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迷宮へ行こう ~探索のお供はケモミミ幼女~  作者: 青雲あゆむ
第2章 下級冒険者編

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30.女王の脅威

 迷宮で夜営をする決方針を決めると、俺たちはさっそく準備に取り掛かった。

 迷宮内で食べる食料、調理道具、就寝用の寝具などを買い揃えると、荷物をメンバーに割り振る。

 幸いにも、イノシシ並みに成長したゼロスに多くを積めたため、それほど負担は増えなかった。


 ゼロスは背中に大きな荷物をくくりつけられて、まるで荷物が歩いているようだが、それほど気にしていない感じである。

 元々、魔物は頑強なものだが、彼には毎日、俺が魔力を与えているため、並みより力が強いようだ。

 おまけに言葉も大体は理解してくれるので、見た目以上に有能なメンバーだったりする。

 そして誰よりもニケに懐いているので、本当に彼女の弟のようだ。


 準備が整うと、俺たちは6層へのアタックを再開した。

 まず4,5層を速さ重視で縦断し、6層へとたどり着く。

 それから地図作成マッピングをしながら、適当な夜営場所を探した。


 ここで頼りになるのが、ガルバッドだった。

 彼は手先が器用なうえに、空間認識能力に長けているようで、地図をすばやく描いてくれる。

 おかげで彼の加入前とは段違いに、探索速度が上がっていた。

 新たな地図情報はギルドも求めているので、後で高く売れるかもしれないしな。


 そんな探索の合間にも、しばしば暗殺蟷螂アサシンマンティスは現れた。

 ただしニケの探知能力に加え、要所で地精霊ガイアを使うことで、敵の奇襲を防いでいた。

 最初に出し抜かれたニケだが、その後はまずまずな探知実績を示すようになった。

 ちなみにガイアを顕現させるには、俺の魔力を消費するため、怪しそうな場所に差し掛かった時だけ、彼女を呼ぶようにしている。


 そうやって奇襲を防いでいたため、探索ペースは速かった。

 おかげで1日めにして6層の前半を調査し終え、適当な夜営場所も見つけている。

 上位の有力パーティーに比べても、見劣りしないほどの探索ペースらしい。

 こうして夜営場所に到着すると、みんなが安堵の息を漏らす。


「フウッ、ようやくひと息つけるな」

「うむ、今日もよく働いたのう」

「いっぱい、たんさく、したでしゅ」

「ええ、お疲れ様です。ただし結界を張るので、タケアキは手伝って下さい」

「ああ、そうだね」


 アルトゥリアスが結界を張るというので、俺も手伝いに駆り出された。

 とは言っても、ほとんどアルトゥリアスのやることを見ているだけだが。

 まず彼がキラービーから取ってきた魔石に、古代文字を刻んでいる。

 それを後ろからのぞき込みながら、彼に訊ねた。


「その石は使い回しができるの?」

「いえ、魔力の容量によりますが、ひと晩ごとに替えた方がいいですね。途中で結界が切れたら、困るでしょう?」

「そりゃそうだよね」


 そう話している間にも、アルトゥリアスは夜営場所につながる通路に、魔石を配置していく。

 それが終わると、結界の呪文を古代語で唱えた。


『風の精霊シェールに、我は結界の維持を願う。結界内に侵入せしものあれば、く知らせたまえ』


 そんな呪文を唱えると、今度は俺に魔石を渡してくる。


「さあ、同じように魔石を配置して、ガイアに結界の維持をお願いしてください」

「了解」


 彼の言うとおりに魔石を置くと、先程の呪文の名前部分を、ガイアに置き換えて唱えた。

 すると不思議なもので、魔石からこっち側の空間が、掌握されたような感じを受ける。


「これでこの空間には、風と地の結界が張り巡らされました」

「うん、なんとなく感じる。これなら奇襲を受けることも、なさそうだね」

「ええ、もちろんです」


 奥の方に戻ると、ガルバッドが食事の準備をしていた。

 鍋をコンロのようなものに載せ、湯を沸かしている。

 それは”魔導コンロ”と呼ばれるもので、魔石を燃料とする携帯型の熱源である。


 魔道具だけあって金貨1枚と、かなり高価だったが、探索中に温かいものを食えるのは大きい。

 実は俺が日本から持ってきた荷物にも、携帯コンロが入っているのだが、燃料のガスが少ないので、魔導コンロを買った。

 湯が煮立つと、ガルバッドが干し肉や野菜を入れ、調味料を入れてかき混ぜる。

 やがて美味しそうな匂いが漂ってくると、ニケがよだれを垂らしそうな顔で、待ち望んでいた。


「さて、そろそろいいじゃろう。飯にするぞ」

「まってた、でしゅ」

「アハハ、あまりがっつくなよ」


 ガルバッドが木の器にスープを盛って配ると、各人がパンを取り出して食べはじめる。

 パンは固くて食べにくいので、適度にスープに漬けてかじる。


「うん、美味うまい。いい味でてるよ、ガルバッド」

「ハフハフ、おいしい、でしゅ」

「ハッハッハ、そうかそうか。儂の料理も、まんざらじゃあないのう」


 そんなことを話しながら夕食を終えると、今度はお茶を飲みながら話をする。


「それにしても、今日は順調じゃったのう」

「うん、ガイアのおかげで、マンティスの奇襲を防げたのが大きいよね。ニケもよくやったしな」

「エヘヘ、がんばったでしゅ」


 今日もガイアの活躍が大きかったものの、ニケも隠れた敵を察知する場面が増えてきた。

 元々優れた能力があるとはいえ、彼女なりに努力しているのだろう。

 おかげで通路で待ち伏せているマンティスを察知し、先制できることも増えた。

 それを褒めながら、頭を撫でてやると、ニケは照れ臭そうに笑う。

 そんな彼女の仕草がとてもかわいくて、場の雰囲気がなごんだ。


「この分なら明日にでも、最深部に行けるかもしれませんね。問題は守護者とどう戦うか、ですけど」

「あ~、うん。守護者は厄介らしいね」

「うむ、3体のマンティスじゃろう? しかもそのうちの1体は、指導個体らしいからの」

「うん、まるで女王みたいだから、女王蟷螂クイーンマンティスって、呼ばれるらしいよ」

「くいーんまんてぃす?」

「クエ~」


 6層の守護者は3層と同様に、指導個体率いる3体のマンティスらしい。

 これまた鬼のように強くて、何人も冒険者が命を落としているんだとか。

 それらの情報を勘案すると、どうしても愚痴がこぼれる。


「どう考えても、手が足りないよなぁ」

「ええ、今の我々では、2体の相手がせいぜいでしょう」

「せめてもう1人、手練てだれがおれば、なんとかなるんじゃがのう」

「クエ~」


 またもやゼロスから抗議の声が上がったが、現状でゼロスが戦闘に役に立つ場面は少ない。

 最近は荷物を持ってくれるので、助かっている部分も多いのだが。


「今はニケと一緒で1体の相手が限界なんだ。あまり無理はするなよ」

「クエ……」


 俺が諭すと、残念そうにうなだれるので、ゼロスの頭をポンポンと叩いてやる。

 とりあえず神妙にしているので、話題を戻す。


「まあ、何も見ないうちに悩んでも仕方ないよ。実際にクイーンマンティスを見て、決めようか」

「そうじゃの」

「それしかありませんね」


 その後はとりとめのない話をして、夜の10時頃になると、眠りに就いた。

 ちなみに俺が日本から持ってきた寝袋とエアマットは、羨望せんぼうの的だった。

 硬い地面に寝る負荷を、劇的に改善してくれる。


 するとニケが物欲しそうな顔をするもんだから、結局いっしょに寝ることになった。

 まあ、いつもどおりだ。

 おやすみなさい。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 翌日は朝食を採ると、早くから動き出す。

 外縁部を避けて最深部へのルートを進むと、お昼頃には守護者部屋を発見できた。


「さ~て、行きますかね」

「うむ、まずは様子見、じゃな」

「こんなことで、ケガをしないように、気をつけましょう」

「がんばる、でしゅ」

「クエ~」


 扉の前に立って水晶に手を当てると、石の扉が横にスライドする。

 その入口に踏み込むと、奥の壁面に灯りがともり、3体の魔物が登場した。

 そのうちの1体は他よりふた回りは大きく、たしかに女王のような威厳がある。


「キシャーッ」

「ゼロス、いけ!」


 カマを振り上げるマンティスに、ニケとゼロスが突撃した。

 それと同時に、俺は魔導砲インドラでスラグ弾をぶっぱなし、敵の動揺を誘う。

 同時にガルバッドが前に出て、盾で俺たちを守ろうとする。

 アルトゥリアスも風魔法を駆使して、女王を牽制しようとしていた。


 しかしそんな意図は、いとも簡単に打ち砕かれる。

 いきなり突進してきたクイーンのカマが、ガルバッドに振り下ろされた。

 ガルバッドはそれを盾で受けたものの、あっさりと切り裂かれてしまう。


「ぐわっ、これはいかん。撤退じゃ!」

「了解。アルトゥリアスは援護たのむ」

「はい。『突風アスファ』」

「にげる、でしゅ」


 とっさにアルトゥリアスの放った突風で、敵の動きがわずかに鈍る。

 その隙に乗じて、全員が守護者部屋から逃げ出した。

 どうやらクイーンマンティスは、想像以上に厄介な相手のようだ。

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