表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/30

第26話 (一号)

 ああムカつく。あんなお気楽女に全部見透かされたなんて。あいつに助けられるなんて。こんなにムカついているのに、あいつの言ったことを信じてしまうなんて。

 俺の足は、ミライの言った通り、仲間のいる部屋へ向かっていく。火元からはだいぶ離れたはずだが、廊下には煙が満ちている。ここもすぐに火の海になるだろう。

 なんで信じたのかなんて、答えは簡単だ。

 あいつの言うことが本当だったら、そんなに嬉しいことはないからだ。クリーチャーも他の仲間もみんな助かったらどんなにいいだろう。誘惑に負けた。しかも、あんなに自信満々に、怖いものなんてないみたいに言う。ロープ登りもできない雑魚のくせに。

 仲間たちがいる部屋は、まだ燃えていなかった。一人ずつ抱え上げて、船の外へ運び出す。海岸に座らせると、みんな不思議そうな顔をした。

「ここでじっとしててくれ。すぐに戻るから」

 わかったのかわかっていないのか、みんな穏やかに俺を見ている。人数を数えて、あの部屋にいた者は全員連れ出したことを確認する。

 あと一人。最後の一人は、まだ工房の瓶の中だ。まだ生まれていないが、瓶ごと連れ出せばなんとかなるだろう。

 煙に咳き込みながら進む。だいぶ火が回っている。船が崩れるのも時間の問題だ。

 クリーチャーは無事だろうか。ミライが約束を守る方に賭けたが、そもそも彼女が真っ当に頑張ってくれたとしても、作戦がうまくいく保証はない。しかも、船が崩れるまであと少ししかない。

 一旦船の外に連れ出してから、安全な場所で処置をするか? いやダメだ。こんな大火事、街からも見えているだろう。じきに野次馬が来る。そこへ処置の済んでいないクリーチャーを連れ出せば、確実に大ごとになる。船が燃えようが崩れようが、船内でやり遂げなければいけない。

 工房はまだ無事だった。大慌てで瓶を担いで外を目指す。重いが、なんとかなる。

「ごめんな」

 生まれなければ死ぬこともないのに。俺が寂しさを埋めるために身勝手に生み出したせいで、みんな死んでしまうんだ。まだ話もしないし意思も芽生えていないようだが、こいつらにも死の恐怖はきっとある。

 寒気がする。レンがどういうつもりで俺たちを作ったのかは知らないが、俺はいつのまにかあいつとそっくり同じことをしている。なにも教わっていないと思っていたが、やはりこの身はあいつが作ったものなんだ。

 レンはまだ生きているだろうか。

 もしもミライが処置に成功したとしても、あいつはまだ瓦礫の下だ。一緒にいた人間の女にも、ミライにも、あの瓦礫をどかすのは無理だろう。

 あいつはミライと女に、自分を置いて二人でクリーチャーを連れて逃げるように言う。あいつの行動が手に取るようにわかる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ