39.兄妹の実力
猫人の兄妹、ルーアンとメシャが、パーティーに加わることになった。
ルーアンの方は身長が175センチほどで、スラリとした細身だが、鋼のような筋肉を持つ若者だ。
一方のメシャは身長165センチほどで、やはり細身だが女性らしい柔らかなラインが艶っぽい。
2人ともオレンジ色の髪に緑色の瞳を持つ、美男美女である。
しかしルーアンが真面目で一本気な雰囲気を持つ反面、メシャは妖艶で小悪魔的な雰囲気を醸し出していた。
その戦闘力は未知数だが、待望の新戦力である。
結局、彼らを受け入れることに決まり、その実力を確認するため、翌日には迷宮の浅い層へ潜っていた。
「おりゃっ!」
「邪魔よ~ん」
さっそく出てきた4匹のゴブリンを、2人が余裕で瞬殺してのける。
どうやら想像以上の手練れだったらしい。
「なかなかやるじゃないか、2人とも」
「まあ、しょせんはゴブリンだからな」
「そうそう。故郷の森でも、魔物はさんざん相手してきてるし~」
ルーアンとメシャは、この国の北部に広がる山岳地帯からやってきたらしい。
そこには魔素の濃い森が広がっていて、魔物の数も多いんだそうな。
「ふ~ん、なんでまたこの町に来たの?」
「あ、ああ、それはな……」
「アハハッ、田舎暮らしに飽き飽きしたに、決まってるじゃない。人付き合いとか、ちょーめんどいんだよね」
言葉を濁すルーアンに対し、メシャはあっけらかんと事情をばらした。
ルーアンは他にも何か言いたげだったが、それ以上は言わなかった。
何か事情がありそうだったが、無理に聞く必要はないと思い、俺も追求を控える。
必要があれば、いずれ話してくれるだろう。
その後もズンズンと下層への道を突き進み、コボルドやワーウルフの群れに遭遇する。
その間、ルーアンたちは常に先頭に立ち、積極的に敵を倒してくれた。
さすがに3層では手を貸したが、ほとんど大過なく守護者部屋へたどり着いてしまう。
「それじゃあ、せっかくだから、このまま守護者を倒しちゃおうか」
「ああ、俺は構わないぜ」
「私もいいよ~ん」
アルトゥリアスたちにも確認を取ると、そのまま守護者部屋へ突入した。
すでに守護者戦を突破した者だけでは何も出ないが、今回は未突破のルーアン、メシャがいるので、リーダー率いる3匹のワーウルフが姿を現す。
すると事前に打ち合わせたとおり、ニケ、ルーアン、メシャが敵に向かっていった。
俺とアルトゥリアスは一応、飛び道具を手にしていたものの、ほぼ見物気分だ。
実際問題、3人の戦いは余裕そうだった。
ルーアンがリーダーを相手に戦いはじめると、ニケとメシャが残りを1匹ずつ相手取る。
ルーアンは片刃の曲刀と盾を上手く使い、リーダーと正面から殴り合った。
その技はお上品とはいえないが、それなりに洗練されており、敵の攻撃を受けることなく、追い詰めていく。
一方のメシャは2本のナイフを両手に持ち、すばやく動き回りながら斬りつける。
こちらも敵の攻撃を一度も受けることなく、ダメージを与えていた。
やがてルーアンがリーダーを討ち取った頃には、メシャも相手を倒していた。
もちろん我らがニケは、それよりもずっと早く決着をつけていたりする。
そんな彼らを、手を叩きながらねぎらった。
「お疲れさん。見事な戦いだったよ」
「フウッ、フウッ……あいにくと、ニケには、敵わなかったがな」
「そうそう、ニケちゃん、速攻で倒しちゃうんだもん。驚いたぁ」
「アハハ、こう見えても彼女は、6等級だからね。でもルーアンたちも、すぐに追いつけるでしょ」
そう言う俺に、ルーアンとメシャは戸惑いを隠せない。
「こんなに小さな子が6等級って、本気だったんだな」
「ていうか、見習いにすら見えないんだけど」
するとニケは、自慢げに自分の冒険者証を掲げてみせる。
「あたしはこれでも、10さいでしゅ。3そうのしゅごしゃ、たおしたから、ぼうけんしゃ、なったでしゅ」
「ああ、見習いからの飛び級昇格か。まあ、さっきの戦闘力を見せられれば、納得だな」
「すご~い。私たちの先輩だね?」
「せんぱい、でしゅ」
ルーアンたちに認められると、ニケは尻尾をフリフリさせながら、胸を張っていた。
ずいぶんとご機嫌のようだ。
そんなやり取りを経て地上へ帰還すると、俺たちはいつもの酒場で祝宴を開く。
「それじゃあ、2人の昇格を祝って、乾杯」
「「「かんぱい」」」
ニケ以外のメンバーがビールのジョッキを空けると、ルーアンが感慨深そうに息を吐く。
「ああ、酒が美味い。それにしても、こうも早く8等級へ上がれるとは、思わなかったな」
「ほんとほんと。タケアキたちには、感謝だね~」
「いやいや、2人に実力があったからこそさ」
迷宮から戻ってすぐ、ルーアンたちが3層守護者を倒したことをギルドに申告すると、その場で実技試験が準備された。
今回は俺たち中級冒険者が同行していたので、ルーアンたちの実力を確かめる必要があったからだ。
しかしルーアンとメシャは難なくそれをクリアし、晴れて8等級へ昇格できたというわけだ。
「まったくじゃ。この調子なら6等級に上がるのも、そう遠くはないじゃろう」
「いや、さすがに中級に上がるには、それなりに時間が掛かるんじゃないか? 仮にあんたらの支援で守護者は倒せたとしても、実技試験があるからな」
そんな謙虚なルーアンを、アルトゥリアスが力づける。
「いいえ、ルーアンの実力であれば、中級ぐらいは行けると思いますよ。実技試験のコツについては、後で教えてあげましょう」
「ウハッ、マジで。これなら数日で中級までいけちゃう~?」
「メシャ、そんなに甘いもんじゃないぞ。すいません。こいつはノリが軽くて」
アルトゥリアスの言葉にメシャがおどけてみせると、ルーアンがまじめな顔で諭す。
どうやら彼は、けっこうな苦労性のようだ。
そんな彼を励ますように、俺も言葉を掛ける。
「いやいや、向上心が強いのは、悪いことじゃないでしょ。この調子でバリバリ行けばいい」
「いや、そういう浮かれたのは、早死にするんだ。いずれにしろ、これからもよろしく頼むよ」
「こちらこそ」
「よろしく、でしゅ」
有望な仲間ができたことから、その晩の酒はひどく美味かった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
翌日も朝早くから、迷宮へ挑む。
さすがに4層以下では1日で守護者部屋へ行けるとも思わないので、しっかりと夜営の準備もしている。
そのうえで4,5層と、慎重に探索をしていった。
しかしそこは4人と1匹で、すでに攻略済みの道だ。
そこに2人の腕利きが加われば、そう苦労することもない。
ソルジャーアントとキラービーを、大過なく倒しながら、夕刻には6層へたどり着いていた。
そして外縁部で適当な場所を見つけると、夜営の準備に取り掛かる。
「しっかし、本当に1日で6層まで来ちまったな。腕利きのパーティーだって噂は、冗談じゃなかったんだ」
「何、兄貴。タケアキたちのこと、疑ってたの~?」
「いや、そういうわけじゃないだが……」
ルーアンは口ごもりながら、チラリとニケを見る。
するとニケが胸を張りながら、言い返した。
「うちには、タケしゃま、いるでしゅ」
「あ、ああ。たしかにタケアキの魔導砲は、凄いと思う。なんていうか、本当に変わってるな、このパーティーは」
「そうだよね~。おまけにニケちゃんはかわいいくせに、ちょ~強いしさ~」
「そんなこと、ないでしゅ」
メシャに持ち上げられたニケは、謙遜しつつも尻尾がフリフリ揺れていて、まんざらでもなさそうだ。
その後も会話が弾み、夜は和やかに更けていった。




