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迷宮へ行こう ~探索のお供はケモミミ幼女~  作者: 青雲あゆむ
第2章 下級冒険者編

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20.殺人蜂の宝

 酒場でひと騒動あってからも、俺たちは変わらずに迷宮に潜り続けた。

 そのうち4層はほぼ探索し終えたので、次は5層となる。

 しかし5層には、今までとひと味もふた味も違う難敵がいるため、進むには少し勇気がいった。


「ゴクリ……それじゃあ、行きますよ」

「ええ、行きましょう」

「そんなに、こわがること、ないでしゅ」


 俺がこんなにもビビっているのは、ここに出る殺人蜂キラービーのせいだ。

 こいつらは兵士蟻ソルジャーアントと同様に群れで動くだけでなく、空を飛ぶうえに、毒まで持っているという極めつけの厄介者なのだ。

 4層まではなんとか人海戦術で抜けられたとしても、キラービーだけはそうはいかない。


 下手をするとここで全滅する可能性も高く、中級冒険者への登竜門とみなされるほどだ。

 そんな、厄介極まりない魔物の領域へ入るため、俺は階段を下りた。

 幸いにもすぐにキラービーが出てくることもなく、ひとまず胸を撫でおろす。


「とりあえず、ここにはいないな。それじゃあ、慎重に進みますよ」

「ええ、守りは私に任せてください」

「とどめは、まかせるでしゅ」

「クエ~」


 気楽に言葉を返す彼らをうらやましく思いながら、俺は慎重に歩を進めた。

 しばし歩くと、まだ部屋にたどり着いてもいないのに、ブーンという羽音が聞こえてきた。

 キラービーの襲来だ。


「来たぞ。迎撃態勢」

「了解」

「あい」

「クエ~」


 俺の指示に従って、左横にアルトゥリアスが、右横にニケが立つ。

 ゼロスも俺とニケの間から、顔を出している。

 やがて10匹ほどのキラービーが、先の通路に現れた。

 カラスほどもあるハチ形の魔物が、俺たちを発見すると、一斉にこちらへ襲い掛かってくる。


突風アスファ


 アルトゥリアスの魔法で、キラービーの左側に風を叩きつける。

 それにより一部の敵の動きが乱れ、通路の右側にハチどもが集まった。


――ズバンッ!


 これ幸いと魔導砲インドラをぶっぱなすと、多数の小石が宙を飛び、ハチの群れに当たる。

 すると半分ほどのキラービーがダメージを受けたのか、フラフラと地面に舞い落ちる。


「ていっ」

「クエ~」


 敵が地面に落ちるやいなや、ニケとゼロスがとどめを刺して回る。

 ニケはナタでハチを斬り、ゼロスはその足で踏みつけている。

 幸いにもキラービーはさほど頑丈でもないので、その攻撃だけで十分だった

 その後もアルトゥリアスの援護を受けながら、全ての敵を叩き落とし、掃討が終了する。


「フウッ、とりあえず完勝でしたね」

「ええ、お見事でしたよ、タケアキ殿」

「いやいや、アルトゥリアスさんの援護のおかげですよ」

「とんでもない。私の術では、ああも見事に撃ち落とせませんよ」


 アルトゥリアスがやけに持ち上げてくるが、それも無理からぬことだ。

 普通の魔法、特に精霊術は、術の行使に時間が掛かるものなのだ。

 彼の『突風アスファ』などはその中でも優秀な方だが、しょせん風である。

 それに攻撃力はほとんどなく、今回のように少々押し返す程度のものだ。


 しかしそこに魔導砲インドラの散弾を組み合わせると、途端に使える魔法となる。

 特にキラービーは風で動かしやすいので、1ヶ所に固めておいてからズバンって寸法だ。

 弾の装填こそ必要なものの、そのすばやさは他の魔法の比ではない。


「タケしゃま~、ませき、とれたでしゅ」

「お~、けっこう立派な魔石だな。高く売れそうだ」

「あい♪」


 褒められたニケが、尻尾をフリフリさせて喜んでいる。

 そんな彼女の頭を撫でてから、俺も一緒になって魔石を回収する。

 11匹ものキラービーから魔石を取ると、ちょっと休んでから前進を再開した。

 やがて前方に見えた部屋の方から、多数のキラービーが飛び回る音が聞こえてくる。


「どうやらキラービーの巣があるみたいですね。ここはアルトゥリアスさんの魔法で押さえつけながら、通り抜けます?」


 キラービーは迷宮の中に巣を作ることがあり、その場合は敵の数が格段に跳ね上がる。

 おそらくその一部があぶれ、先程も襲撃してきたのだろう。

 そんな厄介の元はスルーするに限ると思ったのだが、アルトゥリアスは首を横に振る。


「いいえ、せっかくなので殲滅してしまいましょうか。上手くすれば、お宝にありつけるかもしれませんよ」

「ええ~……強気ですね? いくらハチミツが取れるかもしれないからって」


 キラービーは迷宮内の植物から、蜜を集める習性があった。

 そのハチミツは滋養に富むうえに、実に美味な甘味料として、高い需要があるらしい。

 たとえ水筒1本分のハチミツでも、金貨以上の収入になるといわれるほどだ。

 しかしそれも、命あっての物種である。


「大丈夫ですよ。先ほどの戦闘から見て、上手くやれば殲滅も可能です。弾も多めに作りましたからね」


 彼の言うように、散弾は多めに作ってあった。

 通常はポーチに6発、インドラに1発で計7発のところを4発ほど余分に作って、ポケットに入れてある。

 さっきの戦闘では、1発で5匹ほどのキラービーを落とせていたので、50匹以上の敵に対応できる可能性はある。

 もちろん分散されると効率は落ちるが、アルトゥリアスの風魔法で操作できるので、やりようはあるだろう。

 結局、俺たちはアルトゥリアスに乗せられて、キラービーの巣に挑むことになった。


「それでは行きますよ。『突風アスファ』」


 部屋の中に入るやいなや、アルトゥリアスの風魔法が放たれる。

 それによってキラービーが集まったところへ、散弾をぶっぱなした。


――ズバンッ!


 数匹のハチが落ちるのを横目に、空薬莢を排出し、新しい弾丸を込めて狙いを付ける。


――ズバンッ!


 今度も数匹のキラービーが落ちるのを見て、こっちもなんだか楽しくなってきた。

 俺は調子に乗って何度も弾を入れ替え、キラービーに向かって散弾をぶっぱなす。

 そうして10発も撃ち終えると、部屋の中に飛んでいる敵は、もういなかった。


「とどめでしゅ♪」

「クエ~♪」


 地面に落ちたキラービーに、ニケとゼロスが嬉々としてとどめを刺していく。

 そんな彼女たちを見てなごんでいると、アルトゥリアスが話しかけてきた。


「想像以上に上手くいきましたね。さすがはタケアキ殿です」

「いや~、アルトゥリアスさんのおかげですって。このうえ貴族の蜂蜜ノーブルハニーが採れれば、言うことありませんね」

「ええ、私も楽しみですよ」


 キラービーのハチミツは高級品で、貴族にも愛されるため、ノーブルハニーと呼ばれたりする。

 キラービー自体が厄介な魔物なので、めったに採れることがなく、さらに希少価値を高めているんだとか。

 魔石の方はニケに任せ、俺とアルトゥリアスはキラービーの巣に近づいた。


 それは直径1メートルほどの球状の構造物で、迷宮の壁にくっついていた。

 おそらくハチの唾液と土を混ぜたであろう素材は、暗褐色で硬質な輝きを放っている。

 試しに拳でコンコンと叩いてみると、それほど強度はなさそうだ。


「それでは、壊しますよ」


 アルトゥリアスがそう言ってナイフを刺しこむと、存外あっさりと刃が通る。

 彼が慎重に巣を崩していくと、その中身が徐々に顕わになっていく。

 そしてその最奥までたどり着くと、お目当てのものが見つかった。


「くんくん……あまいにおい、するでしゅ」


 いつの間にか魔石を取り終え、近寄っていたニケがつぶやく。

 そしてその香りはニケだけでなく、俺にも伝わってきた。


「ああ、ただ甘いだけじゃなくて、なんか気分の良くなるような臭いだな」

「あい♪」


 キラービーの巣の奥では琥珀色の液体が、神秘的な輝きを放っていた。

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