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迷宮へ行こう ~探索のお供はケモミミ幼女~  作者: 青雲あゆむ
第1章 駆け出し冒険者編
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13.地の中位精霊

 アルトゥリアスを仲間に加えてから、魔法の練習と迷宮探索を、交互に繰り返した。

 俺は精霊術を、ニケは身体強化魔法を練習し、その成果を迷宮で確認するのだ。

 しかし学んだばかりの精霊術が、すぐに実戦で使えるはずもない。

 もっぱら迷宮では俺とニケが魔物と戦い、それをアルトゥリアスが支援するような形で、探索を続けていた。


 そうしてとうとう、俺たちは3層の守護者部屋の前まで到達する。

 その通路の先には石の扉があり、1組の冒険者がその前で作戦を練っていた。

 俺たちもその横に座り、今後のことを話し合う。


「さて、これからどうしますか? タケアキ殿」

「ええと、とりあえず、様子見だけはしたいですね」


 困ったことに、このパーティーのリーダーは俺ということになっていた。

 その実績や実力からしても、アルトゥリアスがリーダーだと思うのだが、彼は頑として受けない。

 仕方なしに彼の助言を得ながら、俺がパーティーの行動を決める形になっていた。


「ふむ、たしかここの守護者は、3体のワーウルフでしたね。しかもそのうち1体は、大きな指導個体だとか」

「ええ、俺たちがやられたコボルドリーダーみたいに、敵が連携するから、けっこう手強いらしいですね」

「とはいえ、所詮ワーウルフ。人数さえいれば、さほど苦労もせずに突破できるんでしょうが……」

「ええ、最低でも6人は欲しいとこですよね」


 俺たちは3人と1匹だけのパーティーで、そのうえニケもゼロスも幼い。

 いかにニケが見た目以上の戦闘力を持つとはいえ、戦闘力の不足は否めない。

 そこで今日は守護者の顔を拝んでから、作戦を練ることにした。


「それじゃあ、踏み込みますよ」

「ええ」

「いくでしゅ」


 準備万端、整えてから俺は、扉の横の水晶に手を触れた。

 壁に埋め込まれたこれは、扉のスイッチになっているらしい。

 すると石の扉が横にスライドし、守護者部屋の入り口が、ポッカリと口を開ける。

 いまだ薄暗いその空間に踏み込むと、奥の壁面に灯りがともり、そこに3体のワーウルフが現れた。


「ウー、ガルルルル」


 静かにうなる奴らの口元に、ギラリと牙が光る。

 そして次の瞬間、ワーウルフが襲いかかってきた。

 先頭の敵が振るった爪が、ニケの盾で止められる。

 ニケはそのままナタで反撃しようとしたが、敵はすばやく後退していた。


 その横で俺も、もう1匹のワーウルフを相手取っていた。

 槍と左手の盾を駆使して、なんとか敵の動きを止めようと必死だ。

 普段はこんなに近づかないので、メチャクチャ怖い。

 それでも懸命にしのいでいると、その間に指導個体ワーウルフリーダーが、アルトゥリアスに襲い掛かった。


圧空障壁ハワ・ジダール

「ギャンッ!」


 アルトゥリアスの魔法でリーダーが吹き飛ばされ、悲鳴を上げた。

 しかし敵に与えたダメージは微々たるもので、味方の劣勢は明らかである。

 すると案の定、アルトゥリアスが撤退を指示した。


「このままでは埒が明きません。ここは引きますよ」

「了解」

「さんせい、でしゅ」


 アルトゥリアスが魔法で一時的に敵を食い止めているうちに、俺たちは守護者部屋を撤退する。

 そのまま元いた所へ戻ると、守護者戦の感想を話し合った。


「聞いてた以上に、厄介そうですね」

「そうですね。現状のままで、安全に倒すのは難しいでしょう」

「あいつら、けっこう、あたま、いいでしゅ」


 ニケの言うように、奴らはチームとして動いており、隙が少なかった。

 今回はアルトゥリアスの魔法が強力だったので、敵をひるませることができたが、それがなければあっさりと全滅していた可能性すらある。

 結局その場では突破の目途が立たず、俺たちはすごすごと地上へ戻ることになった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 その翌日はまた、郊外の川のほとりで魔法の練習に励んでいた。

 これまでに俺は、風、土、水の3属性の低位精霊を呼び、簡単な魔法を使うことに成功していた。

 しかしそれは風や土、水の塊をぶつける程度のもので、その威力たるや貧弱なものだ。

 アルトゥリアスによれば、この短期間で3属性を成功させただけでも、相当に有望とは言われてるが。


 そして今日もその威力増強と、新たな使い方を模索しているところだった。

 ちなみにすぐ横では、ニケが体内の魔力制御を、アルトゥリアスから学んでいる。

 しかしすでに我流で肉体強化を実現していたニケにとっても、それはなかなかの難事のようだ。


 そうしているうちに俺は、対岸の岩場で何やら、キラキラと光っているのに気がついた。

 それはまるで、ニケを見つけた時のようで、気になった俺は川を渡ることにした。


「ちょっと向こう側を見てきます」

「はい、気をつけてくださいね」


 アルトゥリアスに断りを入れると、俺は向こうに渡れそうな石を見つけ、それを足場に川を渡る。

 無事に向こう岸に着いた俺は、さっき光っていた岩を調べてみた。

 それは縦横5メートル、高さ3メートルほどの巨岩である。


 ひととおり周囲を調べても何もなかったので、今度は岩の上によじ登る。

 もちろんそこにも特別な物は無かったのだが、何か気配のようなものが感じられた。

 そのうち何か出てくるかもしれないと期待し、俺は岩の上に座って魔法の練習を再開する。

 試しに地の低位精霊を呼び出そうとすると、ふいに何かが現れた。


「うわっ、なんだ?」


 突如、目の前に、ニケぐらいの幼女が現れたのだ。

 それは茶色系の貫頭衣をまとった4頭身の女の子で、鳶色の瞳に黒い髪を持っていた。

 ただしその実体は透けていて、まるで幽霊のようだ。

 そんな幼女が2メートルほどの距離をおき、興味深そうに俺を眺めている。


「タケアキ殿!」


 すると異変を察知したアルトゥリアスが、ひとっ飛びで川を越えてきた。

 おそらく風魔法の応用で、体を飛ばしたのだろう。

 彼は事態を把握すると、驚愕の表情で話しかけてきた。


「タケアキ殿、それは地の中位精霊です。なにやらあなたに興味がある様子。上手くすれば、契約できるかもしれませんよ」

「これが、地の中位精霊?……これと契約するには、どうしたらいいんですか?」


 ひょっとしてとは思ったが、やはりこれが中位精霊らしい。

 俺が契約について問うと、アルトゥリアスは取り乱しながらも、契約の手順を説明してくれる。


「まず相手に対し手を掲げ、契約したいと強く念じます。相手にそのつもりがあれば、手を合わせてきますが、気をつけてください。精霊はその資格があるかを知るために、精神攻撃を仕掛けてきます。おそらく嵐のような波動を浴びせられますが、それを耐えきれば勝ちです。その後、互いの心をつなげるように、魔力を溶け合わせると、契約が成ります」


 さすがに手を合わせてそのまま、とはいかないらしい。

 しかし強大な力を手に入れられるのなら、命を懸ける価値はあるだろう。


「ゴクリ……まさか命までは、取らないですよね?」

「さあ、契約に失敗して廃人になった術者がその昔、いたとかいなかったとか」

「慰めになってませんよ、それ。でも俺は、やりますけどね」


 俺は中位精霊の目をじっと見つめながら、右の手のひらを前に向けて差し出した。

 すると精霊は興味深げに微笑むと、手を合わせてくる。

 そしてその手が触れた瞬間、俺の中に暴風が荒れ狂った。


 それは魔力なのか、それとも精神的な波動なのか?

 とにかく何かが俺の体中をかき回し、脳みそを揺さぶってきた。

 それは一瞬のようでありながら、永遠にも感じられるほどの苦痛な感覚だった。


 しかし俺は歯を食いしばり、どうにかそれに耐えていると、ふいに圧力が消え去る。

 そして目の前の中位精霊がニコッと笑うと、俺の手に何か温かいものが流れ込んできた。

 これが精霊の魔力だと直感した俺は、そこに自分の魔力をそっと流してみる。

 すると互いの魔力がグルグルと渦を巻き、徐々に混じり合っていくのが感じられた。

 やがて十分に混じり合った瞬間、俺と精霊との間に、経路パスのようなものが形成されたのを知る。


「ふぅーーー……どうやら、成功したようです」

「やりましたね、タケアキ殿」

「タケしゃま! だいじょぶ、でしゅか?」


 いつの間にか駆けつけていたニケが、涙目で俺を見上げていた。

 俺はそんな彼女を愛しく思いながら、その頭を撫でる。


「ああ、大丈夫だ、ニケ。それよりも俺は、地の中位精霊と契約したぞ」

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