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迷宮へ行こう ~探索のお供はケモミミ幼女~  作者: 青雲あゆむ
第2章 下級冒険者編

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26.ガルバッド

地味にポイントが増えてて嬉しいです。

評価・ブクマ、ありがとうございます。

「タケしゃま~、このひと、いきてるでしゅ~!」


 キラービーの巣に取り残された冒険者を助けるため、俺たちはそこへ乱入した。

 そして数十匹もの敵を殲滅すると、なんと冒険者が生きていることが判明した。

 俺はすぐに荷物から治癒ポーションを取り出すと、ニケの下へ駆け寄る。


「うわっ、ひどくやられてるな」

「でも、いきてるでしゅ」

「そうだな。これなら多分、ポーションで助かるだろう」


 俺はポーションの半分を冒険者に振りかけてから、彼の口にもそれを含ませる。

 冒険者はドワーフの男性らしかったが、その体はキラービーにやられ、見事に傷だらけだった。

 おそらくキラービーの針で刺され、動けなくなったところを、食われかけていたのだろう。


 そんな悲惨な状況でも治してしまう治癒ポーションとは、凄いものだ。

 これは薬草に魔法的処理を施したもので、尋常でない治癒効果を発揮する。

 当然、それなりのお値段はするもので、今回はとっておきの金貨1枚のモノを使った。

 その効果のおかげで、ドワーフはすぐに意識を取り戻した。


「か、カヒュッ……こ、ここは、地獄、か?」

「い~や、ここは迷宮の5層だよ。あんたは助かったんだ」

「…………まさか、あれだけのキラービーから、生き延びたと、言うのか?……ゲホッゲホッ」


 するとそこにアルトゥリアスが近寄ってきた。


「そうですよ、ガルバッド。あなたは幸運の女神に、見放されてはいなかったようですね」

「……お前、ひょっとして、”暴風”のアルトゥリアスか?」

「ええ、お久しぶりです。しかし優秀な職人であるあなたが、どうしてこんなところに?」


 何やらアルトゥリアスの名前に物騒な二つ名が聞こえたが、彼はにこやかに受け流し、逆に質問を返す。

 するとガルバッドの顔が、くしゃりとゆがんだ。


「クッ……儂はある人物を追って、この町へ来たんじゃ。しかし手元が不如意ふにょいになったんで、あるパーティーに入った。そしてノーブルハニーの需要が高まってるってんで、採りにきたんじゃ。ちょっとした小道具を作ってな。しかしあいつら、すぐにおじけづきやがって、とっとと退散しちまった。おかげでこのざまじゃ」

「そうですか……先ほど、逃げていったパーティーが、そうなのでしょうね。あなたの名前を聞いて、もしやと思い駆けつけたのですが、間に合って良かったですよ」


 それを聞いたガルバッドの顔が、驚愕に染まる。


「お前、儂を助けにきてくれたってのか? こんな危険な場所に、なんでまた……いや、あんたらにとっては、さほど危険でもないんかのう? 全てのキラービーを、倒しておるからな。さすがは”暴風”のアルトゥリアスじゃ」

「フフッ、そんな昔の呼び名で、呼ばないでくださいよ。それにキラービーを倒せたのは、ここにいるタケアキ殿と、ニケさんのお力あってのものですよ」

「クエ~」

「これは失敬。ゼロスもいましたね」

「「アハハハッ」」


 絶妙なタイミングでのゼロスの突っこみに、俺たちが笑っていると、ガルバッドが納得顔でつぶやく。


「……そうか。獣人の幼女を連れたパーティーが、ノーブルハニーを持ち帰ったと聞いたが、あんたらのことだったのか。そこに昔馴染みがいるだなんて、儂の悪運もなかなかのもんじゃのう」

「そうですね。ところで、小道具を作ったと言ってましたが、どんなものですか?」

「ああ、ただのハチけの煙幕なんじゃがな……」


 そう言いながら懐から取り出したのは、長さ20センチほどの棒だった。


「これに火を着けると、キラービーの嫌う煙が出るんじゃ。これを巣にぶち込んで、ハチを追っ払おうとしたんじゃがのう……」

「予想以上の勢いで、キラービーが押し寄せた、といったところですか?」

「そのとおり。どうやらハチの防衛本能を、舐めすぎたようじゃわい」

「本当ですよ……」


 自嘲気味に笑うガルバッドに、アルトゥリアスも首を振りながらため息をつく。

 しかし俺はその煙幕に興味を覚えた。

 それってけっこう、凄いことなんじゃないだろうか?


「ちょっと待ってください。ひょっとして、これである程度、キラービーを遠ざけられるんですか?」

「ん、ああ。多少は効果があるぞ。儂が生き残れたぐらいじゃからな」


 ガルバッドによれば、キラービーに刺された人間は、即座に食い殺されるそうだ。

 まるでピラニアのようにハチが群がって、その肉を食い尽くすとか。

 それが傷だらけとはいえ、彼が生き残っていたのは、煙幕の効果がそれなりにあったからだと、言いたいらしい。


 そんな話をしていると、ガルバッドの胸の辺りに、キラキラと輝く光が見えた。

 それは今まで、仲間を見出した時の兆候だ。

 たぶん自分にとって悪くない縁を示す、サインのようなものではなかろうか。

 この世界に俺を招き入れたなんらかの意思が、関係しているのかもしれない。

 そう考えた俺はアルトゥリアスに近寄り、内緒話を始める。


「実はこの煙幕、けっこう使えるんじゃないですかね? キラービーを倒すのは無理としても、群れの誘導には使えるかもしれない」

「……ふむ、これを使えば、5層内での移動も、速くなるかもしれませんね」

「でしょ。それとあの人、アルトゥリアスさんの知り合いなんですよね? 信頼できる人ですか?」

「ええ、職人らしい頑固さはありますが、気のい男ですよ……ひょっとして、彼を仲間に誘うつもりですか?」

「いけませんかね? 戦力向上にも役立つと思いますけど」

「ふむ……ニケさん」


 彼はちょっと考えると、ニケを呼んだ。

 キラービーにとどめを刺して回っていたニケが、尻尾をフリフリさせながら寄ってくる。


「なんでしゅか?」

「このガルバッドを仲間にすると言ったら、どう思いますか?」

「ふえ……いいんじゃ、ないでしゅか。わるいひとじゃ、ないとおもいましゅ」

「フフフ、それなら問題ありませんね……ガルバッド、私たちのパーティーに入りませんか?」


 アルトゥリアスはガルバッドに向き直ると、率直に彼を誘った。

 するとガルバッドは、ひどく驚いた顔をする。


「い、いいんか? 儂は仲間にも見捨てられた、半端もんじゃぞ」

「ちょうど仲間を探していたところだったんですよ。あなたとは知らない仲でもなし、一緒にやりませんか?」

「う~む、それは願ってもないことじゃが……」


 いまだに信じられないといった顔で、ガルバッドがつぶやく。

 するとニケがスタスタと歩み寄って、彼の顔をのぞき込んだ。


「おじさん、なにしたい、でしゅか? あたしたちは、つよくなって、おかね、かせぐでしゅ」

「ほう、いかにも冒険者らしい目的じゃ……儂の方は、かたきを探しておる。大事な人を殺した、仇をな」

「何かあったのですか? たしかあなたには、恋人がいたと聞いた覚えがありますが」


 その質問で、ガルバッドは悲痛な表情を浮かべる。


「殺されたんじゃ。無残に陵辱りょうじょくされてな……」

「そんなことが……あなたの追う仇とは、誰なのです?」

「……ベルダインじゃ」

「ベルダイン! あの、”火竜のアギト”の?」

「そうじゃ」


 ガルバッドの答えに、アルトゥリアスが驚いている。


「しかし私の知る限り、ベルダインはそんなことをする人物ではありませんよ。何か証拠があるのですか?」

「……いや、無い。事件のちょっと前にメルリー、儂の想い人と奴が会っていたらしいのと、その後すぐに奴が街を去ったことだけじゃ」

「それだけで仇呼ばわりとは、感心しませんね」

「仕方ないじゃろうがっ! 儂だってさんざん調べ回ったんじゃ。そのうえで、奴に話を聞くしかないと、判断したんじゃ」


 その全てをぶちまけるような言葉に、アルトゥリアスは少し黙り込んだ。

 そして俺の方に向き直ると、彼の判断を告げる。


「少々、厄介なことになっているようですが、やはり彼は有用だと思います。戦力以外にも、彼の職人の腕は役に立ちますからね。彼ほどの人物を埋もれさせるよりは、互いに協力し合ったほうがいいでしょう」

「俺にも異存はありませんよ。ガルバッドさん、迷いがあるのなら、しばらくはお試しってことで、一緒に行動してみませんか?」

「そこまで言ってもらえるんなら、断る手はねえ。いずれにしろ、あんたらには命の恩を返さなきゃいけねえしな」

「いや、そんなに大した――」

「いいえ、たしかさっきのポーションですら、金貨1枚ですからね。先は長いですよ、ガルバッド」

「む、むう、覚悟しておるわい」


 大したことはしていない、と言おうとしたら、アルトゥリアスがかぶせるように、恩を売りつけた。

 彼がそうまでするほどの価値が、ガルバッドにはあるということか。

 いずれにしろ俺たちには大事な目的があるので、話を変えた。


「さて、話がまとまったところで、仕事に戻りましょう。ニケは魔石を集めてくれ。俺たちは巣の方を確認するから」

「あい。ゼロスも、てつだうでしゅ」

「クエ~」

「頼んだぞ。アルトゥリアスさん、巣を探しましょう」

「ええ、ノーブルハニーがあると、いいんですけどね」


 俺たちは手分けをして、部屋の中を探し回った。

 すると期待どおり、キラービーの巣が見つかる。

 問題は、お目当てのノーブルハニーがあるかどうかだ。

 俺は慎重に巣の一部にナイフを突き込むと、覚えのある豊潤な匂いが漂ってきた。


「あった、ありましたよ、アルトゥリアスさん。ノーブルハニーが」

「それは良かった」

「なんじゃとっ! くそう、あいつらさえ逃げなければっ!」


 アルトゥリアスを呼んだら、ガルバッドまで付いてきた。

 しかもしきりに獲物を逃したのを悔しがっている。

 しかしさっきの連中では、たとえ逃げなくても、あの大群を退けられなかったのではなかろうか。

 そんなことを考えながら、無造作に巣に手を掛けたら、ガルバッドの怒声が響いた。


「コラ~ッ! 何しとるんじゃっ?」

「えっ、何って、ノーブルハニーを採る準備を――」

「そんな雑にやる奴が、おるか~っ! 儂に貸せいっ!」


 あっというまに、ガルバッドが巣の前に陣取り、解体を始めた。

 ナイフでていねいに巣材を切り取っていく手際は、たしかに見事なものである。

 あっけに取られて見ている俺たちを尻目に、あっさりとノーブルハニーの採取準備が整う。


「まったく。これだから若いもんには任せられんわい」


 満足そうに汗をぬぐうガルバッドは、とてもいきいきとしていた。

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