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迷宮へ行こう ~探索のお供はケモミミ幼女~  作者: 青雲あゆむ
第3章 中級冒険者編

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43.迷宮の暴れ者

 ルーアンとメシャを加えての探索行は、想像以上に順調だった。

 まるで虫のように次から次へと出てくる影狼シャドーウルフを、ちぎっては投げ、ちぎっては投げしているうちに、あっさりと8層へ到達したのだ。


「さて、ここからはまた違った戦いになるぞ。ここに出てくる短刀猪ナイフボアは、数こそ少ないものの、格段に手強くなるからな」

「たのしみ、でしゅ」

「強い敵を楽しみとか、頭おかしいぜ。しかもその歳で……」


 ワインレッドの瞳をキラキラさせているニケを、まるで狂人のように言うルーアン。

 俺の女神ニケになんということを。

 すると俺が口を出す前に、メシャが彼をたしなめた。


「こら、そんなこと言わないの。ニケちゃんはかわいいんだから」

「だから余計にだよ!」


 なんか言い合いをしているが、たしかに彼の言うことも分からないではない。

 しかし獣人種というものは、元々そういうのが多い連中なのだ。

 加えてニケの体力や鍛錬を怠らないその姿勢は、大人に負けていない。


 ルーアンもそれは知っているので、決してニケを馬鹿にしているのではないだろう。

 しかし見た目が幼女なニケに、少なからず頼っているのを、歯がゆく思っているのかもしれない。

 そんなやり取りも一段落して、8層の探索を開始する。


「さて、先へ進むぞ」

「あい」


 最も感覚の鋭いニケを先に立て、慎重に進むと広い空間が見えてきた。

 そこには言うまでもなく、迷宮のイノシシが待機している。

 それは体重が100kgはありそうな魔物で、名前の由来である鋭い牙を生やしていた。

 その数、3匹。


「1匹は俺が倒すとして、残りは2人がかりでやろうか。ニケとガルバッド、ルーアンとメシャがペアだ。アルトゥリアスは援護を頼む」

「おう、いいぜ」

「やるでしゅ」

「了解です」


 それぞれに役割を振ると、俺は部屋の外から土魔法を行使した。


大地拘束トゥルバ・エンタズ

「ブギイッ」


 地精霊ガイアが敵の足元を操作し、1匹の足を絡め取る。

 そいつは突然の拘束に驚き、暴れて逃れようとする。

 しかしそうはさせじと俺が、2の矢を放つ。


石槍屹立ハルバ・アガマト

「プギャァァァァッ!」


 地面から立ち上がった槍が、イノシシの腹部を貫いた。

 そいつはしばし暴れた末に、息絶える。

 そしてその間に前衛陣は、残りのイノシシに襲いかかっていた。


「えいっ!」

「どっせい!」

「ブヒィィッ」


 足の速いニケが敵に斬りつけて注意のそれたところに、ガルバッドが盾ごとぶつかった。


「えいやっ」

「とうっ」

「ブゴゴゴッ!」


 もう一方のイノシシにも、メシャとルーアンが斬りかかる。

 いきなり切られた敵が激怒して反撃したものの、ルーアンたちはすばやく攻撃をかわしてみせる。


減圧回廊カリル・タリク


 そこへアルトゥリアスが、的確に矢を撃ち込み、敵の体力を奪っていた。

 手が空いた俺も、要所で”大地拘束”を行使し、前衛をサポートする。

 おかげで5分もしないうちに、残りのナイフボアをくだすことができた。


「ハァッ、ハァッ……さすがは、8層。なかなか手ごわいじゃねえか」

「アハハッ、そのわりに、余裕そう、だったじゃん」

「ブハアッ……たしかに、しんどかったが、危険は、感じなかったのう」


 息を弾ませながらも、満足そうに会話を交わす仲間に近寄る。

 するとニケがナイフボアを切り開き、魔石を取り出してくれた。


「タケしゃま、ませきでしゅ」

「おっ、ありがとな、ニケ。さすがに大きな魔石だな」

「あい♪」


 いつものように頭を撫でてやると、彼女は尻尾をフリフリしながら顔を輝かせる。

 ニケが誇らしげに掲げる魔石は、クルミほどもあり、黒曜石のような輝きを放っていた。

 おそらくシャドーウルフの倍は、高値がつくであろう。

 ここでアルトゥリアスから提案が出される。


「ナイフボアは牙も売れますからね。忘れずに取っておきましょう」

「ああ、そうだったね。みんなで手分けして、取ろうか」

「おう、任せろ」


 その名前の由来となっている牙は、長さは20センチ以上あり、ナイフのように鋭かった。

 これは6層のアサシンマンティスのカマと一緒で、魔法的な処理を施して武器にできる。

 上手くやれば、強度や魔力伝導性に優れた武器になるんだとか。

 俺たちは手分けをして魔石と牙を採取すると、軽く休んでからまた探索を再開した。


 その後も3~4匹のナイフボアを倒しながら、8層を順調に進む。

 合計で20匹ほどを倒した時点で、いい時間になったので、地上へと帰還した。

 そこで魔石を売却すると……


「金貨3枚……1個で銀貨15枚か。いい値段だな」

「すげえ。さすがは8層だな」


 ナイフボアの魔石が銀貨15枚で売れたので、金貨3枚の収入だ。

 さらにその牙が1本当たり、銀貨10枚なので、40本で金貨4枚となる。

 その前にシャドーウルフも狩っていたので、今日の収入は金貨8枚を超えた。


 1人当たり金貨1枚以上の収入とは、破格である。

 もっとも、俺たちの収入の3割は、パーティー全体の支出を賄うサイフに回される。

 これで住居費や諸々の生活費、武器のメンテ費用や、迷宮の探索物資の購入に充てられている。


 ちなみに武器のメンテだが、優秀な職人であるガルバッドがやってくれるので、かなり安く済んでいる。

 ぶっちゃけると、材料費プラスアルファって感じだ。

 しかも彼は買ったばかりの竜車を改造し、購入前よりも快調にしているし、借家の設備も修理改良して、俺たちの生活を便利にしてくれる。

 おかげで最近は生活が快適になり過ぎて、彼がいなくなったらどうなるのかと、心配するくらいだ。

 ガルバッド、マジ有能。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 その後も順調に、8層の探索は進んでいった。

 7層と同じように、奥へ進むほど数は増えるのだが、最高でも6匹までだった。

 その場合はまずは俺が1匹を潰し、前衛にゼロスも加えて1対1に持ち込んだ。


 さすがに1対1でまともにやりあえるのは、ゼロスぐらいのものだ。

 いつの間にか大きく成長したゼロスは、ナイフボアと正面からぶつかり合っても、ひけを取らなくなっている。

 その立派な角で敵を迎え撃ち、手ひどい傷を負わせるほどだ。


 その他のメンバーはさすがに正面からはヤバイので、ヒラリヒラリとかわしながら翻弄するパターンである。

 唯一、足の遅いガルバッドが苦戦しているが、彼は盾も使ってなんとかしのいでいる。

 その間に俺とアルトゥリアスが魔法と弓矢で支援すれば、倒しきるのも困難ではない。


「ブハ~ッ……疲れた!」

「ああ、まったくだ。命がいくつあっても、足りねえよ」

「私もヤバイ~」


 とはいえ、苦戦しているのも事実だ。

 なんとか敵を倒したガルバッド、ルーアン、メシャは、すぐにその場にへたり込んでしまう。

 そんな中、ニケだけは敵の魔石を取り出すと、俺のところに持ってくる。


「タケしゃま、ませき、とったでしゅ」

「ああ、いつもありがとな。少し休め」

「あい♪」


 どんなに疲れ、汗を流していても、ニケは同じことをする。

 そして俺は決まって、そんな彼女の頭を撫でてやるのだ。

 本当に嬉しそうに笑う彼女を見て、俺は改めてその笑顔を守りたいと思っていた。

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