40.正式加入
6層で1泊した俺たちは、翌日も守護者部屋を目指して出発した。
チョコチョコ出て来る暗殺蟷螂を倒しながら、迷宮の奥へと歩を進める。
そうして十分に余力を残した状態で、守護者部屋の前へたどり着いた。
「さて、割り振りはどうしようか?」
「そうですね。前回はニケさんが手下を引きつけている間に、私たちでクイーンを倒しました。今回はルーアンとメシャに、手下を引きつけてもらえばいいのでは?」
「う~ん、それでもいいけど、彼らにはクイーンを倒して欲しいかな。肉体の強化度を上げて欲しいんだ」
「ふむ、実技試験のためにも、その方がいいですか。それではニケさんとガルバッドで、1匹ずつマンティスを引き受けてもらえますか?」
魔物を倒すことによる生命力の獲得は、同じ空間内にいれば可能となる。
しかしやはり強敵を倒せば倒すほど、その成長度も高いものとなるのだ。
俺とアルトゥリアスの提案に、ニケとガルバッドが快く応じる。
「まかせる、でしゅ」
「儂もかまわんぞ」
するとルーアンが申し訳なさそうに、頭を下げる。
「おいしいところを任せてもらって、悪いな。この礼は、7層からの働きで返すつもりだ」
「アハハ、ごめんねえ。ちゃんと働くからぁ」
生真面目なルーアンとは対照的に、メシャがおどけてみせる。
彼女はちゃんと仕事はこなすので、さほど気にも掛からないが、必要以上に軽く振る舞っているように見える。
彼女なりに事情はあるのだろうが、そのうち話してもらいたいものだ。
そんなことも考えつつ、俺は号令を掛けた。
「よし、それじゃ行こうか」
「「おう」」
準備を整えて守護者部屋へ踏み入ると、奥の方に敵が現れた。
この部屋の主であるクイーンマンティスと、そのお供たちである。
『突風』
いきなりアルトゥリアスが風魔法を敵に叩きつけた。
ただし今までの突風とは違い、風精霊が敵前まで飛んでぶっぱなしているので、従来とは密度も速度も段違いに上だ。
いきなり強風を浴びて怯んだところに、ニケとゼロス、そしてガルバッドが、お供に向かって襲いかかった。
お供の邪魔が無くなったところで、俺たちはクイーンに仕掛ける。
『大地拘束』
「キシャーッ」
クイーンの足元が陥没して、4本の足のうち2本を絡め取る。
敵は必死に暴れて足を引き抜こうとしたため、そこに大きな隙ができた。
『減圧回廊』
「キシャッ」
そこへ超高速の矢が飛んで、クイーンの胴体に突き立った。
苦鳴を上げてひるんだ敵に、今度はルーアンとメシャが飛びかかる。
ルーアンの曲刀と、メシャの短剣が、クイーンの足をえぐる。
クイーンの方も負けじとカマを振り回すが、俺とアルトゥリアスの援護もあって、有効打にならない。
その隙をかいくぐって、ルーアンたちがさらに攻める。
彼らもずいぶんと、張り切っているようだ。
そんな攻撃を5分ほども続けていると、とうとうクイーンが膝を折った。
すでに満身創痍な敵の頭部に、ルーアンがとどめを刺し、クイーン戦は終了する。
「よし。メシャとアルトゥリアスは、ガルバッドの援護に。俺とルーアンはニケを援護だ」
「「了解」」
休む間もなく、お供たちを引きつけていた仲間の援護に入る。
それまで防御と回避に専念していたとはいえ、ニケたちの疲労もそれなりだ。
俺はすかさずニケの相手に対し、術を行使した。
『大地拘束』
「ありがと、でしゅ」
「俺も助太刀するぜ」
動きの止まったマンティスに、すかさず反撃するニケ。
さらに応援に入ったルーアンも加わって、猛然と反撃を開始した。
おかげでクイーンよりはるかに弱い敵は、ほんの2,3分で地に崩れ落ちる。
当然、ガルバッドの方もすぐに片がついた。
「ふう、あんたら、本当に強いんだな。こんなにあっさりと勝っちまって、申し訳ないぐらいだ」
「アハハ、そりゃあ、すでに4人だけで倒してるからね」
「クエ~」
「ああ、ゼロスも一緒だったな」
すかさず抗議の声を上げるゼロスをフォローしてやると、笑いが巻き起こる。
「プククッ、まったく。さっきまでの緊張が、嘘みてえだ。だけどこれを俺の実力だと勘違いしちゃあ、いけねえんだろうな」
「そうそう。私たちは寄生してるだけだからね。自惚れてちゃ、駄目よん」
「自惚れてねえって。とにかくあんたらには、感謝してる……ところで俺たちは、パーティーメンバーとして合格なのかな?」
ちょっと遠慮気味に訊くルーアンに対し、俺はにこやかに答えた。
「もちろんさ。実力も人柄も、問題ないと思ってるよ。な?」
「もちろんでしゅ」
「ええ、問題ありませんね」
「うむ、これからもよろしく頼むぞ」
「クエ~」
俺の問いに、他のメンバーも快く同意していた。
これで今後の探索にも、目処がつきそうだ。
「さて、とっとと魔石を回収して、地上へ戻ろう」
こうしてルーアンとメシャの加入も正式に決まり、俺たちは意気揚々と地上へ引き上げた。
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地上へ戻ると、ギルドで報告と実技試験の申込みをしてから、酒場へ移る。
「それじゃあ、ルーアンとメシャの正式加入を祝って、乾杯!」
「「「かんぱ~い」」」
すると勢いよくジョッキを空けたルーアンとガルバッドが、満足の声を上げる。
「プハ~ッ、今日の酒は格別だな」
「フハハッ、そうじゃろう、そうじゃろう。なにしろ、中級冒険者に手を掛けたんじゃからのう」
「ああ、まだ試験をこなさなきゃいけねえけど、望外の状況だ。あんたたちには、本当に感謝している」
そう言ってまた、ルーアンが頭を下げる。
「もういいって。俺たちの方こそ、いい仲間が増えたって、喜んでるんだ」
「そうだよ、兄貴。そんなに卑屈にならなくってもいいじゃん」
「馬鹿いえ。こういうのが大事なんだぞ、世の中は」
「まあまあ。それにしても、なんでルーアンは、俺たちに声を掛けたの? それだけの腕があれば、他のパーティーにも入れただろうに」
放っておくとケンカになりそうなので、以前から気になっていたことを訊いてみた。
実際、彼らほどの腕があれば、引く手数多だと思っていたからだ。
「ん、まあ、それはそうなんだがな……」
ルーアンは言葉を濁しながら、メシャを見る。
するとメシャが軽い感じで、話を続けた。
「アハハ、実は私、男が苦手なんだよねぇ。かといって女ばかりのパーティじゃ、今度は兄貴が困るじゃん。どうしようかって悩んでたところに、あんたらを見かけたってわけ」
「ふ~ん、でも俺たちだって、ほとんど男だぜ」
「そうだけどさ、こんな小さな子が、楽しそうに笑ってたんだよ。きっと悪い人たちじゃないって、そう思ったの」
メシャはそう言いながら、ニケの頭を撫でる。
するとニケは満足そうに胸を張り、こう言ってのけた。
「せいかい、でしゅ。タケしゃまは、とてもいいひとでしゅから」
「アハハ、そうだね~」
にこやかに笑うメシャを横目に、ルーアンが後を締めた。
「まあ、そういうことだ。だからこれからも、よろしく頼む」
「こちらこそ……あ、そうだ。この際だから、家を探してみないか?」
せっかくなので前々から考えていたことを、提案してみた。
するとガルバッドが食いついた。
「おお、それはいい考えじゃな。モノ作りがしやすくなる」
「うん、それもあるね。だけど一番の理由は、ゼロスなんだ。最近、離されて、寂しそうだから」
「ああ、それもそうじゃな」
最近はゼロスがでかくなり過ぎて、宿にも酒場にも入れない。
夜は厩舎に預けるのだが、寂しそうに鳴かれるのが辛い。
「それならいいんじゃねえかな。宿代だって、安くなるだろうし」
「だよね。それじゃあ、明日の試験が終わったら、探してみようか」
「賛成賛成~」
こうして意見はまとまり、俺たちは家を借りることにした。




