31.魔導砲の改良
「ブハアッ、死ぬかと思ったわい」
「やばかった、でしゅ」
6層の守護者、クイーンマンティスに挑んだはいいが、いきなりガルバッドの盾が切り裂かれた。
その想像以上の攻撃力にヤバいものを感じた俺は、早々に部屋の外へ逃げ出したのだ。
無事に脱出できた安堵感から、愚痴がこぼれる。
「しかしなんだよ、あれ? ガルバッドの盾が、まるで役に立ってなかったじゃん」
「うむ、あれはカマに魔力をまとっておるのう。魔物にも魔力を操るものがいるとは、聞いたことがあるが、実際に目にすると驚くわい」
「え、あれって、魔力と何か関係があるの?」
予想外の言葉について訊くと、アルトゥリアスが話を引き継いだ。
「そうですよ。魔力を上手く使えば、物理的な防御を無効化できるのですから」
「え~っと……具体的にどういうことかな?」
詳しく聞くと、魔力をまとった武器は、その攻撃力が大幅に増すらしい。
それはまとった魔力が局所的な魔法となり、防御側の物理法則を改変しているとかなんとか。
人間でも達人級になると普通に使える技で、一般的にそれは”魔闘術”と呼ばれているそうだ。
そして魔物の中には、それを実現するものもいるんだとか。
「なんだよ、それ。インチキじゃん」
「そんなの、ずるいでしゅ。ひきょう、でしゅ」
子供のように悔しがる俺たちを見ながら、ガルバッドとアルトゥリアスが苦笑する。
「いくらインチキと言っても、敵は手加減はしてくれんからのう」
「そうですね。何か、手を考えないといけません。とりあえず地上へ戻って、対策を練りましょうか」
「……くそう、6層の壁は、思った以上に高かったなぁ」
「くやしい、でしゅ」
「クエ~」
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その後は6層の地図を作りつつ、夕方までに地上へ帰還した。
魔石と素材を売り払ってから、また酒場で夕食を取りながら話をする。
「それにしても、クイーンマンティスの対策はどうしよう?」
「確実なのはメンバーを増やすことですが、それができれば苦労しませんね」
「まったくじゃ。なんだかんだ言って、このパーティーは精鋭ぞろいじゃからのう」
「せいえい、でしゅ。ハグハグ……」
「クエ~」
ガルバッドの指摘に、肉の丸焼きにかぶりついたニケが賛同する。
同時に声を上げてるゼロスは別として、たしかにこのパーティーは精鋭ぞろいだ。
俺とアルトゥリアスは中位の精霊持ちだし、ガルバッドは手堅い前衛をこなすし、モノ作りに長けている。
そしてニケは、見かけからは想像もつかないほど高速で動き回り、高い攻撃力を誇るアタッカーなのだ。
しかもこの世界では珍しい魔導砲を運用する関係上、信用できないメンバーは加えたくない。
しかし、今日見たクイーンマンティスは、今の状態では倒しようがなかった。
「そうなると、武具を見直すしかないかなぁ」
「ほう、どのように見直すのですか?」
「う~ん、例えば、ガルバッドの盾をもっと強くするとか、俺の魔導砲の使い方を見直すんだ」
するとガルバッドが目を輝かせながら、話に乗ってきた。
「ほほう、道具で対抗するか? それなら儂が協力するぞ」
「ニケは? ニケはどうすれば、いいでしゅか?」
すると負けてはならじと、ニケまで食いついてくる。
「ニケは、う~ん……武器でも見直すか?」
「うう、それはなんか、いやでしゅ……あたしはこれが、すきなんでしゅ」
彼女は俺が貸しているナタを抱きしめながら、イヤイヤと首を振る。
まるでそれを取り上げられるのを、恐れるかのようだ。
するとアルトゥリアスからも、提案が出てきた。
「ふむ、道具だけでなく、魔法の使い方にも、改善の余地があるかもしれませんね。またしばらく森の中で、試行錯誤してみましょうか?」
「うん、それがいいね。明日はあそこで修行しよう」
「くんれん、がんばるでしゅ。ハグハグ……」
クイーンマンティスを恐れて逃げ出した悔しさをバネに、俺たちは復讐を誓った。
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翌日は朝から街を出て、いつもの川のほとりへ向かう。
とりあえず腰を落ち着けると、まずは武具について相談を始めた。
「――という感じで、散弾やスラグ弾を撃ってるんだよ」
「なるほどのう。精霊と契約すると、こんなことができるんか」
俺が改めて魔導砲の仕組みを説明すると、ガルバッドが感心したようにそれを眺めている。
その作りはシンプルだが、彼の琴線に触れるものがあるのだろう。
「これだと精霊術よりもすばやく攻撃できて、便利なんだ。問題は、あらかじめ弾を作っておく手間と、弾切れかな」
「それはそうじゃろう。しかし、画期的な方法じゃ……そういえばアルトゥリアスには、これを使えんのか?」
ガルバッドの問いに、アルトゥリアスは意表を突かれたような顔をする。
「私が、ですか? でも私は、すでに風魔法が使えますからね。あまり必要性を感じません」
「そうか? たしかにおぬしの精霊術は有効じゃが、敵の牽制ぐらいにしか使えておらんではないか。もっと攻撃力を持たせても、いいのではないか?」
「それは……たしかにそうですが、精霊術師としてそのような道具を使うのは、気が進みませんね。攻撃力の強化については、少し考えさせてください」
ガルバッドのズケズケとした物言いに口ごもりながら、アルトゥリアスは判断を保留した。
彼なりに何か、譲れないものがあるのだろう。
ここで俺はかねてから考えていたことを、相談してみた。
「何か弾を撃ち出す仕組みって、作れないかな? 今はアルトゥリアスの風魔法に頼ってるけど、弾が無くなったら終わりでしょ。できれば俺が、単独で撃てるようにしたいんだ」
「う~む、その気持ちは分かるが、そう都合の良い話もなあ…………こんな玩具みたいなものなら、あるがのう」
そう言ってガルバッドは、自身の荷物からいくつかの石ころを取り出した。
そしてそのうちのふたつを手に持ち、説明を始める。
「これはミスリルと、火成石っちゅう鉱物じゃ。この石がおもしろいもんでの、魔力を込めた金属と触れ合わせると……」
そう言って左手の火成石に、右手のミスリルをカチンと当てると、ポンッと空気が弾けた。
「うわっ、びっくりした!」
「うぅっ……うるさい、でしゅ」
「ハッハッハ、悪かったの。こういうものがあるっちゅうのを、教えたかっただけなんじゃ」
「う”~~」
いたずらを成功させ、楽しそうに笑うガルバッドを、ニケが恨めしそうに睨む。
しかし俺は、それどころではなかった。
頭の中で、これは使えると何かがささやいたのだ。
「ちょっと待って。今の爆発って、どういう原理で発生するの?」
「うん? 火成石に魔力が通れば、弾けるのは常識じゃぞ」
「そうじゃなくて、それはその石自体が弾けるのか、それとも魔力を爆発力に変換してるのかってことさ」
予想外の食いつきに、ガルバッドが面食らっている。
しかしそんな彼に構わず、俺は自分の知りたいことを聞き出した。
というよりも、目の前でいろいろ実験して、調べ上げたというべきか。
こういう時にガルバッドは、得難い存在となる。
元々ドワーフというのは手先が器用なことで知られるが、さらに素質のある者は、鍛冶魔法という技が使えるからだ。
これはドワーフ族固有の魔法で、なんと鉱物や金属を、道具を使わずにある程度加工できたりする。
その彼に火成石とミスリルを加工してもらい、爆発の発生する状況を、ある程度調べることができた。
簡単に言うと火成石は、魔力を急速に熱に変換できる鉱物だった。
急速に発生した熱が、空気の急膨張という形で、見えているのだ。
そしてこれを応用すると、俺が望んでいるような発射機構ができそうだった。
上手くすれば、アルトゥリアスの力を借りなくても、弾が撃てるようになるかもしれない。
俺は魔導砲を改良できそうな手応えに、興奮していた。




