表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷宮へ行こう ~探索のお供はケモミミ幼女~  作者: 青雲あゆむ
第2章 下級冒険者編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/115

19.うるさい奴ら

 4層の兵士蟻ソルジャーアントに対処できるようになった俺たちは、その後も4層をくまなく探索した。

 さすがに4層ともなると、魔物との戦闘も面倒なため、普通の探索者は最短距離を目指す。

 そのため下層への階段へ向かう最短経路を外れたところは、あまり探索されないのだ。


 そんな空白地帯を求め、俺たちはあえて回り道をしていった。

 なぜなら空白地帯の情報はギルドに売れるし、有用な植物や鉱石などを入手する可能性もあるからだ。

 さらにはより多くの魔物を狩って、自身の強化度を上げられるとあって、俺たちは戦闘を繰り返した。

 そして4層の奥深くで、思わぬボーナスを発見する。


「お、これって、薬草ですよね?」

「ええ、魔境でよく見る、”いやし草”ですね」

「いっぱい、あるでしゅ」

「クエ~」


 とある行き止まり部分で俺たちは、大量の薬草を発見したのだ。

 ヨモギに似たような草が、部屋の一角に繁茂はんもしている。

 ”癒し草”は治療ポーションの材料として売れるので、俺たちはしばし採取にいそしんだ。

 こんな時のために持ってきていたいくつもの麻袋が、パンパンになる。


「フウッ、こんなとこかな。だけどほとんど取り尽くしちゃって、大丈夫ですかね?」

「こういうモノは取り尽くすと、また別の場所に移転するんですよ。迷宮の不思議なところですね」

「へ~、そんなもんですか?」


 そんな話をしつつ、その日は癒し草を持ち帰るため、早めに地上へ戻った。

 そして魔石の換金で銀貨30枚、癒し草の売却で銀貨50枚超の、高収入を手に入れたのだ。

 低級冒険者の1日の収入としては、破格の高額である。


 しかしそんな目立つことをしていれば、うるさい虫が寄ってくることもある。


「おう、お前ら。最近、4層でしこたま稼いでるらしいじゃねえか」


 行きつけの酒場で祝杯を挙げていたら、見知らぬ冒険者が声を掛けてきた。

 そいつらは7、8人の集団で、中でも体のでかい男が、ニヤニヤと嫌らしそうに笑っている。

 そいつは茶色の短髪に派手なバンダナを巻いた、ムキムキの大男だ。


「え~と、どちらさんですか?」

「んだと? そんなことも知らねえのかよ。ったく。それじゃあ、聞かせてやるが、俺は赤牙団せきがだんのルメイだ」

「……はあ。初めまして。俺はタケアキです。パーティー名は無いのであしからず」


 正直うっとうしかったが、最低限の礼儀として俺も名乗る。

 それで用は済んだとばかりに顔をそらしたら、ルメイはなぜか青筋を立てて、さらに絡んできた。


「舐めてんのか、こら! まだ話は終わってねえぞ!」


 俺もそんな気はしていたのだが、面倒くさそうな予感しかしないので、あえてやってみた。

 しかしそのまま帰ってくれるはずもなく、俺はまた嫌そうに顔を向ける。


「ハァ……まだ何か、ご用でも?」

「クッ、狙ってんのか、この野郎……まあいい、俺は寛大だからな。用事ってのはあれだ。お前らを使ってやるから、喜べ」

「間に合ってますので、他をどうぞ」

「そうだろう……って、なに断ってやがんだよ!」

「いや、だから間に合ってますって」

「間に合ってるじゃね~んだよっ!」


 ブチ切れたルメイが、俺の肩に手を伸ばす。

 馬鹿力でつかまれた肩の痛みに、俺が顔をしかめると、ニケがテーブルの上に飛び乗った。


「タケしゃまから、てをはなせ!」


 ニケはそう言いざま、鞘が付いたままのナタを振り上げ、ビシッと突きつけた。

 すると男たちは一瞬だけあっけに取られ、次の瞬間には大声で笑いはじめる。


「ギャハハハハ、タケしゃまだってよ。聞いたか、お前ら」

「ブハハハハ、噂には聞いてたが、こんな子供を迷宮に連れてくなんて、ひでえ野郎だ」

「しかも子供にかばわれてやがるぜ、こいつ。ママがいないと、何もできないんでしゅか~?」


 あ、まずい。

 そう思った瞬間、ルメイが斜め後ろにぶっ飛んだ。

 ”ブフォウッ”とか情けない声を上げながら、大男の体が宙を舞う。

 そして次の瞬間、そこにあったテーブルを道連れに着地した。

 盛大にテーブルをぶち壊しながら転がったルメイは、すでに意識を失っているようだ。


 そしてこちら側には、毛を逆立てて怒るニケがいた。

 ルメイも一体なにが起こったのか、分からなかっただろう。

 奴はニケの振ったナタの一撃で、吹っ飛ばされたのだ。

 一応、鞘がついたままで打ったため、致命傷には至っていないが、打たれた瞬間に意識が飛んだのだろう。

 大慌てでルメイの手下が駆け寄り、介抱をする一方、手下の1人がいきり立つ。


「てめえ、うちの大将に何してくれてんだ?」

「そっちがさきに、てだしたでしゅ」

「ちょっと肩つかんだだけだろうが。ざけんじゃねえぞっ!」


 とうとう敵の男がニケに、殴りかかってきた。

 ニケはヒラリと床に降り立って、それをかわす。

 すると周りにいた男たちも、それにつられて攻めてきた。


突風アスファ


 ここでアルトゥリアスが風魔法を使い、強風で敵を押し返した。

 普通なら店内がぐちゃぐちゃになるところだが、アルトゥリアスは魔法を細かく制御して、最小限の被害に済ませている。

 この予想外の魔法攻撃に、さすがの荒くれどもも勢いをそがれたようだ。

 おかげでしばしにらみ合いが続くうちに、聞き覚えのない声が掛けられた。


「おいおい、穏やかじゃねえな。一体なんの騒ぎだい?」


 それは酒場に入ってきたばかりの集団だった。

 その先頭に立つのはガッチリとした短躯の山人ドワーフである。

 よく見れば、その後ろにもドワーフが控えていて、ひとつのパーティーのようだ。

 先頭の男がドカドカと店内に踏み込みながら、ジロリと周囲を見回す。


「ふむ……何やらいい大人が、子供をいじめておるようだな?」

「ち、違う。あっちが先に手を出してきたんだ」

「そうだ! うちのリーダーなんか、こうだぞ」


 いまだに意識が朦朧もうろうとしているルメイを指して、奴らが言い訳をする。

 しかしそれに対して返されたのは、失笑だった。


「ハッ……だからって複数の大人が子供を囲むなんて、許される話じゃねえだろうに。せめて1対1ならまだしもな」

「ち、違うんだ、これは……」


 敵の男たちは、ドワーフに対して妙に下手に出ていた。

 不思議に思ってアルトゥリアスに視線を送ると、彼が事情をささやいてくれる。


「あのドワーフたちは、冒険者パーティー”火竜のアギト”ですよ。一旦、暴れ出すと手の付けられないことで有名なので、多少は遠慮しているんでしょう」

「はあ、なるほど……」


 アルトゥリアスもこの町に来たばかりのはずなのに、やけに詳しい。

 まあ、この世界に来たばかりの俺よりは、事情に詳しいのも当然か。

 そんなことを話しているのに気がついたのか、ドワーフが俺たちにも厳しい目を向ける。


「そこの普人ヒューマン森人エルフにも、感心しねえな。そんな小さな子供を迷宮に駆り出すから、こんなことになるんだ。迷宮は遊び場じゃねえんだぞ」


 その言葉にムッとした俺とニケが反論しようとするのを、アルトゥリアスが手で制した。

 そして1歩前に出ると、ドワーフに話しかける。


「それは心外ですね、ベルダインさん。あなたの方こそ、見た目だけで判断しない方がいい。こう見えてニケさんは、立派な戦士なんですよ」

「……むう、お前、アルトゥリアスか? エルフきっての戦士が、こんなとこで何してんだ。しかもちんけなパーティーに加わって」

「ちんけとは、なおさら心外ですね。とはいえ、ケンカを止めてくれたのは助かりました。この場は礼を言っておきましょう……さて、すでにしらけ切ってますから、この場は仕切り直しましょう。私の方から、皆さんにビールを1杯ずつおごりますよ」


 アルトゥリアスはドワーフとの会話から、あっさりとケンカを手打ちに持っていった。

 当然、先に絡んできたパーティーが抗議の声を上げるが、周囲の人間に睨まれて口をつぐむ。

 そのまま酒場の喧騒に紛れて、奴らは消えていった。


「ふう……助かりました、アルトゥリアスさん」

「いえいえ、私も無事に終わって、ホッとしてますよ。せっかくなので、飲み直しましょう」

「ええ、そうですね」


 俺もホッとして酒を頼むと、ニケがしょんぼりしているのに気づく。


「どうしたんだ? ニケ」

「あたしのしたこと、よけい、だったでしゅか?」

「……そんなことないさ。俺を助けてくれたんだろ。だけど次は、もう少し穏便にやりたいな」

「おんびん、でしゅか?」

「ああ、まずは話し合いで片が付かないか、様子を見るのさ。そのうえでどうしようもなければ、逃げてもいい」

「きをつける、でしゅ」

「ああ、ほら、ニケもジュース飲め」

「あい」


 ようやく笑顔の戻ったニケにホッとする。

 しかし今後も似たようなトラブルはありそうだと思うと、気持ちは晴れなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ