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迷宮へ行こう ~探索のお供はケモミミ幼女~  作者: 青雲あゆむ
第2章 下級冒険者編

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25.指名依頼

 無法者の襲撃をはねのけ、さらにその対策も定着した頃、俺たちに指名依頼が舞い込んだ。


「俺たちに指名依頼、ですか?」


 迷宮帰りに実績を精算しに行ったら、受付嬢のステラに捕まった。

 なんと俺たちに、指名依頼が来てると言うのだ。


「ええ、端的に言うと、貴族の蜂蜜ノーブルハニーを採ってくる仕事よ」

「ああ、それ絡みか。たしかに俺たちは実績があるけど、あまり積極的にやりたい仕事でもないんだよなぁ」

「そうですね。今は6層を目指してるところですし」


 俺のぼやきに、アルトゥリアスも同調すると、ステラが泣きそうな顔になる。


「ええっ、そんなこと言わないでよ。けっこう報酬も破格なのよ」

「そうは言っても、キラービーの巣は、マジでやばいんだって」

「たいへん、なんでしゅ」


 俺が弱音を吐けば、ニケもまじめな顔でそれに同意する。

 確かに一度はノーブルハニーの回収に成功した俺たちだが、あの時はよほど運が良かったことが、後になって分かってくる。

 あれから何度も5層に潜っているのに、一向にノーブルハニーに遭遇しないのだ。

 そのくせキラービーはしこたま出てくるものだから、命の危険を感じたのは1度や2度ではない。


 そのため俺たちは5層の突破を優先目標にし、ノーブルハニーは後回しにしていた。

 おかげで最近はキラービーの対処にも慣れ、6層への挑戦も視野に入ってきたところだ。

 その辺の事情を話すと、ステラもため息を吐く。


「う~ん、それじゃ、無理強いはできないわね。だけどこれって、領主様からの依頼だから、誰かにやってもらわないと困るのよ」

「それだったら、もっと上の冒険者にお願いしてよ」

「それができたら、苦労しないわよ、もう」


 痛い所を突かれたステラが、逆ギレで頬をふくらませる。

 聞けばトップクラスの冒険者パーティーには例年、年末にハチミツ探しの依頼が出ているんだそうだ。

 これにはこの町の特産である”貴族の蜂蜜酒ノーブルミード”の生産を維持するという意義があるため、年に1度の奉仕活動みたいな形で、なんとか受けてくれるとか。


 しかし今はちょうど年の半ばであり、とても頼めるような雰囲気じゃない。

 5層のキラービー、しかもその巣の殲滅というのは、上位の冒険者にとっても容易な仕事ではないからだ。

 そのため彼らはもっと実入りのいい深層の探索に勤しんでおり、そのペースを乱されるのを好まない。


 ところがここに、ちょうど5層を探索している、腕利きのパーティーがいる。

 なら奴らに頼めばいいではないか、とでもなったのだろう。

 俺たちにとっては、迷惑な話でしかないのだが、そんな俺の心境を無視して、ステラが強引に話を進めようとする。


「さっきも言ったように、これは領主様の依頼だから、ここでやっておくと後々有利になるわよ。どう?」

「どうって言われても、命あっての物種からなぁ……」


 ガリガリと頭をかきながら、俺はアルトゥリアスに視線を向ける。

 すると彼はちょっと考えながら、こう言った。


「ステラさんもお困りのようなので、失敗した場合の違約金について、考慮してもらえばいいのではありませんか」

「違約金を考慮って、具体的には?」

「違約金は免除、もしくは極めて安くしてもらいます」

「ちょっと、勝手にそんなこと言われても!」


 彼の提案にステラは抗議の声を上げるが、アルトゥリアスはすましたものだ。


「それならば、お断りするしかないですね」

「くうっ、憎らしい」


 結局その後、ステラが上司に掛け合って、違約金の大幅減額で依頼を受けることになった。

 通常は成功報酬の1割のところ、さらに10分の1で1パーセントだ。

 成功報酬が金貨5枚なので、それでも銀貨5枚になるが、今の俺たちにとっては痛くない。

 願わくば、成功裏に終わらせたいものだが。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 半ば強引に依頼を受けさせられた俺たちは、まずハチミツを収容するための容器を買い込んだ。

 2リッターほど入りそうな小樽をひとつ買い、それをゼロスにくくりつけると、俺たちはまっすぐに5層を目指した。

 ひと口に5層と言っても、その範囲は広く、数多くの部屋がある。


 そして下層への最短経路というものは、多くの冒険者が通過するので、キラービーの巣はまずできない。

 その前に殲滅されてしまうからだ。

 ひるがえって最短経路から離れた辺境部分というか、外縁部分には、人が立ち寄らないので、巣ができている可能性は高い。

 ただしその分、魔物の密度も高く、危険度も段違いだ。


「フウッ、やっぱり数が多いですね」

「ええ、予想されたとはいえ、厄介なものです」

「こまった、でしゅ」

「クエ~」


 最短経路から外れて外縁部を目指した俺たちは、さっそく数十匹のキラービーに迎えられ、なんとか殲滅することができた。

 回収した魔石を数えてみると、その数なんと40個を超えている。

 それを倒すのに、散弾も10発近く消耗していた。


 ちなみに今までは装弾ポーチが1個だったのを、2つに増やして腰にくくり付けている。

 おかげでなんとか大群にも対応できたが、このままでは先が思いやられる。

 そんなことを考えながら探索を再開していたら、ニケから警告が発せられた。


「なにか、ちかづいて、くるでしゅ」

「キラービーか?」

「……ちがうでしゅ。たぶん、にんげん」


 そんなやり取りをしているうちに、俺の耳にも、騒々しい足音が聞こえてきた。

 俺たちは顔を見合わせると、何も言わずに元来た道を引き返し、少し戻った分岐点で脇道に隠れる。

 しばらく待っていると、ドタドタと走る音が近づいてきた。


「急げっ! 死んじまうぞ!」

「だから俺は嫌だって言ったんだ」

「だけど、ノーブルハニーを見つけたら、大儲けなんだぞ」

「だからって、キラービーの殲滅なんて、ムチャですよ」

「うるせえっ! ガルバッドの馬鹿が上手くやってれば、なんとかなったんだよ。俺は悪くない」

「そういえばあいつ、いませんよ。置いてっていいんすか?」

「知るかっ。運が良ければ、助かるだろうぜ。それよりもまずは、俺たちが生き残るんだ」

「うわっ、あいつら、追ってきやしたよ」

「ヤバいっ、逃げろ~」


 10人近い冒険者が、ギャアギャア騒ぎながら、通り過ぎていった。

 すると数匹のキラービーがそれに続き、奴らを追っていく。


「ずいぶん騒々しい奴らでしたね」

「まったくです。大方、ノーブルハニーを狙って潜り込んだはいいが、キラービーに手も足も出なくて、逃げ帰るところでしょう」

「そういえば誰か、残してきたとか言ってませんでしたっけ?」


 するとアルトゥリアスが珍しく、ためらいを見せた。


「ひょっとして私の知り合いかもしれません。できれば助けたいのですが、付き合ってもらえますか?」

「アルトゥリアスさんのためなら、いくらでも」

「つきあう、でしゅ」

「感謝します」


 俺たちはすぐさま、先ほどの連中が来た先へ向かった。

 途中、何匹かのキラービーを倒しつつ進むと、やがて大きな部屋にたどり着く。

 すると部屋の中の一角に、キラービーが群がっているのが見えた。


突風アスファ


 アルトゥリアスの風魔法でキラービーが散らされると、地面の上に人が横たわってるのが見えた。

 しかしその体はピクリとも動かず、生きているかどうかも怪しいほどだ。

 しかもキラービーは周りにうじゃうじゃいるので、まずはそっちをどうにかしないといけない。


「彼を助けます。片っ端からハチを落としてください」

「了解。ついでにノーブルハニーが手に入ると、いいですね」

「その可能性はありますが、まずは敵を片付けましょう。『突風アスファ』」


 アルトゥリアスが魔法でハチを誘導し、固まった所へ俺が散弾をぶっぱなす。

 すると運よく10匹近い敵が、ボトボトと地面に落ちる。

 気を良くした俺は、アルトゥリアスと連携を取りながら、バンバン散弾を放っていった。

 ニケとゼロスも俺を守りながら、手近なハチをつぶしてくれている。

 やがて手持ちの13発を全て撃ち尽くした頃には、飛んでいるハチはもういなかった。


「ふうっ、なんとか倒しきりましたね」

「ええ、でもいつ次が来るか分からないので、弾を先に作っておきましょうか」

「ええ、そうしましょう」


 空薬莢を集めてアルトゥリアスに渡してから、俺も弾体を作っていく。

 するとキラービーにとどめを刺していたニケから、声が掛かった。


「タケしゃま~、このひと、いきてるでしゅ~!」

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