112.特級パーティーの激突
「おら、その武器よこせ~!」
最強の冒険者アガルドが剣を振るえば、見えない斬撃が走り、付近で爆発が発生した。
ここはベルデン迷宮の13層。
俺たちが岩竜を狩っているところへ、奴らが乱入してきたのだ。
最初の衝突で悪化した視界が晴れると、アガルドは強欲な意志をむき出しにして、攻撃を仕掛けてきた。
その有様は、とても特級冒険者とは思えないものだ。
しかし俺たちも、ただやられているわけではない。
「死ね!」
「グオッ、やられて、たまるか~!」
敵の軽戦士に斬りかかられたルーアンが、なんとか押し返す。
「かわいそうだが、死んでもらうぞっ!」
「そう簡単にはやられないっす」
ザンテにも戦士が襲いかかるが、こちらは余裕で押し返した。
「死ねや、クソガキ!」
「ぼ、僕はクソガキなんかじゃない~!」
体格で大幅に劣るザンテも、希少種の怪力を発揮して対抗していた。
その他にも敵は、メシャとガルバッドに襲いかかっていたが、レーネリーアの援護でなんとかしのいでいる状況だ。
さらにゼロスが走り回って撹乱しているおかげもあって、数の多い敵に対抗できていた。
しかし本命はこちらである。
俺が地魔法で作った陣地を、ニケとアルトゥリアスと共に守っている。
それに対して敵は、ケイレインとヴィルガッツがやはり防壁を造り、アガルドと一緒にこちらを攻撃してきた。
『百石飛礫』
『石矢飛来』
”百石飛礫”や”石矢飛来”は、俺も使ったことのある地魔法だ。
威力や使い勝手が微妙なので最近はすっかりご無沙汰だったが、敵に使われるとそれなりに厄介である。
しかし一番怖いのは、やはりアガルドだった。
「魔斬剣!」
何をどうしてるのか分からないが、奴が剣を振ることで、見えない斬撃が飛んでくる。
防壁でなんとか防いではいるが、石の壁をガリガリと削る斬撃に、精神までもガリガリと削られるようだ。
「なんだよ、あれ?」
「さすがは特級冒険者。魔闘術の上級技能ですよ、あれは。『突風』」
「くっそ、うっとうしい。こっちくんな。『石槍飛来』」
油断するとアガルドが突っこんできそうなので、俺とアルトゥリアスが魔法で牽制する。
しかしその程度で抑えきれるはずもなく、ちょっとした隙に奴が前に出てきた。
「チョロチョロと、うぜえんだよっ!」
――ガキインッ!
「おまえこそ、うざいでしゅ」
「ぬああっ、こんな幼女に止められた」
アガルド渾身の攻撃を、ニケが受け止めていた。
ただしその体格差はいかんともしがたく、彼女が相手してる間に、俺とアルトゥリアスが体勢を立て直すので精一杯だ。
それでも俺たちは、なんとか敵の攻撃をしのいでいた。
しかし敵はアガルドだけではなかった。
『大地拘束』
「うわっ、おどろいたでしゅ」
「チッ……勘のいい奴だな」
なんと敵のケイレインが、20メートルほど離れた場所で戦うニケに対し、”大地拘束”を使ってきたのだ。
幸いにもニケは避けたが、捕まっていたら危なかった。
しかしあれは俺たち同様に、精霊の遠隔制御ができなければ、使えない魔法だ。
「アルトゥリアス。あれって、俺たちと同じ……」
「ええ、さすがは特級冒険者。私たちと同じようなことを考える者が、他にもいたということでしょう」
アルトゥリアスは平気な顔をしているが、俺はひどくショックを受けていた。
精霊の遠隔制御は、俺たちの優位性のひとつだと思っていたのだ。
これによって、離れた場所でも強力な魔法が使えるのだが、敵もそれを使ってくるのなら、のんきに構えてもいられない。
「アルトゥリアス、術士を先に潰そう。『氷槍生成』」
「了解です。『流風投射』」
その瞬間、目にも留まらぬスピードで氷槍が放たれた。
そしてそれは見事に敵の防壁を貫いたのだが、敵の術師を仕留めるには至らない。
アガルドが間に入って、術士を守ったのだ。
「チッ、もう1発いくよ。『氷槍生成』」
『流風投射』
しかしその攻撃は、思わぬ方法で防がれた。
『土壁硬化』
さっきは抜くことができた土壁が、強化魔法を施すことで、今度は耐えたのだ。
「げっ、魔力による構造強化までできるのか? なんかいろいろ凄いな」
「まったくです。だてに長くは生きてはいないようですね……」
精霊の遠隔制御だけでなく、魔力による強化までやるとは、ケイレインおそるべし。
こういうのを思いつく輩が、他にもいるということを、改めて思い知らされた。
新たな精霊術を作れるのは俺たちだけだなんて、ちょっとうぬぼれが過ぎたようだ。
「仕方ない。こっちの切り札を切るよ、アルトゥリアス」
「まだ敵の実力が測りきれませんが、やむを得ませんね。気をつけて」
「ああ」
俺はおもむろに水袋を取り出すと、その手に水球を作り出す。
そしてたっぷりと魔力を籠めた水球を、敵に向けて放り投げた。
『氷槍乱舞』
その瞬間、ケイレインとヴィルガッツが籠る防壁の上空に達した水球から、無数の氷柱が発生した。
それは敵の精霊術師たちに降り注ぎ、致命傷を与えたように見えた。
「やったか?」
「たぶん……」
しかしその願いは叶わず、敵の方向から爆発的な炎が巻き起こったのだ。
「うわっ、なんだ?」
「まさか……火精霊と契約しているのですか!」
驚いたことに、敵は火の魔法を行使した。
それには火精霊との契約が必要となるが、ある程度以上の力を持つ火精霊は、火山などの特殊な地形にしか存在しないはずだ。
そんな特殊な火精霊と、ケイレインたちが契約を結んでいる。
それは少し以上の衝撃だった。
「ハーッハッハ。驚いたか。儂の火精霊は、使いどころが難しいが、その分強力だぞ~」
ケイレインが勝ち誇ったように立ち上がると、何らかの液体を撒いた。
すると巨大な炎が巻き起こり、こちらへ押し寄せてくる。
おそらく油のようなものを撒いて、火魔法の元に使ったのだ。
俺が水魔法にタネ水を必要とするように、強力な火魔法を使うのには必要なのだろう。
「クッ、こっちも負けるか。『土壁防御』」
『突風』
俺が土壁を補強すると同時に、アルトゥリアスが突風で炎を吹き散らした。
一時的にはそれでしのげたが、巨大な火炎はなおも俺たちを焼き尽くそうと、渦を巻いている。
「くそっ、まずいぞ」
「ええ、一筋縄では――」
その時、敵の意表を突くように、戦場を駆け抜ける影があった。
それまでルーアンたちを支援していたゼロスが、一瞬の隙を突いて、敵の精霊術師に突撃したのだ。
「クワ~っ!」
「おのれ、邪魔をしおって! 『爆炎包囲』」
その瞬間、ケイレインの周囲で、ひと際大きな炎が吹き上がった。