42.引っ越し、そして再スタート
ルーアンとメシャが正式に仲間に加わったこともあり、俺たちは皆で住む家を借りた。
迷宮から遠いことを除けば、その家はすばらしい物件で、竜車も買ったので移動も問題なくなっている。
そしてさっそく翌日には、新しい家への引っ越しを開始した。
手持ちの荷物はわずかなものだったので、新たな生活のための物資を買い足す。
寝具や調理道具、掃除具などを竜車に積み込み、せっせと新居に運び込んだ。
「よ~し、とりあえずざっと掃除しちゃおう。1階はアルトゥリアスとガルバッド。2階はルーアンとメシャ。俺とニケは3階だ」
「「「了解」」」
「まかせるでしゅ」
まずはみんなで手分けして、家の中を片付ける。
使う部屋だけでもきれいにして、寝具や生活用品を入れていった。
それだけでもけっこうな時間が過ぎ、いつの間にか日も暮れ、1階ではガルバッドが料理を作りはじめていた。
「ふう、3階はだいたい片付いたよ。おなかが空いたな」
「おう、もうじきできるから、待っちょれ。飲み物を準備してくれるか?」
「ああ、任せて」
「たのしみ、でしゅ」
やがてルーアンたちも降りてくる頃には、すっかり夕食の準備が整っていた。
「さあ、夕飯にしようぜ」
「ああ、腹がペコペコだ」
「私も~」
みんなが席に着くと、俺が酒盃を掲げる。
「今日はお疲れ。これからの新生活に、乾杯だ」
「「「かんぱ~い」」」
「クエ~」
てんでに酒盃を傾けると、さっそく食事に取り掛かる。
今日は肉の丸焼きに、野菜たっぷりのシチュー。
新鮮な野菜サラダに、焼きたてのパンといったところだ。
酒を飲みながら、みんなの手が止まらない。
それでも少し落ち着くと、会話も弾んでくる。
「いや~、それにしても、いきなり家に住めるとは思わなかったぜ。しかも馬車まで買っちゃうんだから、すげえな、あんたら」
「そうそう、ちょっと信じられないって感じ~」
ルーアンとメシャの言葉に、俺が応じる。
「これくらいの所帯になってくると、家を借りたほうが得だからね。まあ、ゼロスと一緒に住みたいってのも、あったんだけど」
「そうでしゅ。これからは、ずっといっしょ、でしゅ」
「クエ~」
俺とニケの言葉に、ゼロスも嬉しそうな声を出す。
最近は厩舎に隔離されていて、寂しかったのだろう。
今も楽しそうに、モリモリとご飯を食べている。
ゼロスはトイレのルールも守れるぐらい賢いし、清潔好きなので、これからは座敷犬ならぬ座敷竜として、一緒に暮らすことになる。
もちろん仲間たちの了解を得ているが、最初はルーアンたちがちょっと驚いていた。
しかしゼロスの賢さを見せてやったので、その後は文句もない。
やがて話題は迷宮の攻略へ移る。
「それで、7層の攻略はいつから始めるんだ?」
「ああ、もう1日だけ家を整理したら、明後日から潜ろうと思う」
「そうか、いよいよだな」
「ルーアン、なんか楽しそう~」
「まあな。なんてったって中級の領域だ。上級になれるかどうかが、これからに掛かってくる」
メシャに指摘されたルーアンが、不敵に笑う。
彼は上級冒険者になることを、大きな目標に据えているらしい。
「ふ~ん、上級冒険者になって、認めてもらいたい人とかいるの?」
「い、いや、別に誰に認めてもらいたいってんじゃないが……村を飛び出してきたからには、何かでかいこと、やりてえじゃねえか」
「まあ、そうだよね」
なぜかバツの悪そうにするルーアンを不思議に思いながら、その場は適当にうなずいておいた。
その後も迷宮や故郷の話をしながら、歓談を楽しむ。
ただし俺が迷い人であることは、まだルーアンとメシャには言ってない。
アルトゥリアスやガルバッドから、まだ伏せておいた方がいいと言われたからだ。
ルーアンたちにも隠し事はあるようなので、じっっくりと信頼関係を築けばいい。
焦る必要もないだろう。
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実際に2日を掛けて引っ越しを済ませると、俺たちは迷宮へ舞い戻った。
ルーアンとメシャを伴って初めて7層へ跳び、慎重に探索を開始する。
すると早々に4匹の影狼が、姿を現した。
「来たぞ。前衛は1匹ずつ相手をしてくれ。俺とアルトゥリアスは援護する」
「「「了解」」」
ニケ、ガルバッド、ルーアン、メシャが敵に向かっていく。
俺は魔導砲を、アルトゥリアスも弓を構えて、後方で万一に備えた。
しかしシャドーウルフ自体はサシで苦労するほどでもなく、しばし見ていると、それぞれに勝利を収めていた。
「ふうっ、それなりに手強いけど、なんとかなるじゃないか?」
「うん、なんか拍子抜け~」
「フハハッ、甘い甘い。下手すると、あれが10匹以上も出てくるんじゃぞ。えらそうなことを言っておると、後で吠えづらをかくわい」
楽観的なことを言うルーアンとメシャを、ガルバッドがたしなめる。
するとルーアンが、顔をしかめながらぼやいた。
「うえ、マジかよ。ていうか、そんなのと4人で戦ってたのか?」
「まあね。だけど余裕がないから、新たな仲間を探してるところに、ルーアンたちが声を掛けたってわけ」
「なるほど、それはお互いに好都合だったな。まあ、このメンツなら、10匹くらい大丈夫だろう」
「多分ね。まずは魔石を採って、先へ進もうか」
「ああ」
魔石を採取すると、再び探索に取り掛かる。
その後もちょくちょくシャドーウルフに遭遇したが、前半は危なげなく戦えた。
そして探索は順調に進み、いよいよ後半に差し掛かる。
「来たぞ。前衛は防御態勢。俺は後ろのやつを足止めするから、アルトゥリアスは前衛を援護して」
「「「おう」」」
「了解です」
10匹近い敵の出現に、俺たちは戦い方を変える。
前衛の援護はアルトゥリアスに任せ、俺は土魔法を行使した。
『大地拘束』
「グルアッ!」
後方にいるシャドーウルフの足元が陥没し、何匹かの足を拘束する。
すると脱出しようと暴れる仲間を尻目に、無事なシャドーウルフが襲い掛かってきた。
『減圧回廊』
「ギャンッ!」
そのうちの1匹に、アルトゥリアスの矢が命中する。
低圧の通り道に導かれた矢が、見事に敵の頭蓋を貫いた。
同時に前衛に襲いかかる敵もいたが、その数はそれほど多くない。
概ね1対1の戦闘に持ち込み、複数でやられそうなところは、俺とアルトゥリアスで援護した。
おかげで終始、戦闘は有利に進み、やがて全てのシャドーウルフが倒される。
「ハアッ、ハアッ、たしかに、この数はきついな」
「うん……だけど、なんとかなったね」
「まえより、ずいぶん、らくだったでしゅ」
「うむ、これならこの先も進めるの」
激しく息をつくルーアンとメシャに対し、ニケとガルバッドは若干、余裕がありそうだ。
そんな彼らをねぎらうように、俺とアルトゥリアスも声を掛ける。
「お疲れお疲れ。さすがに今回は余裕があったね」
「ええ、肝の冷えるような場面もなくて、安心でした」
するとルーアンとメシャが、苦笑いをしながら顔を見合わせる。
「これはキツいパーティに入っちまったかな?」
「うん、ちょっと思ってたのと、違うかも。だけどこれぐらいの方が、お金も強さも手に入るじゃない?」
「それまで命がもつかな?」
「さあ……」
そんな兄妹の会話を聞きながら、俺はさらなる探索に思いを馳せていた。




