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迷宮へ行こう ~探索のお供はケモミミ幼女~  作者: 青雲あゆむ
第3章 中級冒険者編

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44.悪夢の暴走牛

 多数の短刀猪ナイフボアに苦労しながらも、俺たちは着実に8層を踏破していった。

 それは主要経路だけでなく、外縁部の探索も怠らない。

 さすがに全てを調べ尽くすほどではなかったが、おかげで8層について、多くの情報と成果を得た。


 なんといっても外縁部には薬草だけでなく、貴重な鉱石や宝石なども産出する。

 それらを採集して売るだけで、けっこうな儲けになった。

 さらにはガルバッドが作成した地図も、大きな成果物となるのだ。


「うわぁ、こんなに探索して回ったの? 頭おかしいんじゃない」

「なんちゅう失礼な言い方を。別にいらないなら、買わなくてもいいんだよ」

「あ~、ゴメンゴメン。ぜひ売ってください」


 俺たちの探索成果をけなすのは、ギルド受付嬢のステラだ。

 こいつは俺たちの専属にでもなったつもりらしく、どんなことにも首を突っ込んでくる。

 その挙句にこの物言いだ。

 いっぺん、泣かしたろか。

 そう思ってにらみつけていると、彼女がヘラヘラ笑いながら言い訳をする。


「そんなに怒らないでよ。実際に7層から下で、こんなにていねいに探索するパーティーなんて、他にいないんだから」

「だからって、その言い方はないだろう」

「だからごめんなさいって。それで、この情報をギルドに売ってくれるってことで、いいのよね?」

「まあね。だけどやっぱり、やめよっかな~」

「もう、そんなこと言わないでよ。これはギルドにとっても、有益な情報になるんだから」


 彼女の言うとおり、ギルドにとってこの情報は有用だ。

 特に7層より下になってくると、冒険者は余計な回り道をしない傾向にある。

 そのため下層への階段へ向かう最短経路以外は、極端に情報が少ないのだ。


 そんな中で、どの階層で何が採れて、道がどうなっているかが分かるというのは、非常にありがたい。

 ギルドには薬草や鉱石の採取依頼も入ってくるもので、その仕事が割り振りやすくなるからだ。

 もし情報の少ない階層での仕事なら、それなりの金額で上位のパーティーに頼まざるを得ない。

 しかし情報さえあれば、そこそこのパーティーに任せられるのだから、ギルドとしてはとても楽になる。


 そんな事情を踏まえて強気で商談を成立させると、ステラが訊いてきた。


「8層をこれだけ調べたからには、次は9層へ行くのよね?」

「ああ、明日にでも挑むつもりだよ」


 俺が何気なく答えると、彼女は深刻な顔で忠告する。


「だったら今まで以上に気をつけなさいよ。9層の暴走牛スタンピードブルは、本当にヤバイんだから」

「そんなの当たり前だろ? 4層以降でヤバくなかった相手なんて、いないぜ」


 今さら何をって感じで反論すれば、ステラが怒りだす。


「馬鹿っ! 今までの延長で考えていたら、死んじゃうわよ。なんてったって9層は、5層に次ぐ難関なんだから」

「それって、どういう意味?」

「5層のキラービーが、下級冒険者の難関なのは、知ってるわよね?」

「ああ、あの毒針にやられて、死亡者が続出してるんだろ?」


 そう言うと、ステラは深くうなずきながら、先を続ける。


「そう。あなたたちはわりと簡単に攻略してるけど、普通はすっごい苦労するのよ。そしてそれは9層にも当てはまるの。ここのスタンピードブルを、8層のナイフボアよりちょっと強いぐらいの感覚で行くと、確実に失敗するわ。いきなり強くなるもんだから、”迷宮の悪意”って言われてるぐらい」

「な~るほど。ひとつ上との格差がひどすぎて、死亡者が続出してるのか。手強いとは聞いてたけど、さすがにそこまでとは知らなかったな」

「そりゃそうよ。9層を突破できる冒険者なんて数が少ないし、私たちみたいに冒険者の動向をチェックしてないと、分かりにくいもの」


 ステラが声をひそめながら、教えてくれた。

 それはある意味、ギルドの内部情報であり、気を使う内容なのだろう。

 あえてそれを教えてくれたことに、俺は感謝の念を覚えた。


「そいつはありがとさん。それだけ俺のことを、心配してくれてるってことだな」

「馬鹿ね。ニケちゃんのためよ」

「またまた、照れちゃって。なんにしろ、参考になったよ。できるだけ態勢は整えるとしよう」

「絶対に生きて帰りなさいよ」


 えらそうな物言いだったが、その表情には俺たちを案じる思いが感じられた。

 俺はそれをありがたく思いながら、礼を言ってギルドを後にした。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 予定どおりに、翌日から9層にチャレンジした。

 7、8層を最短経路で駆け抜けると、いよいよ9層への階段を降りる。

 しかしそこにあったのは、予想外の光景だった。


「なんじゃ、こりゃ」

「ひろい、でしゅ」

「草原じゃねえか」

「迷宮じゃありませんね、これ」


 そこに広がっていたのは、広大な草原だった。

 その空間の向こう端はかすんで見えず、天井も高い。

 やはり天井や壁が光っているのか、昼の曇り空ぐらいの明るさもある。

 そして草原の上には、ポツポツと動くものが見えた。


「あそこにいるのが暴走牛スタンピードブルだろうな。けっこう数が多い」

「ああ、しかもあれ、かなりでかいぞ」


 500メートルほど先に10匹ほどの牛が見えた。

 その姿は北米に住むバッファローによく似ていて、ずんぐりした体は茶色の毛皮に包まれ、頭部には黒光りする大きな角が付いている。

 しかもルーアンが言うように、普通の牛の倍ぐらいはありそうだ。


「本当にでかいな。あれが10匹って、戦う気もしないんだけど」

「ああ、とりあえず、迂回してみるか」


 ルーアンの提案で、まずは安全策を取ってみる。

 それでしのげるのなら、まだ希望はあるだろう。

 俺たちはブルを刺激しないよう、そろそろと歩を進めたが、迷宮の魔物はそれを見逃してくれなかった。


「ヤバい! 気づかれたみたいだぞ」

「マジかよ。どうする? タケアキ」

「迎撃するしかないだろうが。前衛は防御態勢。俺とアルトゥリアスは、少しでも敵を減らすぞ」


 そう言ってる間にもスタンピードブルが、地響きを立てて移動しはじめた。

 その行き先は、もちろん俺たちだ。


減圧回廊カリル・タリク


 まだだいぶ距離があるが、アルトゥリアスが矢を撃ちはじめた。

 風精霊シェールによって作られた低圧経路に沿って、目にも留まらぬ速度で矢が飛んでいく。

 そのうちの何本かは、ブルの急所に当たり、敵に悲鳴を上げさせた。


 しかし10匹の猛牛を止めるには、あまりに力不足である。

 ほとんど勢いを弱めずに、敵が15メートルほど手前に迫っていた。

 その瞬間、俺は新たな魔法を行使する。


土壁防御ジダル・ディファー


 すると幅10メートル、高さ1.5メートルほどの壁が、敵の前にそそり立った。

 10匹ものブルがその壁に突っこみ、突進の勢いが止められる。


「ヴモーッ」

「ブフーッ」


 しかし奴らはそこで諦めず、その角で壁を打ち砕き、壊してしまう。


「チッ、足りなかったか。だけどこれで終わりじゃないぞ。『石槍屹立ハルバ・アガマト』」

「ヴモーッ!」

「ブヒーッ!」


 動きを止めた猛牛の群れの足元から、2本の槍が突き上がる。

 おかげで2匹のブルが串刺しになったものの、それが残りのブルの怒りに火をつけたようだ。

 奴らは盛大に鳴き声を上げ、角を振り回して突撃の構えを見せた。


疾風迅雷ハラカ・タザリ


 しかしそんな威嚇をものともせず、飛び出した影があった。

 小さな影は瞬時にブルとの距離を詰め、銀色のナタを振り下ろす。


鋭刃金剛カウィ・サイフ

「ヴモーッ!」


 ニケが新たに身に着けた、武器強化の魔法によって、その刃がブルの頭をかち割った。

 するとそれに負けじと、ルーアンやメシャも飛び出していく。


「俺も負けねえぜ」

「わたしも」

減圧回廊カリル・タリク


 さらにはアルトゥリアスの弓射も加わって、次々とスタンピードブルに痛手を与えていく。

 足の遅いガルバッドだけはそばで盾を構えているが、おかげで俺やアルトゥリアスは安心して攻撃ができる。


石槍屹立ハルバ・アガマト


 俺も攻撃に加わったことで、じきにスタンピードブルの群れは、殲滅されていた。

 たしかに9層の敵は厄介そうだが、この仲間たちとなら切り抜けられる。

 そんな手応えも感じていた。

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