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迷宮へ行こう ~探索のお供はケモミミ幼女~  作者: 青雲あゆむ
第3章 中級冒険者編

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41.新たな拠点

 ルーアンとメシャを伴い、クイーンマンティスを倒した翌日、俺たちは早くからギルドを訪れていた。

 ルーアン兄妹が6等級に昇格するための、実技試験があるからだ。

 しかし元々たしかな実力を持ち、さらに肉体強度もかさ上げされている彼らにとって、試験は本当に確認に過ぎなかった。

 早々に実力を認められたルーアンとメシャは、あっさりと6等級の冒険者証を手に入れる。

 その手続きが終わると、俺たちは受付けのステラに相談を持ちかけた。


「ねえ、ステラさん。俺たち、家を借りたいんだけど、いてないかな?」

「へ~、家を借りるんだ? たしかにメンバーも増えたから、ちょうどいいかもね。ちょっと待ってて」


 そう言うとステラは、資料を取りに奥へ消える。

 実は冒険者ギルドには、有力な冒険者に家を貸すというサービスがあるのだ。

 これは有力な冒険者、ひいてはその仲間たちを、この町に引き留めるための措置なので、けっこう優遇してくれたりする。

 もちろんそれなりの実績が無いと受けられないが、俺たちには領主の依頼でノーブルハニーを採ってきたという功績がある。


「お待たせ。どんな物件がいいの?」


 物件情報らしきファイルを持って戻ったステラが、にこやかに訊ねる。

 何やら今日は、ご機嫌らしい。


「そうだな。最低でも、今のメンバーが住めるぐらいの広さは欲しい。それと俺としては、できるだけ安い方がいいかな」


 そう言って仲間を見ると、彼らもうなずいている。

 するとステラが苦笑しながらぼやいた。


「何、貧乏臭いこと言ってるのよ。あなたたちは新進気鋭のパーティーなんだから、ちょっとくらい贅沢しても、構わないじゃない」

「いやいや、お金は大事だからね。それで、どんな物件があるの?」

「そうね~、今、貸せそうなのは、3つあるわ。こことここと、そしてここね」


 彼女は地図を見せながら、物件の位置を示した。

 そのうち2つはわりと街の中であるのに対し、1軒だけが外縁部にある。

 ただし大通りには近いので、生活の便は悪くなさそうだ。


「ふ~ん、それぞれの家賃は?」

「それはこんな感じね」


 続いて見せられた情報によると、町の中の物件は月に銀貨300枚以上で、外縁部は月に150枚だった。

 日本円にすると、それぞれ30万円と15万円といったところか。

 それぞれ10人ぐらいが住める物件なので、それなりにお得なのだろう。


「やっぱり街の中心部は家賃が高いね」

「そりゃあ、そうよ。この街は迷宮を元にして、成り立ってるんだから」

「だよなぁ。金銭的には外縁部がいいけど、迷宮に通うのが面倒くさそうだな」


 俺がそうつぶやくと、ガルバッドから提案があった。


「それならば、馬車を買わんか? ゼロスにかせれば馬もいらんし、楽に通えるじゃろう」

「ああ、その手があったか。どう思う?」


 他の仲間に意見を聞いてみると、皆それでいいと言うので、さっそく外縁部の物件を見に行くことにした。

 ステラに付き添ってもらい、ギルドの馬車で現地へ向かう。

 すると5分ほどで現地へ着いた。


「さあ、ここよ」

「へ~、けっこう大きいね」

「パーティーに貸すことが前提だから、どこもこんなものよ。でもここは迷宮との位置関係を除けば、好物件だと思うわ」


 そう言って紹介された家は、たしかに悪くない感じである。

 そこは3階建ての石造りの家で、なかなかの広さがあった。

 1階には大きなリビングにキッチン、小さな客間にトイレ、シャワーを浴びる水場がある。


 裏手の方には倉庫もあるので、馬車はここへ置けばいいだろう。

 2階と3階にはベッドが2つずつ入った部屋が6つあり、12人が暮らせる環境だ。

 ひと通り見て回ると、ニケが興奮した面持ちで感想を語る。


「ここ、いいでしゅ。みんなと、くらしたいでしゅ」

「ああ、想像以上にいいな。これで金貨1枚半なら、文句ないよ」

「そうでしょ。ちょ~っと迷宮に遠いのが難だけど、足があるなら問題にならないわよね。契約する?」


 ステラの質問に、念のため仲間の反応を確認すると、皆がうなずいている。


「うん、ぜひお願いするよ」


 こうして俺たちは、新たな拠点を手に入れた。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 家を借りる契約を済ますと、次は馬車の購入だ。

 最も近い馬車屋へ行き、店の前をウロウロしてたら、店員が寄ってきた。


「いらっしゃい。馬車をお探しで?」

「ああ、そうなんだ。こいつに牽かせる車で、10人くらい乗れるのってないかな?」

「ほう、駄獣をお持ちですか。なかなか立派な魔物ですね。これなら、わりと軽めのやつで……」


 そう言いながら、店員が商品を探しにいく。

 今のゼロスは、ヒグマぐらいの大きさに成長している。

 その体格から比較的、軽量なタイプを探しているようだ。

 やがて店員から声が掛かり、店の裏手に案内される。


「これがちょうどいいんじゃないですかね。中古ですけど、まだまだ使えますよ。値段は金貨15枚ってとこですね」


 それは屋根の無い4輪の乗用馬車で、鉄部品も使用された頑丈そうなものである。

 車軸部分には板バネのサスペンションらしきものも見えるので、乗り心地にも期待できそうだ。

 荷台部分には向かい合わせでベンチシートが付いていて、詰めれば8人ぐらいは座れるだろう。

 大きさは御者台を含めた長さが2.5メートルで、幅1.5メートル、高さ1.2メートルといったところか。


 金貨15枚というと、日本で150万円ぐらいになるのだが、車だったらそんなものかと思えた。

 しかしガルバッドは店員を押しのけると、入念に馬車のチェックを始める。

 細部を見て回るだけでなく、バンバン叩いたりして、強度も確かめているようだ。

 やがて彼は店員に向き直ると、いい笑顔で商談を始めた。


「まあまあの馬車じゃが、ガタがきとる部分もある。金貨15枚は、ぼりすぎではないか?」

「ええっ、そんな言いがかり、困りますよ。これなら15枚が、相場ってもんです」

「ほ~、そうか。しかしここなんか、もうじき壊れるんじゃないかのう」


 強気な店員にもお構いなしに、ガルバッドはその商品の欠陥をあげつらっていく。

 やれここが壊れかけているだの、やれここに傷が付いているだのと、あれこれ不備を指摘された店員はタジタジだ。

 さすがに自分の手には負えないと考えた店員が、上司、おそらく店長を呼び出し、丁々発止の値段交渉が展開された。

 やがて観念したように、店長が最終値段を告げる。


「ええいっ、それなら金貨12枚! これ以上はまからんぞっ!」

「うむ、そんなもんかのう。良い商談ができたわい」

「こっちはあまり良くないがね……」


 あまり機嫌の良くない店長に代金を払い、俺たちは店を後にする。

 ゼロスをつないだ馬車、もとい竜車に乗り、街の中を流してみた。


「あんなに値切ったりして、大丈夫なの? ガルバッド」

「何がじゃ?」

「いや、だから故障した時の修理とか、吹っかけられるんじゃないかな?」

「ああ、それなら心配無用じゃ。儂が手を入れるからの。すぐに新品同様にしてやるわい」

「……ガルバッドは馬車も直せるの?」

「もちろんじゃ。あいつらには悪いが、あまり儲けさせてやるつもりはないぞ。フヒヒッ」


 彼いわく、馬車屋はその修理も重要な収入源になっているらしい。

 しかしガルバッドにはほとんど直せるので、あそこにお世話になることもないだろう、と。

 なんかちょっと、馬車屋に同情したくなるような話だった。

 まあ、俺たちにとっては、ラッキーなことだと思っておこう。

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