101.ロックドラゴンとの戦い
『樹木倒壊』
「グル?」
それは植物魔法を操る精霊術師、レーネリーアの新魔法だった。
彼女が古代語を唱えれば、広場を囲んでいる樹高5メートルほどの木が1本、内側に倒れる。
岩竜が不思議そうにそれを眺めていると、レーネリーアが次の古代語を唱えた。
「次はこれよ~。『木枷拘束』」
「グルオッ? グロローーーッ!」
すると倒れた木の枝がシュルシュルと伸びて、ロックドラゴンに絡みついたのだ。
ドラゴンは暴れてそれを引きちぎろうとするも、即席の木の枷がそれを許さない。
これこそが樹木の豊富な13層用に編み出した、レーネリーアの新魔法であった。
通常ならば種を撒いて成長させるところを、現地の資源で賄うという発想だ。
もちろん樹木を伸ばすのにも多少の魔力が必要だが、それは新たに植物を育てるよりも、格段に負担が軽かった。
魔法ですでにある物を使うのと、新たに物を作り出すことの間には、それだけの違いがあるのだ。
しかし通常であれば、強大な魔物のロックドラゴンを、木の枝ごときで拘束できるはずもない。
せいぜい腕の太さほどしかない枝など、容易に引きちぎれるからだ。
しかし実際に敵は目の前で拘束され、もがいていた。
「やるじゃねえか、レーネリーア。この隙にみんな、攻撃するぞ」
「「「おう」」」
俄然、攻勢に出る前衛陣の声を聞きながら、レーネリーアが新魔法を自慢する。
「うふふ~、上手くいったわよ~。さすが私ね~」
「フフフ、それはみんなで考えた成果なんですがねぇ。ほら、あそこがちぎれかけてますよ」
一見すると、ロックドラゴンに簡単に引きちぎられそうな拘束だが、意外に踏ん張っている。
なぜそれが実現しているかといえば、アルトゥリアスが考えだした強化法を応用しているからだ。
木の枝に魔力を送り込んで補強することで、見た目以上の強度を保っているのだ。
ただし完全に拘束できているわけでもなく、ブチブチと引きちぎられては、また別の枝が絡みつくといった具合だ。
しかしそれでほぼ足止めされているロックドラゴンに、前衛陣が攻撃を掛けているのだが……
――ガツン!
「くわ~っ、想像以上にかてえぞ」
「全然、歯が立たないっす」
「やっぱり竜種って、特別なんですかね」
「でもニケちゃんは、傷つけてるよ~」
前衛のほとんどは、ドラゴンのウロコに傷すらつけられていない。
その一方で健闘しているのが、ニケとガルバッドだった。
「えい!」
「グルアッ」
「どっせい!」
「グロオウッ」
戦斧を振るうガルバッドの攻撃が、硬い敵にも効果的なのは以前からだ。
戦斧であれば、たとえ装甲を切り裂けなくても、内部に強い衝撃を与えられる。
逆にさほど大きくもない剣でニケが戦えているのは、その武器のおかげであった。
なぜならそれは、12層の守護者を倒して手に入れた、ナタのような剣なのだから。
アダマンタイト製のナタ剣は、比類なく鋭く、しかも強靭だ。
当然、その剣を誰が使うのかで揉めかけたのだが、最終的にはニケに落ち着いた。
グダグダ言う前に、オーガやミノタウロスを相手に、誰が一番上手く使えるかを試そう、という話になったからだ。
結果、最も良好なパフォーマンスを示したニケが、使用権を勝ち取った。
それには彼女が、俺の貸していたナタの扱いに、慣れていたのが大きいのだろう。
あのナタは暴走牛との戦いで壊れてしまったが、それによく似た武器をニケは強く求め、そしてよく使いこなした。
彼女は執念ともいえるほどの迫力をもって、敵を屠ってみせたのである。
こうして実力でもってナタ剣を勝ち取った彼女は、今回のドラゴン戦でも、大きな期待を掛けられていた。
そしてニケはその期待に違わぬ成果を、実際に出しつつある。
彼女とガルバッドのおかげでロックドラゴンが弱ってくると、俺は次の攻撃に移る。
「アルトゥリアス、行くよ。『氷槍生成』」
「了解です。『流風投射』」
俺が作り出した氷の槍を、すかさずアルトゥリアスが敵に向けて放つ。
しかしそれは残念ながらというか、もしくは予想どおりと言うべきか。
氷槍はロックドラゴンの装甲には歯が立たず、あっさりと跳ね返されてしまったのだ。
「チェッ、これじゃあダメか」
「ふむ。おそらく守護ミノタウロス並みの硬さは、あるのでしょうね」
ある程度、予想はしていたので、それほど意外でもないが、やはり少し悔しい。
するとそれを見たレーネリーアが、我こそはと攻撃を放つ。
「うふふ~、いよいよ私の出番ね~。『樹木倒壊』」
レーネリーアは別の木を引き倒すと、自信満々に次の古代語を唱える。
「さあ、行くわよ~。『木槍刺突』」
その途端、もう1本の木がもりもりと膨張し、その先端がアースドラゴンに向かって伸びた。
それはまるで生き物のように敵に迫り、その下腹部をえぐらんとする。
が、しかし……
――ボキンッ
「グウッ!」
「あ~もう~、折れちゃった~」
しかし所詮は木の槍だ。
やはりロックドラゴンの装甲を打ち破れず、無残にも折れ曲がってしまう。
敵は多少の苦鳴を上げているものの、致命傷には程遠い状態だ。
残念そうに嘆くレーネリーアに、俺は慰めの言葉を掛ける。
「ご愁傷様。レーネリーアが主役を張るには、まだちょっと早いみたいだね」
「う~、くやし~……もう1回やらせて~」
そんな駄々をこねるレーネリーアを、アルトゥリアスがいさめる。
「今の状態では、何度やっても同じですよ。ここはタケアキに譲り、さらに技を磨いてください」
「……分かったわ~」
珍しくあっさりと引き下がる彼女を尻目に、俺は水袋を取り出した。
そして少量の水を手のひらに出すと、魔力の籠もった水球を作る。
それを敵の足元に放りながら、精霊術を発動する。
『氷槍屹立』
キインッという澄んだ音と共に、氷の槍がそそり立つ。
それは一瞬でドラゴンの腹部に迫り、わずかな抵抗を押しのけて、それを貫いた。
「グエエエーーーーーーッ!!」
氷槍で傷ついたロックドラゴンが、苦鳴を上げて暴れまくる。
その力は凄まじく、レーネリーアの木枷をも引きちぎるほどだ。
しかし氷槍に貫かれたままでは逃げようもなく、その動きにも当初の力強さはない。
足元はふらつき、今にも膝を着きそうだ。
その隙を、仲間たちは見逃さない。
「さすがタケアキ。やるぜ、みんな」
「うっす」
「はいっ、がんばります」
「さすがは、タケしゃまでしゅ」
そんなことを口にしながら、前衛陣が敵に襲いかかる。
とはいえ、ロックドラゴンの硬い皮は健在だ。
少々動きが鈍ったとはいえ、彼らの攻撃力では、大したダメージにならなかった。
しかしそんな状況を、伝説の武器を持ったニケが打開する。
「えいっ!」
「グエエエーーーーーーッ!」
「さすがはニケだ。みんな、首を狙え」
「うす」
「はいっ」
ニケに前足の片方を斬りつけられたドラゴンが、とうとう膝を着いた。
すると比較的やわらかそうな首元が、仲間たちの手に届く高さまで落ちてくる。
すかさずルーアンたちが、首元を集中的に攻撃した。
『剛力無双』
『鋭刃金剛』
強化魔法を駆使した攻撃が、敵に降り注ぐ。
その集中攻撃には、さしものロックドラゴンも敵わなかった。
「グアアッ、グウッ……グルルル……」
ロックドラゴンは断末魔の声を上げながら、地響きを立てて倒れ伏す。
そしてその身体は、二度と動くことはなかった。
こうして俺たちは、13層での初戦を、勝利で飾ったのだ。




