14.3層守護者の突破
ひょんなことから中位の地精霊を見つけた俺は、彼女と契約を交わすことに成功した。
しかしホッとしている俺に対して、精霊は何か物欲しげな視線を送ってくる。
「アルトゥリアスさん、彼女が何かしてもらいたいみたいなんだけど、分かりますか?」
「ああ、それは名付けを求めているのでしょう。契約が成功したとはいえ、それはまだ仮のもの。そこで名前を与えることで、より強固な絆が結ばれるのです」
「ああ、そういえばアルトゥリアスさんの精霊にも、名前ありますもんね」
さてさて、どうしたものか?
ゼロスはニケの兄弟から取ったけど、他のは思いだせない。
それなら他のギリシャ神話から取るか。
たしか、大地の女神といえば……
「それじゃあ、ガイアでどうだ?」
その途端、ノーミーの顔がぱあっと輝いて、彼女と俺の経路が、より強まった気がした。
するとどこかあいまいだった彼女の輪郭が、急にくっきりと見えるようになる。
「ほほう、見事な契約ですね。精霊との親和性が高いほど、より明確な形を取ることになります。これほどはっきりと見える精霊は、私も見たことがありません」
「そうなんですか? どうやら名前を気に入ってくれたようで、俺も嬉しいですけど」
「それにしても、精霊術を教えてから1週間足らずで、中位精霊と結ぶなど、すばらしい偉業です。本当にあなたは、何者なのでしょうね?」
アルトゥリアスの探るような視線を受けて、俺はあいまいにごまかす。
「い、いやあ、アルトゥリアスさんの教え方が良かったんですよ。本当にありがとうございました」
「フフン、タケしゃま、すごいでしゅ」
なぜか俺の横でニケが、ドヤ顔をしている。
彼女の上機嫌を示すように、かわいい尻尾がフリフリと揺れている。
そんなニケの頭を撫でながら、俺は3層の守護者打倒に、思いをはせていた。
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地精霊のガイアと契約してから、俺たちの探索は一変した。
何しろガイアは低位精霊に比べて魔力が格段に強く、ある程度の自律性も見込めるのだ。
俺はアルトゥリアスの指導を受けて、精霊術師として大きく成長した。
『百石飛礫』
「キャウンッ」
俺の足元から、いくつかの礫が飛び立ち、4匹のコボルドを打ちのめす。
それだけで瀕死になったコボルドに、俺とニケがとどめを刺していく。
その後、魔石を回収して集まると、アルトゥリアスが感嘆の声を漏らした。
「いやはや、大したものです。これでは私の出番がありませんね」
「いえ、そんなことないですよ。まだとっさの動きは、アルトゥリアスさんの方が速いですし」
互いの属性の違いもあり、最近は彼と役割が分かれてきた。
風属性は威力が低い代わりに技の出が速いため、とっさの守りに使う。
対する俺の地属性は、出が遅い代わりに威力があるため、今回のような攻撃を担当するようになっていた。
そして攻撃力の高いニケが、敵にとどめを刺すことで、効率的に魔物を倒せている。
え、ゼロスは何をするのかって?
元気に駆け回るだけで、役に立ってるんじゃないかな。
多少は敵の意識が分散するし、なんといってもかわいらしい。
その後も順調に3層を攻略し、俺たちはまたもや、守護者部屋の前に立っていた。
今日は他の挑戦者もおらず、ひっそりとしている。
「さて、今日はどうしますか? 以前に比べて私たちは、だいぶ強化されていると思いますが」
「そうですね…………俺は挑戦したいと思います。アルトゥリアスさんの言うように、俺たちは進歩していますからね」
「なら、やるでしゅ」
それを聞いたニケが、ナタを掲げてフンスと気合を入れている。
そんな彼女を見ていると、こっちも肩の力が抜けて、気が楽になる。
アルトゥリアスと目が合うと、自然に言葉が出た。
「それじゃあ、やりますか?」
「ええ、行きましょう」
俺たちはリラックスした雰囲気で扉の前に立ち、水晶に手を当てる。
そうして開いた入り口に入ると、以前のようにワーウルフが現れた。
『突風』
そして敵が動きだしたところを、アルトゥリアスが風魔法で敵の動きを牽制する。
それは言ってみればただの強い風でしかなく、敵にとってはさほどの脅威でない。
せいぜい動きを阻害される程度だが、その間が重要だった。
『百石飛礫』
その間に準備した俺の土魔法が、敵に襲いかかる。
もちろんその程度では致命傷にはならないが、敵の攻勢をくじくことに成功した。
『疾風迅雷』
ここで新たな古代語を唱えたのは、ニケだ。
彼女はこの数日間、アルトゥリアスに肉体強化魔法を習っており、いくつかの術を会得しているのだ。
そして今、彼女は自身の動作を加速する術を使い、疾風のように敵に突っこんだ。
「ギャンッ!」
見事、ワーウルフの1体に深手を与えたニケが、即座に後退して俺の下へ戻る。
調子に乗って深追いしないよう言いつけたのが、よく守られている。
「よくやったぞ、ニケ」
「あい、タケしゃま」
「お見事です。しかしまだまだ、これからですよ。『圧空障壁!』」
味方を傷つけられて逆上した残りの2体が、こちらへ突っこんできた。
しかしそれをアルトゥリアスが跳ね返すと、俺もすかさず次の攻撃を繰り出す。
『百石飛礫』
再び襲った石の雨を、敵がうっとうしそうに手で防ぐ。
最初のびっくり効果を除けば、ほとんど脅威にならないと思われてるようだ。
ならば新しい攻撃を見せてやろうじゃないか。
俺はしばし集中すると、新たな呪文を唱えた。
『石矢飛来』
その途端、俺の足元の地面がボコッと隆起し、そこから石の矢が、ワーウルフに向けて撃ち出された。
長さ30センチ、直径3センチほどの槍が、傷ついたワーウルフに突き刺さる。
「ギャンッ!……ワウ~……」
すでに深手を負っていたワーウルフが、石矢によって力尽きた。
するともう1匹のワーウルフが怒って向かってくるのを、アルトゥリアスが風魔法でしのぐ。
やがて再びできた敵の隙に、俺が呪文を唱える。
『石矢飛来』
「キャインッ」
再び襲った石の矢に、残ったワーウルフが負傷する。
それによって動きの鈍った敵を、アルトゥリアスの突風と、俺の石矢でとどめを刺すと、残るはワーウルフリーダーのみだ。
それまでニケとゼロスが足止めしていたリーダーを、俺とアルトゥリアスが仕留めに掛かる。
『突風』
『石矢飛来』
『疾風迅雷』
今回は俺とアルトゥリアスが敵の動きを停めたところに、ニケが強化魔法で突っこんだ。
ステンレススチールのナタが、ワーウルフリーダーの腹部を深々とえぐる。
致命傷によろよろと膝を着いた敵の首を、再び突っ込んだニケが斬り飛ばした。
その瞬間、守護者部屋の奥に明かりがともり、下層へ降りる扉が開く。
「勝った! よくやったぞ、ニケ」
「ハアッ、ハアッ……やった、でしゅ」
「ええ、お見事でしたよ、ニケさん」
近づいていつものように頭を撫でてやると、ニケが誇らしそうに胸を張る。
その顔は喜びに輝き、尻尾もフリフリと揺れていた。
すると自分もがんばったと、ゼロスが不満の声を上げる。
「クエ~」
「おっと、もちろん、ゼロスもがんばったさ」
ゼロスも撫でてやると、彼も満足そうに鼻を鳴らす。
そうこうするうちにニケの息も整ったので、俺たちは魔石を回収して、奥の階段を下りた。
すると1階にあったような水晶部屋にたどり着く。
俺たちは誰からともなく水晶の周りに集まり、そこに手を当てながら、帰還の呪文を唱えた。
『帰還』
以上で第1章が終了です。
ある程度、文量も溜まったので、これ以降は1日おきに、のんびり投稿とさせてもらいます。
実は第2章の執筆に難航してたりして。(苦笑)
それでも着実に進めていきますので、応援いただけると嬉しいです。




