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迷宮へ行こう ~探索のお供はケモミミ幼女~  作者: 青雲あゆむ
第2章 下級冒険者編

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28.暗殺者の鋭刃

 ガルバッドが仲間になってから、迷宮の探索がぐっと楽になった。

 それまではまともな前衛がニケだけだったところに、前衛が1枚増えたからだ。

 ガルバッドは片刃の戦斧と盾で戦う、ファイタースタイルだ。


 彼は背こそ低いものの、筋肉質で力が強いから、安定感がある。

 そんな彼に守られて、俺やアルトゥリアスも、安心して術が使えるようになった。

 おかげで4,5層もスムーズに進むことができるようになり、とうとう6層へと侵入する。


「それじゃあ、6層へ入るよ」

「ええ、敵の奇襲には、十分に気をつけないといけませんね」

「うむ、危険な奴らしいからのう」

「ゆだんしない、でしゅ」


 5層から下へ降りる階段の前で、俺たちは改めて気合を入れる。

 なんといっても6層には、暗殺蟷螂アサシンマンティスという強敵が出るからだ。

 このカマキリ型の魔物は、今までと違って見上げるほどの大物らしい。

 しかも名前のごとく、暗殺者のように忍び寄るというのだから、恐ろしい。


 俺たちは慎重に階段を降りると、ニケの先導で進みはじめる。

 鋭敏な感覚を持つ彼女を頼りにしての行動だが、今度ばかりは安心できない。

 やがて俺たちは、最初の分岐点に通りかかった。

 軽く地図を記入してから、まっすぐに進もうとした瞬間、右側の通路に違和感を感じた。


「ニケ、右だ!」


 俺はそう叫びながら、魔導砲インドラをぶっぱなした。

 くぐもった音と共に撃ち出された散弾が、右側の通路に降り注ぐ。

 すると今までただの壁に見えていた所から、巨大なカマキリが顔を出した。


「キシャーッ!」

「アサシンマンティスじゃ」

「あぶなかった、でしゅ」


 突然、現れたマンティスに対し、ニケとガルバッドが戦闘態勢を取る。

 一方のマンティスは、俺の散弾をものともせずに、奇声を発して威嚇してきた。

 敵は後ろ側の4本足で立ち上がって上体を起こし、主武器のカマを高く掲げている。


突風アスファ


 そこへアルトゥリアスの魔法が撃ち出された。

 ふいの突風に、わずかにマンティスの上体が揺らぐ。

 その隙を見逃さず、ニケが敵に突っ込んだ。


「たあっ!」

「おい、無茶すんな、嬢ちゃん」


 ニケがマンティスの足に斬りつけると、ガルバッドもそれをサポートしようと追う。

 ガルバッドの援護でニケが敵の攻撃範囲を逃れると、俺は再度、魔導砲インドラをぶっぱなした。


――ズバンッ!


 多数の石礫がマンティスに当たっているものの、どう見ても力不足だ。

 俺は新しい弾を取り出しながら、装填する前にその弾頭部分を、ひと塊のスラグ弾に作り変えた。

 中位の地精霊ノーミーガイアと契約しているがゆえの、早業である。

 即席で作り上げたスラグ弾を装填し、再びマンティスに照準を定める。


――ズバンッ!


 ニケやアルトゥリアスに翻弄されているマンティスに、俺のスラグ弾が命中した。

 それは柔らかそうな下腹部に命中し、敵に悲鳴を上げさせる。

 それに気を良くした俺は、次々にスラグ弾を作り出し、敵に向かって撃ち続ける。


 その間もニケのナタと、ガルバッドの戦斧がマンティスに打ち込まれ、アルトゥリアスも風魔法で支援を続けている。

 やがてニケがマンティスの足を1本、切り落とすと、敵の動きが大きく鈍った。

 この好機を逃してはならじと、俺たちはさらなる攻撃を加える。

 そして俺のスラグ弾が、マンティスの頭部に命中すると、とうとう敵の体が崩れ落ちた。


「ハアッ、ハアッ……や、やったか?」


 慎重に近寄ったニケが、マンティスの頭をツンツンといじるも、敵は動かない。

 それを見たニケが振り返り、ニパッと笑う。


「かったでしゅ」

「ぶはあっ、やったのう」

「フフフ、皆さん、お疲れでした」

「クエ~」


 勝ちが確定すると、俺やガルバッドは、その場に座り込んでしまった。

 それほどの激戦だったのだ。

 しかしそんな中でも、ニケだけは元気で、マンティスの魔石を取り出すと、俺のところに持ってきた。


「タケしゃま、マンティスの、ませきでしゅ」

「お、ありがと。それにしても、でっかい魔石だな。よくやったぞ、ニケ」

「エヘヘ、でしゅ」


 俺が頭をなでてやると、彼女は嬉しそうに尻尾をフリフリして、喜びを顕にする。

 激戦を終えたばかりだというのに、いつもどおりのかわいらしさだ。

 するとアルトゥリアスが、重要な情報を教えてくれた。


「たしかマンティスは、両手のカマも高く売れるそうですよ。消える前に切り取っておきましょう」

「へ~、そうなんだ。それじゃあ、カマも取ろうか」

「あい」


 少し休んで元気になった俺は、腰を上げてマンティスの遺骸に歩み寄る。

 間近で見ると、たしかにマンティスのカマは、武器になりそうだった。

 長さ50センチほどの刃が、硬質な輝きを放っている。


「たしかに武器になりそうだけど、ちゃんと使えるのかな? しょせん金属には、敵わないような気がするけど」

「い~や、たしかにそのままなら大したことないが、魔法的な処理をすることで、鋼鉄にも負けない武器になるんじゃ。達人にかかれば、鉄を切り裂くことも可能なんじゃぞ」

「へ~、それは凄い」


 その後もガルバッドの薀蓄うんちくを聞きながら、マンティスのカマを回収した。

 それが終わるとまた隊列を整え、迷宮を進む。

 やがて大きな部屋に行き当たった。


「また敵が出てきそうだな」

「うむ。注意が必要じゃな。ここはタケアキの精霊の出番か?」

「そうだね……ガイア」


 俺の呼びかけに応え、即座にガイアが現れる。

 現れたといっても少し透けたような状態で、完全な肉体ではない。

 なんでも精霊界と地上界の狭間にいるような状態で、半分だけ物質化してるんだとか。

 そんな彼女に状況を説明し、部屋の中に何か隠れていないか、探して欲しいと頼む。


「♪」


 彼女は快く引き受けると、すうっと地面の中に消えていった。

 おそらく土の中を通って、部屋の様子を見にいったのだろう。


 しばらく待っていると、突然ガイアが現れた。

 そして彼女は身振り手振りで、中の状況を伝えようとする。

 もっとちゃんと意思疎通ができればいいのだが、今の俺には無理だ。


 そのうちテレパシーみたいなので、会話できるようになればいいのだが。

 それはさておき、彼女の話を要約すると、部屋の中には2体のマンティスがいるようだ。

 しかもさっきのように、壁に張り付いて擬態ぎたいしているらしい。


「やっぱりさっきのも、擬態してたんだ」

「ぎたいって、なんでしゅ?」

「自分の体を周囲に似せて、隠れることさ。さっきのマンティスは、襲われるまで見えなかっただろ?」

「あい、ちょくぜんまで、わかんなかったでしゅ」

「それが2体もですか。厄介ですね」

「うむ、さっきのようなわけには、いかんのう」


 目の前に突きつけられた状況に、誰も頭を抱えてしまう。

 しかし事前に知れたのだから、むしろ幸運と考えるべきだろう。

 そんな風に前向きに考えると、作戦がまとまってくる。


「まずはマンティスに散弾を撃って、擬態を見破ろうか。そのうえで、1体をニケとゼロスで引きつけるんだ」

「ゼロスといっしょ、でしゅか?」

「ああ、敵を引きつけるだけでいいんだ。それなら協力してやれるだろ?」

「う~ん……」


 珍しくニケが迷っていると、ガルバッドが懸念を示した。


「おいおい、嬢ちゃんとゼロスじゃあ、荷が重くないか? せめて儂かアルトゥリアスが……」

「できるでしゅ。あたしとゼロスで、やるでしゅ」


 しかしニケは意を決したように、高らかに宣言した。

 さすがは俺の勝利の女神。

 なるべく彼女に負担を掛けないよう、手早く片付けねば。

 するとガイアが、俺の肩をチョイチョイと突いてきた。


「♪」

「え、なんだって?」


 何やら物言いたげなガイアを見ていると、カマキリの形を真似してから、自分の胸を叩いていた。


「う~ん、ひょっとして、マンティスのあぶり出しは任せろってこと?」

「♪」

「うん、それなら任せようかな。よろしく頼むよ、ガイア」

「♪」


 こうして俺たちは、マンティスの待ち受ける部屋へ挑むのだった。

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