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111.アガルドの執念

 13層で苦労して岩竜ロックドラゴンを狩っていたら、ここにはいないはずの”聖銀の重撃”が現れた。


「アガルドさん! なんでここにいるんですか?」

「なんでって、お前。守護者をぶっ倒したからに、決まってるだろう」


 アガルドはしてやったりといった顔で、自慢げに話す。

 彼の仲間たちも、得意気に後ろでニヤニヤしていた。


「え、でもまだ12層に入ったばかりじゃ……」

「ば~っか! そんなの嘘に、決まってんだろうが。なに素直に信じてんだよ」

「いや、ミノタウロスが相手なら、そんなもんかなと思って」


 俺たちが集めた情報では、アガルドが12層へ達したのは、つい最近と聞いていた。

 そして自身の経験から、守護者を倒すには、まだ数日は掛かると踏んでいたのだ。

 するとエルフのケイレインが、ネタバラシをしてくれた。


「フフフ、アガルドを並みの人間と一緒にはせんことだな。実はあんたらを驚かしてやろうと思って、数日前から進捗状況を過小に申告しておったのだ」

「マジですか? すっかり驚かされましたよ。それにしても、どうやったらこんな短期間で、13層まで来れるんです?」

「それはまあ、アガルドが張り切ったのだよ。我らの攻撃力は、大部分がアガルドに頼っておるからな」

「それは聞いたことありますけど、そんなに凄いんですか?」

「そりゃもう、とんでもない能力さ。一種の化け物だな、アガルドは」

「おいおい、ひどいな」


 こんな話をしていると、はたからはさも仲がいいように見えるかもしれない。

 しかし実際にはピリピリとした空気が、強まりつつあった。

 あちらは隙あらば襲いかかってきそうな雰囲気だし、こちらも隙を見せまいと、いつでも戦闘に入れる体勢を保っている。

 やがてアガルドが、唐突に切り出した。


「それでさぁ、わざわざこうして会いに来たんだ。だからその剣、俺にくれねえ?」


 その瞬間、ピシリと空気が引き締まった。

 それはまるで冗談のような言葉だったが、奴の目はまるで笑っていない。

 アガルド自身、いつでも飛びかかれるような姿勢を取っているし、後ろの仲間たちも臨戦態勢だ。

 対応を一歩でも誤れば、即座に戦闘だ


 するとそんな緊張感あふれる空気を、かわいらしい声が打ち砕いた。


「なんで、そんなこと、いうでしゅか?」


 ニケはテクテクと数歩、歩み出ると、不思議そうな顔で彼らを見上げる。

 その様はとても愛らしく、誰でも気を緩めそうなものだが、アガルドは違う。


「はあ? そんなの、欲しいからに決まってんだろ。しかも俺たちが何年も苦労して、ミスリル剣を手に入れたってのに、お前らは数ヶ月でアダマンタイト武器を手に入れたそうじゃないか。そういうのは、真に強い者が持つべきだ」


 奴の言葉から、ニケのナタ剣がアダマンタイトだとばれているのが分かった。

 おそらくギルドの関係者からでも、聞き出したのだろう。

 しかしニケは少しも動じず、さらに言葉を重ねる。


「でもこれ、おじさんには、あわないでしゅよ」


 ナタ剣は小柄なニケにとっては手頃な武器だが、アガルドのような大柄な男には、小さすぎた。

 それを指摘されても、アガルドは不適に笑いながら、ただ自身の要求を押しつける。


「そんなの、仕立て直せば、どうとでもなる。それに何より、おめえみたいなチビには、もったいねえからな」


 もうはなから奪う気満々の彼に対し、俺も最後の確認をする。


「こんなとこでそう言うってことは、俺たちから無理矢理にでも奪うってことだよな?」

「いやいや、俺はあくまでも交渉してるだけだぜ。素直に渡してくれれば、余計なトラブルも起きないってもんよ」


 あくまで体面を繕おうとするアガルドに、アルトゥリアスが皮肉をぶつけた。


「ほう、交渉しているんですね。であれば、この剣に対する代価を提示してください」

「代価ねえ……ん~、そうだなぁ。白金貨で百枚で、どうだ?」

「プッ、すげえ額だな」

「まったく、アガルドの道楽にも困ったものよ」


 アガルドの言葉に、後ろの仲間たちが吹き出している。

 困ったとか言いながら、全くそうは見えないのは、端から払うつもりがないからだろう。

 ちなみに白金貨ってのは、金貨百枚に相当するもので、それが百枚なら日本円で10億円といったところだ。

 いかにトップパーティーといえど、そんな金が出せるはずもない。


「ほほう、白金貨百枚なら、悪くないのではありませんか? タケアキ」

「あ、あ~、そうだな。本当に払ってくれるんなら、争うよりはいいかもな」


 アルトゥリアスがすっとぼけた調子で振ってきたので、俺も適当に合わせる。

 もちろん2人とも、アガルドが払うつもりがないのは、分かっている。

 逆に言えば、こっちもいくら積まれたって、アダマンタイト武器を手放すつもりはない。

 このナタ剣は最強の武器であり、俺たちの冒険に欠かせないものだ。

 しかしその様子を見たアガルドが、無造作に近寄ってきた。


「ほう、そうか。それじゃあ、上に戻ったら払うから、それを見せてくれよ」


 そう言ってニケの背中に手を伸ばしたが、ニケはすばやくそれを避ける。


「だめでしゅよ。わたすにしても、おかねとひきかえでしゅ」

「おいおい、硬いこと言うなよ。ちゃんと払うからさ」


 アガルドはいらつきながらも、ニケを説得しようとする。

 しかしヒョイヒョイと避ける彼女の動きに、さすがの奴もついていけない。

 やがて奴はため息をつくと、本性を露わにした。


「ふ~~~~っ……めんどくせえ。やっぱ、ぶっ殺しちまうか」


 そう言って奴は、腰の剣を引き抜いた。

 奴ご自慢のミスリル剣が、ギラリときらめく。

 するとアルトゥリアスが、鼻で笑いながら挑発した。


「フフン。特級冒険者といったって、ただのゴロツキと変わりませんね。どうせ白金貨なんて、払うつもりもないくせに」

「やかましいんだ、ゴラァ!」


 ブチ切れたアガルドが剣を振りかぶった瞬間、猛烈に嫌な予感がした。


土壁防御ジダル・ディファー

突風拳撃アスファ・カブダ


 とっさに魔法で土壁を形成すると同時に、アルトゥリアスが突風攻撃をアガルドに放つ。

 次の瞬間、猛烈な爆発が起こって、俺たちは吹き飛ばされた。


「ブハッ、ブハッ……な、何が起こった?」

「ゴホッ、ゴホッ……おそらく私の魔法に、敵の魔力が干渉して、被害が広がったのでしょう」

「魔力の干渉?」

「ええ、アガルドの魔闘術が、我々の魔法を打ち砕いた余波です。とんでもない使い手ですね」

「特級冒険者の名は、伊達じゃないってことね」


 土埃つちぼこりがもうもうと立ち込める中、俺たちはそんなことを話しながら、体勢を立て直す余裕があった。

 どうやら敵も視界が晴れるまでは、攻めてくる気配がなかったからだ。

 そんな俺たちの下に、仲間たちが集まってくる。


「か~、ひっでえな。問答無用で攻撃してきやがった」

「なんか、子供みたいっす」

「大人げない!」

「あいつ、許せない~」


 みんなが口々に文句を言う中、ガルバッドが対応を問う。


「しかしどうする? タケアキ。ありゃあ、完全に殺しに来ておるぞ」

「向こうがその気なら、こっちも受けて立つまでさ。事前の打ち合わせどおりにやるよ」

「やれやれ、やはりそうなるか……」

「フッ、そんなこと言っている場合では、ないですよ」


 ガルバッドがぼやいているが、実際にそんなことを言っている場合ではない。

 何しろ冒険者では最強クラスのパーティーが、こちらを殺しにきているのだ。

 幸いにも俺たちは、この事態を想定し、ある程度は備えていた。


 まだ上層にいるはずの”聖銀の重撃”が奇襲してくる、なんてことも想定されるパターンのひとつだった。

 まがりなりにも相手は特級冒険者なのだ。

 常識的な対応では、後手に回ってしまう。


 じゃあ、どうするかって話だが、結局はアルトゥリアスの結界に頼ることにした。

 事前に周囲にアルトゥリアスが結界を張っていたために、敵は奇襲を諦めて、わざわざ声を掛けてきたのだ。

 最強の敵を相手に、リスクの高い手だったが、なんとか最悪は避けられた。


 こうなったからには、”聖銀の重撃”と雌雄を決するのみ。

 俺たちが生き残るため、彼らには死んでもらおう。

 これまでで最大の決戦が、今はじまる。

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