1話 入部
ガラリと変わりスポーツ物書いてみました
・・神様ているのかな?
・・居たら、どんなシナリオを描くのか・・・
長野県某所、一人の中学生が大人に混じりストリートバスケをしている
「ヒデ!速攻行くぞ!走れ」
「はいよー」
元気の良いこの男子中学生の名は今村栄人。
この春から高校生になる、ストリートバスケ仲間の中には栄人をヒデと呼ばれ親しまれている。
「ヒデ、勿体ない!その実力で部活やらないとは勿体ない!」
「へっ?」
栄人の実力は、大人顔負けの実力と言っていい、ずば抜けたバスケセンスを持っていると大人達は言いたい。
「ヒデ!高校は聖峰行くらしいな」
大人の中で一番若いチャラチャラした男二人が話しかけてきた。
一人はサングラスをし、もう一人は、ニットの帽子にチョーカーをした男だった。
「あっ、テツさん、シュウさん、そうだよ、近いし」
栄人がテツとシュウと慕う男は栄人にとってバスケの師匠。
こう見えて高校時代は全国クラスの実力の持ち主、だが今は、怪我に泣かされ二人ともバスケから離れている。
「ヒデ、もっと強い奴らと戦いたくはないか?」
「テツさん何を言っているの?た、確かに強い奴らと戦いたいけど」
「高校に行けばなぁ、居るんだよ、超高校級プレイヤーがわんさかとな!」
その話を聞いた途端に、栄人の心臓の鼓動が激しく鳴り出す。
自分より強いやつが、他にも居る。
「ヒデ!俺達は見たいんだよ!お前が高校バスケ界を騒がし、全国を驚かす姿をな」
妙に期待を持たれどうしていいかわからないが、それでも強い奴らと戦いたい、勝ちたい。
そんな思いが秀人を奮い立たせる。
「あ、もしもし沙弥ちゃん、聖峰高校男子バスケ部、春から活きの良いの入るから、よろしく~」
「テツ君、わかったわ・・後、気安くちゃん付けするなーー先輩だぞ私は」
「えっ?えっ?」
栄人の意思を無視した、勝手にバスケ部入部への話が進められる。
当然栄人が冷静にいられる訳がない。
電話越しの沙弥と名乗る女性は聖峰高校男子バスケ部の監督らしく、今まで男子バスケ部が存在しなかったが、この沙弥が赴任してから昨年男子バスケ部を創ったらしい。
だが、部員は中々集まらず今年2年生になる部員が一人だけだった。
「どうせやるなら、ゼロから始めよう」
「な、な、な、何だってーー」
「どうせなら、ハードルあげようぜ」
「・・・・」
無言になりつつテツとシュウから背中を押され、せっかくだから高校で部活をやる事にした栄人、月日は流れ桜咲き誇る入学の4月を迎えた。
入学式を終えた翌日、放課後部活見学の為バスケ部を覗くが、そこには女子部員と男子部員一人に、顧問と思われる女性が集まっていた。
「こんにちわ、今村栄人と言います、バスケ部はここでいいですか?」
真っ先に顧問と思われる女性が栄人に駆け寄り、栄人の肩をがっちりと鷲掴みし熱弁し始める。
「ようこそ聖峰高校男子バスケ部へ、監督の神田川沙弥です、ちなみに歳は24歳だぞ」
フレームレスメガネがトレードマークの監督、出来る女のオーラがプンプンとかもし出している。
「テツ君から聞いたわ、君が今村君ね?テツ君とシュウ君は高校時代の後輩なの」
「そ、そうなんですか・・」
「初めまして、バスケ部へようこそ」
「紹介が遅れたわね、男子バスケ部部長の河村隆一郎君よ」
これまた、メガネをした優男が栄人に駆け寄り、沙弥から紹介をされた。
「ウチは今まで何故か男子バスケ部なかったんだ・・昨年僕が入学し、沙弥先生に相談したら力になってくれたんだ、でも、部員は集まらずこの様だよ」
「ちぃーす、バスケ部見に来ました」
話をしている内に新たな入部希望者がやってきた、背丈は栄人よりやや大きい。
「遠藤一志ポジションはフォワード、聖峰東中出身」
「東中の遠藤・・って・・君、東中のエースじゃないの!?県大会ベスト4まで行った」
遠藤一志と名乗る新入生は、中学時代はエースを担うプレイヤーだったらしく、県内でもかなり注目を浴びていた。
「俺、今村栄人、月海中学出身よろしく」
「つ、月海だと!?んじゃ俺を知っているよな?月海も県内で1.2を争う学校だったぞ」
「いや、知らない・・俺、中学は部活やってなかったから」
「えっ?・・・」
一志から見たら、中学時代を知らない栄人を素人しか見ていない。
当然胸の内は・・こいつ素人かと。
「遠藤君、だったら彼と1on1(ワンオーワン)してみたら?」
「へぇ・・フルボッコにして良いんですか?」
「良いわよ」
いきなり一触即発ムードとなり、栄人と一志の1on1が始まった。
「今村って言ったか?お前がどんなヤツか知らねーが悪いが恨むなよ」
「お前強いのか?楽しみだなぁ」
栄人に勝つ自信満々の一志に対し、久しぶりに同年代とバスケが出来る喜びに満ち溢れた栄人、一志の先攻から勝負が始まった。
河村を始め、沙弥や女子部員までもが二人の勝負に目が釘付けとなる。
息つく間もなく、一志が細かいフェイクを入れながら栄人を抜き去り、あっさりゴールを決める一志に対して栄人の心臓の鼓動が激しく高鳴り出す。
「すげー・・お前すげーな」
「当たり前だ、一応点取り屋だからなこれでも」
「んじゃ、俺の番だな」
興奮冷めやらぬまま、栄人がボールを取りゆっくりと、ウォーミングアップをするかの様にドリブルをし始める。
「こ、こいつ・・素人じゃねぇ」
一志が栄人のプレイを一目で気がつき、意表をつかれた表情になる。
「んじゃ、行くぜ」
一志が意表をつかれた一瞬の隙を栄人は見逃さなかった。
さっきのスローペースのドリブルはチェンジオブペース、ゆっくりかと思いきや、急にペースを変えて来る。
「こ、こいつ速い」
一志も経験者の勘を研ぎ澄ませ、そう簡単には栄人を抜かせない。
「さすが、エースだなあっさり抜けないな」
栄人のスピードに驚いた一志と固唾を見守る沙弥と河村と女子部員達、この勝負どっちが勝ってもおかしくはない。
「さぁどうするよ?俺を抜かなきゃゴールを奪えねーぞ」
「こうするまでだ」
栄人のスピードがさらに加速し、さっきよりドリブルのペースが格段に増してきた。
フリースローラインで一旦間を置き、素早いボール裁きで一志を翻弄し始める。
「どう来る?まさか、このままミドルレンジからのシュートてわけじゃないよな・・」
一志が手を出しては栄人が華麗にかわし、ドリブルの速度がまた一段とスピードが上がり始めた。
「そこだ、もらったー」
「あぶねー・・・てのはウソで・・さいなら」
一志が手を出した瞬間、かわして持ち直すかと思いきや、スピードに乗りそのまま一志を振り切りゴールを決めた。
「マジかよ・・・」
「同点だな」
「野郎・・・」
「はいっストップそこまで」
ボルテージが上がり出した所で、沙弥が水を差す様に二人を制止、収穫があったかの様な顔をしながら。
「何で止めるんですか?せっかく燃えてきたのに」
「入部希望者が他にも来たから」
河村が親指を立て入部希望者に指を指す、そこには約15人くらいの人数が集まっていた。
「伊藤大樹聖峰西中出身ポジションはガードです」
入部希望者の中に、真っ先に挨拶をした男が先頭に立って自己紹介を済ます。
「げっ!?お前、西中の伊藤じゃねーか」
「おっ、東中の遠藤じゃん」
「ん?知り合い?」
不思議そうに栄人が聞くと、一志がゆっくりと口を開きだす。
「こいつはな中学の時唯一、俺の天敵だよ・・俺は何故かこいつに良いように抑えられたからな」
それほどの実力ならディフェンスに相当の実力があるのか?見た感じは特に何も持たないプレイヤーに見えるし、上背も栄人や一志と変わらない、沙弥の胸の内はそう語っている。
「とりあえず、入部希望者は集合して」
沙弥の号令で入部希望者が一例に並び始める、全員緊張に張りつめた状況で一人一人自己紹介を終えた。
「しかし遠藤、まさかお前と同じ高校とはな」
「全くだ、お前何でこの学校来たんだ?他にもスカウトあっただろ?」
「ん?そりゃ彼女がこの学校を受験するから」
「なっ?お前彼女居たのか!?」
「居るよ、悪いか?」
「あーあ・・死ねばいいのに・・」
「何だ?その僻みは?」
「はいっそこ、お喋りはそこまで」
仕切り直しに改めて沙弥が部活説明をする。
「さて、改めて聖峰高校男子バスケ部へようこそ、去年まで男子バスケ部が無かったこの学校は、今年から男子バスケ部を創部したわ」
・・・ごくり・・・
「先ずは皆の方針を聞きたいわ・・皆はこの部をどうしたい?全国制覇?それとも単にバスケがしたい?上手くなりたい?女の子にモテたいから?」
「僕は全国大会に行きたい、今はただそれだけだけど」
河村が真っ先に胸を張り、堂々とした表情で言い切る。
「俺は、強い奴らと戦いたい、そして勝ちたい」
「右に同じく、そして河村先輩と同じく、全国に行きたい」
「俺は・・・」
・・・シュッ。
大樹が突然ボールを持ち出し、スリーポイントシュートを鮮やかに決めた。
「俺は、飛び抜けた選手じゃないから、このシュートに磨きをかけた、だから、もっと打ちたい」
・・地味なプレイヤーだな、沙弥が感じた大樹への第一印象だが、この綺麗なシュートフォームと基礎がしっかり出来ている。
どこが飛び抜けていないんだ?素晴らしい物を持っている、180度大樹への印象がガラリと変わった。
「じゃ、決まりね目標は全国よ、但し、やるからには私もそれなりに指導させてもらうから覚悟してね」
河村、栄人、一志、大樹の四人は決意は固まった。
だが、まだ沙弥の話は続く。
「河村君、今村君、遠藤君、伊藤君の気持ちは聞いたわ、他の子はどう?」
戸惑い隠せず、中々返事が出来ない他の入部希望者。
「無理にとは言わないわ、貴方達が本気なら残り、ついていけない様なら止めはしないわ」
「てっおいっ監督いきなりこんな事言っちゃっていいんですか?」
「言ったでしょ?全国目指すならそれなりに指導するって、そんなわけで今日は解散、明日から本格的にやるわよ」
一志が横やりを入れるもお構い無しに沙弥の無情な一言で片を付けた。
やる気のない者は来なくて良い、本気でやりたい者だけ付いて来い、そうとらえられた。
・・・翌日、放課後ついに練習開始。
昨日の沙弥の言葉に自信を喪失したのか、一年生の入部希望者は栄人を含め僅か6人に絞られた。
「あんな事言うから・・」
「全国目指すならそれくらいの覚悟と気構えを持ちなさい遠藤君、去った人の事を気にしてもしょうがない、始めるわよ」
体育館はバレー部とバスケ部が日替わりで交代で使用しているが、体育館が使えない今日はランニング、フットワーク、筋トレ、ボールを使う練習はドリブル、パス、ハンドリングの練習、基礎からみっちり鍛え始める沙弥の思惑。
「あー試合してぇー基礎練飽きたー」
「おいっヒデ、少しは我慢しろ俺だって試合したいわ」
始めて間もなく、栄人と一志がボヤキ始める。
「今日はバレー部が使うからね、我慢我慢、伊藤君を見てみなよ」
「・・・・・」
黙々と、周りの視線など気にせずひたすら練習する大樹。
河村に言われ、栄人と一志も何故か対抗心剥き出しでがむしゃらに練習をする。
練習しながら、バレー部の練習を見ていると身長190㎝はある一年生がコートの隅っこで見学している。
「入部希望者かな?」
「あいつは、同じクラスの中河泰、確か中学の時はバスケ部だったはずだが・・一回だけ公式戦で当たった事がある」
大樹がいきなり口を開き、語り始めた。
大樹が言うには、この中河と言う男ゴール下を任され中学では、中々居ない大型のセンター。
彼とリバウンド勝負で右に出る者は中々居なかった。
チームメイトに中々恵まれず、公式戦は初戦敗退が多かった為、その話を聞き中河がバスケから遠ざかった様に感じ始める栄人。
「まだ、正式入部じゃないな・・あいつ欲しいな」
「ん?カズ?もしかしてそっち系?」
「んなわけねーだろ、あいつの上背、ゴール下には欠かせねー」
「確かに、欲しい逸材ね」
「監督?」
栄人と一志の会話に沙弥が割り込み、中河をバスケ部に引き入れたい願望が出始めた。
ちなみに、栄人と一志は昨日の1on1で何か友情が芽生えたのか、知らぬ間に名前で呼び合っている。
「一年生、あの子を勧誘よ」
「えっ?」
中河をバスケ部に引き入れ作戦が翌日決行されたが、栄人の瞳に見えた中河の表情は好きでバスケをやっていた感じではないように思えた。