

 そんな俺を、ニケが心配してくる。


「ほんとに、だいじょぶでしゅか? タケしゃま」

「ああ、大丈夫だ。ちょっと疲れてるだけだって」


 するとルーアンが話に加わってくる。


「タケアキは大活躍だったからな。さっきは凄かったじゃねえか」

「ん~、まあね。いざという時のために練習しといて、よかったよ」

「うむ、土の壁に複数の石槍は、的確な魔法じゃったの。あれがなかったら、ヤバかったかもしれん」

「ええ、まったくです。さすがはタケアキ」

「いやいや、みんなでがんばったおかげさ」

「でもタケしゃまが、いちばんでしゅ」


 たしかに”土壁防御”とか、”石槍屹立”の複数発動は役立った。

 しかしああいう範囲の広い魔法は、いつも以上に精神と魔力を消耗するのだ。

 おかげでひどく疲れた俺を、ニケが心配している。

 あまり彼女に心配させないよう、シャキッとしようと思っていたら、ルーアンが深刻な顔でぼやく。


「しかし、のっけからあれじゃあ、先が思いやられるな」

「うん、それはそうだね。これは一度、作戦を練り直す必要があるかな」

「てことは、地上へ戻るのか?」

「う~ん、そうだね。一度戻って、しっかりと休んだ方がいいかも」


 みんなの体調を気遣ったのだが、アルトゥリアスはそれを否定した。


「すぐに戻らなければならないほど、疲れてはいませんよ。今晩休めば、8層での活動に支障はないでしょう。ある程度、スタンピードブル対策に目処が付いたら、また9層へ行ってもいいですし」

「う~ん、そっちの方が無駄は少ないか……みんなもそれで構わない?」

「もちろんでしゅ」

「おう、俺もいいぜ」

「儂もじゃ」

「たぶん、大丈夫~」


 どうやらみんな、やる気のようだ。

 ならば俺にも否はない。


「おしっ、それじゃ今日はしっかり食って、体を休めようぜ」

「アハハ、ルーアンはいつも大食いだけどね」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 それから、対スタンピードブル用の戦術の模索が続いた。

 まずは8層でナイフボアの群れを狩り、いかに大群に対抗するかの技術を磨く。

 もちろんその試みは1日で終わらず、2日ごとに地上へ戻る日々が続いた。


 そうしてある程度自信がつくと、9層でブルと再戦してみる。

 最初は苦戦する日々が続いたが、じきに俺の土壁や石槍が様になってきて、だいぶ対抗できるようになった。

 さらに仲間たちもブルとの立ち回りに慣れてくると、なんとかなるものだ。


 徐々に9層の探索範囲も広くなり、その奥へと立ち入るようになっていく。

 ちなみにスタンピードブルは、その角が武器の素材になるらしく、1本銀貨15枚で売れた。

 魔石は銀貨25枚と、これまた破格である。

 おかげで討伐数は少なくても、それなりの収入は得られていた。


 そうして最初の遭遇から半月ほど経った頃、俺たちはかつてないほど、9層の奥まで踏み込んでいた。

 やがてとうとう出口側の壁に到達し、さらに念願のモノも発見する。


「あれってひょっとして、守護者部屋じゃない?」

「ええ、たぶんそうでしょうね」

「ふえ~、やっとたどり着いたな……なのになんで、そんな顔してんだ?」


 9層の終点部分に、守護者部屋らしき扉が見えたのだ。

 それでルーアンが1人ではしゃいでるのだが、俺やアルトゥリアスは厳しい顔をしていた。

 なぜなら扉の周辺には、スタンピードブルの群れがたむろしていたからだ。

 まだ距離は300メートルほど離れているし、数もせいぜい10匹程度なので、普通ならそれほど脅威ではない。

 しかしその群れには、気になる点があった。


「群れの中央にいるやつ、ひと回り大きいよね?」

「ええ、しかも角が赤いですね。普通の魔物ではありませんよ。おそらく、指導個体でしょう」

「……いや、ひょっとしてあれ、守護者じゃないかな?」


 俺のその言葉に、ルーアンが反論する。


「おいおい、タケアキ。守護者は守護者部屋にいるから、守護者なんだぜ。なんで部屋の外にいるんだよ?」

「そんなの、分かんないよ。だけど聞いた話では、ここの守護者は大きな牛で、角が赤かったっていうんだ。ただの指導個体かもしれないけど、用心はするべきだ」

「しかし用心するとは言っても、どうするんじゃ?」

「……例えば、日を改めるとか?」

「たとえ日を改めたとして、どうにかなるんか?」

「分かんないよ、そんなの」


 ガルバッドに問われるが、俺も答えなど持っていない。

 するとアルトゥリアスが助け舟を出してくれた。


「まあまあ、ここで言い争っても、いいことはありませんよ。それにタケアキの言うことにも、私は一理あると思います」

「一理あるって、何が?」

「たしかこの9層では冒険者の死亡率が、異常に高いそうです。スタンピードブルが厄介な魔物であることは事実ですが、それだけで死亡率が高まるとも思えません。それこそ守護者並みの指導個体が、発生するのでもなければね」


 その言葉には、俺も大いに賛成だった。


「そう。たとえ守護者であろうがなかろうが、尋常でない強敵である可能性は、高いと思うんだ。ニケはあれ、どう思う?」

「ふえ、あたしでしゅか?……」


 俺が意見を求めると、彼女はしばし敵を凝視ぎょうししてから、答えた。


「タケしゃまのいうとおり、すごくつよいやつだと、おもうでしゅ」

「やっぱりそうか。ここはひとつ、仕切り直したいとこだけど……そうも言ってられないようだな」

「どうやらそのようですね。未知の存在であろうがなかろうが、ここで迎え撃つしかありません」


 一向に向かってこない俺たちに業を煮やしたのか、ブルの群れが動きだした。

 赤い角を持った個体が先頭に立ち、こちらへ移動してくる。


「前衛は守りを固めろ。いつもどおり、土の壁で足を止めるから、あとを頼む。くれぐれも赤ツノには気をつけろよ」

「「「了解」」」


 こちらが迎撃態勢を取って待ち構えていると、敵の群れは近づくにつれ、速度を増しはじめた。

 巨獣の群れが地響きを立てて押し寄せる中、俺は魔法を行使する。


土壁防御ジダル・ディファー


 20メートルほど手前に、土の壁がそそり立つと、ほとんどの敵が止まろうとする。

 しかし驚いたことに、先頭の赤ツノはそれをものともせずにぶち抜いた。


「まずい! 全員退避っ!」


 そう言いながら逃げようとしたものの、とても間に合いそうにない。

 するとガルバッドとルーアンが、盾を構えながら、敵に立ち向かった。


「ここは儂らがなんとかするっ!」

「そうだ、お前らはにげ――」

「ルーアーンっ!」


 しかしそんな覚悟も虚しく、彼らは宙に舞い上げられた。

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