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第5話 (ミライ)

 レンは私を連れて、街で一番大きい建物にやってきた。どっしりした石造りで、屋根の上にはツノの生えた怪物の石像がくっついていた。意地悪そうな顔をしていて、背中にはコウモリのような羽が生えている。あれは家を守るお守りの役割をしている石像なのだと、レンが教えてくれた。

 門番に用件を告げると、私たちは中へ通された。湿った分厚い苔みたいにふかふかの絨毯の上を歩いて、立派な扉の前に来た。

「来たぞ。僕だ。これから出発する」

 声をかけると、扉が勢いよく開いた。中から現れた青年は、レンの顔をまじまじと見ている。派手な人だ。着ている服は色とりどりの染料で染め抜かれているし、指にも首にも装飾品がついている。

「生きてたのか。嬉しいぜ」

「そりゃどうも」

 青年は私たちを中へ招き入れた。綺麗な部屋だ。ふかふかの絨毯はここにも敷かれているし、壁の棚には豪華な装丁の本が並んでいる。窓際の花瓶は綺麗な模様がついていて、見たこともない大きな花が活けられている。浮世の基準はよくわからないけど、多分贅を凝らした部屋なのだろう。

「ずいぶん遅かったな」

「悪い、ちょっとこの子とはぐれちゃって」

「そうじゃない。お前のことだ。もっと早く出発すると思っていた。その子が例の?」

 青年の目が、私を捉えた。こういう時には自己紹介をしなければいけないんだったっけ。

「こんにちは。妻のミライです」

「妻?」

 怪訝そうな顔で、青年がレンを見る。レンは困った顔で頬をかいた。

「こら。やめなさい。嘘をつくんじゃない」

「外堀から埋めようと思って」

「もう……。君って子は……」

「はははっ、ずいぶん懐かれてるんだな。お嬢さん、俺はシュウ・クラーヴァル。シュウって呼んでくれ。こんな根暗野郎やめて俺にしない?」

 優しそうな人だなと思った。悪意を感じない笑顔は、きっとたくさんの人から好かれているだろう。

「嫌です」

「残念。フラれちまった。で、行き先とか決まってるか?」

「いいや。特になにも決めていない。あてもないしね」

「じゃあちょっと頼まれて欲しいんだけど」

「断る」

 食い気味にレンが断った。シュウさんは頼むよー、後生だからさー、とレンにまとわりついている。ずいぶん仲が良さそうだ。

「なんで僕たちに頼むんだ。お前が自分で行けばいいだろ」

「だってほら、俺はこの町の町長だし。ここを離れるのはあんまりよくないっていうか」

「他にもツテはいくらでもあるだろ。そうじゃなければ傭兵でもなんでも雇えばいい」

「それがどうも、その辺の人では手に負えなさそうでさ。錬金術の禁忌に触れてるっぽい」

 錬金術の禁忌。その言葉に、押し込めていた不安が頭をもたげる。ジンが言っていたことと関係があるのだろうか。

 しばらく黙って考えて、レンはため息とともに答えを言った。

「仕方ない。いいよ」

「心の友よ! この恩は一生忘れない!」

「重い重い。やめろ気持ち悪い。で? どこへ行けばいいんだ?」

「海の街、トゥーガ。お前もよく知ってる場所だ」

「ああ。でも、少し遠いな。あの街の地図ってあるか?」

「なんでだ? 知ってる場所だろ?」

「この子に見せようと思って」

 シュウさんは戸棚から一冊の本を出して、私の前に差し出した。

「ミライ、悪いけど少しの間それを読んで待っていてくれるかい? 僕はもう少しこいつと話していくから」

「内緒話? ずるいよ。私も混ぜて」

「君には退屈だろうから、こっちでおとなしくしててくれ。大丈夫、すぐに終わるよ」

 私をその部屋に残して、二人は奥の部屋に引っ込んでしまった。

 私はちょっとむくれてから、渡された本を開く。古い本だ。シュウさんはどうやら、この街には何度か行っているらしい。あちらこちらに目印の折り目や書き込みがされている。


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