32.6層突破
俺たちは6層守護者のクイーンマンティスを打倒するため、戦力強化に取り組んでいた。
俺はガルバッドを巻き込んで魔導砲を強化し、アルトゥリアスとニケは自身の魔法を磨く、といった具合だ。
そして試行錯誤の結果、とうとう新しい魔導砲が完成した。
「よし、これで完成じゃ」
「ようやくだね。だけどこれもほんと、ガルバッドのおかげだよ」
「いやいや、タケアキがいなければ、儂は思いつきもせんかったぞ」
「できた、でしゅか?」
「ああ、できたぞ」
ガルバッドが最後の細工をした魔導砲の下に、仲間が集まってくる。
新型砲の形は、今までどおりM79グレネードランチャーに似たものだ。
しかしそれまでよりも細かい部品が増え、より現代兵器っぽくなっている。
その最大の特徴は、砲身の後端についた撃鉄だ。
下側に付いたトリガーを引くと撃鉄が落ち、グリップに内蔵された魔力タンクと火成石を、連結するスイッチの役目を果たす。
すると火成石に流れ込んだ魔力が一気に爆発し、弾を撃ち出すという仕組みだ。
今まで同様に弾丸を先込めする必要はあるが、薬莢部分は不要なので、アルトゥリアスの力を借りなくても済む。
さらに持てる弾数も増えるので、戦闘力は格段に高まるのだ。
これならば、クイーンマンティスに勝つ目もあろうというものだ。
「あたしも、つよくなった、でしゅ」
「フフフ、私もですよ。タケアキの助言のおかげですけどね」
「いやいや、2人でがんばったおかげだよ」
俺の新しい武器を見ながら、ニケとアルトゥリアスも自信ありげな顔を見せる。
俺が魔導砲改良しているうちに、彼らも魔法の改良に成功しているのだ。
ニケは身体強化、アルトゥリアスは風魔法だが、俺のアドバイスも役立ったらしい。
具体的にニケには、人間の身体構造をレクチャーし、効率的な強化方法を考えさせた。
最初は頭から湯気を上げてるような有様だったが、地道な説明が功を奏したのか、それまでの感覚頼りの身体強化から、合理的な強化へと進化した。
これによって身体強化魔法は1段進化し、ニケはより強い力と速さを手に入れている。
そしてアルトゥリアスには、空気分子の概念と、風の原理を説明した。
元々理論的なアルトゥリアスは、その内容を瞬く間に理解し、より効率的な魔法へと進化させた。
おかげで『突風』や『圧空障壁』の効果が高まり、大型魔物にも対抗できるようになっている。
ちなみにガルバッドも、魔導砲開発の合間に、自身の盾を強化していた。
そんな、それぞれの成果を前にして、みんなの視線が俺に集まる。
「これはいよいよ、じゃな?」
「うん、クイーンマンティスに挑もう」
「フフ、汚名返上のチャンスですね」
「やってやる、でしゅ」
「クエ~」
こうして俺たちは、再度のクイーンマンティス戦に向けて、闘志を燃やしていた。
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すっかり準備を整えると、俺たちは4層からまっしぐらに、6層守護者を目指した。
ただし念のため、6層でアサシンマンティスを相手に、成果を確認する。
『突風』
『疾風迅雷』
突如現れたマンティスを、アルトゥリアスが突風で打ちのめす。
さらにニケが矢のように飛び出し、その胴体に一撃を喰らわせた。
そのダメージに怯んだところに、新型の魔導砲を向ける。
――ズドンッ!
以前より低くなった爆音と共に、石の砲弾が放たれる。
それは見事にマンティスの腹部に突き刺さり、敵に悲鳴を上げさせた。
「『疾風迅雷』……『剛力無双』」
そしてその隙を見逃さず、ニケがマンティスに肉薄し、さらに新しく覚えた”剛力無双”で、あっさりと敵の頭を落としていた。
”剛力無双”は腕力を増す魔法で、その一撃が格段に強化されている。
「いやはや、儂の出る幕がなかったのう」
「アハハ、それはクイーンマンティスまでお預け、かな?」
「ええ、これからですよ」
出番がなかったことをぼやくガルバッドに、俺たちは慰めの言葉を掛ける余裕すらあった。
これならクイーンマンティスとも、ちゃんと戦えるだろう。
そんな手応えを感じていた。
その後も目の前に現れるマンティスを片付けながら、守護者部屋へと至る。
俺たちは万全の準備を整えると、その中へ踏み込んだ。
以前のように部屋の奥に光が灯ると、クイーンマンティスとその配下2体が姿を現す。
『疾風迅雷』
『突風』
「こっちは任せいっ!」
まず速度を上げたニケが、配下のマンティスに斬りかかる。
それを援護するように、アルトゥリアスが突風を放ち、ガルバッドは俺たちを守るように、盾を構えながら前へ出た。
するとそれを受けて立つように、クイーンマンティスが前へ出る。
その巨体からは想像もつかない速度で迫ったクイーンが、ガルバッドにカマを振り下ろす。
「今度は負けんぞ!」
しかしそのカマは、ガルバッドの構えた盾に阻まれる。
要所にミスリルや魔物素材を組み込んだことにより、盾の表面に魔力を流せるようになった成果だ。
すかさず俺は敵のどてっぱらに、石のスラグ弾をぶちかました。
――ズドンッ!
「キシャーッ!」
見事に胴体に突き刺さった弾が、クイーンに苦鳴を上げさせる。
その隙にガルバッドも、戦斧を敵の足に打ち込んでいた。
一方、クイーンの配下2体は、ニケ、ゼロス、アルトゥリアスに翻弄されていた。
ニケとゼロスが走り回って攻撃を加えると、風のように姿をくらます。
それを追おうとするマンティスには、アルトゥリアスが『突風』や『圧空障壁』で行動を阻み、さらに矢も撃ち込んでいた。
そんな彼らの姿に安心すると、こちらもクイーンへの攻撃を強める。
敵の攻撃はガルバッドが盾で防ぎ、俺がスラグ弾をぶち込む。
苛立ったクイーンが俺を追おうとすると、今度はガルバッドの戦斧がクイーンに叩き込まれた。
そんな、地道な攻撃が実を結び、とうとうクイーンが足を折った。
ただしその意識はまだまだ健在で、危険なカマを振り回している。
しかしそんな敵の状態に、俺は千載一遇の好機を見出した。
「チャンスだっ、ガルバッド。クイーンの動きを止めてくれ」
「おっしゃぁ、やったるわい!」
ガルバッドは盾を前面に構えると、そのままクイーンに向かって突進した。
その攻撃を受け止めることで、クイーンの動きが一瞬だけ静止する。
「これで、終わりだ。2倍弾!」
通常の倍の魔力を放出することで、ひと際強力に弾を撃ち出す。
その弾丸は見事にクイーンの喉に命中し、致命的な傷を与えた。
その後もしばしクイーンはあがいていたが、やがて力尽き、地上に崩れ落ちる。
「おしっ! クイーンを倒したぞ」
「すごいでしゅ。こっちもおねがい、するでしゅ」
「任せろ」
それまでなんとか2体のマンティスを押さえていたニケたちも、だいぶお疲れのようだ。
俺とガルバッドは休む間もなく、そちらの戦闘に介入し、短時間で2体を打倒する。
無事に戦闘を終え、安堵する俺の下に、小さな戦士が駆け寄ってくる。
「タケしゃま~、すごかったでしゅ」
「ああ、ニケもよく頑張ったな。大丈夫か?」
「これくらい、へいきでしゅ」
そう言って胸を張るニケを見ると、俺もとても誇らしい気分になってくる。
実際、この人数で6層の守護者を屠ったことは、異例の快挙のはずだ。
同時に俺たちは、中級冒険者へのキップを、手に入れたのだ。




