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迷宮へ行こう ~探索のお供はケモミミ幼女~  作者: 青雲あゆむ
第3章 中級冒険者編

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38.猫人の兄妹

 新たな精霊術を身に着けた俺たちは、7層の前半部分を順調に探索していった。

 ただし戦法を考え直すためもあって、主要経路以外の外縁部も、丹念に探索していく。

 その過程でまた薬草を見つけたり、ミスリルなどの鉱石も発見できているので、稼ぎもなかなかのものだ。

 しかし7層の後半に入った辺りから、急に難易度が上がった。


「うわっ、また出てきた。みんな、迎撃だ」

「せわしいのう」

「まったくです」

「うっとうしい、でしゅ」

「クエ~」


 新たに遭遇した10匹ほどの影狼シャドーウルフに、俺たちは対応する。

 さすがにこれだけいると、ニケとガルバッドは防戦一方だ。

 彼らが前線を支えている間に、俺とアルトゥリアスが後方から攻撃を放つ。


 数が多いので俺は散弾をぶっぱなし、アルトゥリアスが弓矢でとどめを刺すのが最近のパターンである。

 それでも手が足りなくて、前衛を抜けようとする敵を、ゼロスが食い止めてくれたりする。

 最近のゼロスはイノシシよりも大きくなり、鼻の上の角も立派な武器になっていて、なかなかに頼もしい。


 しかし大きくなったおかげで、問題も出ていた。

 ゼロスは清潔で賢いため、今までは宿への連れ込みも大目に見られていたのだが、とうとう断られてしまった。

 仕方なく近くの厩舎に預けているのだが、悲しそうな声を出されるのが辛い。

 なのでいずれは、彼も一緒に住める家を探そうと思っている。


 数分後、みんなの奮戦でなんとか敵を撃退したものの、俺たちは疲労困憊ひろうこんぱいだった。


「ウハ~、つっかれたな~」

「ほんと、でしゅ」

「たしかに、少々しんどいですね」

「……」

「クエ~」


 1,2回ぐらいならまだしも、何回も続けて襲撃を受けると、さすがにうんざりする、

 俺たちは地面にへたり込んで、動く気にもなれなかった。

 特に多くの敵を引き受けていたガルバッドは、言葉も出ないほどだ。


「ませき、とるでしゅ」


 しかしいつまでも休んでいると、魔石が迷宮に取り込まれてしまう。

 それを心配したニケが、真っ先に動きだした。

 さすがに幼女だけに頼るわけにもいかず、俺とアルトゥリアスも重い腰を上げる。


「う~、しんどい」

「めんどう、でしゅ」


 愚痴を言いながらも、俺たちはシャドーウルフの胸を切り開き、魔石を回収していく。

 この魔石は1個で銀貨7枚にもなるので、捨てるにはあまりにも惜しい。

 なんだかんだ言って、今日の収穫はすでに40個を超えるので、金貨3枚近い収益だ。

 ひと通り魔石を回収すると、俺たちは改めて地面に腰を掛け、休憩を取った。


「しっかし、なんでこんなに多いのかね? シャドーウルフは」

「元々、集団型の魔物なので、こんなものでしょう。迷宮は下へ行けば行くほど、敵が厄介になるのも常識ですし」

「それはそうなんだけどね~……そういえば他のパーティーは、どうやって対処してるのかな?」


 ふと気になった疑問を口にすると、ガルバッドが教えてくれた。


「さすがに7層以下に潜るパーティーは、フルメンバーで潜っとるぞ。うちはゼロスを入れても半分じゃからの。しんどいのも当然じゃ」

「結局そこに行き着くのか……だけどよく10人ものメンバーを、統制できるもんだよね」


 するとアルトゥリアスが苦笑しながら言う。


「他のパーティーも、決して楽ではありませんよ。メンバーが多いほどトラブルも起きますし、信頼できる者を見つけること自体が難しいですからね。まあ、それを乗り越えたものが、一部の上位パーティーとして君臨できるのでしょう」

「なるほどねえ……なんにしろ、今日はもう帰ろうか」

「ええ、その方がよさそうです」

「さんせい、でしゅ」

「賛成じゃ」

「クエ~」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 その後はほとんど魔物にも遭わず、地上へ帰還することができた。

 そして早めの夕食を兼ねていつもの酒場へ入り、酒を飲みはじめる。


「プハ~ッ、五臓六腑に染み渡るな」

「ああ、まったくじゃ」

「しみるでしゅ」


 もちろんニケはジュースだが、俺たちが揃って疲れを顕にするのを見て、アルトゥリアスが苦笑する。


「皆さん、お疲れですね。しかし人員不足をどうにかしないと、この先が思いやられます」


 するとそれを聞いていたのか、隣の席の客が話しかけてきた。


「なあ、あんたら。メンバーを探してるのか?」


 そう問いかけてきたのは、オレンジの髪が目立つ、獣人の男性だった。

 おそらく猫人族ねこびとぞくであろう彼は、同族の女性を連れていた。


「ああ、そうだけど、あんたらは?」

「俺はルーアン。こっちは妹のメシャ。最近、故郷から出てきたばかりの、冒険者だ」

「へ~。俺はタケアキだ」

「ニケでしゅ」

「アルトゥリアスです」

「ガルバッドじゃ」


 悪い奴ではなさそうだったので、こちらも名乗る。

 ちなみにゼロスは外で待機中だ。

 体がでかくなり過ぎて、とうとう店にも入れてもらえなくなった。

 俺たちの反応を見て、ルーアンがほっとした顔をする。


「良かった。あんたらはやっぱり、差別しないんだな」

「差別?」


 俺の疑問には、アルトゥリアスが答えてくれた。


「ここは人族中心の国ですからね。実績の無い獣人などは、相手にされない場合が多いのですよ」

「ああ、そういうことか。まあ、別に名乗るぐらい、どうってことないだろ?」


 しかしルーアンは苦笑しながら続ける。


「いや、そうでもないんだ。ほとんどの奴らは、口も聞いてくれないんだぜ。寄ってくるのは、俺たちからむしろうと考えてる、悪党ぐらいのもんさ」

「ふ~ん、大変だね。それで、何か用?」

「ああ、実は俺たちも、仲間に入れてくれるパーティーを探してるところなんだ。良ければ、お試しで使ってみてくれないかな? 最初の分け前は、食い扶持ぶちだけで構わない」


 ルーアンは真剣な顔で頭を下げる。

 俺は突然の売り込みに戸惑い、なんとなく妹の方に目をやると、彼女はにっこりと笑いながら、ウインクをしてきた。

 ちょっと吊り目がちでキツそうだが、なかなかに魅力的な女性ではある。

 そんな彼女の行動にドギマギしつつ、俺はアルトゥリアスたちに話を振った。


「み、みんなは、どう思う?」

「私は悪くないと思いますよ。とりあえず浅い層で、実力を見ればよいのでは?」

「そうじゃな。儂も反対はせんぞ」


 そこでニケに目をやると、なぜか彼女は毛を逆立てて怒っていた。


「お、おい、ニケ。どうしたんだ?」

「タケしゃまに、いろめつかったでしゅ」

「なんでそれをお前が怒るんだよ……」


 予想外の答えに呆れていると、妹の方が喋る。


「あら、ごめんね。お嬢ちゃんの大事な人なんだね。私は手を出さないから、許して欲しいな~」

「なんかしんよう、できないでしゅ」


 ジト目のニケが、妹の方をにらんでいる。

 俺は苦笑し、ニケをたしなめようとすると、ルーアンとメシャの胸元が、キラキラと光るのが目に入った。

 ああ、これは当たりみたいだな。

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