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迷宮へ行こう ~探索のお供はケモミミ幼女~  作者: 青雲あゆむ
第3章 中級冒険者編

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34.精霊との親和度

 アルトゥリアスの説得に成功したので、翌日から魔法の改良に取り組んだ。

 いつもの川のほとりで、まずは改良の方向性を探る。


「さてと、まずアルトゥリアスは、どんな風に改良したいと思う?」

「そうですね。可能であれば、攻撃能力を高めたいですね。現状は敵の牽制と、防御くらいしかできていませんから」

「まあ、そうだよね。弓矢を混じえての攻撃はあるけど、それだけじゃ心許ない」

「ええ、多少、威力と精度が上がるぐらいですからね」


 アルトゥリアスは最近、風魔法の応用で弓射の威力を増していた。

 具体的には俺のアドバイスで、矢の前方の気圧を下げ、少しでも抵抗を減らすようにしている。

 これで多少は矢の威力が上がったが、効果を及ぼせる範囲などせいぜい数メートルに過ぎず、劇的な変化には至っていないのが実情だ。


 その他にも空気分子や気圧という概念を知ったことで、『突風アスファ』や『圧空障壁ハワ・ジダール』の威力は増している。

 特に『突風アスファ』なんかは、ただの強い風だったのが、ちょっとした打撃程度の威力にはなっていた。

 とはいえ、やはり距離による減衰は避けられず、有効射程は10メートルぐらいでしかない。


「う~ん、難しいよね。過去の賢者なんかは、特別な方法を残してたりしないの?」

「数百年も生きた賢者が、嵐のような術を行使したとは聞きますね。仮に実現できても、迷宮内では使いにくいですが」

「ああ、例の”精霊暴走”みたいな感じね……」

「しんじゃう、でしゅ……」


 数百歳の賢者でもその程度とは、期待はずれである。

 エルフもわりと脳筋なのだろうか。

 そんなことを考えていたら、自分のことについて話しているのを感じたのか、風精霊シェールが姿を現した。

 ちょっと透けた美少女が、優しそうに微笑んでいる。


「あ、そうだ。例えばシェールを先に送り出したら、そこで魔法を行使できないかな?」


 そこでふっと思いついたことを提案してみたら、アルトゥリアスが眉をひそめながら訊き返す。


「どういうことです?」

「術を行使するのは精霊なんだよね? だったら精霊を遠くへ送り出して、そこで現象を起こせばいいじゃない?」


 なんでこんなことを思いつかなかったのか、不思議な話だ。

 しかしアルトゥリアスは全く違う意見のようで、真面目な顔で否定する。


「そんなこと、できるわけないじゃないですか。たしかに事象を改変しているのは精霊ですが、その起点になるのは、あくまで術者なのです。だから術者から離れた時点で、術は行使できません」

「え~、そうかなぁ? 少しぐらい離れていても、経路パスさえつながってれば、使えそうなもんだけど……試しに俺がやってみるよ。ガイア」


 俺の呼び出しに応え、今度は地精霊ガイアが現れる。

 黒髪に鳶色とびいろの瞳の美少女が、無邪気な顔を俺に向けてくる。


「あのさ、ガイア。あの石の所へ行って、それを持ち上げてみてくれないかな? 俺はここから魔力を送るから」

「??」

「やっぱり一発じゃ通じないか。実はこうしたいんだ」


 俺は身ぶり手ぶりをまじえて、ガイアにやりたいことを伝えた。

 するとようやく理解できたのか、彼女は大きくうなずくと、地面に消えていった。

 それを見た俺も地面に手を当て、彼女の居場所を探る。

 すると10メートルほど先の岩の下で、すでにガイアが待機しているのが感じられた。


「よ~し。それじゃあ、地中から土の柱を出して、石を持ち上げてみるよ」


 地面に当てた手から、土柱のイメージと魔力をガイアに送ると、目標の石がグラグラ動きはじめる。

 するとバレーボールほどの石が、土の柱によって30センチほど持ち上がった。


「うん、上手くいったな。こんな感じでシェールにも、お願いできないかな?」


 思惑どおりにできたことに満足を感じながら、アルトゥリアスにも同様のことを提案してみる。

 しかし彼は、想像以上に驚いていた。


「な、なんということをするんですか。そんなことは、絶対にできないはずだ!」

「ええっ、なんで、できないのさ。現実にできたじゃん」


 彼の態度に違和感を感じて首を傾げていると、ガルバッドが補足してくれた。


「いや、精霊術でそんなことができるとは、儂も聞いたことがないぞ。魔術も精霊術も、術者が魔法の起点になるのが、常識なんじゃ」

「でもできたんだから、そういうことでしょ? 俺からすると、思い込みが強すぎて、今まではできなかったんじゃないかな?」

「思い込みですって?」


 アルトゥリアスが意表を突かれたという顔で、問い返す。


「そう、精霊術はこういうもんだっていう、思い込み」

「いや、しかし精霊に魔法を使わせようという試みは、すでにされているのです。それは私だけでなく、過去の精霊術師もさんざん研究してきました。その結果、術者を介さない魔法は成立しない、との結論に至っています」


 何かを冒涜されたかのような勢いで、アルトゥリアスが力説する。

 だけど俺も引き下がるわけにはいかない。


「ふ~ん。まあそれくらいは、研究するだろうね。だけどそこに何かが足りなかったとしたら、どう?」

「一体、何が足りないと言うのですか?」

「そんなの、俺も知りたいよ……とりあえず思いつくのは、精霊との親和度かな?」

「親和度? 私とシェールの親和度が、低いとでも言うのですか? もう契約して50年にもなるんですよ!」


 珍しく声を荒げるアルトゥリアスに、俺も挑戦的に返す。


「さあ? でも俺とガイアほどの関係を築けてるとは、思えないけどな」

「……また訳の分からないことを。ならばあなたは、どんなことをやっていると言うのですか?」

「しょっちゅう呼び出して、遊んでる。ついでに頭を撫でてやると、喜ぶよ」

「な……そんなことはやめなさいと、言ったではないですか」


 実を言うと、俺はニケにせがまれて、ちょくちょくガイアを召喚している。

 すると半実体化したガイアを相手に、ニケは遊び回るのだ。

 俺もそんな彼女たちを微笑ましく眺めながら、適度に相手をしている。


 最近はとうとう、ガイアの頭を撫でるまでになった。

 これはよくニケにしてやるのを見て、ガイアがせがんできたからだ。

 手に魔力をまとわせて撫でてやると、彼女は心地よさそうにしてるんだよな。

 しかしアルトゥリアスは、そんな真似はやめろと言うのだ。


「なんで精霊と仲良くしちゃいけないのさ? ガイアだって大事な仲間なんだから、大切にするのは当然だろ!」

「精霊とは、神聖で崇高な存在なのです。それを犬や猫のようにかわいがるなんて、間違ってます!」

「い~や、間違ってるのはアルトゥリアスの方だね。そういう間違った思い込みがあるから、精霊術は進歩しないんだ!」


 アルトゥリアスがあまりに頑固なので、俺も大声で返してやった。

 すると見かねたガルバッドが、割って入る。


「待て待て! ケンカをしてどうする。2人とも少し、頭を冷やさんか」

「クッ、私は冷静です」

「本当か? 儂にはタケアキの言うことに、分があると思ったがのう」

「あたしも、そうおもう、でしゅ」


 ガルバッドどころか、ニケにもダメ出しされ、アルトゥリアスが悔しそうな顔をする。

 普段は冷静な彼にしては、珍しいことだ。

 たぶん精霊術が絡むと、あまり冷静ではいられないのだろう。

 そんな彼を見ていたら、俺も気持ちが落ち着いてきた。


「……あのさ、今までに精霊をかわいがって、何か悪いことでもあったの?」

「……いいえ。それは聞いたことがありませんね。そもそも、まともなやり取りができるのは、中位精霊以上です。以前も言ったように、中位以上の精霊との契約は、よほどの幸運が無ければ実現しません。そんな契約対象に対して、失礼なことはできなかった、というのが実情でしょう」

「あぁ、やっぱりそうなんだ。だったら俺のやってることが、間違ってるとは限らないんだよね?」

「……そうなりますね」


 アルトゥリアスが渋々といった感じでうなずく。

 俺は偉そうな言い方にならないよう注意しながら、改めて提案をしてみた。


「それならさ、アルトゥリアスもシェールと、仲良くしてみてよ。そのうえで離れた所で術が行使できれば、それは凄いことじゃないか」

「……少し、考えさせてください」


 あいにくと即答は得られなかったが、考える余地はあるらしい。

 願わくば、なるべく早く方針を転換して欲しいものだ。

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