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15.下級冒険者への昇格

第2章を開始します。

 見事に3層の守護者を突破した俺たちは、4層の水晶部屋から1階層へ帰還した。

 その足で地上へ上がって魔石を売却すると、冒険者ギルドへ報告におもむく。

 冒険者には10から1等級までのクラスがあり、魔石や素材の売却、さらには階層突破によって実績が加算され、昇格できるのだ。


「実績値の精算をお願いします」


 そう言って3人分の冒険者証をカウンターに出すと、受付の女性が眉をひそめた。


「はあ? たしかあなた、この間、9等級に上がったばかりじゃなかった?」

「ええ、そうですけど、それが何か?」


 俺は先日、魔石の売却量が規定に達したため、9等級に昇格していた。

 ちなみにアルトゥリアスはベテランだけあって、すでに中級と呼ばれる6等級だそうだ。

 俺の回答に受付嬢は、なぜか苛立ちを顕わにし、怒りの声をぶつけてきた。


「ほんの数日で、精算が必要なほどの実績が貯まるわけ、ないじゃない! それこそ3層を突破するぐらいじゃないと、8等級には上がれないのよ!」

「いや、実は3層を――」

「しかもあなた、いつもこんな幼い子を迷宮に連れ回して、恥ずかしくないのっ?! かわいそうでしょう!」

「え~?」


 受付嬢は俺の言うことも聞かず、柳眉を逆立てて糾弾を始めた。

 その的外れな指摘に、しばし言葉を失っていたら、カウンターの上に飛び上がる影があった。


「タケしゃま、ばかにすんな! ニケは、じぶんのいしで、めいきゅう、もぐってるでしゅ。よけいなおせわ、でしゅ!」

「えっ、ちょっとあなた、騙されてるのよ、その男に。こっちへ来なさい」

「さわんなでしゅ!」

「あうっ」


 受付嬢がニケを引き寄せようとすると、ニケはその手を振り払った。

 振り払われた方が、あまりに悲しそうな顔をしたので、俺は止めに入る。


「ニケ、もういい。俺のために怒ってくれて、ありがとうな」

「タケしゃま、でもこのおんな……」

「いいから、いいから」


 そう言って彼女をカウンターから下ろすと、俺は改めて受付嬢に向かい合う。


「俺たちはついさっき、3層の守護者を突破しました。それは実績の精算に、見合うんですよね?」

「え、でもそんなことあるわけ……」

「あなたの常識は忘れて、まずはこれを調べてください。これにはその証が、刻まれていますから」

「は、はい……」


 なおも渋る受付嬢を強引に説き伏せ、冒険者証を確認してもらう。

 すると俺の冒険者証の情報を読み取った彼女の顔色が、見る見るうちに青くなった。


「本当だわ……でもいくら中級と一緒でも、たった3人で3層突破なんて……」


 たった3人のパーティーで3層を突破したのが信じられないようで、いまだに戸惑っている。

 しかしアルトゥリアスの情報も確認すると、ようやく納得できたのか、俺の実績が加算されることになった。

 これで俺も晴れて8等級となり、駆け出し冒険者を卒業した形になる。

 とはいえ、しょせん下級冒険者でしかないので、まだまだ先は長い。

 最低でも中級、あわよくば上級を超えて、特級の冒険者を目指すつもりだ。


 ちなみにすでに中級のアルトゥリアスに変化はないのは当然として、見習いのニケにも影響はないと思っていた。

 しかし受付嬢から意外な話を切り出される。


「3層の攻略に貢献できるほどの見習いは、実技試験に合格すれば正式な冒険者になれますが、受けますか?」

「へ~、そうなんだ。ニケは試験、受けたいか?」

「もちろんでしゅ」


 そこで詳しく聞くと、15歳になる前でも見習いから昇格する手段があるそうだ。

 このギルドではその基準が3層攻略であり、その技能が認められれば、見習いを卒業できるんだとか。

 もちろんワーウルフとサシで渡り合えるニケに、不足があるはずもなく、彼女は実技試験を難なくこなした。

 そしてくだんの受付嬢からニケに、鉛色の冒険者証が手渡される。


「こちらがニケさんの冒険者証です。これによって迷宮探索の制約が無くなると同時に、見習いとして受けられていた支援も無くなります。ご注意ください」

「ほえ、しえん?」


 ニケは気づいていなかったが、冒険者見習いは衛兵やギルドから、有形無形ゆうけいむけいの支援を受けている。

 何もしていないようで、ギルドや衛兵はちゃんと見習いに気を配っているし、無駄に見習いを危険にさらすような冒険者には、ギルドからきついペナルティが課せられたりする。

 さらに見習いが持ち込んだ採取物の買取には、わずかではあるが割り増しが付き、ギルド周辺の飲食店では割引きもされるんだとか。


 これらは未来の冒険者を育てるための支援策だが、見習いを卒業すればそれも失われる。

 たとえそれが10歳の幼女だとしても、だ。

 それから受付嬢は、俺に対して向き直ると、謝罪の言葉を述べた。


「それから先ほどは、タケアキ様を非難するようなことを言ってしまい、失礼を致しました。以後このようなことがないよう気をつけますので、今後はこのステラに、ご相談いただければ幸いです」


 意外なことに、ステラと名乗る受付嬢は、素直に頭を下げてきた。

 それはニケに嫌われたくないが故の行動かもしれないが、こちらとしても都合が良いので、以後は頼りにさせてもらうことにした。

 そんな言葉を返してから、俺たちはギルドを後にする。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 その後、行きつけのレストランで、3層突破と昇格を祝って宴会をした。


「ほら、ニケ。料理が来たぞ。みんなで乾杯しよう」

「あい。かんぱ~い」

「「乾杯」」

「クエ~」


 俺とアルトゥリアスはビールを、ニケはジュース、そしてゼロスは水で乾杯だ。

 それから料理をぱくつきながら、今日の話をする。


「それにしても、見習いから特例で昇格できるなんて規則、あったんですね」

「ええ、ギルドとしても優秀な見習いには、早く活躍して欲しいですからね。そのために、各支部なりに昇格基準を設けているんですよ。もっとも普通は、1年か2年早まるぐらいのものですが」

「まあ、それはそうでしょうね」


 そう言ってニケに目をやると、彼女はもらったばかりの冒険者証をテーブル上に置き、満足そうに眺めていた。

 どうやら昇格がよほど嬉しかったらしく、さっきから暇があれば取り出して、ニマニマと笑っている。


「ところで、明日からどうしましょう? 4層からは大きく変わるんですよね?」

「ええ、私も詳しく知りませんが、4層からは虫系の魔物が出るらしいですね。しかも序盤は、数の多さに悩まされるとか」

「ええ、アリとかハチみたいなのが、ウジャウジャ出てくるって話ですね」


 噂では4,5,6層では虫系の魔物に切り替わり、迷宮内も植物に埋もれているらしい。

 おかげで貴重な薬草なども採れるが、魔物の厄介さは比較にならないとも。


「まあ、一度は様子見で潜るにしても、戦力の増強は必須ですよね」

「戦力の増強と言っても、何か当てがあるのですか?」

「う~ん、俺もよく分からないけど、まずは魔法を見直そうかなって……」


 するとアルトゥリアスは、呆れたような口調で言う。


「そんなに簡単に魔法が強化できれば、苦労はしませんよ。私だってシェールと契約してから50年、たゆまぬ努力をしてきたんです。焦りは禁物ですよ」

「……それはそうかもしれないけど、ちょっと見方を変えて、やってみたいんですよ」

「ほう、見方を変えるとは?」

「例えば、何か道具を補助に使う、とか?」


 するとアルトゥリアスが、訳知り顔で応じる。


「ああ、魔法を強化する杖などですね。しかしあれは魔術には有効ですけど、精霊術にはほとんど効果がありませんよ」

「いや、そうじゃなくてこう……魔法を撃ち出す筒みたいなものを使ったら、どうかなって。それとあらかじめ、術式を封印した弾を準備するなんてのも、考えられますね」


 自分で使ってみて思ったのだが、今の魔法は使い勝手が悪い。

 それはもちろん俺の技が未熟なせいもあるが、それ以上に無駄が多いように思える。

 せっかく中位精霊という強力な味方がいるのに、あまりその力をかせてない感じだ。


 その辺、まだまだ改善の余地は大きいと思うのだが、アルトゥリアスには上手く伝わらない。

 結局、俺が状況に応じて案を出し、アルトゥリアスに助言をもらうという、あいまいな形になった。

 そんなことを話している間もニケは、自分の冒険者証を見つめ続けていた。

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