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迷宮へ行こう ~探索のお供はケモミミ幼女~  作者: 青雲あゆむ
第2章 下級冒険者編

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29.迷宮での夜営

 迷宮の第6層に侵入した俺たちは、さっそく暗殺蟷螂アサシンマンティスの洗礼を受けたものの、無事にそれを撃滅した。

 さらに前方の部屋に2体のマンティスがいることを突き止めた俺たちは、作戦を練って突入する。


「1匹は頼んだぞ、ニケ。相手を引きつけるだけでいいんだからな」

「まかせるでしゅ」

「クエ~」


 そう言うニケは、すでにイノシシ並みに大きくなったゼロスの背中に搭乗している。

 ゼロスの突進力を利用して、敵を翻弄するのが目的だ。

 おかげでニケだけでなく、ゼロスも鼻息を荒くしている。


 そんな彼らに注意をして送り出すと、俺たちも部屋の中に突入した。

 それと同時に、地の中位精霊ガイアが魔法を行使して、敵の位置をあぶり出す。

 すると壁面の一部がグネグネと変形し、その中からマンティスの姿が浮かび上がった。


「キシャーッ!」


 強制的に擬態を解除された2体のマンティスが、奇声を上げて威嚇してくる。

 そして一方のマンティスに向かって、ニケを乗せたゼロスが駆けていく。

 さらに手近なマンティスに対しては、アルトゥリアスの風魔法が炸裂する。


突風アスファ

「ギギギッ」


 風に煽られてふらつくマンティスに、ガルバッドが駆け寄った。

 そして敵の足に向けて戦斧を叩きつけるも、硬質な殻に跳ね返されてしまう。

 そこで今度は俺が魔導砲インドラを構え、スラグ弾を発射する。


――ズバンッ!


 魔導砲インドラのいいところは、面倒な動作や詠唱なしに発射できる点だ。

 高速で発射された石の塊が、マンティスの胴体を打ち据えると、敵が身をよじる。

 さらにガルバッドが攻撃を加えてる隙に、俺は弾丸を装填する。


 アルトゥリアスも『突風アスファ』だけでなく、『圧空障壁ハワ・ジダール』も駆使し、マンティスの行動を押さえ込んでいた。

 彼らと連携し、俺は何発もスラグ弾をぶち込んでいく。

 やがてその甲斐あって、ボロボロになったマンティスが、地に崩れ落ちる。


「よし、次だ。ガルバッド」

「おう、嬢ちゃんに負けとれんからのう」


 彼の言うとおり、ニケは絶賛、マンティスを足止め中だった。

 ピョンコピョンコ飛び回っては、ちょっとだけ攻撃し、すばやく離れる。

 そのニケを追おうとすると、今度はゼロスがヒョコヒョコ走ってきて、足元をかすめて走り去る。

 俺が指示したように、彼らはヒット・アンド・アウェイを繰り返し、牽制に徹していた。


「ニケ、ご苦労さん。こっちも倒すぞ」

「あい♪」


 1体目を片付けた俺たちが乱入したことで、状況が一変する。

 初っ端から攻撃力全開で、全員がマンティスに攻めかかった。

 俺のスラグ弾が、ガルバッドの戦斧が、アルトゥリアスの突風が、マンティスの体に叩きつけられる。


 さらにニケもナタを振るい、敵を傷つけていた。

 そして5分ほどの戦闘の末、とうとう2体目のマンティスも崩れ落ちる。

 予想以上に順調な戦闘だった。


「フウッ、さすがに2体目は楽勝だったな。これもニケのおかげだ」

「エヘヘ、ニケ、やくにたった、でしゅか?」

「もちろんさ。よくやったぞ」


 いつものように優しく頭を撫でてやると、ちょっと照れくさそうに笑いながら、フリフリと尻尾を振る。

 アルトゥリアスやガルバッドも、そんな彼女を微笑ましく見守っているし、弟分のゼロスも嬉しそうだ


 ちょっと休憩してから魔石やカマを回収していると、さすがにいい時間になってきたので、地上へ帰還することにした。

 マンティスの魔石は1個だけで銀貨7枚と、けっこうな値段だ。

 さらに凄いのが両手のカマで、2本で銀貨40枚にもなった。


 今回は3体を倒したので、合わせて銀貨141枚にもなる。

 4,5層でも魔物を倒しているので、合計収入は軽く銀貨200枚を超えた。

 6層に潜れるパーティーとしてはそれほど珍しくもないが、通常は8人以上での探索となる。

 つまり1人あたりの収入としては倍以上なので、そんな状況をまた酒場で祝うことにした。


「それじゃあ、乾杯!」

「「「かんぱ~い」」」

「クエ~」


 男性陣はビールを、ニケは果物ジュースを、一気に飲み干した。


「ぷは~っ、めいきゅうがえりの、ジュースがうまい、でしゅ」

「アハハ、ニケはがんばったからな」

「そうじゃのう、大したもんじゃ」


 満足そうに口をぬぐうニケを、俺とガルバッドが褒めると、彼女はちょっと照れながらも喜んでいた。

 アルトゥリアスもそんな彼女を、優しげに見守っている。


「それにしても、アサシンマンティスは強敵じゃったのう。キラービーとは大違いじゃ」

「そうですか? キラービー自体も、普通は相当な脅威ですよ。タケアキの魔導砲インドラが無ければ、我々も苦労していたでしょうね」

「いやいや、アルトゥリアスの風魔法のおかげでしょ」

「それを言うなら、ニケとガルバッドもがんばっていますよ。特にガルバッドが加わって、安定性が増しましたね」

「いやいや、儂なんか……」


 みんなで褒め合う俺たちを見て、ニケがバンとテーブルを叩いた。


「みんな、すごいでしゅ」


 一瞬あっけにとられた俺たちだったが、次の瞬間には笑いはじめた。


「アハハッ、そうだな。みんなすごい」

「ガハハハハッ、そうじゃそうじゃ」


 そんな風に騒いでいる俺たちに対し、周囲からはいろんな視線が向けられる。

 それは成り上がりの俺たちを苦々しく見ているものもあれば、景気が良くて羨ましいといったものもある。

 中には愛らしいニケを見て、恍惚としている者もいて、ちょっとヤバイものを感じてしまう。

 あれには近づかないよう、ニケには注意しておこう。


「しかしこのまま6層を抜けるのは、難しそうじゃのう」

「ん~、そうだね。4,5層を経ていく分、余計に時間が掛かるのが痛いよなぁ。やっぱり、迷宮内の夜営も考えるべきかな?」

「そうですね。次の探索では6層の前半部分を調べて、適当な夜営地を探しましょうか?」

「う~ん……でも本当に、魔物が来にくい部屋って、あるの?」


 夜営地探しを提案するアルトゥリアスに、俺はかねてからの疑問を投げかけた。

 それは迷宮内には魔物が寄り付きにくい場所があり、そこなら夜営も可能だという噂に対するものだ。

 もし夜営ができれば、その階層の探索に時間を割くことができ、探索効率も上がる。

 しかし迷宮初心者な俺としては、どうしても不安が先に立ってしまうのだ。


「外縁部の行き止まり部分なら、ほとんど魔物は寄ってきませんよ。もちろん見張りは立てる必要がありますが、油断しなければそれなりに眠れるものです」


 柔らかく笑いながら答えるアルトゥリアスに、俺はさらなる問題を突きつけた。


「う~ん、それはそれで、俺たちには難しいよね。たった4人しかいないんだから」

「クエ~」

「ああ、ゼロスもいるな。だけど見張りは無理だろ?」


 テーブルの下で、ゼロスが俺の足を突いて抗議してくる。

 こいつは俺たちの会話を、かなり理解しているようだが、だからといって見張りを任せられるとも思えない。

 するとアルトゥリアスが、腹案を打ち明けた。


「実は見張りについても、目処がついているのですよ。私の風精霊シェールと、タケアキの地精霊ガイアに、手伝ってもらうのです」

「え、いくら中位だからって、見張りを精霊に任せて大丈夫なの?」

「いえ、普通の見張りでなく、風と地の結界を張るのですよ。これならみんなが寝ていても、結界に侵入者があれば検知できます」

「あぁ、なるほど……」


 さすがは賢者アルトゥリアス。

 実に頼りになる味方だ。

 彼の言うとおりに夜営ができれば、6層の探索も大きく進むだろう。

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