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108.迷宮産の武器

「特級になるぐらいだから、すげえ武器も持ってるんじゃねえか?」


 ”聖銀の重撃”のリーダー、アガルドがそう言って探りを入れてきた。

 さも何気ないように言っているが、彼の瞳は好奇心を隠しきれていない。

 どうやらこれが最大の関心事だったようだ。


「いえいえ、ただの聖銀鋼の武器ですよ。王都では、それほど珍しいもんじゃないでしょう?」

「ん~、そうだな。この辺では、ある程度以上の稼ぎがあれば、聖銀鋼に替えちまうからな」

「ですよね? 俺らも数か月前に、わざわざ買いに来たんですよ」

「ベルデンからわざわざか。まあ、そのおかげで深層を攻略して、特級に昇格できたんだから、大正解だったな」

「ええ、俺もそう思います」


 適当に話を合わせていたが、アガルドは納得していないようだ。

 やがてじれったくなったのか、核心に踏み込んできた。


「ところで、あんたらがベルデンの12層で、初めて守護者を倒した時、変わった武器が出なかったか?」

「え~と……それについては、回答を控えさせてもらいます」


 やっぱりそうか、と思いながら、俺は回答を拒否した。

 拒否した時点で、何か出たのはバレバレだが、どんなものが出たのかまでは分かるまい。

 ベルデンのギルドでも、厳重に情報は規制されてるはずなので、知らばっくれておけばいい。

 しかしアガルドは、予想以上に強く食い下がってきた。


「なんでだよっ! その態度からすれば、何か出たんだろう? ちょっと見せてくれるぐらい、いいじゃねえか」


 彼は身を乗り出すようにして、俺たちに迫る。

 その瞳はギラギラと輝き、有無を言わせぬ迫力があった。

 しかし俺も、はいそうですかと従うことはできない。


「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。そういうのは俺たちの戦力にも関わる話だから、うかつに話せないです。特級冒険者ともあろう方に、それが分からないはず、ないですよね?」

「だから、いいじゃねえかよ。ちょっとぐらい」


 なおもごねようとするアガルドを見て、さすがにまずいと思ったのだろう。

 エルフのケイレインが、割って入った。


「これこれ、アガルド。そう無茶を言うものではない。今回の話は、タケアキ殿に分があるぞ」

「ケイレイン……だけどよう。これよりもすげえ武器があるんじゃないかと思ったら、居ても立ってもいられねえんだ」


 アガルドはそう言いながら、腰に下げていた剣を鞘ごとテーブルの上に置いた。

 さらに彼は剣を鞘から引き抜くと、目の前に掲げて、うっとりとそれに見入る。


「見てくれ、これを。俺たちがドラグナスの迷宮で手に入れた、ミスリルの剣だ。これほどの逸品は、そうそう無いだろう……どうだ? これを見せてやるから、そっちのも見せてくんねえかなぁ」


 アガルドは一転して、猫なで声で交渉を持ちかけてくる。

 どうやら彼は、強い武器にご執心しゅうしんらしい。

 しかし同じ12層突破で入手したはずなのに、こちらは伝説級のアダマンタイト製に対して、向こうはミスリル製である。


 もちろんミスリル武器も非常に希少なのだが、現代でも流通しているものだ。

 それに対してすでに製法すら失伝しているアダマンタイト武器の価値は、計り知れない。

 これは今まで以上に、下手なことは言えないと思った。


「そ、それは凄いですね。一応、俺たちも12層を初突破した時に、武器を手に入れました。だけどあいにくと、ここへは持ってきてないんですよ」

「チッ、本当か? ならそこの坊主の剣を見せてくれよ。替わりに俺のも見せてやるからよ」

「えっ、俺っすか?」


 アガルドに指名されたバタルが、戸惑いながら俺たちの方を見る。

 仕方ないのでうなずいてやると、彼は恐る恐る自分の剣を差し出した。

 それは身の丈に迫るような大剣で、いつもは背中に吊るしているものだ。

 アガルドは自分の剣をバタルの方に押しやると、バタルの剣を強引に奪い取った。

 しかし剣を鞘から引き抜いた途端に、あからさまな落胆を見せる。


「チッ、ただの聖銀鋼じゃねえか……悪いが、そっちのも見せてくれねえか?」

「え、僕ですか? 別に、いいけど」

「かまわないでしゅよ」


 アガルドは今度はザンテとニケにも要求したので、彼らはそれを差し出す。

 しかしどちらも聖銀鋼なので、やはり落胆しただけだ。

 しまいにはルーアンの槍やガルバッドの戦斧まで確認してきたが、やはり聖銀鋼でしかない。

 そこまで確認すると、アガルドはがっくりと肩を落とした。


「くそっ、やっぱり持ってきてねえのか。けっこう用心深いな、あんたら?」

「そりゃまあ、貴重なものなんで、大事にしてますよ」

「ふ~ん……それは一体、どんな剣なんだ?」

「いや、それがよく分からないんですよ。見た目はナタみたいな剣で、無骨な造りですね。まあ、切れ味はいいんで、重宝はしてますけど」

「そうか。それはぜひ、見てみたかったな。今度、王都に来る時は、持ってきてくれよ……前払いとして、俺の剣を見せてやるからよ。せいぜい目の保養にしてくれや」


 彼が改めてミスリルの剣を押し出してきたので、素直に見せてもらうことにした。


「うわ~、これが純正のミスリル剣かぁ」

「お~、さすがは輝きが違うなあ。なんていうか、透明感がある感じ?」

「うっす。使ってみないと分からないけど、メチャクチャ切れそうっすね」


 ちょっと棒読みっぽかったが、俺たちは口々に賞賛を口にした。

 するとアガルドは機嫌を治したようで、その場はなんとか収まる。

 もし俺たちが、すでにミスリルの剣を持っているなんて言えば、どうなったことか。


 しかし迷宮で試し切りをしてきたはずの俺たちが、ミスリル武器を持っていないのはなぜか?

 それはゲイル爺さんの忠告によるものだった。

 もし純ミスリルの武器が何本もこの王都に現れたと知れれば、下手をすると国が動くかもしれない。

 そう言われて俺たちは、改めてこの武器を持ち歩くことの危険性を感じたのだ。


 そのため極力、武器が人目につかないよう心がけ、必要のない時はゲイル爺さんに預けることにした。

 今日も迷宮で試し切りをしてから、即座に爺さんの工房に戻ったほどだ。

 そこへ武器を預けてから、祝宴に繰り出したために、露見を免れたって寸法だ。

 もちろんそれは、ニケのアダマンタイト武器も同様である。


 まさかもうひとつの特級パーティーが絡んでくるとは、予想もしていなかったが、結果的にそれが功を奏した。

 俺はアガルドの武器を褒めながら、内心で胸をなで下ろしていた。

 アダマンタイト武器にしろ、ミスリル武器にしろ、表沙汰になったら大事おおごとだ。

 今回はゲイル爺さんの忠告に従っておいて、本当に良かった。

 その時はそう思っていた。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 予想外の特級パーティーとの遭遇も切り抜け、俺たちはベルデンへ戻ってきた。

 それからしばらくは孤児の面倒を見ながら、13層へ散発的に潜る日々が続く。

 というのも、13層でロックドラゴンが3体ほど出てきて、苦戦していたからだ。


 そのため俺たちは、ボーエン迷宮で掴みかけた技術の習得に、いそしんでいた。

 硬い鉄をバターのように切り裂けるようになれば、ロックドラゴンとの戦いも楽になると踏んでのことだ。

 そうして2週間ほどが過ぎた頃、ついでに立ち寄ったギルド内が、騒がしいことに気がつく。

 俺は受付けのステラに実績値の精算を頼みながら、何事かと訊いてみた。


「周りが騒がしいけど、なんかあったの?」

「あったどころじゃないわよ! なんと、王都から特級パーティーが来たのよ!」


 それを聞いた途端、嫌な予感がした。


「特級パーティーって、”聖銀の重撃”?」

「他にないでしょ! 国外から特級冒険者が来ることなんて、まずあり得ないんだから」


 それを聞いて、嫌な予感は確信に変わる。

 彼らの目的は俺たちだと、直感したのだ。

 そう思って仲間の方を振り返ると、それを察した者が嫌そうな顔をしていた。


「王都の特級パーティーが、わざわざここへ来たとなると、ただの偶然ではないでしょうね」

「うむ、儂らに関わっていないとは、とても思えんの」

「関わるどころじゃなくて、なんか企んでるんじゃねえか?」

「なんか面倒くさそうね~」


 それを聞きとがめたステラが、ぎょっとした顔をする。


「ちょっと、なんか聞き捨てならないこと言ってない? 王都で何か、あったの?」

「う~ん……こないだ、王都で声を掛けられてね。それで済んだと思ってたんだけど、ちょっと興味を持たれたみたいでさ」

「興味って、何したのよ?」

「いや、武器のことで――」


 するとふいにギルドの2階の方から、騒がしい音が聞こえてきた。

 その中には、聞き覚えのある声も混じっている。

 おそらく”聖銀の重撃”の連中が、ギルド長と話でもしていたのが、終わったのだろう。

 それを裏付けるように、すぐに陽気な声が響き渡った。


「よう、タケアキ。俺たちもしばらく、ここで潜ることにしたぜ。よろしくな、先輩」


 それは”聖銀の重撃”のリーダー、アガルドだった。

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