100.13層の攻略開始
ベルデンで孤児を救済したら、他の貧民にも泣きつかれ、冒険者になるための支援まで請け負うはめになった。
幸いにも仲間の協力を得て方策が固まったので、次にやるのは資金作りだ。
俺はまたもやギルド長のガイエンを伴い、領主邸まで資金をねだりにいった。
「また金貨で、50枚も出せと言うのか?!」
「はい。これが上手くいけば冒険者が増えますし、この街の貧困対策にもなるので、子爵様にとっても悪い話ではないと思うんですが」
「う~む……それは分かる。分かるがなぁ……」
現状の計画とその見積もりを書面にまとめ、説明してやったのだが、子爵の反応は芳しくなかった。
彼はしばし考える素振りを見せると、ため息をついてから愚痴をこぼしはじめる。
「この間の出資だけでも、けっこうな負担になっておるのだぞ。おかげで儂の妻がやっきになって、屋敷内の出費を抑えようとしておるのだ。最近は儂の好きなお茶も、気軽に飲めんくなってしもうた」
「それはまた、なんというか……立派な奥様ですね。増税をするのではなく、家内の出費を切り詰めるだなんて、なかなかできることではありません」
「それはそうだが……少し極端なのだ、あやつは」
「はあ、そうなのですか……しかしここは逆に、思い切って投資した方が、後々のリターンも大きいと思いますよ。何しろ孤児の数は限られてますが、一般人の方が数は多いですから。冒険者の間口が、大きく広がることでしょう」
「本当にそうかのう?」
俺の説得に対し、子爵は疑いの目を向ける。
実際のところ、冒険者になろうなんて人間がどれぐらいいるか分からないし、ちゃんと利益として返ってくるかも微妙だ。
するとギルド長のガイエンも口を挟んで、援護射撃をしてくれた。
「僭越ながら、迷宮都市と呼ばれるこのベルデンであればこそ、このような施策は有効でしょう。それにタケアキが育てている孤児は、すでに3層を突破して、8等級にまでなっております。その実績を踏まえれば、それなりに現実味はあるのではないでしょうか?」
「ふむぅ……」
それでも子爵が首を縦に振らないので、俺は最後の手札を切った。
「分かりました。それならまた俺からも、出資しましょう」
「なに? 本当か、タケアキ」
「ええ、これも乗りかかった船です。金貨20枚でどうでしょう?」
「おお、そうか。それならば少ないが、ギルドからもなんとか捻出しよう。そうですな。金貨10枚を出せば、子爵様の負担は20枚で済みますぞ」
そう言ってギルド長が提案を持ちかけると、子爵もとうとう観念したようだ。
「くあ~っ……分かった、分かった。出せばよいのだろう。半分以下に切り詰めたと言えば、妻も納得するであろうしな」
そう言う子爵は苦笑しつつも、どこかサバサバした感じに見えた。
本来、この街のための出費であるし、多少は値切ったという実績もできたのだ。
逆に俺とギルドも出資する形になってしまったが、それはある程度、覚悟していたことである。
むしろ子爵から4割も引き出したと思えば、上々であろう。
こうして大事な話が終わると、子爵が別の話題を振ってきた。
「まったく、とんだ出費だわい。ところでタケアキは、新しい階層の探索は進めんのか?」
「ああ、それなんですが、この仕事が一段落したら、探索を進めるつもりです」
「おおっ、いよいよか? はたして噂の竜種から、どのような素材が出るのか、楽しみだな」
「ええ、まだ倒せるかどうかも分かりませんけどね」
実は新規階層である13層は、入り口付近だけの探索は終えていた。
その際に地竜のような魔物を発見したのだが、戦わずに帰ってきた。
それなりに準備を整えてから、本格的に攻略しようという意見で、一致したためだ。
「なんにしろ、身の安全には気をつけるのだぞ。せっかく誕生した特級冒険者が、すぐにおらなくなっては、目も当てられんからな」
「はい。その点は十分に肝に銘じておきます」
「うむ、期待しておるぞ」
こうして子爵からの金策は、なんとか成功したのだった。
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金を引き出した後は、初心者セットの試作や運用体制を整備しつつ、深層攻略の準備をした。
やがて準備が整うと、俺たちは13層の水晶部屋へと跳ぶ。
「いよいよ13層か。腕が鳴るな~」
「うっす。久しぶりの真剣勝負っすね」
「どんな魔物が出るか、楽しみです!」
「あい、たのしみでしゅ」
ルーアン、バタル、ザンテ、ニケが楽しそうに抱負を語れば、他のメンバーはそれをいさめる方向に回る。
「うふふ~、張り切るのはいいけど、無茶しないようにね~」
「そうだよ~。何しろ相手は、竜種だからね~」
「ええ、少なくとも最初は、慎重にいくべきでしょうね」
「うむ、安全第一じゃな」
俺はそれを締めくくるように、号令を掛けた。
「ああ。安全第一で行こうぜ。それでは出発」
すると仲間たちは、陣形を組んで進みはじめる。
基本的にバタルを先頭に、ガルバッド、ルーアン、メシャが続き、その後ろを俺とレーネリーア、アルトゥリアスが進む。
そして俺たち後衛の横をニケとザンテが固め、殿は荷物を積んだゼロスといった感じだ。
感覚の鋭い希少種3人組が周囲を警戒してくれるので、奇襲を受ける可能性は低い。
そうして13層の水晶部屋を出るとすぐ、広大な空間に入った。
それはここが地上かと思うほど広大で、草原が広がっている9層のようだった。
ただしそこは木が生い茂った樹林であり、さらに幅3メートルほどの通路が続く樹林迷宮といった構造だ。
その通路を警戒しながら進むと、少し先に開けた場所が見えてきた。
「最初の広場っす」
「ああ、またあの竜種、いるかな?」
バタルとルーアンがそんなことを言いながら覗き込むと、広場の中央に大きな魔物がいた。
そいつは全長5メートルほどの四足獣で、サイのような角を鼻先に持ち、後方には太めの尻尾が生えている。
遠目にはゼロスによく似ているが、その灰色の体表はデコボコとしてまるで岩のようだ。
さらにその大きさもかなり上で、体積で5倍以上はあるだろう。
「ふむ。やはりアースドラゴンではなく、岩竜のようですね」
アルトゥリアスが敵の種類を特定する。
先に確認した内容から竜種の情報を集め、その種族に当たりをつけていたのだ。
ロックドラゴンとは、人里離れた山岳地帯に住む魔物で、周りに凶暴な種がひしめく魔境に暮らすだけあって、相当つよいらしい。
ていうか、竜種というのは特別な存在で、どれも規格外の強さを誇るんだとか。
「あれが噂のロックドラゴンねえ。たしかに岩みたいだな」
「だな。ついでにゼロスにも、よく似てねえか?」
「ん~、どうかな?」
ゼロスは地竜によく似ているため、模倣竜と呼ばれる魔物だ。
どうやらロックドラゴンはアースドラゴンと近縁らしく、ゼロスによく似ていた。
しかしフェイクと呼ばれるのも面白くなかろうと、俺は言葉を濁す。
するとその意図を感じ取ったニケが、ゼロスをフォローした。
「ゼロスはゼロスでしゅ。にせものじゃ、ないでしゅよ」
「クエ~」
鼻面をなでながら慰められ、ゼロスが嬉しそうな声を上げる。
やはり彼はちゃんと言葉を理解しているのだ。
うかつなことを言わなくてよかったと思っていたら、アルトゥリアスが不思議そうにつぶやいた。
「それにしても、別々の生き物なのに、これほど似ているなんて、不思議ですねえ」
「まあ、強い生き物や、毒を持つ生き物に擬態する生物は、俺の世界にもいたよ。そうやって自分の身を守るんだ」
「なるほど、興味深いですね」
するとルーアンが待ちきれないように言う。
「おいおい、そんな話はいいから、そろそろ戦おうぜ」
「ああ、そうだな。それじゃあ、打ち合わせどおりにいこうか。今日は期待してるぜ、レーネリーア」
「うふふ~、まっかせなさ~い」
俺が期待を掛ければ、レーネリーアは自信ありげに胸を張る。
そんな彼女に苦笑しながら手を振ると、前衛陣がスススっと前へ出た。
ルーアン、メシャ、ガルバッド、バタル、ザンテ、ニケがすばやく動き、ロックドラゴンを遠巻きに囲む。
それに気がついたロックドラゴンは、低い唸り声を上げながら、腰を上げた。
しかし敵はまったく焦った様子もなく、余裕の態度を崩さない。
さすがは竜種といったところか。
そんな敵に対して、レーネリーアが大きな声を上げた。
「さ~、行くわよ~。『樹木倒壊』」
ここに新たな敵との戦いの幕が、切って落とされた。




