27.新たな仲間
ひょんなことから、5層で救出したガルバッドは、なかなかに優秀な職人だった。
そんな彼にとって、俺の無造作な手際は、見るに堪えないものだったのだろう。
あっという間に彼は俺の仕事を奪い取り、喜々として採取を始めた。
「まったく、最近の若いもんは。こういうのを採る時は、もっとていねいにやるもんじゃ。貴族の蜂蜜に異物が入ったら、まずいじゃろうが」
「は、はあ……」
そういう間にもキラービーの巣は、ガルバッドによってきれいに切り分けられていく。
やがてノーブルハニーが顕になると、彼は樽を準備し、漏斗を刺してから、ノーブルハニーを注いでいく。
そんな彼を、ニケも見に来ていた。
「なんか、はりきってましゅね」
「ああ、ああいうの、得意なんだろうな。もう魔石は集め終わったのか?」
「まだでしゅ」
「俺も手伝うよ」
「あい」
その後、俺とアルトゥリアスも加わって魔石を集めているうちに、ノーブルハニーの採取は終わっていた。
2リッターほどの小樽が、ほぼ満杯になる量だ。
「これだけあれば、依頼達成には十分ですね。品質も良さそうだし。ガルバッドさんがさっそく役に立ってくれて、助かりました」
「へへへッ、これぐらい、軽いもんじゃ。こういうことは、儂に任せな」
褒められたガルバッドが、嬉しそうに鼻の下をこする。
「フフフ、よろしくお願いしますね。それでは、地上へ戻りましょうか」
「ええ、戻りましょう。ステラさん、喜ぶだろうな」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
帰りは大した問題もなく、地上へ帰還できた。
キラービーから採った魔石の売却で、金貨に近い収入を得ると、今度は冒険者ギルドへ向かう。
そして受付けにいたステラの前に行くと、彼女が期待に顔を輝かせた。
「あっ、タケアキさん。どうだった?」
「いや~、残念ながら、まだ見つかってないんだ。5層も広いからね」
「そんなぁ~」
素直に報告するのも面白くないので、軽い冗談のつもりで嘘をついた。
するとあからさまにがっかりする彼女を見て、俺たちは吹き出す。
「プハハッ……ごめん、嘘ついた。ちゃんと見つけたよ、ノーブルハニー」
「もう、からかったのね。意地悪っ!」
「まあ、無茶な依頼を振られたからね。ちょっとした意趣返しさ。それでこれが、今回の成果」
頬を膨らませて怒るステラをなだめながら、小樽をカウンターに載せると、彼女の顔が別人のように輝いた。
「す、すごいじゃない。これ満杯に入ってるの?」
「うん、大体」
「これはちょっと、燃えてきたわね」
即座にステラは職員を呼び、ノーブルハニーの品質と重量の確認を手配する。
そしてしばらく待っていると、担当から結果が知らされた。
「ノーブルハニー 63オズ(約1.8kg)、品質も問題ありません」
「マジかよ。すげえ量じゃねえか」
「こりゃまた、美味い酒が飲めるな」
周りで聞いていた冒険者たちも、その結果にざわめいている。
聞けば年に1回のハチミツ採取でも、50オズ(約1.4kg)も確保できれば、大収穫らしい。
それを聞いたステラは姿勢を正すと、いつになくていねいな言葉で話しかけてきた。
「おめでとうございます。大収穫ですね。このノーブルハニーは私どもが依頼主へお渡しして、代金は別途お支払します。まずは依頼達成料として、金貨5枚をお受け取りください」
「あ、どうも。残りはいつ頃、もらえるかな?」
「そうですね。早ければ明日の夕方、明後日には確実にお渡しできるかと思います。あ、それとタケアキさんとニケちゃんは、今回の功績が認められて、7等級に昇格です。今後もがんばってくださいね」
「お、やった」
「やったでしゅ」
どうやら今回の依頼は実績値がおいしかったらしく、俺たちの昇格が決まった。
大金も手に入りそうだし、結果的に良い仕事だった。
ちなみにガルバッドとアルトゥリアスは、どちらも6等級で変動はない。
「あ、それと新しいメンバーを、パーティーに登録したいんだけど」
「まあ、ノーブルハニーだけじゃなくて、新しいメンバーまで見つけたの? おめでとう!」
なぜかステラが、自分のことのように喜んでいた。
そんな彼女に礼を言いながら、ガルバッドの加入を申請する。
すると手続きを進めるうちに、ステラが顔を曇らせた。
「あ~……ガルバッドさんは、”鷹の爪”から、死亡届けが出てますけど?」
「”鷹の爪”って、あいつらかな?」
そう言ってガルバッドを見ると、彼が苦虫を噛み潰したような顔で答える。
「そうじゃ。儂があいつらに見捨てられたところを、アルトゥリアスたちが助けてくれたんじゃ。その恩返しのためにも、パーティーを組むことにした」
「まあ、そうだったんですか……分かりました。死亡届けの方は破棄しておきます。新しいパーティーでがんばってくださいね」
「ああ、そのつもりじゃ」
俺たちはステラの営業スマイルに見送られ、ギルドを後にした。
ちなみに後日受け取った報酬は金貨7枚を超え、ちょっとした小金持ちになった俺たちであった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ギルドを出てから俺たちは、ガルバッドの加入を祝おうと酒場へ入る。
まずは新メンバーの加入を祝い、乾杯だ。
「それじゃあ、ガルバッドさんの加入を祝って、乾杯」
「「かんぱい」」
「かんぱ~い」
「クエ~」
男子3人がビールを、ニケがジュースを飲み干す。
「ブハ~ッ、迷宮帰りの酒は美味い!」
「ええ、そうですね。今日は大きな依頼も達成したし、格別です」
するとガルバッドは、不満そうな顔で文句を言う。
「その話し方じゃがのう、もっと普通にしてくれんか? 儂は堅苦しいのが苦手じゃし、今日入ったばかりの、新入りじゃからの」
「え、でもガルバッドさんの方が年上でしょ?」
「そんなもん、関係なかろう。冒険者は実力の世界じゃ。見たところ、おぬしがパーティーの要のようじゃしな」
まじめな顔でそんなことを言うガルバッドに、俺は慌てて訂正を入れる。
「いやいやいや、何いってんですか。どう見ても要は、アルトゥリアスさんでしょ」
「そうかぁ?」
ガルバッドに視線で問われると、アルトゥリアスはゆるゆると首を横に振る。
「いいえ、ガルバッドのにらんだとおり、タケアキ殿がパーティーの要であり、リーダーですよ」
「ええっ、ちょっと待って下さいよ。俺がリーダーやってるのは、あくまで暫定であって――」
「いえ、タケアキ殿はよくやってると思いますよ。ねえ、ニケさん」
その問いにニケは、誇らしげに答える。
「そうでしゅ。タケしゃま、リーダーでしゅ」
「おい、ニケ……」
「まあまあ、この際だからはっきりしておきましょう。そもそもこのパーティーは、タケアキ殿とニケさんから始まりました。そしてタケアキ殿は、新たな武器を開発し、キラービーの攻略に貢献しています」
「いや、それはアルトゥリアスさんがいるからであって――」
「私は少し、お手伝いしてるだけですよ。魔導砲のような発想は、私にはありませんからね」
その話にガルバッドが割り込む。
「ほう、あの武器はインドラっちゅうんか? 後でじっくり見せてもらえるか?」
「とりあえず、それは後でいいでしょう。いずれにしろ、パーティーリーダーはタケアキ殿ですが、別に上下の関係がつくわけではありません。ざっくばらんな関係で、いいのではないですか?」
「おう、そうじゃ。敬語は無しにして、名前も呼び捨てにしよう」
「え、呼び捨て、ですか?」
明らかに年配のアルトゥリアスとガルバッドに対し、敬語なしで呼び捨てとは、少々気が引ける。
しかし2人はそんなことは意に介さないようだ。
「ええ、それでいいですよ。私は誰に対してもこんな感じなので、変えようはないですが」
「まあ、いいんじゃないかの。それでええな? タケアキ」
「え、ええ、2人がいいのなら」
「みんな、なかよし、でしゅ」
「仲良しなのかなぁ……」
なし崩し的に敬語禁止にされ、少々調子が狂う。
しかしその後は親睦を深めるため、それぞれの出身を語り合うなどして、盛り上がった。
そんな中で俺は、恐る恐る異世界転移のことを話したのだが、アルトゥリアスたちは意外なほど、あっさりと受け入れる。
「ああ、迷い人だったんですか。たまに聞きますね」
「うむ、珍しいには違いないが、だからどうっちゅうもんでもない。貴族に知られると、少しうるさいかもしれんがな」
「そ、そうなの?……気をつけなきゃな」
「だから今後もよろしくな」
「こちらこそ、よろしく」
「ええ、よろしくお願いしますね」
「よろしく、でしゅ」
「クエ~」
こうして俺はまた1人、信頼できる仲間を手に入れた。




